「ま、負けた……?」
強張った表情で青褪めていくメイの言葉と共に、会場から拍手喝采が鳴り響く。
『……な、な、な、何とぉぉぉ!? メイ選手が勝つかと思いきや、ユウキ選手が勝ってしまったぁ!?』
ニイミ先輩がそう叫ぶと、メイはその場にへたり込んだ。その顔には絶望の色しかない。
俺はフィールド上からエクストリームをケースに入れ、クルセイドを手にメイへと近付いた。
「メイ」
「………ぁ」
髪に隠れ、ハイライトの消えた
俺には何で、そこまでメイが拘るのかは知らない。でもきっと、何か理由があるのは明白だ。……勿論、その拘りが怖かったのは事実だが、かと言ってメイは嫌いになれない。
「ほら、お前のクルセイド。……負けちまったけどさ、強かったぜメイのガンプラ」
「ユウキ様……」
「何でお前が俺に拘るのかは知んねえけどさ、俺じゃなくても、お前にお似合いのフィアンセは居ると思うぞ?」
恋する女の子に対してこれは、少し酷いかもしれない。
でも俺は恋愛なんて無縁だったし、結婚するつもりもないから。ガンプラしか取り柄のない俺と付き合った所で、どうせ途中で破局するだけ。
だから俺は優しく諭す。……背中に何らかの殺気を感じながら。
「さて、立てるか?」
「は、はい」
細くて小さい手を握って、俺はメイを引っ張りあげて立たせる。
まだちょっと浮かない顔ではあったが、それでもメイは俺に微笑みかけた。
「わたくしは、貴方様を諦めるつもりはございませんわ」
「………はぁ、俺の回りの女子ときたら」
その覚悟の言葉に、俺はどう呆れたもんかと自分に呆れる。その間にも、実況席に居るニイミ先輩が進行させていた。
『さーてさてさて、お次はシオリ選手対マサキ選手のバトル! 片やターミネーター、片や二・三年生のマスコット。どんなバトルを見せてくれるんでしょうか! それではセットアーップ!』
《GUNPLA BATTLE Combatmode Start up. Mode damage level set to“C”》
バトルシステムの前に立った二人は、互いを見つめ合っていた。何処かで会ったことがある、そんな気がしながら。
《Press set your GP-Base》
両者がGPベースをセットし、プラフスキー粒子の散布が開始される。
《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Field1, Space》
バトルフィールドを形成したバトルシステムは、最後のセットアップへと入る。今回作られたステージは宇宙。
《Press set your GUNPLA》
二人が白いガンプラを置くと、ニイミが開幕の宣言を高らかに告げた。
『それでは第二回戦目、ガンプラバトル! レディィィィ、ゴォォォォォォッ!』
《BATTLE START》
「出撃。日本知織、ストライクリコリス。出る」
「ガンダムアテナ、七種真幸! 勝利を切り拓く!」
カタパルトから黒い
そこは戦いの痕が残る宙域。――そう、
「……あれは!」
飛び出したマサキの視線の先には、白く輝くストライクが立っていた。早速バックパックから二振りの巨大な剣を取り出して、襲いかかってくる。
両手のGNソードⅢをソードモードで展開し、マサキもストライクリコリスに応戦した。
「し、白い……」
「苦笑。何か通ずるものでもあるのでしょうか(笑」
「何かその喋り方ムカつくぅ……」
「同意。失礼しました。対戦相手にこれは失礼でしたね、特にサエグサの貴女には」
最後の部分だけ語気を強めて言ったシオリは、無理矢理にでもパワーでアテナを押し切った。流石のマサキも動揺を隠せないが、そんな間もなくストライクリコリスが接敵する。
即座にライフルモードで牽制するが、効果はなし。ストライクリコリスからビームキャノンが発射されて、アテナは左へと回避する。
「納得。スピードは見た目通りですが、それだけではないようです。……流石はサエグサの
「………ッ!?」
「嘲笑。何も言い返せませんか。所詮は出来損ないと言うことですね」
シオリは何かを悟ったように、嬉々として語った。しかしマサキは何も言えず、ただシオリの言葉が胸に突き刺さり、それが自分の何かを刺激した。
「私を、出来損ないって言うなぁぁぁぁッ!」
《Enhanced Remote Realizer system, STANDBY》
マサキが目を瞑って叫んだ途端、アテナに赤い幾何学的な線が迸る。それと同時に今まで緑色の瞳をしていたガンダムアテナは、その目を真っ赤に血走らせていた。
マサキはコンソールを握ったまま叫ぶ。
「私は出来損ないなんかじゃない!」
叫ぶと同時にアテナが動き、ストライクリコリスに頭突きを噛ました後、GNソードⅢで切り結ぶ。
画面を揺らされた衝撃で頭がくらくらしたシオリは、成る程と理解する。ジンナイが想定していた通りだと。
これはバトルが楽だと内心思うが、シオリはそれを表に出さず二度三度と切り結び続けていた。マサキに申し訳ないと感じながらも。
「提案。面倒なので早く終わらせましょう」
「巫山戯ないで! 貴女を叩き伏せるまで、まだ――!」
そこまでマサキが言った時だった。
リコリスの背後から巨大な何かが迫ってくる。マサキはそれが何なのか分からなかったが、とにかくマズイと言うことだけは分かった。
「オイ! レギュレーション違反だろッ!」
ユウキがマサキの後ろから叫ぶ。だがニイミはおろか、ジンナイすら喋らない。
その後ろで気付いたツクモは、苦虫を噛み潰したように唸る。
「アイツ……きっとレギュレーション判定を緩めてる」
「はぁ!?」
「途中からの投入を許したのよ。しかも無人機。……そうなればあれを操縦しているのはシオリって子。違反にはなんないわ」
その言葉に絶句する。GNフィールドを使えない素のアテナじゃあ、火力差で押されるだけ。いくらなんでも不条理だ。
そこでユウキはどうするべきかと悩む。
(くそっ、何も思い浮かばねぇ)
その間にもマサキは目の前の存在に、口をぽかんと開けているしかなかった。
SEED系ガンダムの中でも、型番に「A」を持つZAFT目ガンダムが使用する「モビルスーツ埋め込み式戦術強襲機」。その名も――
「合体。
本来、核エンジン駆動のMSでの運用を前提としているミーティアは、バッテリー駆動であるストライクでは運用できない。
マサキはふと思い出した。カラーリングは改められているが、同じものをゲーム内で見たことを。
「ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスの纏っていた……うそっ、大きい!?」
予想を越えて遥かに大きいミーティアを見て驚くが、今はそんな暇がない。
シオリは容赦なくミーティアを操作し、マサキを追い詰める。大きい故に旋回性能が悪いと思えばそうでもなく、通り過ぎたとしても直ぐに切り返してくる。その順応性がマサキを悩ませた。
「射撃。一斉射、薙ぎ払いなさい」
劇中のフリーダムよろしくミーティアの全門が開口され、ミサイル、ビームの嵐がアテナを襲う。
「避けきれない!」
GNソードⅢで致命傷になりかねないビームやミサイルを切り捨てるが、やはり切りがない。
――そんな時だった。
「飛んでけGNアーマーッ!」
ユウキがボールを投げるように何かを投げた。それはプラフスキー粒子の散布内に入った途端、バトルフィールド上を駆け抜けた。
二度目の一斉射が撃たれようとした瞬間に、射線上からアテナをかっ拐う。その一連の出来事に、マサキもシオリも、ましてや会場全体が驚いた。
「試作機だからぶっ壊すなよ! 左スロットからSPを選べ!」
「う、うん!」
言われるがまま、マサキは左側のコンソールを捻り、現れたスロットの中から「SP」を選ぶ。
赤く煌々と輝く瞳が一層強く光り、GNドライヴからの粒子放出量が増大する。そのままアテナを拐った物体は、アテナのGNドライヴにガイドレーザーを照射しながら位置合わせを完了させた。
「じ、GNアーマー、ドッキング!」
唐突なことに慌てたマサキは、コンソールを強く押し込む。するとガイドレーザーに合わせ、試作型GNアーマーが展開し、GNドライヴに接続され、幾何学な線が走る。そのまま両肩、両脚部にGNアーマーから分割した装甲が合体し、自動的にトランザムが発動した。
同時に目の前の画面にある文字列がマサキの目に映る。
「ツインドライヴ……?」
その文字列の下には同調率なのか、パーセント表示で数字が荒ぶっている。現在は七十パーセント前後だが、やや数字が低下してきている。
「試作……あ、そっか」
低下していく理由に納得したマサキは、コンソールを握り直してから短時間で決めねばと決意する。
わざとGNソードⅢを投げ捨て、バックパックから巨大な剣を二本とも引き抜く。
目視でそれを傍観していたシオリは、少し悲しく思った。これは
「否定……ジンナイ、私は勝たせてもらいます。やはりただでは負けられません。一人の――少女としてッ!!」
「てぇりゃぁぁぁぁぁッ!」
ミーティアのビームソードとアテナの巨大な剣がぶつかる。凄まじい光を伴って間に電流を生み、それはまるで一つの瞬く星のようであった。
ミーティアの勢いは衰えを見せないが、アテナの方はそうでもなかった。既にマサキの画面では、同調率が三十パーセントを切った事を視覚で知らせていた。
「私が……勝つ! 勝って貴方に証明する! 私が出来損ないじゃないってことを!!」
トランザムの限界が近いアテナで、マサキは左スロットから更にもう一つの「SP」を選ぶ。トランザム時によって可能となる本機最大級の攻撃。
「ライザァァァソォォォォォォドッ!!」
「ミーティアがっ!?」
急激に上昇した出力と同時に、巨大な剣から粒子のソードが形成される。それは一瞬でミーティアの収束火線砲の砲身をぶった斬った挙げ句、同時にストライクリコリスの腕が犠牲となった。
直ぐ様離脱を試みるシオリだが、ライザーソードの方が届くのが早く、既に手遅れだということに気が付いてしまった。
《BATTLE END》
沈黙の会場へと響き渡った機械音声に続いて、ホログラムが解除される。その時、二人はほぼ同時に倒れ、マサキはユウキが、シオリはメイが支える。互いに明確な疲れが見えており、教員の判断で保健室へと運ばれていった。
代わりにユウキがミーティアを装備したストライクリコリスと、試作型GNアーマーを纏ったアテナを抱える。どちらともさっきのバトルが嘘かのように無傷で、変化はなかった。
「複雑な気分だよ……全く」
誰にも聞かれないように、ユウキは小声で呟いた。そのままバトルシステムから離れ、次の対戦をするミナツを見た。
「ユー君がそんな顔をしないの。……あと一回勝てば、私達の勝ちだから。もう居場所は無くしたくないでしょ?」
「あっさりと見抜かないでくださいよ。……相手は、キララ先輩でも手こずったジンナイ先輩です。正直、アレを持ってこなきゃ勝てるかどうか……」
「私が負けても、ツクモちゃんが頑張ってくれるわ」
ユウキの心配なんて何処吹く風。ミナツはいつも通りクスクスと笑いながらバトルシステムの近くに寄った。
『先程の戦いは驚きの展開でしたが、手元のルールには何の問題もなかったのでこのまま続行しましょう!』
『まあ、あくまでサドンデスに至った際だけですからね、公式ルール。お次は生徒会長のジンナイ選手対アイドルのミナツ選手のバトル。お二人ともバトルシステムの前に……ってもう移動してますね』
ハイテンションなままのニイミと、反対に打って変わって呆れた感じのウミの二人が再び進行に戻る。
次の対戦はウミの言葉の通り、ジンナイ対ミナツ。
「改めて、試させてもらうよミナツ君」
「それは望むところね、ジンナイ会長?」
ジンナイは能面のような笑顔でそう告げるのに対し、ミナツはクスクスと微笑む顔から鋭く射抜くように見つめた。
最早両者に割って入る隙間など、無いに等しかった。
《BATTLE START》
「不知火陣内、タソガレで出撃する」
「宇多野深夏、重装型ガンダム! 出るわ!」
金と黒で染まったアカツキと、ブルーデスティニー三号機を彷彿とさせる陸戦型ガンダムが、ア・バオア・クー要塞の
今回はやや不完全燃焼気味になってしまいました……。期末テストが近いからかなぁ。
では今回はシオリの使うストライクリコリスとミーティアについてです。
ストライクリコリス
武装:ハンドビームライフル×2、ラケルタビームサーベル×2、ヴィゾフニル3ビームブレイド×2、ビームランチャー×2、アンカーナイフ×5
特殊装備:ブランストライカー
「HGCE ストライクノワール」をベースに、ある人物が知織の為だけに作り上げた改造機。彼から見た彼女のイメージに合わせて、純白に染められている機体。
武装は取り回しに優れるハンドビームライフルと両腰にラケルタビームサーベルを、ストライカーには大剣のヴィゾフニル3ビームブレイドと連射が得意なビームランチャー、全身にアンカーナイフを装備する。
機体名の「リコリス」とは、ヒガンバナ属の花全般を指すがこの機体の場合は「彼岸花」を意味する。ストライカーの「ブラン」はフランス語で「白(Blanc)」と言う意味。
その穢れ無き純白と名前には、ある人物の密かな想いが込められているのだとか。白い彼岸花の花言葉とは――。
ミーティア
武装:93.7cm高エネルギー収束火線砲×2、60cmエリナケウス 対艦ミサイル発射管×77、120cm高エネルギー収束火線砲×2、ビームソード×4
リコリス用に調整された、純白のMS埋め込み式戦術強襲機。圧倒的火力とスピードで補う戦闘力は、世界大会でしか使えない程、レギュレーション判定ギリギリである。
劇中同様の活躍を見せられるが、プラフスキー粒子を大幅に食う(プラフスキー粒子を内蔵したコンデンサがあれば別)為に、粒子管理は徹底的にやらなければならない。
知織はそれをものにした上、真幸を追い詰めるまでするが、最終的にライザーソードによって敗北する。
次回はもう少し早めに上げられたらな、と思います。ではまた次回、ノシ