ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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Collaboration EPISODE-3:対戦、ドライヴレッド 後編

 V8とゼロ。

 この二機の応酬戦には、やや離れた位置からスコープを覗くジム・イェーガーR7……つまりナノカも感嘆していた。

 

「へぇ、ヤヤは初心者だからと侮ってはいけなかったかな。流石は夜天嬢雅家……と言ったところだ」

 

 ナノカは口角を上げてその様子を眺めていた。まさに高みの見物だ。

 勿論、ただ覗いている訳でもなく、ナノカはアテナを探しつつ二機の様子を観戦していたのだ。あの白い機体は、このビル群ではかなり目立つ。

 ――多分彼女もそれを解っているのだろう。だからこそ強い。

 微笑みながらそう思ったナノカは、再びヤヤを狙う。

 

「さて、ここで君の舞台は閉幕だよ、ヤヤ」

 

 直ぐに現れるかと直感したナノカは、大型対物ビームライフルことGアンバーを構え直す。――標的はヤヤのガンダムゼロ。

 白とオレンジというのは派手過ぎやしないか。そう思うナノカは、自分も言えた義理ではないなと笑ってしまう。

 

 

 

 

 

 近距離で競り合う二機は、まさに「速い」の一言に限る。とにかく速い、と言うのはやや言い過ぎかもしれないが、傍からはそう見えてしまう。実際にナノカも見て最初に思ったことがそれであるが、この際は置いておこう。

 人に向ける銃や剣を習ったヤヤは隙さえ与えずに敵を葬る為に、バトルを通して培った実力を持つエイトは自分の見出だしたスタイルに合わせる為に、それぞれが速さを求めた。

 その結果がこれである。

 

「その程度、儂にでも捌けるッ!」

「まだだ! まだ行ける!!」

 

 斬りかかって、鍔迫り合いを起こし、斬り結び、離れ、そしてまた斬りかかる。終わらない斬り合い(キリング ワン アナザー・エンドレス)を続ける二人には、誰も入る余地がない。――その筈だった。

 

ビュゥゥゥン!!

 

 ただ一筋のピンク色の粒子が、ガンダムゼロの眼前を通り過ぎる。

 

「何奴!?」

 

 寸で飛び退いたゼロは、左手にバスターライフルを持つ。その先に見えたのは、Gアンバーを抱えて立ち上がるジム・イェーガーR7(赤い狩人)だった。

 

「先の爆弾魔はあの小五月蝿い奴として、貴様は……ナノカじゃな?」

「はっはっは、ビス子を小五月蝿い奴呼ばわりとは、流石だねヤヤ。年が離れていようと態度が大きい」

「年など下らぬものじゃ。相手が偉かろうが弱かろうが、天皇も民衆も所詮は皆同じ人間。変わらぬものに態度を変えたところで何も変わりはせんよ」

「確かにね。……でも、年上ぐらいには多少なりとも敬語を使ってほしいものだよ」

 

 互いに睨みを利かせながら、火花を散らす。そんな中、呆然としながら聞いていたエイトはハッとする。

 今なら行けるのではないか、と。

 V8がビームザンバーを構え、隙を見せたヤヤに今度こそ突貫する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「くっ、小癪なっ!」

 

 咄嗟にヤヤはビームサーベルを選択して迎え撃つ。

 ビームシールドですら容易に断つビームザンバーですら、ガンダムゼロのビームサーベルで受け止められてしまう。

 しかしその隙にナノカがGアンバーをゼロへと向けた。流石の二対一にはヤヤも劣勢を強いられる。

 こうなれば――。

 ヤヤは何を思ってか、左コンソールの装備スロットから「SP」を選択する。

 

「二対一では儂も不利というものじゃ。ならこうするしかあるまい。……儂を導け、ゼロッ!」

 

ピピピピピ……。

 

 胸部クリアパーツが発光し、ガンダムゼロに搭載されたシステム、ゼロシステムが作動する。

 そっと目を瞑り、ヤヤは意識を集中させる。

 

 簡単な説明だが、その状況下で考えられる戦術パターンを想定させ、最も最適な選択をするのがゼロシステムの役割だ。そこにはパイロットや味方の安全など含まれない。それを再現するのに、ユウキも手間を掛けたそうだが。

 要するに勝つ為だけの選択をするだけだ。

 

「……フッ、やはり危険な道を行かねばならぬか。面白い。ならばその道、この儂が突き抜けてやる!」

 

 ゼロの瞳が強く光り、次の瞬間、V8を押し返してタックルする。それと同時にGアンバーから放たれたビームも一太刀で斬り伏せ、ジム・イェーガーへと空を蹴り突き進む。

 一踏みで半分の距離を詰め、更に詰め寄らんともう一踏みする。ナノカも一瞬焦りつつもビームピストル二丁に切り替えて乱射する。

 乱射したビーム弾はゼロの装甲に当たりつつ、装甲を削っていく。一部にはフレームが見え始めるも、ヤヤはそのままビームサーベルで袈裟斬りする。

 無茶ぶりをかますヤヤにナノカは戦々恐々とするが、華麗に躱してはビームピストルを絶えず撃ち込む。

 

「ナノさん!」

 

 エイトが叫ぶ。

 しかし連絡を取れるほどの隙間もないのか、そのままナノカのジム・イェーガーとヤヤのガンダムゼロは格闘戦へと縺れ込んでいった。

 エイトはその姿を見て、自分も応戦しようとするが、背後からビームが飛んでくる。

 

「うわっ?!」

 

 驚いて躱すと、純白の機体が緑の粒子を撒き散らしながら飛んできた。先程ナツキを倒した、ガンダムアテナ――つまりはマサキだった。

 素早いステップで近付いては左手のGNソードⅢが展開、ソードモードで切りかかってきた。

 戸惑うエイトを余所目に、マサキは構わず切り上げる。一撃をビームシールドで咄嗟に受け止め、今度はこちらの番と言わんばかりにV8がビームザンバーを振り上げて縦一文字に切り下ろした。

 無論、それで攻撃を受けるほど柔でもないマサキは、更に攻勢に出ようと、GNソードⅢをラックに戻してはぶら下がった右腕を引き千切る。肘から千切れた右腕はV8の顔面を叩き、再び叩く。

 殴れば殴るほど画面が揺れ、エイトは激しい嘔吐感に苛まれる。いくら画面越しとは言え、脳が激しい揺れだと感じれば平衡感覚がおかしくなり、嘔吐感が醸し出されるわけだ。

 

「うぷっ……気持ち悪い……」

「兜割りっ!」

 

 極めつけにV8の脳天を叩きつけ、アテナは右腕を放り棄てる。

 空中でふらつくV8はまさに格好の的。ならば後は簡単だ。

 

 

 

「ヤヤちゃん、バスターライフルよろしく」

「……こんな時にか!?」

「アテナの粒子量が少し心許なくて……」

「仕方ないのう」

 

 

 

 テヘリと舌を出すマサキに、ヤヤは溜め息を吐きつつ、ビームサーベルで斬り結びつつも強引に押し切り、上に放り投げた後、バスターライフルをバックパックから取り出す。

 そのまま円を描いて落ちてきたビームサーベルを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 バスターライフルを構えながら、ヤヤはブレる照準に苛立ちを感じつつもトリガーを引いた。結果、あまり狙いを付けずに放つと、V8を巻き込みながら横薙ぎにしてしまい、直ぐ側に居たアテナも巻き沿いを食らってしまう。

 

「「うそっ!?」」

 マサキとエイト、二人の声が重なる。

「………あ」

「……ヤヤ、君って人は……」

 

 バスターライフルから光が消え、V8とアテナが一つ残らず消え去った瞬間、その体勢のまま、僅かな静寂が訪れる。

 

「スマン、片足立ちは苦手での。……照準が僅かにずれてしもうた」

「そんなことを言ってる暇があるのなら、私と戦ってほしいかな」

 

 やれやれとジム・イェーガーが首を振ると、ゼロがバスターライフルを投げ捨てて、ビームサーベルを再び手に持たせる。ナノカはその様子に一騎討ちでもしようと言うのかと思った。

 

「いや、勝負など直ぐに片が付こうて」

「……その心は?」

 

 ナノカの問い掛けに、ヤヤはビームサーベルの出力を切る。ビームサーベルからビームが消え失せ、ナノカは脳裏に嫌な予感を浮かべてしまった。

 

 

 

 

 

 ――W系列のガンダムには、唯一と言って良いほど同じ機能がある。

 

 

 

 

 

 まさか。――そのまさかである。

 ヤヤはクスクス笑いながらナノカに言った。

 

「武士とはな、散るときには潔く散るときもあるのじゃよ、ナノカ。それを忘れてはならぬぞ」

 

 その答え()にナノカは思わず吹き出してしまう。

 

「はっはっは! してやられたよヤヤ。私達の敗けだ」

「……ふむ、キッパリとしない勝負など、勝負の内には入らぬ。ただの戯れじゃよ」

 

 その言葉を最後に、ナノカとヤヤはニカリと苦笑しつつもバトルを閉幕させた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンダムゼロの自爆で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《BATTLE END》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトル終了後、六人は広めな休憩スペースへと足を運んでいた。

 余りに呆気ない勝負に四人は、手にした缶ジュースなどに視線を落としていた。

 そんな中、負けず嫌いなアイカが口を開く。

 

「何でああもあっさりと決着が着いちゃったの? 私の苦労はなに?」

「あ、アイカちゃん……」

 

 プルプルと震えるアイカにマサキは手を置こうとするも、「ガバッ!」と顔を上げたアイカに驚いて体が(すく)む。

 

「結局、何の為に私のレッドデスティニーは散っていったの!?」

「いや、一番スナイパーを向かい撃てるのはアイカちゃんだけだったから……」

 

 しゅんとしながら答えたマサキにアイカは慌てる。それはそれで良いのだが、エイトとナツキも似たような状況になっていた。

 

「クソッ! 何でチビにオレサマが負けたんだァ!」

「まぁまぁ、落ち着いてくださいって、ナツキさん」

「……あァ、ムカつくッたらありゃしねェぜ。ンで、赤姫よォ」

「何だいビス子、藪から棒に」

 

 本当に藪から棒に聞いてきたナツキに、いつも通りの表情で受け答えたナノカは、ジム・イェーガーのパーツをくっ付けていた。

 それを片肘付きながら見ていたナツキが更に続ける。

 

「テメーがエイトに戦わせたかッたッてのはァ、そこのチビ助だろォ?」

「ビス子、人にチビ助なんて言っちゃ失礼だろう。……でもまぁ、ビス子がそこまで気付いていたのには驚きかな」

 ナノカは心外そうに、それでもやや微笑みながら答える。

「直ぐに落とされちまッたがなァ。でもアイツ、本当に初心者かァ?」

「君が最初に初心者だと言ってたじゃないか」

「ウッ」

 

 反撃を受けたナツキは少したじろぐ。ナノカはそれも気にせず、「ズズズ……」とお汁粉を飲んでいた。これから暑くなっていくと言うのに、温かいお汁粉とはこれ如何に。

 しかし反撃を受けたままでは示しが付かないわけで、更にナツキは問い詰める。

 

「で、本当に初心者なのかよォ?」

「そりゃあ初心者だよ。私が一番分かってる。彼女、マサキさんは異常なのさ」

「異常だァ?」

 

 顔を顰めるナツキに無理はないとナツキは笑う。

 

「マサキさんは、よくネット上で話題になってたりしているけれど、その実情は誰も知らない。けれど彼女には、勝てないことを前提として戦うしかない」

 

 淡々と言ってのけるナノカの言葉に、ナツキはその鋭い目を丸くせざるを得なかった。目の前の人物が有り得もしないことを言い出したのだ。

 

「オイ赤姫ェ」

「何だい?」

 ナツキは口をへの字に曲げつつ間を置いて言った。

「テメー、頭でも打ッたかァ?」

 

 その意外な問いにナノカは面食らった顔をする。しかし次の瞬間には口から吹き出しており、挙げ句には盛大に笑い始めた。

 

「なッ、なに笑ッてやがる!」

「……いや、面白すぎて笑ってしまっただけだよ。すまない。私は何も冗談など言っていないよ、事実だ」

 

 ナノカの言葉にナツキは愕然とする。この見た目が中一と変わらない小さな少女に、負けること前提で戦えと、そう言われた。それが事実かどうかはさておいて、ナツキは更に問う。

 

「まずはなァ、何でこんなチビに負けること前提で戦えッてことだ」

「そうカッカしなくても良いじゃないか、ビス子。彼女は存在自体が特殊だから、私もあまり詳しくはないんだ。知ることが出来たのは彼女のゲーム上の名前と本名だけさ」

 力無さげに呟いたナノカに、ナツキは呆れた顔をする。

「赤姫がそんなこと言うだなんて本ッ当に珍しいぜ。珍しすぎて片腹痛ェな」

 

 そう言いながらも、エイトと話すマサキを見つめるナツキ。ナノカもそれに釣られて見つめていると、マサキが目を輝かせてナノカに訊ねてきた。

 

「ナノカさん! GBOなんてゲームがあるんですか!?」

「……流石はゲーマーさんだね。あぁあるとも。少しお金は掛かるが、それに見合う楽しさではあるよ」

 

 ナノカはGBOの説明を出来る限りした。それを熱心に聞くマサキもマサキだが、やはり、ナノカもナノカなんだろう。そうナツキは思った。

 GBOがどんな世界なのか、どういった楽しさがあるのか、自分達がドライヴレッドというチームだと言うことも教えたナノカは、自分の言葉で言うだけ言えて満足だった。

 

「どうだい、楽しそうだろう? “勝利の女神(アテナ)”」

 ピクリと僅かに反応すると、マサキは満面の笑みで答えた。

「えぇ、とってもです! 却ってやりたくなってきましたよ」

「それは良かった」

 

 ナノカはクスリと微笑むと、そっと席を立ち上がる。

 

「あれ? ナノさん何処へ行くんですか?」

「うん? ……決まってるだろう、帰ってGBOさ」

「えっ!? もう帰るんですか!?」

「じゃあまた会おうか、今度はGBOで戦えることを楽しみにしてるよ、マサキさん」

「ちょっと、ナノさ~ん!」

「エイト、アイツは話を聞かねェッて自分で言ッたの忘れたかァ? ほら行くぞ」

「あ、ナツキさんまで……それじゃマサキちゃん達、またね!」

 

 座っていたチーム「ドライヴレッド」が立ち去ってから、マサキは手元のアテナを見て笑う。本当だ、本当に楽しみだ。そう思うとこの感情を抑えられなくなる。

 ヤヤもアイカも、そんなマサキの様子を見て苦笑しあっては立ち上がり、手を差し伸べる。

 

「マサキ、儂らも帰るとするぞ」

「早く買って帰りましょ?」

 

 二人にそう言われて、マサキはテヘヘと笑った。

 

 

 

 

 

「うん! ゲームは皆で一緒にやる方が楽しいもん!」

 




まだまだ続くよコラボ回。
どうもカミツです。
何か諸々の都合を考えたら三連続出来ないかもしれない(確信
……と言うわけで(何が「と言うわけで」だ)三連続は諦める事にします(キッパリ

では今回はヤヤが自爆させたガンダムゼロと、アテナの追加装備について説明をば。


XXXG-06Z ガンダムゼロ
武装:ゼロバルカン×2、マシンキャノン×2、バスターライフル、ゼロシールド、ビームサーベル×2
特殊機能:ゼロシステム、自爆
「RG ウイングガンダムゼロ EW版」のフレームをベースにTV版(つまりはプロトゼロ)に近い形状に改造された機体。配色は、急遽ヤヤの予備機となった為、本来のカラーリングとかけ離れたオレンジと白に塗装されている。
武装は威嚇・牽制用のゼロバルカンに、武器破壊等に使われるマシンキャノン、ゼロカスタムのものを出力調整した一丁のみのバスターライフル、純粋なシールドとして機能するようになったゼロシールド、両肩に格納されたビームサーベルを装備している。またバスターライフルとゼロシールドはそれぞれバックパックにマウントすることが出来る。
本来ユウキが鑑賞用に製作していたもので、精巧さを極める為にリアルグレードが採用されている。その為可動範囲は広く、装甲分割やディティールの増加により性能は現行のHGを軽々と凌ぐ程。しかし本来バトルを想定していないので、装備がバスターライフル以外急造品になってしまっており、格闘戦はやや不得手とする。それでも相手と互角に渡り合えていたのは、やはりヤヤの技量によるものだろう。
またRGを選択した理由にはゼロフレームの再現の為、と言う理由もあり、フレームだけになっても戦える利点がある。
またミナツによりリデザインされている為、見た目がやや丸みを帯びており、TV版に限りなく近いデザインでありながらEW版のような流線形のシルエットをしている。

……つまりは製作した物をヤヤが勝手に私物化したもので、泣く泣く二号機が製作されているのは言うまでもない。


アテナ専用バックウェポンラック
装備可能武装:GNビームサーベル×2、GNソードⅢ、GNインパルスランサー
ユウキが片手間に作った多機能ウェポンラック。「HG アヴァランチエクシアダッシュ」のバックパックを使っている為、使うには背面装甲ごと替える必要がある。
実際は基部はそのままで、GNソードⅢとGNインパルスランサー用のジョイントを取り付けたもの。その他ジョイントを噛ませれば、他の装備をマウントすることも可能である。
余談だが、重量の関係で重心が後ろへ傾く場合もある所為か、マサキはこれを利用して背後へバク転している。


以上、説明でした。ガンダムゼロの設定が案外細かくなってしまい、書いている私までも驚きです。再現するのは流石に難しそうだなぁ(笑)
さて次回からは、マサキ達がGBOをやるようですよ?
ではまた次回、ノシ

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