ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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第3章:凍結の紅き姫
EPISODE-34:転入生と、新入部員 前編


 五月に入って早くも一週間。入学してからの一ヶ月間が波瀾万丈だったこともあってか、「ようやく一ヶ月」だなんて思えてしまう程、長かった。

 しかしユー君曰く「来月には全国大会の地区予選が控えてる」そうなので、今月も何気に気の抜けない一ヶ月になるな、と心の底で思っていた。

 

 

 

 

 

 そんな今日もまた、疲れそうな一日になりそう。ユー君が直感的にそう告げてるから。ユー君の勘は何かと当たる。

 

「さっきから悪寒がしてならんのだが」

「ユー君、風邪?」

「馬鹿は風邪を惹かん。どうせ、いつもの悪い予兆じゃろう」

 

 冷静に言ったヤヤちゃんに、私は納得しつつユー君を見る。やっぱり震えたままで、悪寒どころの話じゃない気がするのは気の所為かな?

 すると予鈴が鳴って、ガヤガヤと騒がしかった教室が一気に静まり返る。

 予鈴が鳴り終えたと同時に、教室の戸からアンドリュー先生が登場する。いつもながらラフな格好で、本当に教師かと疑いたくなるのは私だけだろうか。

 

「さて諸君。早速、ショートホームルームを始めていきたいんだが……その前に皆に紹介したい生徒がいる。恐らく察してる奴は多いんじゃあないか?」

 

 アンドリュー先生の一言に皆が反応する。「また転校生かな」と思った人が多いみたいで、私もそう思った。

 生徒達の反応を見た先生は、特に勿体ぶらすことなく戸の外へ呼び掛ける。

 

「おーい、そろそろ入って良いぞ」

 

 先生の声に答えるように戸が再び開いて、そこには亜麻色の髪をした少女が立っていた。私とヤヤちゃんとユー君だけ、その少女を知っていた。何故ならその子は――、

 

 

 

「どうも皆様、初めまして。私、神椎輝夜と申します。せ、世間知らずな所もございますが、何卒仲良くしてくれたらと思います!」

 

 

 

 ペコリと九十度も深々とお辞儀をした少女、カグヤちゃんは、ユー君を見るなり今まで不安で仕方なさそうな顔をしていたのがパァと明るくなった。

 

「それじゃあ神椎は、芳堂の隣だな。芳堂、後で校内を案内してやれ」

 

 アンドリュー先生の言葉にクラス中が大ブーイングをするものの、当のユー君は真っ白な灰となっていた。……ユー君、そんなこともあるよ、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神の悪戯か、悪魔の罠か。SHL後の俺はまさに灰の像と化していた。主にお隣の幼馴染みさんの所為で。

 頭がどうにかなりそうだ。不意打ちだとかドッキリだとか、そんなチャチなモンじゃあ、断じてねえ。

 今まさに隣では、ヤヤとマサキが幼馴染みさんと話しているところだった。

 

「カグヤちゃん、本当に来てくれたんだね!」

「いつ此方へ来るかは知らなかったが、こうも唐突に来るとはな」

「お二人ともご無沙汰……と言う程、日は経っておりませんが、お元気そうで何よりです!」

 

 すっかり友達(仲良し)になってるし。何なんだ女子って、何で直ぐに仲良くなるんだ。流石は集団を作ることに関してはピカイチな女学生共だぜ。

 

 予鈴が鳴る手前、マサキがカグヤに校内の案内について説明していた。まぁ、大半が一般常識に則ったことだから、然程カグヤも困ることはないだろう。そして二人の視線が俺に向けられる。

 灰の像から元通りになった俺は、覚悟した。こうなったら仕方がない、カグヤを案内するしかない。

 

「んじゃあカグヤ、アンドリュー先生からのお達しなんでね。行くぞ」

「はい、ユウキさん!」

 

 嬉々として付いてきてくれるのは嬉しいが、余りここで周りに関係性を疑われると、後々取り返しのつかないことになりそうな予感がしてきた。そんなことはないだろうが、万が一ということもある。だが俺に打てる手は少ない。

 そう考えている内にも、教室の外へと一歩踏み出してしまう。こうして後戻りが出来なくなった。

 

「……まずはこの学園についての大まかな説明からだ、よく聞いとけよ」

「はい」

 小さく頷くカグヤを横目に、俺は説明を始める。

「この学園の校舎は、基本的に二つに別れている。今俺達が居る“学舎棟”と、大半の部活動が行われる“部室棟”だ。

 学舎棟はその名の通り、各学年の教室、職員室、生徒会室、理科室、調理室、音楽室――つまりは学舎(まなびや)としての機能を突き詰めた建物。反対に部室棟は、多種多様な部活動を行う為に、部室としての機能を突き詰めた建物になる」

「成る程……でも運動系の部室はどうなるんですか? 一緒にあるんですか?」

「いんや、運動部の部室は二ヶ所に別れててな。部室棟には女子がやる部活が、外に男子がやる部活がある。盗撮が殺到してるんで、監視カメラが設置されたけどな」

 

 クツクツと笑いながら余計な説明を交えつつも、まずは学舎棟の四階から順に説明していくことにした。

 

「ここが四階、三年生のクラスがあるエリアだ。余りここに来ようとする一・二年生はいないな。この階に音楽室がある」

「思った以上に静かですね……」

 

 授業中だからなんだろうが、確かに静かだ。先生の声一つすら聞こえない。……不気味だな。次だ。

 

「ここが三階、二年生のクラスがあるエリアだ。ツクモ先輩やミナツ先輩はこの階に居るな。この階に理科室がある。因みにマサキとアイはよくここへ来るぞ。お陰でマサキはマスコット扱いされてるがな」

「マサキさん、小柄で可愛らしいですからね……」

 

 羨ましそうな顔をしつつ俺の顔を見上げるもので、俺は敢えて何も言わんでおいた。さて、次だ。

 

「ここが二階、俺達一年生のクラスがあるエリアだ。この階に調理室がある。二・三年生と比べて騒がしいが、それが寧ろこの学校の温度を保ってられる点かねぇ」

「これからユウキさんと、並んでこの廊下を歩けるんですね!」

 

 その言葉に俺は無言でスルーしつつ、階段を降りる。カグヤは慌てて俺の後ろを追っかけた。残るは一階だ。

 

「学舎棟最後の一階。職員室、保健室、生徒会室、放送室、新聞部部室に写真部部室、模型部部室、パソコン室がある。……放課後にも言うつもりだが、部室は生徒会室の隣だから、騒げば生徒会長の怒声が飛んでくるぜ」

「生徒会室の隣だなんて、何でそんな所に部室を構えたんですか?」

「昔の模型部の先輩方に聞いてくれ」

 

 学舎棟はこんな所か。俺は独りでにそう頷いてから、渡り廊下の方へ歩き出す。因みに学舎棟と部室棟の間――中庭は百メートル程の間がある。普通の学校からしたら広すぎるんだが、何でこんなに開けているのかは学校の七不思議の一つらしい。

 

「渡り廊下、長いですね」

「因みに東側と西側の二ヶ所ある。どちらから通っても良いが……図書室へ行く場合はこっちの西側を通れよ」

「……どうしてですか?」

 少し間を置いて聞いたカグヤに、俺は面倒臭そうに答える。

「図書室への階段がこっち側にしか無いからだ」

 

 ますます疑問に思ったカグヤは、更に疑問符を増やす。

 初めてここに来る奴が疑問に思うのは、極々普通のことだ。「部室棟」と銘打ってあるにも関わらず、何故そんな所に図書室があるのか。それは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほえーー………」

 

 涼しくひんやりとしたここは、やや薄暗く感じる場所だった。最奥が見えず、ズラリと並ぶ三~四メートルの本棚はかなり壮観と言える。まさにカグヤの一言目がそれだ。

 

「圧倒的ですね」

「ここは……億単位の本が並ぶ、アメリカ議会図書館以上の広さを持つ“図書室”だ。別名「地下大書庫」。区内指定の避難場所でもあるな」

 

 図書室の規模を越えたこの場所は、中庭同様、生徒達がよく来る憩いの場でもある。億単位の中から、気になる本を探すのは案外体力が要ることを知る場でもあるな。……知りたくないけどな、そんなこと。

 

「さて、学校案内はこれまでだ。部室棟にある部活については説明しなくても良いら。……どうせ部活はウチに来るんだろ?」

「当然です、ユウキさんが居る部活じゃなきゃ、カグヤ、入ろうとすら思いませんから」

「真顔でそんなこと言えるお前が凄いわ」

 

 ある意味尊敬するよ。尊敬したくないけど。

 取り敢えず、夏以外には来たくない図書室からおさらばして、とっとと教室へ戻ろう。じゃなきゃ寒さで気が狂う。

 

 

 

 

 

 戻ってきた教室では、丁度休み時間となった為か、クラスの奴等が騒がしく話し合っていた。

 俺も席に戻っては次の授業の準備をして、マサキとヤヤの所へ行く。カグヤも俺が側に居なきゃ心配なのか、自然と付いてくる。

 

「ようマサキ、お前が校内を案内する苦労が分かった気がするぜ」

「そうじゃなきゃ首を締め上げてるところだったよ」

「末恐ろしいこと言うんじゃねぇよ!?」

 

 冷めた目で見上げるマサキに、何故か可愛げの「か」の字すら見当たらなかった。いつもの穏やかな目は何処行った。

 その隣でヤヤはカッカッと笑う。その笑い方にも慣れてきた俺は、不審な目でヤヤを見る。

 

「お前まで笑って何だよ」

「帰ってきたらユウキが何と言うか、考えておったのじゃよ。見事的中して、それが可笑しくて堪らんのじゃ」

「失礼だなお前ら!?」

 

 二人して何てこと考えてやがるんだ。後でバトルシステムの設定を変えといてやる。……とまぁ、下らないことを考えつつ、俺はカグヤが自身の腕にくっ付いてるのに気が付いた。

 

「ん、カグヤ? どうかしたか?」

「いえ、ユウキさんの腕ってとっても落ち着くなぁ……なんて思いまして。何時しかこの腕に抱かれると思うと、将来が楽しみです」

「お前から婚姻届を出されても絶対書かないから安心しろ」

「何てことを言うんですか!?」

 

 俺は結婚なんて考えてないからな、婚姻届なぞ書かん。……って言うか、「人生の墓場」なんて聞こえの悪いことはしたくない。

 当然、相当ショックを受けたカグヤはグスグスと嘆いていた。まぁ、可哀想だとは思うが、俺の意志はそうそう変わらんからな。諦めてほしい。

 そしてこちらも当然と言うか、クラス中にその話し声は響き渡っており、半分何かに罅が入るような音がし、半分白けた目をされるという事態に陥った。因みに目の前のマサキは白けて、ヤヤはショックを受けていた。……三者三様な反応だから何も言えないが、先程からマサキの視線が痛い。どうやったらその垂れ目で睨めるんだよ。

 

「ユー君のトーヘンボク」

「そこまでお堅くないだろ」

「鈍感」

「色々と敏感ではあるがな」

「ガンダムバカ」

「よく言われるぜ」

 

 ああ言われればこう言う、まさに鼬ごっこなことを続けてると、たった三分で息切れしたマサキが負けた。涙目で口許を袖で押さえながら見上げる姿は、中々に絵になるな。

 

「ぜー、はー、ぜー……ふっ!」

「うわらばっ!?」

 

 涙目で更に睨め付けてきたマサキは、最終手段でまさかの暴力に打って出る。

 勿論予備動作も無くアッパーカットを出されたら、流石の俺でも避けれない訳で。顎にクリーンヒットした俺は、数秒だけ宙に浮いてから後方へとかっ飛ばされた。

 

「勝者、マサキ!」

 

 するとヤヤがプロレスのレフェリーのように、マサキの腕を掴んで上へと挙げる。そしてそれを皮切りに、クラス全員(カグヤ除く)からのちょっかいを、終業まで出される羽目になったのだった。

 

 

 




ようやく模型部メンバーが揃い踏みできる……。
さて早速、久々にガンプラの紹介をば。今回はシンカことミナツの新機体と、エクストリーム/ナハトの新形です。


重装型ガンダム
武装:胸部バルカン砲、マルチランチャー、肩部360mmキャノン砲、100mmマシンガン、ビーム・ライフル、ロングレンジビームライフル改、180mmキャノン砲、ロケットバズーカ、ビームサーベル、ハンドグレネード×3、シールド
特殊装備:ウェポンラック、パラシュートパック
ミナツが過去に使っていた「HGUC 陸戦型ガンダム」を改造した重装タイプ。パーツ劣化の為、一部にレッドデスティニーと同じパーツに置き換えられている。
武装は原典機にも備わっていた胸部バルカン砲とマルチランチャー、100mmマシンガンにビーム・ライフル、180mmキャノン砲、ロケットバズーカ、シールドに加え、右肩に固定された360mmキャノン砲、折り畳み式に改良されたロングレンジビームライフル改、右腰のビームサーベルと左腰のハンドグレネードを装備している。
砲撃戦を重視した改造の為、火力は馬鹿に出来ない程高い。他にも様々な弾種を切り替えることで、単独でも高い性能を誇る。また、レッドデスティニーのパーツ(主に足周り)に換装した為か、従来よりも移動速度が上がったらしく、更なる脅威となっている。


エクストリームガンダム/ナハト マルス・フェース
武装:マーズブレード×12、バインダーシールド×12
特殊装備:クリアコンデンサー、ソードバインダー×12
特殊機能:覚醒
エクストリーム/ナハトに「マーズ・ユニット」を装着させた機体。周囲のプラフスキー粒子を取り込むことで、機体から炎を放出することができる。
武装は12本の剣マーズブレードに、それを格納する12枚のバインダーシールドを装備している。また、バインダーシールドは宙に浮いており、ファンネルのように操ることも可能。
近接格闘を主眼に置いて製作されたが、当のユウキ自身が苦手であった為に、本来の性能を十二分に発揮できず、後に封印される。現在はメルクリウス・フェースに戻されている。
名前の「マルス」とは、英語で火星、若しくはローマ神話における戦と農耕の神である「マーズ(Mars)」から。


次回は後編。ようやくここまで来れたのかと思うと、長かったなーという感想が。まだまだストーリーはこれからですが、どうぞお付き合いください。
ではまた次回、ノシ

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