ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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Collaboration EPISODE-5:完成、ヤヤの新たな愛機

 初めてヤヤちゃんのお家へやって来た私達は、その敷地の広さに感服せざるおえない。まぁ、広さだけで見れば私の実家も似たようなものだけど。

 初めてのGBOを、ヤヤちゃんのご厚意でここでやらせてもらったけれども、中々に面白いと思う。……また変な渾名(二つ名)が付きそうだけども。

 

 そして私達はまずは一つ、ミッションをこなしてから、私達は一旦休憩に入ることにしたんだ。

 

「うわぁ、景色がきれーい!」

 

 ベランダに渡り手摺からその景色を眺める私は、辺り一面を見渡しながらそう言った。まさに絶景。中心街の方を向けば、大小様々なビルがハッキリとまでは見えないものの、それなりに目立っている。

 そこへさっき別れたササネちゃんが、お菓子とお茶を運んできた。

 

「どうでした? 新しいゲームは」

「あれは良いものだよ。今度ササネも一緒にやろうか」

「メイド長がお嬢様と一緒になって遊んでいたら示しがつきませんよ?」

「ぐうの音も出ない……」

 

 上手いこと言い返されたヤヤちゃんはしょんぼりとし始めていた。カメラ持ってないから写真におさめられないのが残念だけど。

 私も一旦席に着いて、目の前に出されたショートケーキを見る。その精巧さに目を疑うばかりだけれど、流石はお金持ちだなぁ、と染々思う私が居た。そんな私の隣でアイカちゃんは早速口に頬張っていた。……もう少し躊躇いを持って食べないのかなぁ。

 かくいう私も恐る恐るとフォークで一刺ししては、そっと下へと下ろす。意外にもすっとフォークで切ることができ、それをそっと口に運ぶ。

 僅かにひんやりとした冷たさと同時に、滑らかな生クリームの甘さとしっとりとしたスポンジケーキの食感、ほのかに甘酸っぱい苺の風味が口一杯に広がる。

 

「ん~♪」

「やっぱり美味しいわよね! ……あぁ~、良いなぁ~。毎日こういうの食べられて」

 

 贅沢言うアイカちゃんに私も激しく同意するものの、ヤヤちゃんは呆れたようにアイカちゃんを見ながら言った。

 

「お主、毎日これを食べておったら、どうせマネージャーから減量しろとか言われるじゃろうが」

「うぐっ」

「さて、一息出来たら再開するかの」

 優雅に気にすることなくそう言ったヤヤちゃんは、紅茶を音も立てずに飲み干した。

「今度はレベルアップ・ミッションっての、やってみる?」

「そこまでして急ぐ必要もなかろうて」

 

 私の提案に宥めるように言ったヤヤちゃんは、コトリとテーブルの上にガンダムゼロを置いた。私もケーキを食べ終えて、皿の上にフォークを置きながらもガンダムゼロを眺めた。

 

「確かユー君が作ってくれたんだっけ」

「うむ。と言うか、儂が欲しいと駄々を捏ねた結果じゃがな。唯の笑い話よ」

「あー、一昨日ユー君が元気なかったのってそれなんだ」

 

 一昨日の話を思い出して、その真相を知ると思わずクスリと笑ってしまう。しかしヤヤちゃんは「どうせゼロは直ぐに返す」と言って、私を唖然とさせた。

 

「え!? 返しちゃうの!?」

「昨日試して分かったが、儂はこの機体では上手く立ち回れんのじゃよ」

「……どうして?」

 

 私が聞き返すと、どう答えたものかと答えあぐねるヤヤちゃんは、仕方ないと言って私を立たせた。いきなり何なのかと驚くも、そんな隙もなく私はヤヤちゃんに手を引かれる。

 

「……ちょっと、どうしたのヤヤちゃん!」

「アイカ! お主も来い!」

「えっ!? ちょっ、待ちなさいよ~!」

 

 私達は、訳も分からずヤヤちゃんに連れられて、その場を後にする。……一体何なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辿り着いたのは屋敷の隅。陽が若干射し込む程度の場所に、それはあった。

 

「……道場?」

 

 私がポツリと呟いた一言に、ヤヤちゃんはコクンと頷いた。そしてそのまま、ヤヤちゃんは先程の問いに答えてくれた。

 

「儂が教わったのは剣と銃の扱いじゃな。これは江戸末期の頃から儂ら一族に伝わる秘技じゃ。それを儂らは受け継いできた。しかし一刀一丁では上手く立ち回れぬ」

「それって」

「二刀二丁で戦う。それが儂ら一族が得意とする戦法じゃ」

 

 それからヤヤちゃんは、つらつらと語ってくれた。何故二刀二丁で戦うのか。その単語単語は私でも分かるものも多かったけれど、やっぱり大半は分からなかった。それでも、言いたいことは何となく分かった。

 

「さて、こんな重苦しい話はさて置いて、今からユウキの所に行くぞ」

「ふぇ?」

「新しい機体を受け取りに行くのじゃよ」

「作ってあるの!?」

 

 打って変わってニカリと笑ったヤヤちゃんは、くるりと踵を返して歩き出す。まさか依頼してあるとは思わなかった。

 私も慌てて追いかけると、ヤヤちゃんはどこか活き活きとした顔で――と言うよりは(はしゃ)ぐ子供のような顔で――歩いている。それに釣られて、私もふと「どんなガンプラが見れるのだろう」と言う子供染みた理由でワクワクしだす。……全く喋る間もなかったアイカちゃんを置いて。

 

 

 

 

 

 お財布以外置いて、そのままバスでユー君のお家……もといツクモ先輩の家に向かう。初めて来る場所ではあるものの、私の家から然程離れてはいないようだった。

 早速インターホンを押して待っていると、ユー君が寝惚け眼でドアを開けてくれた。

 

「うげ、こんな時間になんだよ」

「そんな嫌そうな顔をするでないぞ、ユウキ。美少女が訪ねてきたら普通、嬉しげな顔をするじゃろうが。特に男子高校生と言うものは」

「俺はそんなのねーよ! ……ってヤヤが来たってことは……」

 ユー君が顔を引き攣りながら溜め息を吐く。

「ウイングならもう完成してる。取り敢えず中に入れよ」

「うむ、お邪魔するぞ」

「お邪魔しまーす」

 

 中へ入らせてもらうと、かなり綺麗に整頓されていて、誰が掃除しているのかは知らないけれどもこまめなんだと実感する。

 リビングに着いた所でユー君が「ソファーに座ってろ」と指差して言うので、お言葉に甘えて座らせてもらった。

 

「一軒家にしては広いね~」

「これが庶民の家か。狭いの」

 

 口から出た噛み合わない感想に、思わず互いに押し黙ってしまうも、そこへ直ぐにユー君が戻ってきてくれる。

 

「ほら、これがヤヤのオーダーに答えたガンプラだ。その名も――」

 

 机の上にコトリと置かれた1/144スケールのガンプラは、濃いめのオレンジとパールホワイトで塗装されていて、その光沢感は高級感溢れていた。更に各所にラメみたいに光る部分があり、見た目に劣らぬボリュームが格好よく纏まっていた。

 そのガンプラを見つめながら、ユー君はヤヤちゃんの新しい愛機の名を告げた。

 

 

 

 

 

「ウイングガンダムフェングファン。俺がイメージしたのは“鳳凰”だ」

「フェング……ファン……私の……新しいガンプラ……」

 

 

 

 

 

 ヤヤちゃんは優しくそのガンプラを持ち上げ、煌めくオレンジの瞳でそっと眺める。虹彩を放つ機体はまさに鳳凰なんだろうと、そう思わせてしまう程の絢爛さがある。私がヤヤちゃんの顔を見上げると、ヤヤちゃんは口許を固く結び、何かを決意したように顔を上げた。

 

「儂はこの機体で強くなって見せる。人の為に人を倒す技術(すべ)を、遊びの為に使うなどと言語道断ではあるが、それでも人を倒さずに使えるなら、儂はフェングファンでどこまでも勝ち抜いて、どこまでも舞い上がってみせる。蒼空(そら)を舞う鳳凰みたいにな!」

 

 堂々とした立ち振舞いで覚悟を言い放ったヤヤちゃん。そんな台詞を聞いてか、ユー君は呆れたように息を吐いてからヤヤちゃんを見つめた。

 

「お前は昔っから変わんないな。だが、お前がどこまで行けるのか、見守ってやるよ。……勿論マサキ、お前もだ。俺達が目指すのは全国。全員が全員、腹ん中何かしら抱えてる変な部活だけどな、それでも全国で勝ち上がって見せる。その為には二人に頑張って貰わねぇとな」

「当然じゃ!」

「当たり前、だよっ!」

 

 私達の言葉に満面の笑みで頷いてくれたユー君は、「受け取るもの受け取ったんだから、後は頑張れよ」と背中を押して玄関まで連れていってくれた。

 

「あ、ユウキ、ゼロを――」

「もう二号機は完成した。だから要らねぇよ。お前っ家にでも飾っておけ。無駄に飾るスペースはあんだからさ」

 

 差し出されたガンダムゼロをユー君は手で制止する。ヤヤちゃんはただ静かにコクンと頷いて、ポーチの中に再び入れ直した。

 

「それではまた明日の」

「ゴメンねユー君、急に押し掛けちゃって」

「別に良いさ。こんな時間まで寝惚けてた俺が悪いしな」

 

 たははと笑うユー君に、私達も釣られて笑ってしまう。うんと笑った後に、再び別れを告げてツクモ先輩の家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェングファンを受け取りに戻ってきてから間もなく、儂達三人は再びGBOへログインしていた。

 

「はー、疲れた~」

「後で湯にでも浸かっていくと良い。来たからには少しはもてなさぬといかんしな。ササネに言えば大丈夫じゃ」

「う~、悪い気しかしないけど、お言葉に甘えちゃおうっかな~」

「あ、私も浸かっていく! この前のホテルではマサ……じゃくてハーゼちゃんの肌を堪能できなかったから今度こそは!」

「ひえっ!? ローザちゃんも大概にしてよぉ……私、肌は結構敏感だから」

 

 ハーゼことマサキを後ろから抱き込む、ローザことアイカに儂は不覚にも吹き出してしまう。まぁ意外な事実を知れただけでも良しとしようかの。

 そこで儂は二人の話を切り上げる為に手を叩く。

 

「楽しいじゃれ合いはそこまでじゃ。早速、レベルアップ・ミッションとやらをやって行こうではないか」

「そうだね。どんなゲームでもレベルは大事だもの。……上げない方がいいレベルもあるけど」

「そうとなったら早速受けるわよ!」

 

 ローザの一言で儂とハーゼは頷く。三人でミッション受諾の為にカウンターへ赴いたら、そこに先日戦ったエイトとやらを見かけた。

 儂の視線に気が付いたのか、こちらを見ると顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。

 

「お主、先日の奴じゃな」

「えっ!? 何処かでお会いしましたっけ?」

「あぁ、髪型と衣装が違えば間違うのも無理は――昨日と余り変わらん髪型ではないかっ!」

「え、えっとぉ……」

 儂の勝手な一人ボケツッコミに困り果ててしもうたエイトに、儂は慌てて済まぬと謝る。

「夜天嬢雅、と言えば分かるか? ナノカの知り合いじゃ。もっとも、ここでの儂は“アスナ”じゃがな」

「昨日の……あ!」

 

 ようやく思い出したらしいエイトに、儂はホッと胸を撫で下ろす。忘れられるこたほど寂しいものはないからな。エイトは儂が誰なのかが分かると、畏まった雰囲気を消して話し掛けた。

 

「アスナちゃん、か。可愛い名前だね」

「気安く可愛いと言うな馬鹿者。それでお主は、ここへ何をしに来たのじゃ?」

「僕? 僕はただ一人で“トゥエルブ・ドッグス”をやりに来ただけだよ」

「なんじゃそれは」

 儂の聞き返しにエイトは苦笑しながら説明してくれた。

「トゥエルブの名の通り十二人で戦う、オンラインならではの乱闘戦だよ。戦術は幅広く取れる自由な戦場だね」

「成る程、また今度にでもやってみるか。……儂らは今回レベルアップ・ミッションとやらをやろうかと思ってのう」

 

 トゥエルブ・ドッグスとやらは気になりはするが、また今度。そう言いつつ、今度は儂がエイトに目的を言った。

 しかしエイトの反応は驚くばかり。どうしたのかと訊ねてみると、

 

「きょ、今日始めたばかり……だよね?」

「うむ。そうじゃな」

「もうレベルアップ・ミッションやるの!?」

 

 余りの驚き様に逆に儂が驚いてしまう。何か悪いのか、と訊ねるとエイトは首を横に振った。そしてエイトは「レベル四へのミッションは気を付けてね」とだけ言い残し、その場を去ってしまった。上級者の言葉に嘘偽りはないじゃろう、心に留めておくか。

 するとハーゼとローザは早速ミッションを受諾して待っていた。

 

「アスナちゃん、さっきの男の子は?」

「エイトの奴じゃ。……それで、どんなミッションなんじゃ?」

 儂が興味津々に聞くと、ハーゼも笑顔で答える。

「レベルアップ・ミッションC.E.(コズミック・イラ)“ローエングリンを討て”!」

「私は無難にレベル二のミッションにしよーって声かけたのに、ハーゼちゃん真っ先にこっち選ぶんだもん」

 

 その二人の言葉に儂は、嫌な汗が止まらずにいた。先程のエイトの言葉が早速リフレインする。

『レベル四へのミッションは気を付けてね』

 ハーゼから受け取ったミッションランクは四。つまりは――

 

「飛び級か」

「えへへ、飛び級出来るならするに越したことないからね♪」

「ゲームとなると性格ががらりと変わるのう、お主」

「そんなことないよ?」

「自覚無し、か」

 

 心なしか明るくなってるのは気のせいじゃろうか。……さて気を取り直して行くしかないのう。「ローエングリンを討て」か。

 儂は新たな愛機を思い出しつつ、華麗な初陣を飾らんと意気揚々とする。そして儂らは戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ローエングリンを討て》

 

《GUNPLA BATTLE Combatmode Start up. Mode damage level set to“O”

 Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Special field4, Desert & Valley》

 

「さてさて、ガンダムについての先輩である私からの補足よ」

 ローザはそう言ってコンソールのキーを指でなぞる。

「ローエングリンを討て、って言うのは“機動戦士ガンダムSEED DESTINY”の第十八話のタイトルにもなってるわ。中東地域にあるガルナハン基地……いえ、最早あんなの“要塞”ね。峡谷をくり貫いて作られた、自然と人工が融合したような()()()()の砦よ。そこにある難攻不落の最大の原因、陽電子破城砲「ローエングリン」を破壊するのがこのミッションの目的なの」

 

 すらすらと語るローザの説明に、二人は同時に頷く。本来ならインパルス、セイバー、ザクウォーリア(ルナマリア専用機)、ザクファントム(レイ・ザ・バレル専用機)の四機で再現するのが好ましいが、ハーゼ達にとっては今はそんなこと関係ない。

 目的はタイトルの由来であるローエングリン砲を破壊すること。だがその最強の矛を破るには、最強の盾を破らねばならない。

 

「当然、守りも強固よ。大量の戦力を以て私達を撃墜(おと)しにかかるでしょうね。でもアスナちゃんのウイングが居る、だから今回は堂々と真っ正面から――」

「討つってわけだね」

「そう」

 

 ハーゼの先回りした回答にローザは頷くが、一つ懸念がある。しかしその懸念を言う前に、ミッションは始まりを告げた。

 

《MISSION START》

 

「ったく、タイミング悪いわね! ローザ、レッドデスティニー! 出撃よ!」

「話は後でも出来る! アスナ、ウイングガンダムフェングファン! 推して参る!」

「ガンダムアテナ、ハーゼ! 勝利を切り拓く!」

 

 ミネルバのカタパルトから出撃した三機は、早速付近の地面に着地する。すると目前には一直線に伸びる渓谷が存在した。ハーゼは慌ててマップを確認すると、やや長方形の形をしたマップのようだ。見た感じ幾つかの抜け道は存在するが、基本的には真っ直ぐに伸びたこの渓谷を抜けて辿り着くらしい。標的はこの最奥だ。

 

「アテナとレッドデスティニーじゃ不利……だね」

 ハーゼのポツリと呟いた一言にローザは、ふぅと溜め息を吐いて言う。

「確かに私達は不利。けど、アスナちゃんのそのガンダム……ウイングガンダムなら、バスターライフルがあるからワンチャン狙える筈よ」

 

 レッドデスティニーの顔がフェングファンへと向けられ、アテナも釣られるようにフェングファンへと向く。アスナは仕方ないか、といった雰囲気でネオ・バード形態へ変形する。

 

「目には目を、歯には歯を、矛には矛を、か」

「そう言うこと! そんじゃ行くわよ!」

 

 渓谷の底へ降りたレッドデスティニーは、ホバー移動に切り替える。アテナは宙を蹴って空を突き進む。残るフェングファンはネオ・バード形態のまま真っ直ぐ飛翔した。

 しばらく行くと、前方からガルナハン基地防衛線の最前線が見えた。機体構成的に六機のダガーL部隊のようだ。

 

「たったそんだけ? ……ならレッドデスティニーに切り裂かれなさい!」

 

 ローザは更にスピードを上げて中心にいたダガーLを一機、ビームランサーで袈裟斬りにする。レッドデスティニーの唐突な出現に他の機体も反応し、一斉にローザへと群がっていく。が、そんなことはローザ自身お見通しであり、近付いてきた機体は強引に薙ぎ払う。

 

「AIがおバカさんで助かるわねっ!」

「ローザちゃんが強引なだけだと思うけど」

 

 GN粒子を撒き散らしながら、地面に付いては跳躍、地面に付いては跳躍を繰り返すアテナことハーゼはローザの戦い方を見ながらそう言った。

 第一防衛ラインを突破すると第二、第三と続いていく。その度に強固になる防衛線は、近接武器を獲物としているハーゼ達を苦しめる。ただアスナのバスターライフルによる援護によって何とか成り立ってはいるが、ウイングの粒子はなるべく温存しておきたい。

 

「チッ、ドッペルホルン連装無反動砲装備まで出てきた!」

「こっちにはウィンダムもだよ!」

 

 多勢に無勢。……戦況はまさしくかんぼしくはなかった。そしてローザは思う。「こんな時に、ミナツが居ないことを悔やむなんて」と。ビームランサーを振り回しながら、常々思ってしまう。しかしそんな暇がないのは明白。

 ハーゼ達が第五防衛ラインを突破した所で、目の前に巨大な半球状の建物が見える。

 

「見えた! あれがローエングリン砲よ!」

 

 敵機の数も半数以上減らし、残るはローエングリン砲のみ。そうなったかと思ったハーゼとアスナは油断して近付いてしまう。

 半球状の建物は徐々に開き始め、ローエングリン砲が顔を出す。そこに、チャンスだとアスナがツインバスターライフルのビームを撃ち込み、撃墜――の筈だった。

 

「これで……なにっ!?」

「効いてない……?」

 

 当然、原作を見ていないハーゼとアスナを驚く。「しまった」とばかりにローザは後退するよう叫び、腰裏から100mmマシンガン改を取り、的確に狙い済まして敵の足を止めつつハーゼ達と合流する。

 バスターライフル級の砲撃を受け止めた存在、それは――

 

「いよいよお出座しって訳ね……ゲルズゲー」

「何それ!?」

 

 ローエングリン砲と共に現れた、見た目は半人半虫という奇怪な形ではあるが、これでもれっきとした拠点防衛用試作型MA「ゲルズゲー」。しかしその見た目に、ハーゼ達三人は不気味さを覚えずにいられない。人の上半身と蜘蛛が合体したような姿は、年頃の女子高生にとっては不気味以外の何者でもないだろう。……蜘○男のような姿でも不気味以外の何者でもないだろう。スパ○ダーマンは別だが。

 

「両肩と腹部に搭載された陽電子リフレクターが、アスナちゃんのバスターライフルを防いだ原因ね。あれの出力はバカにならない程高い。だからビーム実弾問わずに弾かれちゃうわ」

「それじゃ、斬らないと駄目ってこと?」

「ただし隙を突いてね。だから私とハーゼちゃんでゲルズゲーを誘導しつつ撃破。その間にアスナちゃんはローエングリンの攻撃を避けつつ、バスターライフルの最大出力でローエングリンゲートを破壊して」

「うむ、了解した。……しかし、ここまでくると壮観じゃのう」

 

 ヤヤは上空からその様子を眺めるが、巨大な化け物(ゲルズゲー)と最強の()は言葉の通り壮観であった。

 ゲルズゲーは付かず離れずの距離を取りながらローエングリンを守護しており、ハーゼとローザ、アテナとレッドデスティニーの動きが勝負の決め所となる。アスナはその瞬間を逃さぬ為に、バスターライフルをいつでも撃てるように構えておく。

 

「それでは、頼んだぞ二人共」

「「了解!」」

 

 傾斜となっているローエングリンゲートは、下から攻めるのは本来不利である。しかし大型のゲルズゲーはいくら走破能力が高かろうと小回りが利かない。そして運動性能の高いアストレアやエクシアが大本のアテナは、例え傾斜のある渓谷だろうとその運動性能に揺るぎはない。

 

「私が引き付けながら誘導する! ローザちゃん頼んだよ!」

「合点承知! ……行くわよレッドデスティニー! EXAMの力、見せて上げる!」

 

 真正面から飛び跳ねるようにゲルズゲーへと近付いたアテナとは別に、レッドデスティニーは迂回する形でゲルズゲーに近付く。前面にしか陽電子リフレクターがないのなら、後ろから倒す。

 

「単純明快、良いじゃない!」

《EXAM system STANDBY》

 

 EXAMの恩恵を受け、レッドデスティニーは赤い炎を噴きながら更に加速度を増した。ビームランサーを前面に突き立てては、ローザは突貫を試みようとコンソールを押し出す。

 その間、アテナはレッドデスティニーが追い付くまで、陽電子リフレクターに阻まれることを前提として攻撃する。所謂、時間稼ぎだ。当然それをCPUが理解出来る筈もなく、二人の思惑通りに見事挟撃は成功した。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 ローザの叫び声と共に、レッドデスティニーのビームランサーが背後からゲルズゲーの腹部を貫く。やがてゲルズゲーの眼から光が消え、その胴は地に着いて沈黙した。

 これにて驚異となる化け物は排除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――時間を戻して、二人と別れたアスナは。

 

「対空砲火がちと厳しやしないか。……じゃがその程度、儂には当たらぬ!」

 

 ゲルズゲーが離れたことによって、半球状の装甲に覆われた対空機銃が姿を表す。そのまま一斉に吐き出された弾丸の雨霰を僅かな時間で避けきるアスナの技量は、誰の眼から見ても流石と言える。まだ始めて数週間とは言えない、まさに天才っぷりを発揮していた。

 しかしそこへ標的であるローエングリンの砲がこちらへ向く。その途端に嫌な予感しかしなかったアスナは、直ちに機体を旋回させた。直後、ローエングリンから強力な陽電子砲が放たれる。範囲が広い故に躱すのに苦労する――対空砲火も相まって“攻撃は最大の防御”を体で表している――が、アスナにとっては些細なことだった。

 

「面倒なヤツじゃな、全く。致し方あるまい、――機体が先か、ローエングリンが先か、試させてもらう」

 

 避けることを諦めたアスナは、いつでも撃てるようにと粒子を込めていたバスターライフルを、両手で構える。狙うは当然、ローエングリン。決めるは当然、一撃で。

 

「さぁ行くぞフェングファン! ここで白星を飾って見せようではないかっ!」

 

 粒子が更に充填され、バスターライフルの銃口から黄色い光が漏れ始める。対空砲火はフェングファン一点を狙い、集中して攻撃をしていた。その様子は奇しくもエンドレスワルツの終盤にて、バスターライフルを構えてシェルターを撃たんとするウイングゼロのようでもあった。

 猛火の中、機体から装甲が剥がれつつも、アスナは決して粒子の充填を止めることはない。

 

「かっかっか。エイト、気を付けろというのは余計だったかもしれんのう。勝利の女神は生憎、こちらに微笑んだようじゃからな!」

 

 アスナはそう言ってバスターライフルのトリガーを引く。バスターライフルが耐えられる限界まで充填した粒子は、黄色いビームの奔流となってローエングリンを襲う。しかしローエングリンもまだ終わらぬといった様子で、再び火を噴き返した。

 バスターライフルと陽電子破城砲、二つの砲火が押し合いへと発展する。

 

「ユウキの作るガンプラがこの程度で押し負ける訳がなかろう。……底力を見せてみろ! フェングファン!!」

 

 アスナの言葉に呼応するかの如く、フェングファンの両眼が強く光を放つ。バスターライフルに供給される粒子量を増やし、駆動系に回していた粒子すらバスターライフルへと回す。

 次第に高まっていく粒子量はバスターライフルの許容限界を超え、ついに爆発してしまう。……が、アスナもそれで諦める質ではない。まだ、まだ放ち続ける粒子の束を、崩れていく機体で全力で抑えながら、ローエングリンを押し返さんとトリガーを精一杯強く引く。

 ローエングリンの方も出力に耐え切れずにか、電流が迸り、各所がオーバーロードを起こして爆発する。ようやくして途切れた陽電子砲を押し退け、バスターライフルの一撃がローエングリンゲート一帯を破壊する。

 

 爆発が収まるとそこには、巨大なクレーターが残るだけで、先程の要塞と見間違うかのガルナハン基地は消滅していた。

 

「任務………完了……」

 

 

 

《MISSION END》

 

 

 




「後何話続くの?」とか言う幻聴が聞こえてきそうな今日この頃。どうもカミツです。

ドライヴレッドの方にも同じレベルアップ・ミッションはありましたが、あくまでパラレルワールドなので、マサキがエイト君の記録を更新しても問題ないのです(開き直り

ウイングガンダムフェングファンの説明(もとい設定)……と行きたいところですが、今後の為に持ち越しです。
その代わり今回は、第一章終盤のアテナについてです(今更感


ガンダムアテナ
武装:GNインパルスランサー(GNライフル)、GNカタール×2、GNブレード×2、専用シールド「エイジス」(GNバズーカ)
特殊装備:強化外装甲
特殊機能:トランザム、???
アテナの準強化形態。マサキの特性に合わせて防御力と速度を向上させている。
武装はショットランサーを模してジャンクパーツからできたGNインパルスランサーに、両膝のGNカタール、両腰のGNブレード、そして左腕に専用シールド「エイジス」を装備する。エイジスにはGNバズーカが追加されている。
今回最も特徴的なのは、全身に装着した「中世の鎧」を模した追加装甲「強化外装甲」。追加装甲全てが多層構造になっており、並々ならぬ防御力を持つ。また脛や脹ら脛、両肩に姿勢制御も兼ねたスラスターを装備しており、追加装甲分の重量をものともしない運動性と瞬発力を持っている。
カラーリングは変わらず全身純白。


コイツが登場したのが去年の十二月……結構長い間、設定を放置してたなぁ、と染々思います。その間にこれだけしか進んでないのは私のマイペース精神の表れなのか。
ではまた、ノシ

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