ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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Collaboration EPISODE-17:それは間違った日本語だ……

 当日、その週の土曜日には、芳堂家に二人の来客が居た。

 片や今ではガンプラ歌手の中でも、金字塔と言われることもある鷹野月母。片や有名な科学者の父を持ち、財閥の娘でもある夜天嬢雅八々。

 普通だったら居る筈もないのに、二人が居る理由はただ一つであった。

 

「……で、その知り合いの子の家に一泊二日と」

「おう」

「まあ予々(かねがね)聞いておったことと大差ないな」

 

 情けないユウキの為に同行するということだ。どんな子なのか気になる、というのもあるのだろうが。

 そんなツクモの傍には眠たそうに目を擦りながらも、起きようと頑張っているリリカが居た。反対にユウキの膝の上には、元気そうなホノカが(はしゃ)いでいる。

 実は先日からお世話になっており、迎えが来るのが早朝ということもあって臨時でこんな形となった。ユウキにとっては迎えに行く手間が省けた、というのもあるのだが。

 するとコーヒーを運んできてくれたエレナが、ニコニコと笑いながらこんなことを言った。

 

「まあまあ、皆で仲良くお泊まり会ね♪」

「母さん、別に様子を見に行くだけでお泊まり会じゃねえって」

「でも一泊二日でしょう?」

「それは条件みたいなモンだったろう」

 

 コーヒーを手渡されたユウキは反論するが、手渡し終えて空になったお盆を抱えながら座ったエレナは、むくれるように頬を膨らませながら尋ね返していた。

 そんな夫婦の痴話喧嘩のような風景に、傍から見ていたツクモとヤヤは少し複雑な心境になるしかない。

 最終的にホノカの嘘泣きで終結したのだが、それはまた別のお話。

 

「――んで、母さんはどうするんだ? 二日間暇だろう?」

「あら、大丈夫よ? マサキちゃんと楽しく喫茶店巡りしてくるから」

「ゴメン、聞いた俺が悪かった」

 

 即答で謝るユウキは深く溜め息を吐く。見知らぬ間にいつメールアドレスもしくは電話番号など交換したのだろうか? そんな疑問に苛まれて、結果的に多分買い物中にでも遭遇したのではないかと結論を出す。我ながら現実的か、と考えていれば、玄関からインターホンが鳴らされる音がした。

 いち早くユウキが気付くと、そのまま玄関へと向かう。

 

「はーい」

 

 気の抜けたような声で玄関の戸を開けると、黒スーツにサングラスという出で立ちの男性が立っていた。普通だったら卒倒ものではあるが、慣れたユウキはそれが迎えだということに気付いた。

 

「芳堂様のお宅で間違いないですね? お迎えに上がりました」

「はい、少し待っててください、今すぐ行きますから」

 

 そう言って戸を開けっ放しのまま、ユウキは居間へ駆け足で戻る。

 そのまま待機していた二人と妹二人の計四人を連れて、玄関から出ていった。

 

「それでは、ご案内いたします」

 

 黒服の男性達に案内され、ツクモは若干引き気味に、ヤヤは手慣れた様子で、ホノカとリリカはユウキの服の裾をひっしりと掴みながら歩いていた。

 黒塗りのセダンが門前に止まっており、車前にて待機していた男性がドアを開けて、ユウキ達もその中へ入っていく。生まれて初めてのリムジンが、弟分の知り合いの家へ行く為だということに、ツクモは微妙な心境になっていた。

 そのまま助手席と運転席に二人の男性が乗り込み、ようやくセダンが動き出す。

 

 

 

「では、参りますね」

 

 

 

 助手席の男性がそう呟いて、ユウキ達はその知り合いの少女の家へと向かい始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セダンで辿り着いたのは、ヤヤの家に勝るも劣らない程の豪邸だった。当然それにはツクモ姉ぇや妹達も驚いている訳で、彼女を知らない三人からしたら当然の反応か、と俺は染々感じていた。

 しかしヤヤだけは、顎に手を添えて思案する素振りをしつつも、全く驚いていないことからしてやはりお嬢様だなと思ってしまう。

 そんな中で俺は、これから彼女に会うということに苦悩していた。

 

「着きました」

 

 助手席の男性がそう言うと、直ぐ様ドアが開けられて、俺達は外へ出る。……随分と豪華な邸宅だこと。

 そのまま運転手とは別の人物――今度はメイドさんのようだ――に案内され、荷物は黒服の男性に運ばれながらも俺らは邸宅の中へと足を踏み込んだ。

 

 

 

 一歩踏み込んで目に入ったのは、一人の少女だった。俺と似たような茶色い髪を持つ少女。彼女だけが、周りと全然違う雰囲気を醸している。

 そんな彼女は俺にニッコリと微笑んで、俺にとっては懐かしい声で喋った。

 

「久し振りだお♪ ――ヴィー」

「アン……」

 

 少し間違えて覚えた日本語で語る彼女に、懐かしく呼ばれた渾名がなんかむず痒い。

 思わずそれに俺も同じように懐かしい渾名で彼女を呼び、彼女もそれに再び微笑んでは俺に駆け寄ってくる。

 

「随分と大きくなったな」

「ヴィーもかなり大きくなったお」

 

 背比べしてる訳じゃないんだぞ、と叱っておくとばつが悪そうにするもので、俺はどうしたものかと悩む。悩んだ末に彼女の反応を無視し、俺はツクモ姉ぇ達に向き直って紹介することにした。

 

「えー、彼女が俺の知り合いの、アン……じゃなくてアーニャ・ベリャーエフだ」

「どうも! アーニャ・ベリャーエフだお! 気軽にアーニャって読んでくれると嬉しいお♪」

 

 そんな自己紹介の仕方に、各々の反応が十人十色と化していた。

 ツクモ姉ぇは笑うのを必死に堪えようと下唇を噛みながらプルプルと震えており、ヤヤに至っては反応の仕方が分からず真顔になって、ホノカとリリカはこそこそと話し合っている。

 ……まぁ皆の言いたいことは大体分かる。俺もそうだからだ。

 

「んでアン、なんでそんな口調なんだ?」

「うん? それはリョウと一緒の言葉(日本語)で話したくて、頑張って勉強したんだお」

「勉強の方向性Uターンしてねえか!?」

 

 無邪気で疑いすら抱かせないような顔で言い切ったアンに、俺はふと息を吐く。

 因みにリョウとは昔から俺が聞かされていた「フィアンセの話」に出てくるフィアンセそのものの名前だったりする。俺もご本人に会ったことはないから詳しいことは分からんがな。

 するとアンは話を切り替えて、俺らの方を向いた。

 

「人数は前もって聞いてたから、部屋割りは完璧だお! ……あ、でもヴィーは相部屋になるから気を付けてお」

「ん? ああ、分かった」

 

 そのまま女性陣はメイドさんに案内され、俺はアンに案内されながら各々の部屋へと向かった。

 その間にも相部屋の相手が誰なのか聞いておく。

 

「……んで、俺の部屋の相方は?」

「リョウだお」

「はぁ、遂にお前の夢物語に登場するフィアンセ(笑)が見れるのか」

「(笑)とはなんだお! リョウは私のフィアンセだお!」

 

 いや絶対無理だろう。

 そう心の中で失礼なことを呟いては、どうやらその部屋に着いたらしく立ち止まる。

 アンに促されて戸を開けると、そこには一人の少年と一人の少女が居た。そして少女は少年の膝の上で少年の胸に頭を預けながらすやすやと寝て――

 

「あ、もしもし? 警察ですか? ここにロリコンの不審者が――」

「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇえ!?」

 

 少年に全力で止められ、俺は渋々携帯を仕舞う。勿論、110番など芝居だ。

 何故ならその少女は以前に見たことがあるし、ツクモ姉ぇのライブにも参加してくれていた少女だからだ。

 先月のレディースガンプラバトルコンテストに出場した際、ツクモ姉ぇ達が戦った相手だ。

 

「まあ、お久し振りと言うべきかな? ……そこの女の子は」

「おや、ツクモお姉ちゃんのところに居た人じゃないか」

 

 全力で止めに掛かった少年の声で起きたのか、少女――矢倉美桜ことミオちゃんが俺を見て早々目を丸くしていた。

 俺もクスリと笑っては成る程、と世界は狭いもんだと内心思ったのだ。

 

「やぁミオちゃん、また会えるとは奇遇だね」

「こっちもだよ、ユーお兄さん。Честность,(正直ね、) Я также был удивлен(私も驚いてるよ)

Согласиться(俺も同感だ)

 

 ミオちゃんの流暢なロシア語に対して、俺も流暢なロシア語で返すとこちらもまたミオちゃんに驚かれた。まぁ見た目によらず、だろうな。

 

「これは……ユーお兄さんはアーニャの親戚かい?」

「髪色が似てるからって違うよ。俺の母さんがアンの母さんの友達なだけ」

「アンって、随分と親しい間柄なんだね」

「……まぁ、一方的に惚気話を聞く立場だったからな。でもまぁまさかねぇ、君が噂のリョウ君だとは」

 

 俺はミオちゃんから視線を外して、リョウ君の方を見る。アーニャの誇張もあったが、おおよそ内容通りの見た目だな。

 俺はリョウ君に手を差し伸べ、改めて自己紹介をする。

 

「はじめまして、リョウ君。俺は聖蘭学園模型部副部長、芳堂木綿樹だ。アン……アーニャの知り合いだ」

「あ、俺は蒼城学園模型部の矢倉亮だ。よろしく」

 

 差し伸べられた手を握り返され、俺は優しく笑う。そんな俺達の様子を見て、一人除け者にされていたアンが頬を膨らませて立っていた。

 

「ヴィー! 知り合いってどういうことだお!?」

「どうどう、落ち着けって。……そんなのただツクモ姉ぇがそこのミオちゃんと戦ったから知り合っただけだってば」

 

 指差して視線を逸らさせると、詰め寄ってきたアンがミオちゃんの方を向く。……が、ミオちゃんはそんな睨むような視線すらスルーして俺に話し掛けてきた。

 

「そう言えばそうと、ユーお兄さんが居るってことは、ツクモお姉ちゃんも居るのかな?」

「さっきメイドさんに連れられて行ったよ。多分ミオちゃんと同じ部屋なんじゃないか?」

 

 それを聞いた途端にリョウ君の膝の上から飛び降りたミオちゃんは、早速部屋の方へと戻っていった。……なんと言うか、話の避け方が上手いな、ミオちゃんって。

 そして視線を向ける人物が居なくなったことで再び俺に視線が行くが、俺はそれに合わせて視線をリョウ君へと落とす。依然としてベッドに座ったままのリョウ君は、キョトンとした顔で俺を見る。

 

「まあ、紹介も終わったんだ。女性陣の下へ行こうではないかリョウ君」

「えっ、ちょっ!? まっ、ユウキ君!?」

 

 そのままリョウ君の腕を取り、高笑いのまま廊下を駆けていった。アンから逃げる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として女性陣の部屋に入れたのだが、アンの不貞腐れた視線が突き刺さる突き刺さる。

 するとツクモ姉ぇが、そう言えばと言いたげに話を切り出してくれた。

 

「ねぇ、ユーの“アン”とアーニャちゃんの“ヴィー”って呼び方、気になるんだけど」

 

 ……あぁ、なんだそんなことか。

 まさかの質問に俺はふと考えたが、アンをチラリと見ると、別に言っても良いみたいだ。このままだとヤヤの視線がロン○ヌスの槍になる。

 

「俺がアーニャを“アン”って呼ぶのは、アーニャの名前からだよ」

「……どこに繋がりがあるのよ」

 急かすように尋ねるツクモ姉ぇを落ち着かせて、俺は話を続ける。

アーニャ(Аня)って名前は、ロシアじゃあ大体“アンナ(Анна)”って名前の愛称として使われることが多い。だから逆に考えて、それを縮めてアンって呼ぶことにしたんだよ」

 

 その答えに納得がいったのか、ツクモ姉ぇに加えてその膝の上に座っていたミオちゃんまで頷く。

 そして残る俺の“ヴィー”と言う渾名。これが少し説明するのが厄介だ。なんせ少しややこしいから、ってのが一番の理由か。

 しかしミオちゃんが良いタイミングで質問を投げ掛けてきてくれた。

 

「そう言えばユーお兄さんは、アーニャからВы(あなた)って呼ばれてるけど、そこまで親しい間柄なのかい?」

「いんや、本当にただの知り合いさ。……ただ俺のその愛称は、俺の普段の愛称から来てるんだ」

「………つまりどういうこと?」

 

 中々理解に苦しむのか、ツクモ姉ぇは顔を顰める。

 そんなツクモ姉ぇを笑いながら、俺は話を続けた。

 

「簡単な話だよ。ツクモ姉ぇは俺のことを普段なんて呼んでる?」

「ユーに決まってるじゃない」

「それを英語に直すと?」

「え? えっと……You」

 

 そこまで言った時、ミオちゃんは全てが繋がったような顔をして「成る程」と呟いた。

 

「つまり、ユーお兄さんのユーを英語に直すと“あなた”って意味になる。それをロシア語に直すと“Вы”……だからアーニャはユーお兄さんをそう呼んでるのか」

「そう言うこと。どうだ、分かったかツクモ姉ぇ」

「成る程ねぇ」

 

 ミオちゃんの頭の上に頭を乗っけたツクモ姉ぇは、目を細めながらもそうボヤく。まあ、あれでちゃんと理解してくれてるから良いけれど。

 

 

 

 そんな形で、俺らの談笑は続く。




今回は主人公が居ません(←オイ
その代わりヤヤは(バトルで)活躍します!

今のところはアーニャと亮君、そして美桜ちゃんしか登場してませんが、あと三人程次回に登場する予定です。
ではまた次回、ノシ

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