翌日の模型部部室にて、最近にしては珍しく部員全員が集まっていた。
「よっし、ファイヤーアームズが完成したぞ! 後はシュヴァルツェアブリッツだけだ!」
そんな中でも、女子そっちのけで妹達のガンプラをせっせと直すユウキの姿は、ある意味シュールであった。
「ユウキさん、お茶入りましたよ」
「おう」
カグヤから湯呑みを手渡されて、ユウキは一息吐く。その二人の雰囲気はまさに夫婦そのものなのだが……世の中それを妬む存在も居るものだ。ここでは二人が該当していた。
「……何か奥さんっぽいし……羨ましい……」
「ぐっ、カグヤは前々から分かっていたことではあるが……やはり敵となるか」
ティーカップに入ったハーブティーを啜りながら睨むアイカと、自分で作ったクッキーを齧りつつも悩むヤヤの二人だ。
そんな二人の空気なんて何処へやら、残る三人は普通にティータイムを楽しんでいた。
「……にしても、最近は生徒会が静かですよねー」
マサキがマカロンを口に放り込みながらそんなことを言う。
「あー、何かしら言ってこないだけマシよ」
「そうね~、何事も平和が一番よ」
そんなマサキの言葉に対して、ツクモは気だるげに、ミナツはいつも通りニコニコと笑いながらそう言っていた。
かと言って六月になれば、全国も直ぐだ。そう悠長に事を構えてられない現状なのだが……。
「はぁー、やっぱこういう時間が一番ねぇー」
美少女らしからぬ様相で、机に突っ伏す姿に見慣れたマサキは、ツクモの口許にチョコレートのマカロンを運ぶと、その口に放り込んだ。
すると笑みを絶やさずにミナツが呟く。
「後輩が先輩に餌付けしてる構図ね」
「餌付けなんてしてませんよ!?」
ミナツの言葉にショックしたマサキは、若干だが落ち込む。
そんなマサキを見て、ミナツは上手く行ったと言わんばかりに涙目のマサキを抱き締める。全く扱いやすい後輩だな、と内心思いつつ。
「大丈夫よマサキちゃん。マサキちゃんは可愛いから、そんなことをしてもツクモちゃんは許してくれるわ」
「ううぅ……」
そんな姿を見てしまったツクモは、どう反応すべきか悩むと、取り敢えずミナツにチョップする。
「痛い!」
「マサキちゃん抱きたいからって、マサキちゃんで遊ばないの! 私だって遊びたいんだから!」
「「ええー!?」」
ツクモの衝撃的な発言に、ミナツとマサキの二人は驚く。やはり、涙目の女の子を見ると弄りたくなるのは、男女共通なんだね。
今日も今日とて平和な模型部だが、それは唐突にやって来るものである。
■
ティータイムも程々に、模型部は各自フリーに振る舞っていた。
すると、部室の戸が四回ほど叩かれる。今度の番組用にシャアザク(THE ORIGIN版)を作っていたツクモは、ニッパーでゲートを切り落と作業を止めて、素っ気なく返す。
「どうぞー」
「失礼するよ」
入ってきたのは、規則正しく制服を着こなした男子生徒だった。その声に、ツクモは思わずピクリと固まった。
「生徒会長さん……?」
マサキの言葉に、全員が戸の方を見る。そこには眼鏡を掛けたジンナイが立っていた。
「そんなに斜に構えなくても良いだろう。今日は君達にちょっとした
笑顔で語るジンナイの台詞に、全員が首を傾げた。
『催し?』
全員の反応に、満足したかのように頷くジンナイは説明を始めた。
「今年も全国大会が行われる上に、今年は模型部が復活した。……そうとなれば、今や一大ブームを巻き起こしているガンプラバトルは、他の部にも人気だ」
得意気に話すジンナイを見ながら、ツクモは不服そうに同調する。
「確かに、アンタの言う通りガンプラバトルは一大ブームよ。何処行ってもガンプラに乗っかる会社は多いわ。歌手やアイドルだって例外じゃない。……んで? 本題は何かしら」
「その通りだ。だから僕は皆を楽しませたい。……特に部活動に力を注ぐ我が校にとって、モチベーションを上げる良い機会でもある。今年の全国大会も、各部が優勝して欲しいからね」
相変わらず回りくどい言い方に、ツクモはストレスがマッハで上昇する。それを小声で抑えるのが精一杯なミナツは、ユウキの方を見る。
流石のユウキも呆れを通り越して、疲れを見せ、仕方ないかとジンナイに問い掛ける。
「よーするにだ、俺らでガンプラバトルしろってことだろ? 美少女も多いしな。俺らは見せモンじゃねーんですよ」
「もう少し上級生に対する敬意を……いや、君に言っても無駄か。――ただし、何も君達同士で戦えとは言ってない。
「なっ!?」
その言葉に、ツクモは耳を疑いながらも立ち上がる。ジンナイの口から、そんな言葉を聞くとは思わなかったからだ。
ミナツも雲行きが怪しそうな雰囲気に、いつもの笑顔は何処へやら、心配そうな不安げな顔になっていた。
「それでは、日程は一週間後の放課後だ。場所は第三アリーナで行う。校長や水野先生には話は通してあるし、職員や生徒達にと後日発表するつもりだから心配はいらないよ。……後は君達の健闘を祈るよ」
ジンナイはそう微笑みかけながら言うと、くるりと踵を返して、ご丁寧に戸を閉めてから去っていった。
ジンナイが去った後の模型部は、先程の明るい雰囲気から一変して、暗い雰囲気が立ち込めていた。
ムードメーカーのアイカや、それに負けず劣らずに明るいヤヤでさえ、他の皆の様子に気圧されて何も言えずにいた。
「ツクモ先輩、生徒会長さんって強いんですか?」
マサキの言葉にツクモは首を横に振る。しかし、弱い、と言うことではなかった。
「アイツはガンプラバトルを基本的にしないのよ。いえ、する必要がないと言うか、アイツが出ることは滅多に無いと言うか」
ツクモは顔をやや青くしながらそう言った。ミナツはそれを見て、マサキの目を見てアイコンタクトする。
(これ以上、この話題は危険よ)
(どうしてですか?)
(どうしてでも、よ)
納得がいかないまま、マサキはその話題を止める。ふと思ったこただが、マサキは生徒会長以外の生徒会役員を見たことがなかった。
「そう言えば生徒会役員って、他に誰が居るんですか?」
口に出た素朴なマサキの質問に、ヤヤやアイカ、カグヤもそう言えばと気付く。
それにはユウキが回答してくれた。
「あぁ、確かに表には出てこないからな、アイツら。……生徒会役員は全員で四人だ。会長、副会長、書記、会計な」
「一般的だね」
「メンバーは、会長がさっきの不知火陣内先輩、副会長はシャーロット・エイガー先輩、書記は
ジンナイの名はともかく、他の三人はさっぱり聞いたことがなかった。……精々、シャーロットと言う名前は微妙に覚えていたが。
「もしかして、生徒会も会長さん以外女性?」
「そうなるな。シャーロット先輩はトラブルメーカーだし、メイはヤヤも知ってるだろうし、シオリは御三家の娘だからな」
ツクモとミナツ以外の全員がクエスチョンマークしか浮かばないのを見て、ユウキは溜め息を吐きながらも「まぁ見りゃ分かる」と言った。
「シャーロット先輩は二年生の階を駆け回ってるし、メイは一番目立つだろうから、普通に見付けられると思うぞ。シオリは影薄いけどな! はっはっは!」
ケラケラと笑い出すユウキを見た皆は、全員一致で同じことを考えたという。
((((((なんでそんなに詳しいの!?))))))
この謎は後々解けるのだが、それはまた別のお話。