今、私達は空の上に居た。分厚い壁に阻まれつつも、快適過ぎると言っても過言ではない機内でのんびりと空の旅を楽しんで……はいなかった。
外を見ようと思ってもそもそも窓がないし、ヤヤちゃん曰く「父上が言っておったが、超音速機? らしいから直ぐに着くと思うぞ」とのこと。因みに急加減速や垂直離着陸も可能だとか。一体どんなテクノロジーでできてるの……。
だから私は大人しくゲームに勤しんでいた。一応ネット環境もあるらしく、機内でのオンラインゲームも可能らしいけれど、最近面白そうな横スクロールアクションを買ったのでそれをプレイしていた。
「マーちゃん、何やってるの?」
「マイ○ィアクションX」
隣に座っていたお姉ちゃんは、ふとゲーム画面を覗き込みながら尋ねてきた。私は気に掛ける様子もなく素っ気なく返すと、お姉ちゃんは少し寂しそうな顔する。
余談ではあるけれど、このゲームやってて思った。某ピンクの悪魔や赤と緑の配管工兄弟のゲームに似てる気がする。何がとは言わない。
ラストステージ手前までやったところで一息吐こうと、お茶のペットボトルに手を手に取った視線の先では、先輩三人でブラックジャックをやっているようだった。
「鬼! 悪魔! ミナツ!」
「わ、one more! One moreデース!」
「既に十五敗してるのに、賭け金は何にするつもり?」
「ぐはぁっ!」
「ツクモ、まだここで終わらないでくだサイ!?
何かの映画のワンシーンだろうかと
口元から溢れた笑い声に、前の座席に居たアイカちゃんが目敏く気付いたのか、背凭れの上からひょっこり顔を出してきた。
「あの二人のコント見たのね」
「ブラックジャックだけであそこまで面白くできるんだね」
「ミナツが親やると、ツクモちゃんいつもあんなんだから」
「
「流石に全部スッたってことはないでしょうけど、ミナツに勝ち目がないことをどうして理解しようとしてないのやら」
「アハハ……」
呆れるように首を振ったアイカちゃんに、私は苦笑いで返す。ツクモ先輩だって引き際は見極めるだろうから問題ないと思うけど。
するとツクモ先輩は懐から写真らしきものを取り出して言った。
「ユーの幼少期の写真……で、どうかしら?」
「What!?」
その発言に周囲の皆は「そんなのが賭け金になる筈ないだろう」と確信していたものの、ミナツ先輩は深く真剣そうに悩むと、顔を上げて真顔で答えた。
「乗ったわ」
『ええぇぇぇぇ!?』
そうして、二人のスピード対決が始まった。
■
スピード対決に決着が付く前に、乗っていた飛行機は着陸していた。パイロットの人にお礼を言って外へ出ると、目の前には自然の森と、奥に見える
皆様々に周囲を見渡しており、真上から照らす太陽なんてなんのそのだった。事実私もそんな感じで、普通にしていたのはお姉ちゃんととメイさんとヤヤちゃんぐらいだった。
「さて、早速じゃが別荘の方に移るぞ。ここから見える通り、そう離れてはおらん。海辺も直ぐ傍じゃから安心せい」
キャリーケース片手にヤヤちゃんが先導し、私達がその後に続く形になった。……にしても広そうな場所。これが私有地なんだから、夜天嬢雅家って凄いんだなぁ。
道なりに進んでいると、野鳥の不気味な声が森中に響き渡った。
「ひゃうっ!? ……ユウキ様、怖いですわ」
「なっ、ユウキさんに抱き付くとはこの女狐! 容赦いたしません!」
「要求。
「俺は野鳥の声よりもお前らが怖い」
メイさんがユー君へ抱き付いた拍子に、カグヤちゃんとシオリちゃんが反応して、三人が剣呑とした雰囲気になってしまう。それに挟まれたユー君は、顔を青褪めさせてはまるで狼に睨まれた兎のようにカタカタと震えているみたいだった。
それを誰も助けないまま、そこまで舗装されてない道をしばらく進むとやがて別荘へと辿り着いた。近くで見ると、それなりに広い。
「さて、ユウキ、お主だけ個室じゃからな。間違っても女子部屋へ潜入しようとするなよ」
「誰がするもんかそんな自殺行為!」
さっきまでの青褪めた顔のまま、ユー君は盛大に否定していた。それがフラグにならなきゃ良いんだけど。ツクモ先輩曰く「ラッキースケベのフラグ回収率は九十パーセント」らしいし。
取り敢えずは皆で割り当てられた部屋へ行くと、ホテルの四人部屋よりも広い内装に感嘆の声を漏らしていた。部屋割りは私、お姉ちゃん、カグヤちゃん、シオリちゃんの四人と、ツクモ先輩、ミナツ先輩、シャロ先輩、ホノカちゃんの四人に、ヤヤちゃん、アイカちゃん、メイさんの三人になった。
予定だと、この後それぞれ水着に着替えた後に庭に集合。そのまま庭先から見える海辺へ向かうとのこと。
荷物を置いて自分のベッドを決めた後に、早速水着へ着替えることとなった。……しかし、ここで問題が一つあった。
「お、お姉ちゃん……そんな直視しないでよぉ!」
「……へっ? あ、あらごめんなさい。マーちゃんの体が余りにも綺麗過ぎて、見惚れちゃって――」
「ひっ!?」
どうしてこんな風になっちゃったんだろう、本当に。
「マサキさん、女性同士なのですから気にすることはありませんよ」
「うぅ……でも、裸はちょっと……」
主にお姉ちゃんの視線が胸部に向かってるので、恥ずかしいことこの上ない。お姉ちゃんの方が大きいのに、何で私のを見る必要があるんだろう。
「マーちゃんの成長途中の胸を堪能できるからに決まってるわ!」
「心読まないでよ!?」
堪能って、発想が変なおじさんと同じだよ。と言うか、まだ成長途中だったんだ……。まだ希望はある……のかな?
そんなことより着替えよう。着替えてさっさと庭の方へ行かなきゃ。私は鞄の中から水着を漁って先日買ったばかりの水着を取り出す。別に私が選んだ訳ではなく、お姉ちゃんが水着売り場で着せ替え人形の如く様々な水着を着せた末に私が怒ったため、お姉ちゃんが渋々買ったやつだ。
セパレートタイプの白い水着で、淡い赤や青の水玉模様にフリルが付いたシンプルでキュートなもの。お姉ちゃんが渋々真面目に選んだだけあって、私は結構気に入っている。
私が着替えている間にも、カグヤちゃん達も着替えていたようで、既に準備は整っていたみたい。姿見で自分の水着姿を眺めていたのが恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ行こうか!」
「ええ、そうですね」
「同意。ユーが待ってる」
気を紛らわすようにそう言って、私は皆と共に庭へと向かうのだった。
■
俺に与えられたこの個室。まあ普通に考えれば当たり前のことなんだが、寂しいことこの上ない。そんなハムスターのような感想は兎も角、さて、隠しカメラや盗聴器を探しますか。
何で隠しカメラや盗聴器があるのかって? ……この屋敷を設計した人物が変態だからだよ。因みに、夜中になると作動する半ば防犯装置の役目を果たすビックリドッキリな罠もある。ここに侵入できたなら、の話だが。大半はヤヤを驚かすためにあるんだろう。設計者の悪趣味な性質がよく分かる。
「隠しカメラ二十八個、盗聴器四十九個……これだけの数をよく隠したな」
生憎と送るのは称賛ではなく軽蔑だが。
このガラクタ達を部屋の隅っこに放置してから、俺は鞄の中から海パンを取り出す。中一の頃から買い替えてないが、サイズに困ったことはない。買い替えの必要がないっていうのは、ある意味助かるな。
上にはジャケットを羽織り、小道具の入った箱を片手に持ち上げ、早速下の階へと下ることにした。
ヤヤの言葉通りに庭へと出てみると、奥には太陽光を反射する白い砂浜に、エメラルドグリーンに煌めく海面が望めた。庭一面には芝生が敷き詰められているため、ここでお茶を楽しむのも一興だろう。流石は腐ってもお嬢様、楽しみ方も完璧だな。……この辺りはメイの方がもっと詳しそうだが。
「いやー、高級リゾート地っぽい海ってのも良いもんだなぁ。特に見知らぬ女性が居ないって点が最高だ」
唐突に見知らぬ女性から話し掛けられた時には、よくしどろもどろしたものだ。……所謂、逆ナンってやつだったか。その後、友人達と理不尽かつ壮絶な大乱闘になったのは良い思い出だ。思い出したくないけど。
「贅沢な悩みじゃのう。男の癖になぜ女に興味がないのか分からん」
ふと背後から聞こえた呆れる声に振り向くと、そこには水着姿のヤヤが立っていた。明度の高いオレンジ色のパレオタイプのビキニで、白磁の肌が所々晒されていた。普段纏めてある髪は下ろされ、踵に届くか届かないかまでに伸びた髪がマントのようになっているように見え、いつもと異なった新鮮な姿に、思わず見とれてしまう。
「見ず知らずの人間に話し掛けられるのは誰だって怖いだろう」
「コミュ症か」
気を紛れさせるように吐いた台詞に、ヤヤは更に呆れた様子でツッコミを入れてきた。いや、コミュ症じゃないだろ。せめて人見知りと言って欲しいな。
そんなツッコミ返しは兎も角、ヤヤが来たと言うことは他の皆も来たのだろう。その証拠に、アイとメイがやって来たようだ。
「ユーって半ば引き籠りのくせして、体つきはしっかりしてるよね」
「アイドル様ほどじゃないぜ」
恨めしげに半目で睨み付けてくるアイに、ニヤリと口角を吊り上げながら答える。こちらも両手を腰に当てながら呆れたように息を吐くアイは、パレオがない分ヤヤよりも露出が高い三角ビキニで、こっちは普段よりも色っぽく見える。……いや、無理して背伸びしているようにも見えるな。
そして遅れて出てきたメイは、少し恥ずかしそうな様子でもじもじとしながら歩いてきた。
「ユウキ様に水着姿を見せる日が来ようとは……思いもよりませんでしたわ……」
「俺も皆の水着姿を見る日が来ようとは思いもよらなかったな。似合ってんだから恥ずかしがることはねぇと思うが。メイは同年代と比べて体つきは良いんだし」
「ゆ、ユウキ様はもう少しお言葉に気を付けてくださいまし! 殿方にそう言うことを言われるのは慣れていませんのよ!?」
「この唐変木に何を言っても無駄じゃ。無自覚に女子を褒めるのがこやつの悪い癖じゃからな」
唐変木と言われる筋合いはないが、俺は渋々反論しないことにする。反論したらしたで、言いくるめられそうなのがオチだろうし。
そして未だ恥ずかしがるメイは、上が黒、下が白のツートンカラーになったホルターネックビキニであり、ヤヤに匹敵する容姿でありながら更に胸が強調される形になってるのでとっとと視線を背ける。無自覚なのはメイの方じゃなかろうか。
「それより、他の皆はまだなのか?」
再度気を紛れさせるためにヤヤに尋ねると、肩を竦めながらも簡単に答えてくれた。
「直ぐに来る。……しかし、メイだけ褒めるとはちと許せんのう、え?」
「うがが……
そう言って睨みながら俺の両頬を、その細腕からは想像できない力で引っ張られた。流石にこれは死ぬほど痛いぞ。
「ヤヤちゃんにさんせーい!」
「
後方でアイまでヤヤに同調し始め、スイカ割り用に持ってきたメッチャ堅い樫木の木刀片手にやって来た。……ってよりにもよってその木刀かよ!? えっ、ちょっ、おま、それで何をするんですかねぇ!?
そろりそろりと摺り足でやって来るアイに、背中に走る悪寒が真夏日の暑さを打ち消していた。寧ろ凍土に放り込まれた気分だ。慌ててヤヤの両手を乱暴に掴んで頬から引き剥がし、アイの振り上げた木刀を白刃取りで受け止める。
「あ、あぶねー……」
「うっ、ううう……」
鼻先三寸で受け止めたは良いものの、何故か持っているアイの両手がぷるぷると震えていた。
「どうしたんだよ、そんなに震えて」
「重い」
「は?」
「重い!」
堪えきれなくなったように、アイはパッと木刀から手を離した。それと同時に木刀の重量が全て俺に降りかかった結果、白刃取りしたまま真後ろへ倒れる他なかったのだった。
そのまま真横へ逃がすように木刀を降ろすが、なんて重さしてやがるんだ。
「もしかして、鉛入れてあるな?」
「おお! 気付きおったか。その方がよう切れる筈じゃろう?」
「殺す気かよ!? スイカに対して会心の一発どころかオーバーキルだよ!」
……って言うか、今「切れる」って言ったよな。スイカ割りじゃなくてスイカ切りかよ。いくらなんでも物騒過ぎるだろう。
呆れて上体を起こしたままヤヤを睨み付けるが、当のヤヤは誇らしげにどこ吹く風である。すると今度は先輩三人とホノカが駆け足でやって来る。
「あらら、一番じゃないのね、私達」
「ボクが一番になってユー兄ぃに褒めてもらおうとしたのに!」
「ちょっと残念ね~」
「また次回にrevengeデース」
口では残念そうにしつつ、四人共楽しそうに笑って過ごしていた。色々とツッコミたいが、ホノカと年の差あるのに何なんだその団結力。
ツクモ姉ぇは相変わらず赤いシンプルな三角ビキニで、アイと違って似合って見えるのが謎。ミナツ先輩は打って変わってやや布面積の少なめな水色のモノキニ。前に布が集中している分、背中が綺麗に見えているため、普段の雰囲気も相俟ってセクシーに見えている。そしてシャーロット先輩は、相も変わらずブレない
「神は居た」
「………はぁ?」
俺の突然な意味不明の言葉にツクモ姉ぇが反応するが、そんなこと関係ない。無邪気に抱きついてきたホノカを抱き上げて頭を撫で回していると、何故か周りから白けた視線が突き刺さる。……何故だ。
取り敢えず不名誉の傷を負うのは勘弁なのでホノカを降ろすと、今度は残念そうにこちらを見上げるホノカの視線が突き刺さった。一体俺にどうしろと。
「残るはマサキ達だな」
「逃げたな」
「逃げたわね」
「逃げマシタ」
「逃げないでくださいまし」
「逃げちゃ駄目じゃない」
「ユー君、逃げちゃメッ!」
「俺が何をしたって言うんですかねぇ!?」
可愛い可愛い妹とのスキンシップを楽しんでただけじゃん。俺何にも悪くないじゃん。「さぁ、お前の罪を数えろ」?
しかし幸運の女神様は俺に微笑んでくれたようで、この気不味い空気を打開してくれるかの如く、マサキ達が来てくれた。
「遅れちゃってごめんなさい!」
「すみません、少々用意にてこずってしまいました……」
「謝罪。スイカとおいかけっこになるとは思わなかった」
「何とかひび割れもなくて済んだけど、四角いスイカでも転がるのね。お姉ちゃん驚いちゃったわ」
一番最後になった理由はどうやらスイカが逃げたかららしいが、四角いのに転がるのかよ、アレ。しかしこうも眺めると比較的日本人としてマトモな体型をしているのがマサキとシオリぐらいで、他全員がそれなりに成長しているのが見てとれた。しかし口に出せば撲殺されかねないので伏せておく。
マサキのはシンプルめではあるが、却って子供っぽい感じになっており、眼鏡を外しているため普段の印象とは大分違う雰囲気になっている。一方、シオリは黒のマイクロビキニという大胆な格好になっており、髪をアップに纏めているようで、容姿とは裏腹に大人びて見えるのが不思議だ。そしてカグヤは胸元が開けた感じの若葉色を基調としたフリル付き三角ビキニで、亜麻色のロングヘアーと相俟って優しい雰囲気に纏まっている。
残るレイナさんは、最早別格としか言い様がなかった。思春期真っ盛りの男子が居れば十中八九視線を釘付けにできる、まさにラスボスレベル。その豊満なボディを、敢えて締め付けるかのような灰色のレースアップビキニがそこはかとなく色気を醸しており、これに惚れない男は多分いないんだろうなってぐらいに凄かった。色んな意味で。……無論、女の子に然程興味が湧けない俺がなびくことはないのだが、やはり心のどこかで意識してしまっている自分が居た。恐るべし、七種の神童。これが凄まじいシスコンじゃなきゃ、素直に惚れててもよかった気がする。
そんな美少女偏差値(俺命名)が傾きまくったこの面子がようやく集まり、早速というかようやくビーチへ向かうこととなった。
■
白い砂浜、エメラルドグリーンに輝く海、そして海岸に映える色取り取りの水着を身に付けた美少女達。まさに目に眩しい景色である。
そしてビーチパラソルの下でビーチベッドに横たわる、唯一の成人であり保護者であるレイナは、久々に夏を満喫していた。色んな意味で。
「はぁ……ここまで充実した夏は初めてよ」
うっとりとした顔色を浮かべ、艶かしく自身の妹を眺めるレイナは、満足げにグラスに注がれたカクテルを飲んでいた。昼間からお酒を口にするとはこれ如何に。
「そうは思わない? ……同志ユウキ君」
「誰が同志ですか。確かに妹は大切ですけど、少なくとも貴女と一緒にされたくはないです」
「あら、私の勘が『ユウキ君も同類だ』と告げているのだけれど」
「良かったですね、外してますよその勘。貴女のような変質者ではないです。少なくとも、平気で妹の部屋に侵入するようなことは絶対にしません」
同じくビーチパラソルの下に居たユウキに、同意を求めようとしたレイナだがあっさり否定されてしまった。シスコンを否定しない辺りは、やっぱり同類なのだろうとレイナは思う。兄弟姉妹を思う人間に、悪い人物はいないと知っているのだ。
「どうかしら、マーちゃんは。可愛いでしょう」
確信を持って明るい笑みを向けたレイナに、ユウキは肩を竦めながらも同意した。
「まあ、可愛いってのは否定しませんよ。もう少し、天然っぽい子の方が好みですけどね」
「噂では女の子に全く興味がないと聞いていたのだけれど、好みがあるとは驚きね」
「完全にない訳ではないですよ。女の子に向ける愛情の偏りがガンプラへ向いただけです。MS少女だったら素直に萌えますよ? フレーム○ームズ・ガールでも良いです」
因みにバー○ラルドやアル○レーネ推しです、としれっとした顔で付け加えたユウキに、レイナはツッコミたい衝動を抑えて何となくユウキの好みが分かってしまったものの、咳払いして話題を元に戻す。
「コホン、マーちゃんは、学校じゃどんな風にしてるの?」
「大人しくて、それなりにクラスの奴とも打ち解けてる良い奴です。でも偶に何故か俺にだけ手を上げてくるんですよね、何故か。そこさえ除けば、学内でもかなり人気高いと思いますよ」
「……暴力は関係ないと思うけど……マーちゃんが普通の学校生活を送れているようで何よりね。けど人気があるのはちょっとお困りものねぇ」
「まあマサキに手を出したら警察沙汰待ったなしになりますから、勘繰りはしなくても平気ですよ。それにあくまでマスコットみたいな扱いですし」
染々ユウキの言ったことに、成る程と頷いたレイナはカクテルを一口含み、喉を潤す。
因みにレイナが飲んでいるのはアペロール・スプリッツというもので、清涼感溢れるアペロールの爽やかなオレンジ色が夏にピッタリなカクテルである。イタリアのリキュールであるアペロールと、白ワイン、炭酸水をそれぞれ三対二対一の割合で、十分に冷えた氷の入ったグラスに注ぐだけの簡単なもの。尚、白ワインでなくとも、シャンパンなどのスパークリングワインで割るのも良し。半月状にカットしたオレンジを添えて飾ればオシャレな気分にもなれる。元々
閑話休題。妹が楽しければそれで良いのだと、また一口飲むと、今度はユウキの方から白けた視線が飛んでくる。言わんとしたいことは分かったが、レイナは敢えて天然に振る舞ってみた。
「あら、同志ユウキ君もこれに興味あるの? でも残念ね、これジュースじゃないのよ?」
「そりゃ知ってますよ、目の前のクーラーボックスに堂々と酒が入ってるんですから。あと同志じゃありません」
何とまあ冷めたツッコミだ、とレイナは肩を竦めるが、顔に残念そうな表情は見えない。寧ろ楽しんでいる様子だ。そんな彼女を任されたユウキは、早くも皆が戻ってこないかと絶望感を覚えつつあった。何故ならレイナの顔が僅かに赤らんできているのだ。彼女の酒癖が悪くないことを祈るが、まだカクテルを飲み始めて二杯程度だ。日本人らしくお酒に弱いんだろう、多分。それとも成人したばかりだからそこまでお酒に慣れていないのか。どちらにせよこのままは危険だと判断し、クーラーボックスを片付けようとしたら何故か睨まれた。
「妹の目の前で情けない姿を見られたいのなら、片付けませんが――」
「ごめんなさい、片付けてくれないかしら」
何という変わり身の早さか。取り敢えず片付けてしまうと、丁度遊んでいた皆が戻ってくる。ビーチバレー対決が終わったのか、程々に汗を掻いているようだった。
「おー、お疲れー」
「何でマサキちゃんあんなに俊敏に動けるのよ!? 運動苦手じゃなかったっけ!?」
「る、ルールとかが絡むとちょっと本気が出ちゃうと言うか、何と言うか……」
「これしきのことで疲れるとは情けないのう」
「カグヤは大丈夫です!」
一部を除いてバテている様子の面々に、ユウキは他人事のようにスポーツドリンクを手渡していく。ここでユウキは、ふと自分がマネージャーか何かになった気分がしたが、気の所為だろうと思考を止めた。
全員分を渡し終えた後、ふとユウキが今後の予定を確認した。
「この後、この夜天嬢雅製
「ふむ、おおよそ予定通りじゃのう」
「まだまだ時間はあるんだもの、海の楽しみは後々取って置かなくちゃね」
予定に狂いはなく、ツクモの言葉に皆が頷く。正直ユウキはもう帰りたかった。
取り敢えず全員に水鉄砲を渡す。種類は豊富にあり、拳銃から始まって小銃、狙撃銃、散弾銃、機関銃、果てはバズーカと色々取り揃えてある。マサキとアイカは小銃と拳銃、ツクモは狙撃銃、ミナツは機関銃とバズーカ、ヤヤは二丁拳銃、カグヤは機関銃と拳銃、シャーロットは散弾銃が二丁、シオリがバズーカ二丁と小銃二丁であり、残るユウキは機関銃二丁であった。因みにレイナ、ホノカ、メイの三人は不参加である。
「勝っても負けても恨みっこなし、かぁ」
「フィールドはここから東に行った森と浜辺になるわ。それじゃ皆準備は良いかしら?」
「儂に二丁拳銃を使わせたこと、後悔させてくれる」
「うーん、勝てるかなぁ?」
「マサキちゃん、後ろ向きになってても勝てないわよ?」
「いつもの剣ではないので、少し不安ではありますが……カグヤ、頑張ります!」
「うふふ、ちょっと楽しみね~」
「Let us partyネー!」
「了解。目標全てを制圧します」
水鉄砲が全員の手に渡り、何故かユウキを除く全員が闘志を燃やしている。勿論、ユウキは疑問符を浮かべるのみ。
こうして、約一人が内容を理解しないまま、水鉄砲を使ったサバイバルゲームが今まさに幕を開けようとしていた。
ユウキの性癖が少しだけ分かる今回。次回はガンプラバトルやりますよ。
しかし、普段の倍近い文字数になるとは予想外でした。実際はもっと多いんですが(笑)。
思った以上にキャッキャウフフ要素が足りなかったんで次回にぶち込もうそうしよう。
ようつべで「GMの逆襲」の本編映像がアップされていますが、かなり楽しめる内容でした。所々にネタがあって、思わず笑ってしまうようなシーンもちらほら。しかし、その中でも忘れない胸が熱くなるようなガンプラバトル。一話のあのシーンを重ねた、もう一人の主人公との再会。手に汗握る、一年越しに果たした二人の「約束」。……タイトルの元ネタ同様、物語に一つの終止符が打たれ、次の世代へと繋いだ。
まさに、無印とトライを繋ぐに相応しいお話でした。思わずあの二人のバトルを見ていて、涙してしまいましたよ。ですが、バトローグも含め、まだまだ終わりは遠そうですね。これを期に、またビルドファイターズの二次創作が増えて欲しいものだ(願望
ではまた次回、ノシ