ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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Collaboration EPISODE-9:再会、そして出会い

 翌朝、私は布団の上で目覚める。至極当たり前なことで、至極平凡なことだ。「起きたら別世界に居た」なんてことが無いくらい、平凡なこと。

 私は小さく欠伸をして背を伸ばす。神経に伝わる痛みが脳に丁度良い刺激を与えてくれ、気付けば目が覚めている。

 

「あ……そっか、練習試合」

 

 時計を見れば九時を回っていた。普段ならこの時間帯は、平日なら既に学校の教室に、休日ならゲームに打ち込んでいるところだろう。

 寝惚けた頭で先日ユー君が言っていたことを思い出しつつ、私はパジャマのまま台所に立って朝御飯の仕度を始めた。

 極度の、と言うわけではないけれど、低血圧気味な私の身体は朝御飯をそれほど受け付けない。こうして考えると、毎朝それほど気分が優れないのは低血圧の所為なのかな。

 チンとトースターから音が鳴り、私は焼けたパンを広めの白いお皿に乗っける。出来上がったトーストにバターを塗ろうと思って確認してみたけれど、残りが少ないみたいだし、そのままバター炒めを作りに取り掛かろうかな。私はあらかじめ刻んでおいたほうれん草とベーコン、そしてコーンを冷蔵庫から取り出し、次に熱したフライパンの上に少量のバターを乗せフライパン全体に広がるように滑らす。今度はほうれん草とコーンをフライパンに乗せ、溶けたバターに絡めるようにトングで炒め、直ぐにベーコンを加える。あらかた火が通ったかなと味見してみて、それから直ぐにお皿へ盛り付けた。

 

「完成っと」

 

 中学の頃から一人暮らしを始めて二年も経つけれど、それなりに料理は上達するものだと実感するなぁ。……あ、時間が。早く食べなきゃ!

 私は慌ててテーブルに持っていき、早速合掌して食べ始める。

 

「いただきますっ!」

 

 こうして、何だか一波乱ありそうな慌ただしい私の一日が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は天城学園との練習試合なんだが……周りからすっげぇ視線感じるんだよなぁ。

 俺が今居るのは公共体育館前にあるオブジェの目の前だ。そこで他の奴等を待っているんだが、何故か全く来ない。マサキとヤヤは兎も角、他の三人の弁当は俺がちゃんと用意したし、必要なものも揃えて置いといた。なのに遅いとは。……はてさて女子だからか。

 

「尽きぬ疑問に唸っていてもしゃーないか」

 

 パッと前向きに切り替えて、俺は改めて皆を待つ。そんな時に、誰かを呼ぶ声が聞こえて、ふと振り返ってしまう。

 

「おーい、ユー君おはよ~」

 

 声の主はどうやらマサキらしい。水色の肩掛け鞄を背負いながら、彼女専用に合わせたサイズの制服を着て呑気に歩いてきた。俺は腕時計で確認すると、まだ時間に余裕があるのを見て珍しく早めに来たなと顔を顰める。

 

「お前にしては珍しいな。何か変なものでも食ったか?」

「ちょっと慌てて出てきただけだよ!」

 

 からかうように言うと顰めっ面で言い返されるが、然程怖くもないので無視。すると「無視しないで!」と怒ってくるが、然程怖くもないので無視。

(まるで子供だな。……いや、子供か。身長的にも)

 と至極失礼なこおを考えていると、またもや後ろから声を掛けられる。今度は誰だと振り向くと、やっぱりと言うか先輩達が遅れてやってきた。

 

「遅れてごめ~ん! 仕度に手間取っちゃった」

「いや仕度に手間取っちゃったじゃねーよ。……あれ? ミナツさんは?」

 俺が嘆息すると、当然の如く先輩がまっとうな顔で返してきた。

「ミナっちゃんなら、まだ呑気に歩いてる筈よ?」

 

 そんなことを言われて無言にしかなれない俺は、どうしたものかと考え込む。どう転んでもこれじゃあ相手に申し訳ないだろうよ……。

 すると俺の視界に、天城学園生徒らしき制服を着た少年が彷徨いているのを見掛ける。もしかしてと思い、俺は先輩達から離れて少年の元へ駆け寄る。

 

「おーい! アンタ、天城学園の生徒さんかー?」

 

 ちょっと気安かったかと反省しつつ、俺は彼に近付く。「天城学園の」と呼ばれて反応したのか、少年がこちらへと振り向いてくれた。

 

「あ、貴方は……?」

「ん? 俺か。アンタら学校と練習試合することになった聖蘭学園の生徒だよ。……見たところ、来てるのはアンタだけか?」

「あぁ」

 

 少し安堵した様子で胸を撫で下ろしつつ、少年を集合場所まで連れていこうとすると、二度あることは三度あると言うように、また後ろから声を掛けられた。呼んだのは俺じゃあないようだが。

 

「キョウヤくーん!」

「あ、部長! それに皆も!」

 

 俺もそれに振り向くと、女子二人と男子三人の団体がやって来る。少年の言葉からすると、あの人達も天城学園の生徒さんか。

 先程少年に部長と呼ばれた少女が、俺を見上げて手を差し出しては握手を求めてきた。

 

「貴方が聖蘭学園の部長さん? 天城学園模型部の部長、天野杏夏(アマノ キョウカ)よ。よろしくね」

「残念だが俺は聖蘭学園模型部の副部長さ。芳堂木綿樹だ、ウチの呑気な部長の代わりによろしく」

 

 ふと勢揃いしてみて思うが、身長差激しいなこの学校の模型部は。……いや、口にすることじゃないか。身長について弄るのはマサキだけだし。

 俺は天城学園ご一行を集合場所に案内し、そこから合流して目的のホールへと向かった。あれ? そういやミナツ先輩とヤヤが来てねぇぞ!?

 

「しまった……。先輩、先行ってて下さい。俺、下で二人待ってますから」

「りょーかい。なるべく女の子に囲まれるんじゃないわよ?」

「こ、こんな公共の場で洒落にならないこと言うな!」

 

 慌て気味に言い返すが、先輩はニヤニヤと笑いながらそのまま行ってしまった。全く、あの先輩は何がしたいんだか。……とと、さっさとミナツ先輩とヤヤを待ちに行くか。

 そうして俺は急いで階段から掛け降りつつ中央ホールを見渡しながら二人を探した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はふと天城学園の部長さん達を見て、どこかで会ったことあるなぁ~と疑問に思っていたら、あの大会に出ていたあのデュエルを使っていた人なんだと気付く。少し離れた位置からお菓子を食べていたのは、二回戦目で戦った白いエクシアの女の子。そして何か話ながら歩く二人の男の子は先日ガンプラバトルをした人と変態さんだった。

 驚くべき事実に私は思わず顔を逸らして、下手にバレないように目的地に着くまでそうしていた。

 

「さて、ここが目的の場所ね」

 

 戸を開けたツクモ先輩がそう言って、皆でぞろぞろと中へ入る。そこには教室二つ半ぐらいの広さを持つ、フローリングが敷かれた多目的室が目につく。おおよそ中型のバトルシステムが二基置いてあり、見たところしっかり整備されている感じ。これなら途中で故障した……なんてことはないね。

 それぞれが荷物を置いて皆で向かい合う形となると、やっぱりと言うかなんと言うか、先日の二人がそれは素っ頓狂な声を上げて目を丸くしていた。

 

「あーっ! 昨日の女の子!」

「げっ…………高校生だったのか、てっきり中学生かと……」

 二人がそう口をぱくぱくさせていると、二人の声に反応した天城学園の部長さん――キョウカさんが二人に顔を向ける。

「あら? 貴方達も知り合い?」

「部長もなんですか!?」

「ええ。美咲に連れ出された大会で、対戦した相手だから」

 

 どんどんと話が逸れていくなぁ。そんなことを思いながらユー君を待っていると、ツクモ先輩が手を叩いて場を収める。

 

「さて、と。改めて自己紹介行きましょう。……例え知り合いだったとしても、礼節は大事よ?」

 

 ツクモ先輩の言葉に皆が無言で頷くと、「それじゃあ」と切り出して更に言葉を続けた。

 

「言い出しっぺの私からね。初めまして私の名前は灯月母……ってのは芸名で、本名は鷹野月母よ。聖蘭学園模型部部長をやらせてもらってます。今日は忙しい中練習試合を引き受けてくれてありがとうね」

 

 笑顔で会釈しながら半歩下がったツクモ先輩は、その隣に立っていたアイカちゃんに促す。

 

「私のことも見たことはあると思うわ、唄貝愛歌よ!まぁ同じく芸名で、本名は星河藍花ね。気軽にアイカって呼んでくれて構わないわ。今日は思う存分楽しみましょっ?」

 

 これまた輝かしい笑みで引き下がるアイカちゃんに続き、その隣のヤヤちゃんの出番。そう言えばユー君、ヤヤちゃんも探しに行ってるみたいだけど……残念ながら入れ違いで来ちゃったみたいだね。

 因みにあの変態さんは、隣の人に抑え付けられていた。何か必死に言いたそうにしてるけど、気にしちゃったら負けだよね。

 

「儂の名は夜天嬢雅八々じゃ。ちと覚え難かろうが、その時はヤヤで覚えると良い。有名人が多くて少し肩身が狭いと思うじゃろうが、儂らは今はただの学生じゃ。気負いせず話し掛けてくれ」

 

 ヤヤちゃんも半歩後ろに下がり、その次は私だった。緊張で高鳴る心臓を抑え、私は深呼吸して前を見ては自己紹介を始める。

 

「聖蘭学園一年、七種真幸と言いますっ。練習試合ではありますが、精一杯、頑張らせてもらいますね!」

 

 半歩下がり、私は一息吐く。毎度毎度のことだけど、やっぱり自己紹介は慣れないな。大半は見知った顔だったから良かったけれど、これが全員知らない顔だったら……私は指先一つ動かせないんだろう。

 こちらの自己紹介が終わったのを確認して、キョウカさんが右手を胸に当てて自己紹介を始めた。

 

「ツクモちゃんとマサキちゃんは前に戦ったから覚えてるだろうけど、改めまして天野杏夏です。まさかこうも早く再戦できるなんてね。今日こそは前のようにはいかないから、覚悟しておいて」

 

 最後に私を見つめてそう言ったキョウカさんは、半歩下がってニコリと笑う。私も負けませんから、キョウカさん。

 見つめ返すように目で言うと、その隣に立っていた眼鏡の長身の男性が話し始める。……あれ? どこかで見たような。気のせい、だよね。

 

「初めましてだ諸君、私は中原祐二(ナカハラ ユウジ)上級大尉。この部のビルダーを務めている。好きに呼んでくれ」

 

 短く済ませた大尉さんは、眼鏡の位置を調整しつつ半歩下がった。それを見計らうように、その隣に立っていた――こちらもあの大会で戦った――ユキナちゃんがお菓子の袋を片手に喋り出す。

 

「私が神凪雪菜………好きなものはお菓子……特技は昼寝。よろしく」

 

 簡潔的にそれだけ述べたユキナちゃんは、涼しげな無表情のまま隣に促した。この子、ある意味、堕落してるように聴こえたのは私だけじゃないよね?

 その次に来たのは先日の変態さん。変態さんはようやく喋れるといった感じで前触れもなく突然始めだした。

 

「どーも俺の名は安藤宗助(アンドウ ソウスケ)だ! まさかこんな所で歌手やアイドルに会えるなんて夢みたいだぜ! ……まぁその宜しくお願いします!」

 

 もっと言いたいことがあったんだろうな。そう思わせる感じでペコリと九十度のお辞儀をして下がった変態さん……もといソースケ君。

 ソースケ君が下がったのを見て、その隣の人――先日戦ったあの人だ――がその拳を握り締めつつニカリと笑う。

 

「俺は如月劫夜! 練習試合と聞いてうずうずしてたんだ。聖蘭学園の力、学ばせて貰うぜ!」

 

 拳を突き出して言い終えたキョウヤ君は、その隣に居た男の子にバトンタッチすると同時に、私はそのバトンタッチされた男の子に見覚えがあった。

 

「僕が最後のようだね。佐藤修平(サトウ シュウヘイ)です。皆からはサトシュウって呼ばれてるんだ。よろしくね」

 

 サトシュウ君が柔らかく微笑んで挨拶し終え、一通りの自己紹介が済んだところで、ツクモ先輩が再び切り出す。

 

「早速で悪いんだけど、時間も惜しいわ。まだ来ていない部員の紹介は後回しにさせてもらうわね。……それじゃあ対戦する相手を決めましょうかしら」

 

 その言葉に異論は無く、互いにやや離れた場所でメンバーを決めるこたに。今回もまた三対三のチーム戦。まず先行としてアイカちゃん、ヤヤちゃん、ツクモ先輩の三人が出ることが決まった。すると同じように相手も決まったらしく、早速バトルシステムの調整に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一試合目、プラフスキー粒子が散布されてバトル開始の合図が鳴り響いた。

 

《BATTLE START》

 

「星河 藍花、レッドデスティニー! 出撃よ!」

「夜天嬢雅 八々、ウイングガンダムフェングファン!推して参る!」

「鷹野 月母! ガンダムアストレアリペア! 出るわよ!」

「ステイメン・グロリオーザ、佐藤 修平! 出ます!」

「神凪 雪菜……アヴァランチ・ブランシェC……出る」

「天野 杏夏、ハイペリオン・ヴェールヌイ! 焼き払う!!」

 

 六機のガンダムが荒野へと降り立つ。視界を妨げる砂嵐と、電子妨害を引き起こす磁気嵐とミノフスキー粒子のトライアタックによる両陣営不利という状況下で始まったバトル。例えブランシェのセンサーでさえも、アストレアリペアのセンサーマスクでさえも敵を捕捉するのは困難どころのレベルではない。

 

「ユキナ、やっぱり敵は見えない?」

「……うん、この磁気嵐とミノフスキー粒子を模したプラフスキー粒子が邪魔をして……何も見えない」

「これは手探りになっちゃうね。部長、どうしますか? これじゃあ目隠しされた状態ようななものですけど」

「うーん、そうねぇ」

 

 サトシュウに話を振られ、キョウカは首を傾げながら唸る。状況は相手も同じであり、つまりプラマイゼロで五分五分(フィフティフィフティ)。様々な制限を受けるのみで、後は何も変わらない。

 しかしその“様々な制限”が厄介極まりなかった。サトシュウの言った通り、まさに「目隠しされた状態」そのもの。有視界戦闘用決戦兵器と呼ばれたモビルスーツにとって“目”を失うことは大きな痛手となる。ニュータイプでもない限りは難しいだろう。

 それらを踏まえて、キョウカは悩む。今回の相手に「勝利の女神」と呼ばれる少女が居ないのが、せめてもの救いだったと言える。だけれど、それでも油断はならない。

 

「ここで立ち尽くしてる暇は無いわね。それじゃあサトシュウ君を先頭に私とユキナで行きましょう。でも無理はしないこと。この状況下だと相手もそうそう手出しはできない筈だから」

「「了解」」

 

 キョウカの指示と共に、サトシュウとユキナは機体を動かす。見付けるのは困難だが、動かなければもっと困難になる。そうなる前に片を着けなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 その頃、ツクモ達は先程のキョウカ達と同じように今後の行動を模索していた。

 

「視界は兎も角、レーダーが効かないってのは辛いわねぇ」

「相手を捕捉しないと、ビットの自動ロックオン機能が発動しないしね」

 

 ツクモにとって遠隔機動兵装や狙撃装備が使えないとなると、この機体では辛いとしか言いようがない。それはアイカもヤヤも重々承知の上であるが、やはりツクモの援護が無いというのは辛いものがある。

 一人は未知数であるものの、戦ったツクモ曰く「二人の本来の強さは異常」だという。ユキナについてはアイカもヤヤも試合を観ていないから伝聞ではあるが、キョウカの試合はハッキリと観ていた。何があったにせよ、マサキと相討ちで終わった程だ。

 

「しかし、磁気嵐とミノフスキー粒子? ……とやらの所為だとすると磁気嵐はどうもできぬが、このミノフスキー粒子とやらは、粒子を発している大本(おおもと)があるのではないか?」

 気になったらしいヤヤがそう言うと、二人は思い出したように声を上げた。

「そっか! どっかに戦艦がある筈よ!」

「ヤヤちゃん、ナイス!」

 

 そうと決まれば有言実行。ヤヤがネオ・バード形態で先行しつつ、それをアイカとツクモで追いかけることになった。

 

 

 

 こうして両陣営が動き出した。この結末は神のみぞ知る。

 

 

 


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