聖蘭学園高等科生徒会。それは聖蘭学園全体(高等科、中等科、初等科全て含む)の中でも、理事に次ぐ最高権力地位にある。
ジンナイが模型部に告げた催しを実施できたのは、その権力によるものだったりする。
そんな生徒会の巣窟、生徒会室に一人の少女が入ってくる。中には既にジンナイが会長席へと規則正しく座っていた。
「HEY! ジンナーイ、暇ですがやって来マシタヨー!」
入ってきたのは英語混じりな口調をした陽気な副会長、シャーロットだった。
そんなシャーロットの扱いも慣れているジンナイは、特に反応することなく本から目を上げた。
「珍しく君が一番乗り、か。……まあ流石にあの二人も乗り気ではないだろうと踏んではいたが、ここまでとはね」
「No problemデース! ワタシがちゃんと伝えてきマシタ!」
燥ぐように伝えるシャーロットは、実に楽しそうにしていたのだが、当のジンナイは顔に手を当てていた。シャーロットが自ら伝えてきたと言うことは、余程やる気が無いのだろうと。
「仕方がないな。シャロ、君はシオリ君の下へ行って連れてきてくれ。僕はメイ君を連れてくる」
「Roger!」
ジンナイに言われ、綺麗に敬礼したシャーロットは早速連れ出しに行ってくれた。ジンナイもまた、面倒な役員を連れ出す為に、一肌脱ぐことにするのだった。
目的のメイは案外早く見つかった。いつもの場所に居たからである。
食堂のテラスにて、優雅に紅茶を嗜む姿は目立つものの、その周りだけ人が居ない。当然、そうなれば見付けやすくなるジンナイは、寧ろ好都合かと思う自分を恥じていた。
「メイ君、ここに居たのかい?」
「あら、わたくしはずっとここに居りましてよ」
やや刺のある声音に、ジンナイはふと息を吐く。
一見、プラチナブロンドと見紛う色素の薄い茶髪は腰辺りまで伸ばされ、横上の一部をハーフアップにして結っている。袖や裾から覗く白く冷たそうな肌をした肢体は細く、年齢の割りには起伏に富んだ体、黒を基調としたゴスロリ調の制服、更に顔から覗く臙脂色の鋭い目と、何処かしら近寄りがたい雰囲気を醸している彼女はまさに「お嬢様」だ。
そんなお嬢様こそが、生徒会書記こと「
「もしかしてあの下らない催しに参加しろ、などと仰いませんわよね?」
「もしかしなくともそうして欲しいのだが……」
「却下ですわ」
さも当然と言った態度で返すメイは、ジンナイに顔を向けることすらせず、優雅にナプキンで口許を拭いていた。
「何故、わたくしがあんな子供の遊びに付き合わなければなりませんの? 不愉快ですわ」
「君にも参加してもらう必要がある」
「強要しても得策ではなくてよ?」
一向に話が進まないジンナイは、メイの性格に少々苛つきを覚えていた。だが、こちらにも策はあった。
「貴方、わたくしのお父様の支援があるから、今の地位に居ることをお忘れ?」
「勿論、君のお父様には感謝してもしきれない。けれど今回ばかりは話が別だ。模型部には全国に行って貰わなければならない」
ジンナイはメイの対面に座りながら話を続ける。
「それに
核心を突いたかのように話しすジンナイは、これでどうだと様子を見る。案の定、メイの顔には衝撃が走っており、石像のように固まっている。
「では僕はこれで失礼するよ。君は来てくれないみたいだし……ユウキ君のお相手はシオリ君に頼むとするよ」
ジンナイは自分の勝ちを確信しながら立ち上がる。話を振っておいてそのまま立ち去るのは、相手を釣るには効果的だ。……特に素直なツンデレには。
「待ちなさい!!」
メイの一言でジンナイはピクリと止まる。チラリとその顔を窺うと、真剣そのものの顔でメイがニコリと笑っていた。
「分かりましたわ。乗り気ではありませんが、ユウキ様の為とあらば、このわたくしも手伝ってあげてもよろしくてよ?」
「相変わらず君は分かりやすくて助かるよ」
「フン、ユウキ様の為だと言うことを、よーくその回りくどい頭の念頭に置いて考えることですわ」
「肝に銘じておこう」
こうしてメイを釣ることができたジンナイは、早速生徒会室に向かう。
もう既にシャーロットもシオリも居るだろうと踏んでいたジンナイは、この後自分の思惑が大いに外れていることに絶望するのだが、それは後のお話。
■
時間を巻き戻して数分前、シャーロットはジンナイに言われた通り、シオリを連れてこようと探していた。
しかしシオリが居そうな図書館や屋上には誰も居なかった。
「おかしいデスネー。シオリはこう言った場所を好むと、本人が言っていた筈デース」
シャーロットは、自分の纏うイギリス国旗柄のジャージをパタパタと仰ぎながら、シオリが何処に居るのかと悩みに悩んでいた。
そんな時、向こう側から一人の女子生徒が歩いて来るのをシャーロットは確認する。一目で分かる小柄な体躯に黒髪と翡翠色の瞳、そして白縁眼鏡。マサキである。
「HEY! マーサキー!」
「あ、シャロ先輩」
見付けては真ん前から突進するかの如く、シャーロットはマサキへと抱き付いてみせる。そしてマサキの胸に顔を擦り付けながら、シャーロットは今日の愚痴を溢していた。
「今日も屋上行こうとしたんデスガ、鬼畜眼鏡が五月蝿くて行けませんデシタ。今のワタシはPoutデース!」
「燥ぎながら言われても説得力皆無ですよ、シャロ先輩」
マサキの言う通り、笑顔でそんなことを言っても皆無である。しかしシャーロットがそれだけで表情を変えることはない。
マサキから離れると、シャーロットはそう言えばと本来の目的を思い出し、眼下のマサキに対して尋ねる。
「そう言えばマサキは、シオリを見ませんデシタカー?」
「誰ですか、シオリって」
「Simpleに言うなら、Terminatorネー!」
「それ人じゃないですよね?!」
全く話の噛み合わないシャーロットに、マサキはだんだん疲れを感じてきていた。そろそろ部室へ戻りたいのもあって、マサキは強行手段に出る。
「シャロ先輩、私急がなきゃならないので! ……では!」
「あ~! マサキ、待ってくだサーイ!」
ダッシュしてその場を立ち去ったマサキは、シャーロットを見放して駆け抜けていった。申し訳なさが混じりながら。
こうしてポツンと残ったシャーロットは、どうしたものかとその場に女の子座りで座り込む。
「シオリ~! 何処デスカ~!」
そして最終的に盛大に泣き出したシャーロット。周りを歩く生徒達も知らぬ存ぜぬであった。
そんな時だろうか。ふと泣くシャーロットに声掛ける存在がいた。
「
淡々とした機械みたいな口調に、シャーロットは顔を明るくして振り向いた。
「シオリ、そこに居たんデスネ!」
きゃいきゃい燥ぐシャーロットはお構い無しにシオリの腰へと抱き付く。シオリも特に顔色を変えることなく、抱き付いたシャーロットを見下ろして尋ねた。
「質疑。そこで何をしていたのですか?」
「シオリを探していたのデース」
まるで人懐っこい子犬のように、シオリに頬擦りするシャーロットはそう答える。その受け答えに、シオリは大体の事情を察した。
「理解。あの行事のお話ですね」
「Yes!」
ようやく離れたシャーロットはジャンプしながら立ち上がる。
「拒否。シャオは行きません。シャオはガンプラバトルが好きですが、私情を持ち込まれるのは困ります」
「Ah……気持ちは分かりマスガ、ワタシはジンナイに賛成デース。それにあそこにはユウキだっていマース!」
「っ!」
断固として拒むシオリはシャーロットの不意打ちに、初めて感情を露にする。
目を見開いたシオリを見て、シャーロットは釣れたことを嬉しがるように笑う。
「ジンナイはー♪ シオリにユウキを任せてくれる筈デース!」
「了解。シャオも行きます」
「Oh! Now you're talking!」
掌を返すようなシオリの言葉を聞いたシャーロットは早速、そのままシオリの手を取り生徒会室へと駆け出した。
■
役員が全て揃った生徒会室にて、ジンナイは満を持してその目を開いた。
「さて、
「議題……なんて
ジンナイの台詞すらあっさり、と言うよりバッサリと切り捨てたメイは室内の筈なのに日傘を弄びながらそう言った。
役員達のやる気など無いに等しいので覚悟していたジンナイではあったが、それでも話は続けた。
「そうだね。今度のガンプラバトルはいわゆる勝ち抜き方式だ。シングルバトルを三回勝ち抜けばそのチームの勝利。それでゲームセットだ」
「疑問。何故わざわざこのようなことを?」
シオリの言葉に、ジンナイは眼鏡を戻しつつ間を置いて答えた。
「――簡単な話だよ。模型部に全国へ行くことができるかどうか、それを試すのさ」
「要するにワタシ達で小手調べってわけデース」
「……了解。納得しました」
目を瞑って俯いたシオリは納得したように座り直す。ジンナイの目的が本当にそうならば、とシオリは考えた。
シオリはジンナイの思惑に気付き、席を立つ。
「おや? 会議はまだ途中――」
「笑止。女の子のお手洗いに口出ししないでください、すかぽんたん」
「……なら許可しよう」
相変わらず一癖ある自由な役員に、会長と言う地位にいるジンナイは深く深く溜め息を吐いた。
開催日まで後六日間。それまでに自分も用意しなくてはと考えたジンナイは、口では議題の話をしつつ、頭ではガンプラの構想を練っていたのだった。
生徒会メンバーの顔出しの為に時間をかけてしまった。そして時間かけた割りに雑になってしまった気ガガガ
どうもカミツです。皆さん夏イベはどうですか、私は既に諦めかけてます。
ようやくリメイク前で終わってしまった場面に近付いて参りましたよ……(ナガカッタゼ
次回はまた模型部視点に戻って、オーバード・ウェポンに匹敵する物を掘り出してきます。
ではまた、ノシ