ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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EPISODE-35:転入生と、新入部員 後編

「はぁー、今日一日は災難な目にあったぜ……」

 

 

 

 溜め息混じりに模型部のドアを開けると、やっぱり誰もいなかった。

 最寄りの椅子に荷物を置いてから、ふとバトルシステムの設定を変更しようと思い付く。

 

「そういや、アイツら(マサキとヤヤ)の為に設定に変えるとか考えてたんだっけ。よーし、そうとなれば設定弄ろう」

 

 俺は手慣れた手付きでバトルシステム側面のハッチを開け、その中にあるバトルシステムの設定が書き込まれたパネルを起動する。

 バトルシステムの設定は、簡単に言っちまえば多岐に渡る。フィールドの限定や、プラフスキー粒子に制限を加えたり、時間設定、使用武器の限定もできる。まだまだ他にもあるけど、それはまた別の機会だな。

 俺はパネルを弄りながら、フィールド設定とプラフスキー粒子使用制限を掛ける。少し弄るだけでも結構辛いことになるから、これを作った張本人は相当なドSだな。

 

「これでよし、っと」

 

 パネルの電源を切り、ハッチを閉めた。俺はその場で立ち上がりながら一気に伸びをする。さーて、今日は何を作り……ってそういや、ファイヤーアームズとシュヴァルツェアブリッツも直さなきゃなんねぇじゃん。

 

「だぁぁぁ! 帰ってきてからやることが一気に増えただとぉ!?」

 

 俺が独りでに叫ぶと、丁度なのかカグヤ達が入ってきた。楽しく話しながら入ってくるもので、俺が当初思っていた不安はどこへやらだ。

 それよりもファイヤーアームズから直すか。どうせなら飛行ユニットも作ろう。

 すると別の話題を話していた二人は、部室に着いたからか急にガンプラの話に切り替える。

 

「そうだ、カグヤちゃんはガンプラどうする?」

「が、がんぷら……ですか?」

 

 まぁ、一度も触れたことのないものを言われても困るだろうしな。だがカグヤの戦闘スタイルは大体確定してるから、決まるのは時間の問題だ。

 俺はお節介とばかりに、背中を向けつつもカグヤ達の話に割り込んだ。

 

「カグヤなら、やっぱりアストレイかその辺りだろう。この前のバルバトスだと、流石に耐久度的にキツいものがあったしな」

 

 バルバトスの可動範囲は並大抵のガンプラを凌駕している。だが、さっきも言った通り耐久度は低い。装甲の面積も狭く、骨格が剥き出しなこともある。劇中のような動きを再現するには()()を扱えなきゃならないしな。どちらかと言えば上級者向けだ。

 だがアストレイはその分、適度な可動範囲、分かりやすい運用方法も相まって初心者には扱いやすいと言える機体だ。それにカグヤは、抜刀術を扱うだけあって刀が必要になる。

 

「それに、ビーム兵器を使えると言う利点もある」

 

 ビーム兵器が存在しないというオルフェンズの世界では、事実上の実弾兵器のみとなる。ビームで焼けば良いという今までを否定したこの世界は、極端なまで賛否両論に別れてしまうんだ。

 勿論、ビームを使える利点があるのは大きい。だから俺はそちらをお勧めするが、人によっては、実弾という意外性だけを突き詰めたものでも良いわけだ。

 

「まぁ、カグヤが好む機体を選べ」

「は、はい!」

 

 そう返事しては、荷物を置いたマサキとヤヤに連れられ、カグヤは倉庫へと向かった。……さ、てと。俺はファイヤーアームズを直しますかねぇ。後はカグヤの好きなようにすれば良いさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 模型部倉庫

 

「わぁぁ、こんなに箱が一杯……」

「模型には困らないから、好きに持っていってね」

 

 カグヤ、マサキ、ヤヤの順で倉庫へと入る。いつ見ても圧巻だなと思える倉庫は、本当に大量のガンプラが置いてある。それだけじゃなく、改造に使えそうなパーツも置いてあって実に豊富だ。

 

「ユウキさんは、アストレイかバルバトスって言ってましたけど……」

「何もそこに拘らなくても良いんだよ。自分の感性に従えば――」

「これ、何ですか?」

 

 マサキが説明している最中、最早聞く気もなくカグヤがあるガンプラの箱を持ち上げる。パッケージにはこれまた特徴的なガンダムが描かれていた。随所に散らばる三角形の意匠に三本同時持ちのビームサーベル、トリコロールカラーと個性溢れるガンダムだ。その名も――、

 

「ビギニング……ガンダム……」

 

 カグヤは箱を持ちながらそう呟く。マサキとヤヤも気になってか、一緒に箱を見るもそのガンダムには見覚えがない。ユウキの持つ「ガンダム辞典」なるものにも乗っていない機体だった。

 

「なにこれ?」

「ユウキの辞典にも載っておらんかったぞ、こんな機体」

 

 マサキは「これにするの?」と尋ねるような視線でカグヤを見ると、カグヤはその箱を深く抱きながら頷いた。

 

「カグヤ、これにします。ユウキさんも好きな機体を選べって、言ってくれましたから」

「そっか。それじゃあ、部室に戻ろう!」

 

 倉庫の電気を消して、鍵を閉める。そのまま部室へと向かうが、カグヤは何故か緊張した面持ちで歩いていた。

 

「どうしたんじゃ、何を緊張しておる」

「いえ、こうも殿方が多いと、緊張するなって思いまして……」

「なんじゃお主、男に耐性がないのか」

「お恥ずかしながら」

 

 照れるように微笑むカグヤに呆れるヤヤは、内心で昔の自分もそうだったと思い耽っていた。主にユウキの所為なのだが。

(あんな出会い方なんてしなければ……)

 今更後悔したところで遅いのは、至極当然なことなので諦める。

 

 

 

 

 模型部部室

 

「戻ったよー」

「おう、戻ってきたか」

 

 私達が部室へ入ると、ユー君が手にガンプラを持ちながら出迎える。その手に握られていたのは、かつて私が戦った機体、ファイヤーアームズだった。見たところ色々調整し直しているみたい。

 するとユー君は、ファイヤーアームズの胴体とヤスリを片手に、カグヤちゃんがどんなガンプラを持ってきたのかと尋ねた。

 

「こ、これです!」

「……ビギニングか、これまた初心者には難しいものを……」

 

 またしてもぶつぶつ呟くユー君は、溜め息まで吐いていた。そこまで気にすることなのかなぁ。

 

「何で難しいのですか?」

「……簡単だよ。多少不出来だとしても性能は高いんだが、その分ちゃんと仕上げるなら初心者には不向きなんだよ。まあカグヤは手先が器用だからな、心配すんな」

 

 そう言われて、カグヤちゃんがユー君に席へと座らされる。目の前に持ってきたガンプラの箱を開けさせて、中身を確認する。

 

「初めて見ましたが、こんな風になってるのですね」

「それはランナーだ。そこに収まってるのがパーツだな」

 

 物珍しそうに様々な角度で見るカグヤちゃんを見てると、私やヤヤちゃんが初めてガンプラに触った時のことを思い出す。

(私はツクモ先輩に教わったんだっけ。……ふふっ、懐かしいなぁ)

 ふと過去を思い返しながらも、私はGPベースとクロスアストレアを取り出した。

 クロスアストレアに関するGPベースの設定は、まだ調整途中だから、このバトルはその為のデータ集めも兼ねている。

 相手はヤヤちゃんがしてくれるみたいで、反対側にヤヤちゃんが立つ。

 

「ヤヤちゃん、本当に良いの?」

「武士に二言はない。……行くぞ!」

 

《BATTLE START》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほわー……パーツが多すぎて理解が追い付けません!」

「落ち着けカグヤ! 取り敢えず落ち着いて深呼吸しろ、説明書の通りにパーツを組み合わせていくんだ!」

「すー、はー、すー、はー」

 

 説明書と睨めっこしながらパーツを組み上げていく姿は、最早こっちが緊張するレベルだった。

 初めてのこと故か、はたまた手先が震えてるからか。どちらにせよ見ていて心臓に悪い。

 ポリキャップの番号は間違える、パーツを左右逆でくっ付けようとする、慎重すぎてパーツが行方不明になりかける……エトセトラ、エトセトラ。初心者にしてはあり得ないぐらいの失敗の連続だ。試練と言い換えても良い。

 ここまで怒らず見てこれた俺に、ある意味感服だ。普段だったら投げ出してる。

 

「ごめんなさい、ユウキさん……私が不器用なばかりに、ご迷惑ばかりお掛けして……」

 今にも泣き出しそうな声で謝るカグヤに、俺はそっと話し掛ける。

「何で謝る? 元々女子向けじゃあないし、手先が器用だからって左右対称のパーツを組み間違えるなんて、初心者にもよくあることだ。だからカグヤが気にすることはない。寧ろ女子はガンプラに興味を示さないのが普通の反応だ」

 

 そうだ、模型部に女子が居る時点でおかしい。美少女ばかり集まる時点で色々おかしい。っていうか何で俺以外女子しか居ないんだ?

 カグヤのフォローに回ってる内に、俺の中で尽きぬ疑問が渦巻き始めた。

 だが俺はそれを振り払ってカグヤに言う。

 

「取り敢えず、続きしようぜ」

「はい!」

 

 考えるのを止めた時点で俺の負けなのだが、今はそんなことはどうでも良い、筈。

 

 

 

 

 

 やがてビギニングを作り終えると、いつの間にか三時間も経過していた。

 普通に作るよりは早めに終われたか、と疲れた頭でそう思いつつ、隣のカグヤを見ると意外にも寝ていた。

 カグヤもきっと疲れてたんだろう。引っ越してきて間もない上に、いきなり慣れない学校で過ごしたんだ。気丈だと思う反面、大したもんだよカグヤは。

 

「………こいつの寝顔なんて見たことなかったっけな」

 

 すーすーと、見た目に違わず可愛らしい寝息を立てるカグヤの頭を撫でてやる。

 カグヤの目の前に立つ、カグヤが初めて作ったビギニングガンダムは、俺の読み通り綺麗な仕上がりに出来上がっていた。部分塗装と墨入れしただけだが、ガンプラとしての出来は初めてにしては上出来だ。

 

「さて! もう日暮れだ。さっさと帰らねえと、生徒会が五月蝿いしな」

 

 俺はビギニングを専用のケースに入れつつ、鞄の中へと仕舞い込む。そのまま、寝入ってるカグヤをそっと背負い込んでは、名残惜しい部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、生徒会室に一人の男子生徒と女子生徒が残っていた。

 片方の少年は日本人らしい、黒髪のショートカットを夕陽に照らしている。もう片方の少女は、少年と打って変わって金髪と言う、外人らしい髪色に爛々と光る青色の瞳を少年に向けていた。

 

「もうそろそろ全国の時期か……」

 

 少年は、窓の外から見える朱色の太陽を見つめながら、そう呟いた。

 少女がそれに答えるかのように、陽気に言った。

 

「ええ! 梅雨のSeasonは、全国へのTicketを手に入れる絶好のChance! ですからネー!」

 

 太陽にも劣らない眩しい笑顔を見せる少女は、特徴的な八重歯を見せながら小悪魔チックに笑う。

 少年も振り向きながら、そんな少女の笑顔を見て呆れ半分に笑うしかなかった。

 

「さて、彼女達が全国へ行って大丈夫か……我々で試しましょうか」

「Really? 私のガンプラ、まだ調整中デスヨ?」

「問題ない、期限は一週間授けるからね。それに他の二人も参加してもらう」

 

 それを聞いた少女は、少年の闘志に燃えた瞳を見て、本当に本気なのだと覚る。

 

「君には、ツクモの相手をしてもらう」

「No problem! 今度こそ、Scarlet queenに実力で勝ってみせマース!」

「シャロ、余り燥ぎ過ぎるんじゃないぞ」

 

 少年の注意を受けて尚、シャロと呼ばれた少女――シャーロット・エイガーはその場をくるくると舞う。

 

 

 

 しかし注意をした少年、不知火陣内もまた、口許の緩みを止められなかった。

 

 

 

 そう、これから始まることに――。




久々に投稿できたッ!!

どうも、毎日学校へ行く度に、進路が決まっていく友人達を見て、毎日胃がキリキリする思いのカミツですw



最近、見ているとビルドファイターズ系の二次小説が増えてきましたね。トライの続編(短編?)がやるからでしょうか。良い傾向です(イイゾ!モットヤry

それぞれの主人公が、様々な自分だけのガンプラを作って、戦って、目的に向かって邁進する。そんな様々な物語を見ていて、改めて「自分が描きたいガンプラバトルって何だろう?」と悩まされましたね。

今後もこの調子でやっていきますが、どうぞ今後ともよろしくお願いします!
ではまた次回、ノシ

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