《GUNPLA BATTLE Combatmode Start up. Mode damage level set to“B”》
今度は私達の番。ミナツ先輩が居るから勝算は持てるし、何より
《Press set your GP-Base》
GPベースがセットされ、PPSE社のロゴが表れると共に英語で機体名とファイター名がそれぞれ表示される。
《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Field15, Canyon》
プラフスキー粒子の散布が開始されて、私達の周囲にホログラムを形成させる。今回の場所は峡谷。自然に包まれた山々に大河が流れ、列車が走るような鉄橋も見えるね。
《Press set your GUNPLA》
ガンプラを台座に置き、続いて眼鏡を外す。今回はどこまで戦えるかが勝負の決め所になりそう。場合によっては、こっちが有利になれる……筈。
《BATTLE START》
「ガンダムアテナ、七種真幸! 勝利を切り拓く!」
「芳堂木綿樹、エクストリームガンダム/ナハト マルス・フェース! 行くぜッ!」
「宇多野深夏、重装型ガンダム! 出るわ!」
「如月劫夜、エクストリーム:Rf! GO!!」
「藤野渚、ペイルライダー・イザナギG型! 出るよ!」
「安藤宗助、AGE-2T フォースバレット! 目標をぶち抜く!」
全機、同時に峡谷へ降り立ったは良いけれど……すごーく広い上に、霧で視界が見えなくなっていた。当然、それはユー君やミナツ先輩も同じ状態であり、その場から動けなくなっていた。
「峡谷って聞いてグレキャだと思ってりゃ、まんま渓谷じゃねぇか!」
「しかもこの濃霧……視界が塞がれては、私も容易には撃てないわ」
「さっきの砂嵐と言い、このバトルシステムの設定はかなり厄介ですね……」
絶望的、とまで言ってしまっては大袈裟だけど、この濃霧では普通に動けない。ましてや傾斜と大河の組み合わせによる渓谷。これは出鼻を挫かれた、としか言いようがないかな。それに今立っているのは確実に斜面の真っ只中だと思う。
しかし斜面を降りなければならないことも明確で、ユー君が苛立たしげに機体を斜面の下へ向けて動かした。当然、木々を薙ぎ倒して降りるわけなのだが……
「おわ、おわわわわ?!」
ユー君の驚く声と共に盛大な水飛沫を伴って水中へドボンする。きっと派手な格好で落っこちたんだろうけど、男の子なのにだらしないなあ。そんなこたを思っていると、ミナツ先輩がクスクスと笑いながらユー君に冗談めくように言う。
「あらまあユー君ったら、慌てん坊さんは先に墜ちちゃうわよ?」
「洒落になんないこと言わないでくださいよ! ……でも幸い、水中は澄んでるぜ。これなら前も見えるし、威力や射程の減退は否めないが実弾やビームも使える筈だ」
「私は大丈夫だけど、ミナツ先輩のは……」
「ビームの減退は心配いらないわ、私のガンプラは実弾しか積んでないから♪」
それを聞いて無言になってしまう私達にミナツ先輩は再びクスクスと微笑んだ。相変わらずなのか何というか、不思議な人だと本当に思う。そんな中、ユー君はそのまま大河を北上していく形で進んでいくけれど、私はふと疑問に思ったことを口にした。
「あれ、ユー君の機体……索敵できるの?」
重装型ガンダムをぶら下げながら、そっと水面に沈みつつ私は尋ねる。
「ん? ……いんやまったく出来ねぇよ」
「ダメじゃん!」
私が即行で突っ込むと、ユー君はムッとした顔で反論する。
「バカ言うな! このフェースはな、お前のように剣で戦うことを前提にしてんだ! 索敵ならミナツ先輩が先にやってる!」
「……………え」
呆然としながら眼下の重装型ガンダムを見つめると、ミナツ先輩が申し訳なさそうに謝ってくる。
「ご免なさいね。私が先に言わなかったばっかりに……」
「す、すみません、ミナツ先輩は何も悪くないです!悪いのはユー君です!」
「俺かよ!?」
あーだこーだと文句をぶつぶつ言うユー君を放置しながら、水中へ重装型ガンダムを降ろし終える。案外底は深い様で、ガンダム一機半ぐらいの深さはあったかな。大体二十七メートル辺りだね。私も重装型ガンダムの前に降りて水中を歩きだす。先程のユー君が言った通り、水中は大分澄んでいて周囲の様子がはっきりと丸分かりになっていた。その為か、前方には黒と紫のエクストリームが見えた。周囲には赤と金色の装飾が入ったシールドのような浮遊物が浮かんでいる。
まだ警報すら鳴る気配もないそんな時、ミナツ先輩から報告が入った。
「前方一時方向に感有り。数二、そのまま七時方向へと飛んでいくわ」
「もしかして私達を探してるんでしょうか?」
「……そうみたい。でも通り過ぎていったみたいね。まだ霧も濃いし」
立て膝を付きながら潜望鏡を伸ばして周囲の様子を探る重装型ガンダム。そんな機能まであるなんて……良いなぁ。ってそんなこと思ってる暇ない。するとアテナのレーダーにも一機、謎の機影が見える。
「二時の方角から一機……この速さは、可変機?」
「丁度直上を通過するわね。なら、ここから砲撃するわ!」
いきなり無茶苦茶を言い出すミナツ先輩に私は驚く。しかしそんな暇すらくれずに、重装型ガンダムは肩部360mmキャノン砲の射角を調整していた。私は固唾を飲んで見守ると、構えて僅か五秒を切った所で砲から弾頭が飛び出す。
「掠めただけっ……行射角四十度修正、二射目、てぇっ!!」
ズドン! と再び後ろに反動が行き渡り、僅かに水中を揺らして見せ、空薬莢が後部から排莢される。ゆっくりと水底に空薬莢が落ち、それと同時に空中から爆発音が鳴り響く。――あの時、GNアームズ以外の機体でこられたらきっと、私でも敵わなかったんじゃないか。そう思わせる程にミナツ先輩の射撃は残酷なまでに正確無比だった。
■
「ソースケッ!?」
俺が振り向いた時には、背後から爆発音が響いていた。どこから撃たれたとか、そんなのすら忘れて俺はソースケと叫ぶ。フォースバレットの左舷にぶち当たったらしく、AGE-2の左肩から煙を噴いていた。ナギサも今の砲撃には驚いているらしく、敵を見落としていたことに落胆していた。
「あの辺りに相手側の誰かが……」
「あの白いブランシェ擬きはあんなに正確に撃ちはしねぇ……残った二人の内どっちかだ」
ナギサの言葉を聞いて俺は真っ先にソースケの下に向かう。背後から掛けられる制止も降りきって、無重力ダッシュで空を駆け抜けた。
素早くフォースバレットの降下地点へと来ると、山の斜面にフォースバレットがMS形態で立て膝を着いていた。
「ソースケ、無事か?」
「へっ、こんぐらいどうってことねーよ。それより敵は?」
「うぐっ………ま、まだ見つけて」
「ねーのかよ?!」
言葉を紡ぐように突っ込まれ、俺は思わずそっぽを向いてしまう。何て言ったものやら。するとナギサも追い付いて来たのか赤いペイルライダーが飛んでくる。……すると付近の水面から何かが飛び出し、飛んでいたペイルライダーの胴目掛けて直撃しかけるが、ギリギリの所で僅かに体を反らして回避する。
一体絶体何なんだと俺とソースケが水面を見つめると、目の前から水を纏って敵(?)が一踏みで近付いてきた。俺もそれに対応する為に両腕で受けるが、いかんせん一撃が重い。その所為で相手によろけを見せちまう。
「白い……ガンダム!」
光る緑色のツインアイがこちらを睨み、傾斜にも関わらず平気で蹴り上げてくる。俺はお返しにとばかりに両手を構えては、
「獅子咆哮ォッ!!」
得意技を見舞ってやる。不意を突いただけあって、エクストリームが放った火球が白いガンダムに迫り直撃――する筈だった。
当たる筈だった火球はその場で爆発し、あまりの近距離で俺とソースケは爆風に巻き込まれてしまう。
「なぁっ!?」
「こんちくしょぉぉっ!」
吹き荒れる爆風の中、フォースバレットがエクストリームごと空中へ逃げおおせる。そんな時、新たな機体が接近する警報が鳴り響く。
「こんな時に」
「新手かよ」
嘆息した俺達の目の前に現れたのは、さながら悪魔のように漆黒と紫に塗り分けられた、ある意味不気味なエクストリームガンダムだった。
「「オイオイマジかよ……!」」
その手に剣を持った黒いエクストリームは、剣と剣を擦り合わせ、軟鉄特有の金属音を奏でながら開戦の火蓋を切って落とした。
キョウヤとソースケの二人がユウキのエクストリームに遭遇する中、地上に残るアテナと重装型ガンダムの前には赤いペイルライダーが立ちはだかっていた。その手には薙刀状に変形したフェダーインライフル改が握られ、切っ先は既にこちらを向いている。
「そっちから行かねえってんなら、アタシから行かせて貰うぜ!」
「ミナツ先輩の方に!? ……させないわ!」
防御の構えを取った重装型ガンダムに対しペイルライダーがフェダーインライフル改で突き刺そうと、水中で威力が減退するにも関わらず突っ込んでいくが、アテナもそれに対応して腰のGNブレードをぶん投げた。
投擲されたGNブレードは見事フェダーインライフル改の鍔に当たり、重装型ガンダムを狙っていた切っ先はそのまま横へと逸れていく。それに釣られるが如くペイルライダーもバランスを崩しかけるが、ナギサにとってそれぐらいどうということは無かった。寧ろ水中であるなら動くのにやや時間が掛かる為に、体勢を崩される心配は少ないのだ。
「へっ! これでも食らいなッ!」
背中から折り畳まれていたキャノンを展開させ、展開し終えたと同時にぶっ放す。回避動作が取れないまま重装型ガンダムは砲弾を食らうも、
「あら、この程度でこの子が倒れちゃうなんてことはないわよ」
「そうこなくっちゃな! ブランシェ擬きは後回しだ。まずはアンタから倒させてもらうぜ!」
「お手柔らかにどうぞ」
ミナツが柔らかく微笑むと同時にナギサは即行で動き始める。が、ミナツは慌てずにそこへ胸部マルチランチャーを射出する。すると水中に強烈な閃光が迸り、ペイルライダーと地上から様子を伺っていたアテナの目を潰した。
「あっ、センサーが!」
「たかがそんぐらいでぇ!」
腰の高さで構えたフェダーインライフル改を、右足で踏み込むと同時に突き放つ。水流を纏ったその一撃は確かに重装型ガンダムに直撃するのだが、半歩も動かすことはできなかった。それに驚く暇もなく反撃を受けない為にナギサは直ぐ様距離を取る。
「ウソだろ……アタシの一撃を食らってビクともしねえって、どんだけ鈍重なんだよそのガンプラは」
「あらあら勘違いされてもらっても困るわよ? この子はね、元々後方で皆の支援を行う為の子なの。だからその分装備はたくさん。……でもね、重いからって悪いことばかりじゃないのよ?」
「へぇー、勉強になったよ」
口ではそう言いつつ、ミナツの言いたいことを理解していないナギサは、取り敢えず最後の台詞だけで納得していた。勿論それを感じ取ってたミナツは溜め息を吐きたくなるのだが、生憎そんな暇もない。マルチランチャーの弾種を
「ミナツ先輩、後は私が引き受けますので、ユー君の援護お願いします」
「勿論よ、発見されやすい位置ではあるけれど、開けていればそれなりに自由は利くものだし。私なりに撃たせてもらうわ」
連絡を取り合い終えると、丁度水中からペイルライダーが飛び出してくる。
「なんだよいきなり煙幕張ってよー」
「代わりに私が相手になるよ?」
「……あー、最後にやり合いたかったけど……まぁしょうがねぇ! ブランシェ擬き、リベンジさせてもらうよッ!」
「ブランシェ擬きなんて呼ばないでよ! この子はア・テ・ナ!」
GNソードⅢがフェダーインライフル改と切り結ぶ。長物なら押し返せる、なんて軽い気持ちで押し返せるものでもなかったとマサキは噛み締めながらそう思う。どうやらペイルライダーの方がパワーが上なのか、寧ろ押し返されていた。
「へぇ、パワーはどっこいどっこいか」
「チッ、出力を抑えていたのが仇になっちゃった。でもね、アテナがこれで終わると思わないで!」
GNドライヴからの粒子放出量が増し、遂にGNソードⅢが競り勝つ。そのまま薙ぎ払っては続け様に左腕のGNソードⅢで垂直切りし、ペイルライダーもそれを右側へ避けることで躱した。
今度はこちらの番だと言わんばかりに、ペイルライダーが脚部連装ミサイルポッドにてアテナを牽制する。振り下ろし直後となると流石にタイムラグが生じ、アテナは思うように躱せず攻撃を受けてしまう。
「たかがミサイル如きッ!!」
爆風に飲まれながらも、マサキは負けじとコンソールを押し出す。アテナもそれに応え、ペイルライダーへと肉薄した。
「お返し、よっ!」
「うお!? マジかっての……んなぁっ!?」
膝を突き出すと同時に、突き出した膝に装備されたGNカタールが回転し、クリアパーツで出来た刃がペイルライダーの腹部へと突き刺さる。その攻撃に驚きを隠せないナギサだが、同時に笑いも込み上げてきていた。
「っくくくははははははははは! アタシにここまで近付けるだなんて、アンタ最高だよ! えーっと……」
「マサキだよ。七種真幸。これでも負け知らずなんだから」
ナギサの言葉にマサキはニヤリと笑い返す。
「へっ、マサキ、アンタとは良い友達になれそうだ」
「同感、かな。でも今は――」
「ああ!」
そして再び、GNソードⅢとフェダーインライフル改が激突する。アテナもペイルライダーも、大地を蹴りあげる勢いでぶつかるのだった。
「「全力でバトルを楽しむ!!」」