ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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 この世界には、ガンプラを自由に動かして遊べる、ガンプラバトルと言うものが存在する。
 私はよく知らないけれど、たまに男子がその話題ではしゃいでるのを目にするだけだった。










 そんな私もガンプラを手に取る時が来るとは、この時の私は、まだ想像すらしていなかった……。





第1章:勝利の女神と模型部
EPISODE-1:“勝利の女神”と呼ばれた少女


 

 私の名前は七種真幸(サエグサ マサキ)。今年から栄えある高校一年生となる、余り普通とは言い難い少女だ。

 

 

 

 私がこれから三年間も通うことになるのは、東京にある私立聖蘭学園。日本で五指に入る高等学校の一つらしく、高倍率で入試も難関と言われている。……あくまでそう言われているだけで、別にそうでもない。

 この学園では部活動を中心に注力しており、大抵の学生はここ部活に入るために来る(入学する)のが定番である。勿論、私もその中の一人だったりする。部活動が豊富なこの学園なら、きっと私に合う部活がある筈、そう踏んでやって来たんだ。

 

 

 

 安直にそう考えていた私は、早速入部届けを左手に握り締めて、逸る気持ちを抑えながら学園内を走り回ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学から早くも三日後、放課後の教室で私は机の上に突っ伏して、この学園に自分が入れそうな部活は「無い」と悟っていた。格ゲーでハメ技されて完膚なきまでに叩きのめされた気分だ。……されたことないけど。

 まさに今、「この三日間の努力が水の泡になった」と深く落ち込みながら、私は泣き寝入っていたのだ。

 

 

 

 考えられる明確な理由は、一つ。

 

 

 

 どの部活も表面上は優しくはしてくれたが、私を必要としてはくれなかった。「中には入ってみない?」と言ってくれた部活もあったけれど、その瞳の奥から覗いた理由はどれも真っ当な理由ではない。

 自分で言うのもアレだけど、私は所謂『天才』と呼ばれる部類にある。努力して開花した後天的なものではなく、生まれつき備わった先天的なもの。

 それが私の入部を著しく妨げていた。何せ妬まれてしまうのだ、先輩達に。苦労して手に入れた実力も、頑張って培った経験も、何もかも私の前では無意味だった。その所為で妬まれる。

 

 これじゃあ到底「部活」なんてものはできない。――そう思い込んでいた時だった。

 

 誰も居ない、静まりかえった教室のドアが途端に開けられ、そこから男子生徒がずかずかと踏み込んでくる。若干陽が傾き、直射する光に照らされている私の下へ、一直線に向かってきた。

 丁度私の目の前で立ち止まって、その男子生徒は私を見下ろす。

 

「七種……お前、部活やってみないか?」

 

 掛けられた言葉に、私は反射的に顔を上げてしまう。声の主である男子生徒の顔を見ると、しめたとでも言いたげにしたり顔で笑っていた。

(――しまった。してやられた)

 気付いてももう遅い。だが私もそう簡単には引き下がらない。上部では観念したように見せ、敢えて素っ気なく返す。

 

「やってみたいけれど、何をする部活なんですか?」

「興味を持ってくれたのなら話が早い。……まぁ、来てくれた方が色々と話しやすい」

「がっかりさせないなら」

「お前をがっかりさせないってどんだけレベル高いか分かってんの!?」

 

 目の前でツッコミを入れる男子生徒は、私の隣の席の芳堂木綿季(ホウドウ ユウキ)君。整った顔立ちにすらりとした長身の体躯が相俟って、入学初日から色々と苦労してる美丈夫だ。ほら、ラノベとかでよくありそうな感じの。

 そんな彼は、意外にも頼み込むように頭を下げてきた。正直、人見知りの私ですら面食らって身を退いてしまう、そんなレベルで。

 

「お願いだから頼む! 顧問も決まった! 部員も俺を入れて二人! 後一人だけなんだよぉ!」

 

 まるでそれは消え入りそうで、三日間で見た陽気な姿からは想像もつかないくらい、縋るような声音だった。

 流石にそこまで懇願されては、私でも断るに断れない。……そもそも、部活に入りたがってた私が断る理由はない。

 

「もう、男の子が泣いて女の子に縋るものじゃありませんよ。分かりましたから、部室へ連れてってください」

「七種!」

「た・だ・し! 入部するかは内容次第ですから。図に乗らないでくださいね?」

 

 私はそう微笑みかけながらも、目の前で床に膝を付く芳堂君にそう言った。彼も「絶対、つまらなくはねえから」と、いつもの陽気な笑顔を返してくれた。

 しかし何故彼が必死だったのか、私にも今分かった。どうやら最後の部員が足りないらしい。

 この学校の部活動の設立制度には、「部員は三人以上在籍ないし、顧問が一人以上居ない場合、部として認定しないものとする」との記述が生徒手帳にある。彼の入る(と言うより作る)部活動にはただ今、顧問一人と芳堂君ともう一人の部員がいる。後一人入れさえすれば正式な部として生徒会から認可されると言うことになる。

 そこで三日間連続で轟沈してしまい、クラスの中でも唯一部活動が決定していない私に白羽の矢が立ったのだろう。それなら合点が行く。

 

「それでは行きましょう!」

 

 私は自身の鞄を抱えて、椅子から立ち上がりながら笑顔でそう言った。なんだかんだ言っても、やっぱり部活には憧れてしまう。「いつも一人だけ」だった私は、特に。それが楽しみだから、私は笑顔になってしまう。

 道中、芳堂君が先導(エスコート)して歩いてくれると、他の部の女子生徒の視線がすごく痛い。やっぱり人気なんだ、芳堂君って。

 

「改めて聞きますが、何をする部活なんですか? ……部室棟じゃなくて、学舎棟にある部活なんです?」

 階段を降りる最中、唐突に後ろから投げ掛けた私の質問に、彼は腕組みしながら悩み込む。

「うーん、そうだなぁ。まぁ、単純に言えば模型部だ! ……って、模型部自体は元々あったんだけど、一昨年に無くなっててさ。それで今は部室しか残ってなかったんだけど、これがまた大発見でさ! ガンプラの箱がわんさかと置いてあったんだよ! これは最早宝の持ち腐れだと思って、中学時代の先輩と一緒に始めたってわけさ!」

 

 ……何故、最後にサムズアップして答えるのだろう。それは兎も角、取り敢えずは何をするのか理解できた。だけど、何で学舎棟にあるのかも聞いたのに、全く答えになってないよね。

 補足がてら説明すると、一年から三年までの教室や職員室に保険室、授業で使う様々な部屋があるのが「学舎棟」だ。

 それ以外の部屋、もしくは地下大書庫(所謂「図書室」)や一部を除いた全ての部活動用の部室が、学舎棟から少し離れた「部室棟」に存在する。また、グラウンドやテニスコート、アリーナ(競技場)、体育館などが隣接しているからか、部室棟からは活気溢れる声が聞こえてくるの。今まで私があちこち走り回っていたのも、大体この辺り。

 例外として学舎棟には新聞部と写真部、そしてPC部の部室がある。この三つの部活動は、それぞれ一蓮托生で活動しているためなのだとか。

 これらを踏まえると、まず模型部の部室は部室棟にあるべきだ。これは学校側での規則の一つでもある筈。

 

「再度聞きますが、何故部室棟じゃなくて学舎棟なんですか? 普通は部室棟ですよね?」

「あー、それを答えるのは非常に面倒なんだがなぁ……元々模型部自体、学舎棟で活動していたんだよ。今はそれだけ覚えておいて損はない」

「それ以外は?」

「無論――ダメだ」

 

 言葉に迷いつつもご丁寧に教えてくれたのは良いけど、最後のはちょっと真面目だった。これ以上、聞いちゃいけないのだろうか。

 私が深く考え込みそうになり、意識が思考の海に集中しかけたその時、芳堂君の唐突な声で現実へ呼び覚まされた。

 

「さて、着いたぞ。――模型部にようこそ!」

「ここが、模型部……」

 

 改めて見ると、その部屋のプレートにはちゃんと「模型部」と書かれてあった。場所は学舎棟一階、生徒会室の真横で職員室からも洒落にならないほど近かった。

 

「こ………こここここんな所にあるんですかっ!?」

「うん、まあ大丈夫ら。騒ぎさえ起こさなきゃ」

「そんなアバウトな問題で済むんですか!?」

 

 そんな楽観視とも言える言葉に、呆れを通り越して逆に心配になった。こんな所に部室あるのは何かの陰謀としか思えない。これは先が思いやられそうだ。入学早々、生徒会とひと悶着なんて起こしたくないのは、どちらにせよ一緒だし。

 私が今後のことに色々と思考を巡らせていると、芳堂君がなんの躊躇いもなしに部室のドアを開け放った。

 

「せんぱーい、新入部員連れてきたぞ~!」

「ほぇ? ちょっと芳堂君、私まだ心の準備が――」

 

 慌てて芳堂君の後を追うようにして入ると、そこには―――

 

 

 

「あら、おかえりなさい。案外早かったわね、ユーのことだから当てずっぽうなのかと思ったわ」

 

 

 

 美少女がいた。

 

 ……何も出鱈目に言っているわけではないし、私が女の子好きの百合少女というわけでもない。

 本当の本当に、美少女としか言い表せない。アシメントリーなセミショートに切られた燃えるような赤髪は、窓から射し込む夕陽よりも滑らかに赤く、同じく燃えるような紅い瞳は柔らかく、そして整った顔立ちは見たことがないくらい端整だった。尚且つそれに見合ったプロポーションはちょっと着崩した制服とマッチして、同じ女性でも見とれるほどに――

 

「………綺麗」

「だろ?」

 

 私のポツリと呟いた言葉に、芳堂君がはにかんで同意した。いきなり視界に入ってきたもので驚いたけど、こんな私があんな美人と一緒に部活できるのかな……? 未来の雲行きが更に怪しくなってくる。

 先輩、と彼にそう呼ばれた彼女は、私にニコリと微笑みかけてから、目の前の椅子に座るよう手で促した。

 

「あははっ、そう言ってくれて私も嬉しいわ。もう慣れたけど。……それじゃ、初めまして、鷹野月母(タカノ ツクモ)よ。今日から模型部の部長を勤めさせていただきます、よろしくね!」

 ツクモ先輩は見た目に違わず、明るい笑顔で私にその綺麗な手を差し伸ばした。慌ててその手を握って、自己紹介を返す。

「わ、私はさ、七種真幸です! その、これからよろしくお願いいたします!」

「ふふっ、可愛い子」

 

 ……へっ? 可愛い!?

 私の反応を見ながらクスクスと笑う先輩に対して、未だに内心でおっかなびっくりしつつある私は、思わず気恥ずかしさの余り顔を真っ赤にして俯く。……だって恥ずかしいんだもん。

 しばらくして心身共に落ち着いたところで、私は鞄に仕舞い込んでいた入部届けをその場で書いて、ツクモ先輩に手渡した。

 

「はい、これで貴女も正式な模型部の部員で、これで模型部の設立となります、と。……やったぁ~! ユー、やったよ! 本当に設立できたよ!」

「あぁ、やったな。これでガンプラが作れる」

 

 念願叶ったように両腕を突き上げて叫んだツクモ先輩は、そのまま椅子の背凭れに寄りかかる。隣で見守っていたホウドウ君も、静かに、でもちゃっかり嬉そうにしながらガッツポーズしていた。

 少しキョトンとしてしまうが、私も内心では部活に入れたことに、大きく喜んでいたのかもしれない。

 

 

 

  ――そう、これが私達、聖蘭学園模型部の一世一代の初スタートになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、急に歓喜の叫び声を上げてしまったことにツクモ先輩が平謝りするなんてことがありつつも、皆して模型部の部室に入り浸っていた。

 そんな時、改めて部室内を見渡してみると、一昨年から使われていないにしては綺麗に整理整頓されているのに気が付いた。

 

「最近使われていなかった筈ですが、結構片付けされてるんですね」

「あー、それはきっと顧問の趣味よ。潔癖症と言うかなんと言うか……」

「養護教諭だからな、妥協しないんだよ。こっちとしても、汚いよりかはマシさ」

 

 ツクモ先輩の言葉に口を挟んだ芳堂君から、意外な人物の登場に私は軽く驚いた。まさか顧問が養護教諭の先生だとは、想像もつかなかったのだから。

 私の驚き方にツクモ先輩も苦笑いしながら「意外よねー」と呟くもので、私はどう返したらと少し反応にしどろもどろする。

 意外と言えば、私はツクモ先輩のような人がここに居るのにも驚いた。私は模型とやらに触ったことがなかったから興味本意でだけど、ツクモ先輩はそんな人に見えない。どうしてだろう。

 

「ツクモ先輩は、どうして模型部に?」

「あら、私? ……ふふ、単純に好きだったのよ。ガンプラバトルが」

「ガンプラ……バトル、ですか」

 

 余り聞き慣れない、その単語。言葉だけだったら何度も聞いたことはあるけれど、実際に興味を持って接したことはない。そんな単語を私は朧気に呟いた。

 今の私の反応から芳堂君とツクモ先輩が、私がガンプラバトルを知らないことに気付いたようで、目を丸くして驚いていた。

 

「い、今時の子でガンプラバトルを知らないとは驚きね……箱入り娘なのかしら」

「ま、まあそういうヤツも居るだろ。………居るよな?」

「――と、取り敢えず! 部員は揃ったことだし、活動は明日からよ! マサキちゃんに対してのガンプラバトルの説明も明日! と言うわけで解散!」

 

 気まずい沈黙が流れる前に、ツクモ先輩がやっつけな感じで言い放つ。特に否定する要素もないので、私も芳堂君もそれに賛同するように頷いた。

 荷支度を整えてからしっかり戸締まりをした後、三人でエントランスから外へ出る。その時、茜色の夕陽が私達を照らした。

 

 

 

「私、新しいこと見付けられたよ。今度は逃げないから……ママ」

 

 

 

 私はようやく見つけられた新しい道に、新たな一歩を刻むのだった。





どうもカミツでございます。
早速投稿しました! ガンダムビルドファイターズアストレアの書き直し!
ナハトが別人になってたり、マサキの名字が変わってることにはつっこまないでください。色々と事情があるんです。
設定や内容が変わりますが、基本的にはあんまり変わんないので、これからも気軽に読んでいただければと思います!

ではまた次回、ノシ

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