カグヤとレンガが戦い始めた頃、早速支援射撃を行おうとしていたスーパーボールの下に、一機高速で近付く反応があった。
シンパチも、その反応に少し疑問を持つ。「明らかにモビルスーツのスピードの範疇じゃねぇぞ」と。
(でなけりゃシャアか化け物だろうよ)
いつもの軽口を叩きながらも、支援射撃を中止、機体を固定していたアンカーワイヤーを外して、敵機の迎撃に当たる。
「おっと、奴さんのお出ましか! ……ってありゃあエクシアか」
カメラを近付けてみるとやはりエクシアだ。ピンクと白に塗り分けられたエクシアリペアⅡ。しかもアヴァランチ装備。そりゃ速い訳である。
「へっ、可愛いご趣味だこと。だが、もう射程距離なんだよ!」
姿勢制御を行いつつ、武装は頭頂部の三連装キャノン砲を選択し、アンカーで機体を強引に固定する。そしてGNソード改を手にしたエクシアに対し、砲撃を開始した。
「そのくらい、ミナツに比べたらお粗末なものよ!」
「やぁーっぱ当たんねぇよなぁ……行けよミサイルッ!」
アンカーを外したボールは急上昇すると同時に、機体左右部に固定されたマイクロ・ミサイルポッドを発進させる。三角面に大量のマイクロ・ミサイルが積まれたそれは、試作三号機デンドロビウム・オーキスが装備するものの小型縮小版。推進器としても機能できるそれを飛ばし、ボールからある程度離れた所で止まり、側面からマイクロ・ミサイルを乱射した。
アイカもそれに気付いて咄嗟に後退する。大量のマイクロ・ミサイルは流石に避けきれないどころか、近接格闘装備しか持たないエクシアではどうしようもないのだ。頭を抱えて悩む中、ウェポンラックにGNインパルスランサーがあるのを見付ける。確かこれは、マサキから借りっぱなしだったものだ。
「これよ!」
選択したインパルスランサーが左脇腹を通して、左手に持たれる。そして迫り来るマイクロ・ミサイルに向けて切っ先を飛ばす。文字通りヴァンプレイトごとアンカーに繋がって飛んだインパルスランサーは、ミサイルに当たって周囲を巻き込みながら誘爆させる。そのまま左右へ薙ぎ払い迫り来るミサイルを片っ端から叩き潰した。
アイカはその様を見て口角を吊り上げる。「私はこうでなくっちゃ」とほくそ笑むかのように。
対するシンパチは何とも強引な少女だと、ますます気に入っていた。だがミサイルポッドを失った今は、自分の腕でキャノン砲を当てられる筈もなく、残るは白兵戦しかない。
「かぁ~っ! この強引っぷりが堪んねぇぜ! やっぱ戦って正解だった!」
「何をぬけぬけと! 私は貴方みたいな男はタイプじゃないのよ!」
拳を固く握り締めて叫ぶシンパチだったが、それを意にも介さぬようにライダーキックを噛ましたアイカは、地面に当たってバウンドするボールを見てGNソード改を構える。
大きな揺れを感じて酔いかけたシンパチは、お荷物にしかならない三連装キャノン砲をパージする。これで残ったのは作業用アームに代わるクローアーム。勿論、クロー内部にはビームサーベル完備である。
「んじゃあ白兵戦と行きますかァッ!」
「即行で落としてあげるわ!」
GNソード改とビームサーベルがぶつかり合い、火花を散らす。アイカもまさか受け止められるとは考えてなかったが、その間に受け止められているアームとは反対側のアームでエクシアの左腕を握られる。
金属が軋む音が鳴り響き、徐々にクローが左腕を握り潰していく。振り払おうにも握力が強く、左腕も言うことを聞かなくなってきた。こうなればと考えたアイカは、ボールを蹴りあげて左腕を肘から千切って脱出した。
再び蹴られたボールはエクシアの千切れた左腕を棄て、両クローアームからビームサーベルを出しては、打ち鳴らしながら振るう。ボールにあるまじきその動きは、中々にシュールなものになっていることに、本人は気付いていなかった。
「さぁ、もう一本貰い受ける!」
「もぎ取れるもんならもぎ取ってみせなさい!」
突き出したGNソード改を構え、GNドライヴを解放し粒子放出量を増加させる。両肩のアヴァランチユニットからも放出量が増加し、コンソールを前へ押し出すと共にエクシアは音速を越えた。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「速くったってなぁ!」
ビームサーベルを交差させてGNソード改を受け止めるが、反動も大きくボールのクローアームが悲鳴を上げる。シンパチもここまでかと悟ったが、悪足掻きとばかりにエクシアを押し返そうとする。だが性能差はどう足掻いても埋められず、寧ろ押し返されていた。
クローアームの耐久度もそろそろ限界というときに、エクシアの粒子放出量が軽減される。おそらく限界が来たのかと直感したシンパチは、しめたと思い押し返す。……だが、
「へへっ、ここまでだぜ嬢ちゃ――!」
バキンッ!
何かが折れる音と共に、ボールに何かが突き刺さった。
深々と突き刺さったのは、クリアグリーンに輝く刃を持った巨大な刀身。容易く内部を傷付け、中にあるという熱核融合炉も、Iフィールド・ジェネレーターも突っ切って、ボールは隙間から光を放った。
《BATTLE END》
しめやかに爆発四散したボールがバトルシステム上に転がり、シンパチは四つん這いになって絶望していた。
バトルが終わり、カグヤもアイカも一息吐いている中、レンガはカグヤに握手を求めた。
「実に見事なバトルだった。私は藤堂錬賀。林海寺学園の二年生だ」
「か、神椎輝夜です……聖蘭学園一年です」
カグヤもその手を握り返し、自身も自己紹介をする。その時「聖蘭学園」と聞いてレンガは眉を潜めた。
「聖蘭と言えば、紅姫がいる学校か。成る程、確かにそれは強い」
「知り合い、なんですか?」
アイカが疑問符を浮かべて尋ねると、レンガは瞑目しながら頷く。
「勿論、全国に参加した学校は全員。あそこの四人には誰も敵わなかった。私もシンパチもね」
それを聞いたマサキ、カグヤ、ヤヤはミナツから聞いた過去話を思い出す。確かに代表は四人と話していた。
「そういやぁ、
「シンパチ、余り彼女らは探るなと言っただろう」
「つーたってよぉ。アイツらは全国で驚異になるに違いねぇ。絶対全国までのし上がって来る。……そーなりゃ情報は少しでもなきゃ困るだろ」
尤もな言い分に、レンガも押し黙るしかない。ふと溜め息を吐いたレンガは、マサキ達に向き直り礼を言った。
「今日はありがとう、お陰で良い実地試験と訓練になった。……今度は全国で会おう聖蘭学園諸君」
「あ、おい! ったく、じゃーな嬢ちゃん達。全国じゃあ敵同士、仲良くバトルしよーや」
レンガに続いてシンパチも礼を述べ、その場を颯爽と立ち去ってしまう。残ったマサキ達はポカンとするだけだが、それ以前に彼らが全国のチームであったことに驚きを隠せなかった。
その後はマサキ&アイカ対ヤヤ&カグヤの対戦で、人智を逸した戦いになっていたのは、言うまでもない。
■
昨日は中々に疲れた気がする。ツクモ先輩達を知る男性達に始まって、その後のバトル。一つ変わったことと言ったら、アイカちゃんの操縦が常軌を逸した二人に追い付けるようになったことか。
「一昨日、何があったんだろう」
気になる内容ではある。お客さんが来たことは知っていたが、記憶が曖昧になってる所為でよく覚えていない。無理に話す内容でもないから何だろうけど、少し胸騒ぎがする。
(もしかして
勘だけど。でもあり得なくはない。これは、ユー君辺りに鎌をかけてみる必要があるかも。
しばらくするとカグヤちゃんがやって来て、私に微笑んで挨拶した。
「おはようございます、マサキさん。昨日はありがとうございました」
「そう畏まんなくても良いよ。私だって良い練習になったし。クロスアストレアの調子も分かってきたし」
「そうですか、お役に立てて光栄です」
実に嬉しそうに笑うカグヤちゃんに、どこか申し訳なさが込み上げてくるも、そんな時に能天気な挨拶が真横から飛んできた。
「おはよー、ってカグヤもう来てたのかよ」
「はい! ユウキさんのお弁当も、ちゃんと作ってきましたから!」
心底満面の笑みで渡すカグヤちゃんに、ユー君はどうしたものかと返答に困りながら席に着いた。
「そういや、カグヤのビギニングは何とか改修できたぞ。比較的破損の少なかったフェングファンもな」
「お早いお仕事ですね。昨日ちゃんと寝ましたか?」
「寝たさ、妹達を寝かし付けた後にな!」
ドヤ顔で語るユー君は、そのまま鞄から修復されたビギニングを取り出して明け渡した。カグヤちゃんも大事そうに受け取って、それを腰のポーチに納めた。
すると予鈴が鳴って、カグヤちゃんは慌てながら席へ着いた。そこで私は、まだヤヤちゃんが来ていないことに気が付いた。遅刻かな?
ドアがガラリと開き、そこからアンドリュー先生がいつものアロハシャツ姿でやって来た。号令が掛かった後に朝の挨拶を済ませて着席すると、アンドリュー先生もヤヤちゃんが居ないことに気付く。
「夜天嬢雅は欠席か。誰か理由を知ってる奴は? ……居ないか。後で先生が連絡しておこう。さーて、点呼を取るぞ」
いつもの調子で一日が始まると、私は少し不穏な空気を感じ取っていた。「何が」とは言わないけれど、何かを不安にさせるような、そんな空気を。
やがて時間も過ぎて、四時限目が終わった辺りにカグヤちゃんが珍しく私の下に来た。本当に珍しかったので、私は椅子の上で目をぱちくりさせたままだ。
「あの、一緒にお弁当食べませんか?」
「…………あ、うん、良いよ」
一体何が起きたのかを理解できず、適当に答えてしまったが、私は凍り付いた思考を解凍させて何とか再起動する。あぁ、成る程。
しかし普段、あれだけユー君と二人きりでお昼を食べることに執着(?)するカグヤちゃんが珍しい。私は鞄の中からサンドイッチの入った小箱を取り出して、カグヤちゃんとユー君の後を追いながらも、そう思い耽っていた。
二人と共に向かったのは学校の中庭……とは言い難い広さの庭園。歴代園芸部が受け継いできたそれは、中央の巨木を中心に円形に広がっていて、多くの生徒達の憩いの場として機能している。
庭園の中を進んで、人気の少ない場所まで来ると、近くのベンチに腰を下ろすことができた。そこで私含め三人が、膝の上にお弁当を広げながら食べると、カグヤちゃんがふと口を開いた。
「本日、ヤヤさんが休んだこと。きっとこの前と関係があるのでしょうか?」
唐突な疑問。この前、とは私が途中で寝てしまったあれなのだろうか。あのヤヤちゃんが急に休むのも珍しいし、最近あった出来事ともなると、それが怪しいと結論付けるのは納得できる。うんと唸るカグヤちゃんを余所に、ユー君は箸を止めて呑気に答えた。
「ヤヤはあれぐらいで心折れる程弱かねぇよ。……まぁ、負けず嫌いに変わりはねぇがな」
そう言って弁当箱の中身を平らげたユー君は、ご丁寧に両手で合掌した後に、カグヤちゃんから渡された水筒のお茶を飲んでいた。
私は卵サラダのサンドを一齧りして、飲み込んだ後、提案するように二人へ尋ねる。
「取り敢えず今日の放課後、ヤヤちゃんの家行ってみる?」
「そだな」
「そうしましょう」
二人が同意して、放課後のことが決まったので、それからは三人で他愛もない世間話に花を咲かせたのだった。
最近タイトル考えるのが苦になってきた。
どうもカミツです。
もう少しスマートに纏めた方が良かったと後悔しながら、リメイク版ももう五十話(番外編・間章除く)ですよ。
そんなこんなで前回から続いて登場、新キャラ二人の内ぱっつぁんと、アイカのエクシアについてです。
GN-001R[REII]/hs-A01 ガンダムアヴァランチエクシアリペアⅡリバイ
武装:GNソード改、GNインパルスランサー、GNビームサーベル×4、GNバルカン×2
特殊装備:アヴァランチユニット
特殊機能:トランザム、高速移動形態
ユウキの
武装はGNソード改に、マサキから借りっぱなしだったGNインパルスランサー、GNビームダガーとしても使えるGNビームサーベルと両前腕のGNバルカン。
アヴァランチユニットによって機動力の向上が見込めたため、一撃離脱戦法に磨きがかかったものの、耐久性が幾分か低下してしまっている。どうやら今回はミナツは製作に関わっていない模様。
カラーリングは変わらずピンクと白のツートンカラー。
RB-79SS スーパーボール
武装:180mm三連装キャノン砲、マイクロ・ミサイルポッド×2、クローアーム(ビームサーベル)×2
特殊装備:内蔵式Iフィールド・ジェネレーター、機体固定用アンカーワイヤー×4
「HGUC ボール」の改造機。ボールの球体という機能的なフォルムに着目し、遠距離砲撃に特化して改造した機体。
武装は頭頂部に載せられた180mm三連装キャノン砲と、それだけでは補えない弾幕火力を補う為に機体左右部に炸裂ボルトで固定されたマイクロ・ミサイルポッド、機体底部の戦闘用に強化されたクローアームを装備する。三連装キャノン砲は中央の一門のみビーム砲となっており、マイクロ・ミサイルポッドも使用後はデッドウェイト化を避ける為に排除可能。クローアーム内部にはビームサーベルが内蔵され、白兵戦性能も向上している。またメインカメラ奥部にIフィールド・ジェネレーターを内蔵しており、破壊される心配なく対ビーム対策がなされている。機体固定用アンカーワイヤーは、精密射撃が必要な時に使用するものだが、建物に張り付けることで方向転換にも用いるなど応用も利く。
主にセンサーやレーダーが強化され、熱核融合炉を追加した結果、有効射程距離および機動力が大幅に向上している。機体本体部もメインカメラを残してほぼ簡略化した為に、限りなく球体に近いフォルムになり機体強度自体も大幅に増しているのが特徴。
アイカのエクシア再び。ただし今回きりですよ。スーパーボールは前回のGM-X同様、N.Aさんの案でした。どうもありがとうございます。今度は活躍させてみたいな、このボール。
次回は一年生組(アイカ除く)で夜天嬢雅邸です。……そういや今回、ヤヤ一言も喋ってなかったな(笑)。
ではまた次回、ノシ