EPISODE-26:俺、ここに帰ってこれたんだな
全国レディースガンプラコンテストも無事に優勝し、私達は学校側からの許可も得て、静岡にて羽を休めることになった。ユー君だけ、実家に戻るそうで早朝に荷物を持って出ていってしまった。
女子だけしか残らなくなった模型部は、それぞれホテルの部屋で悠々自適にしていた。そりゃあもうガールズトークに他ならないけど、私は一人ベッドの上でノートパソコンを開きながら、今日ものんびり提督業に励みます。
「――でさ、この前見た女の子の格好が……」
「ホントにっ!?」
「私も見たかったわ~」
「ふむ、儂も見たかったぞ」
皆の楽しい会話をBGMに、パソコンの画面には提督室と共に加○さんが映る。我が栄光の第一艦隊の旗艦を務める最古参の一人です。でも今日は先日新しく迎え入れたビス○ルクさんに交代してもらう。レベリングの為なんです、○賀さんごめんなさい。
……今更だけど、ビ○マルクさんが知り合いのお姉さんにしか見えない……。
「資材をほぼ擲ってようやく手に入れたビスマ○クさん……他のドイツ艦はもうケッコンカッコカリしたんだ、後は……お姉さまだけ!」
因みに夢は第一艦隊をドイツ艦で埋めることです。……ってそんな事は関係無いや、デイリー回そう。
■
春を感じさせる日の暖かさにすっかり変わらない町並みと山並みが、俺にとっては苦笑を隠せずにいた。帰ってきた、静岡に。
俺はバスを途中で下車する。本来なら少し奥の停留所で止まるが、町並みを見ながらと言う理由がある。
「……変わってないな、この町は……っ!」
俺は思わず口許を抑える。ノイズと共に脳裏に何かがフラッシュバックする。赤い景色だ。夕焼けよりも赤い。……何だと思って余計に思い出そうとすれば、本能的に体が拒絶した。それに甘えて、俺は思い出すことを止めた。
「何だったんだ……?」
取り敢えず考えててもしゃーない。俺は改めて家に向かって歩き出した。
この地は一般的に竜爪と呼ばれ、その山々に挟まれた形は案外綺麗なものだ。その奥に、ヤヤの実家であり夜天嬢雅家本家が存在する。その近くには俺の生家があるんだ。この前再会したホノカとリリカも、そこに居るだろう。
「こうも久々に歩くと、若干坂になってるってことを思い知らされるねぇ」
ある意味ベターな感想を述べてみるも、道程はまだ遠い。恐らく三十分近く歩けば着くだろう。――そう思って甘く見積もってると四十分も掛かってしまった。
「くっそ、時代の変化を甘く見てたぜ……! まさか道が若干変わってるとはな!」
久しい道なのに所々変わってるのを見てると、「進歩したな」と感嘆しながら思うのと同時に「変わっちゃったんだな」と寂しく思うこともあった。一長一短と言ったところか。
ハハハと軽く笑ってる時に再び吐き気がした。
「ッ!」
またしてもフラッシュバックする。今度はさっきと場所が違うも、赤々としていたのに変わりはなかった。体が硬直したと思ったら直ぐに動けるようになる。
「何だってんだよ……!」
謎の風景にイライラを募らせつつも、頭を横に振って歩き出す。
それから数分もしない内に、俺は自分の家に帰ってくることができた。普通の家よりも一回りか二回り程大きい家の門の表札には、ちゃっかり「芳堂」の二文字がある。一安心しながらも、俺は本当に帰ってきて良かったのかと却って疑問に思うのだった。
しかしそれでも帰ってきたのなら寄る以外他にない。俺は躊躇わずに玄関の引き戸を開けた。
「ただいまー!」
しかし屋内から返事はない。誰も居ないのかと思ったのも束の間、直ぐ様ドタドタと慌ただしい足音が聞こえた。
「「ユー兄ぃ!!」」
案の定と言うかなんと言うか、ホノカとリリカの二人だった。そのまま走ってきては、ホノカは俺の右側に、リリカは俺の左側に抱き付く。燥ぐその姿は懐かしくも可愛いと思ってしまう。
そんな二人を降ろして玄関の戸を閉めた後、靴をキチンと脱いでから家に上がる。そのまま自分の部屋に行くと、家具とかその他諸々、全く変わらないままで置かれていた。……しかし新品同様に綺麗のままで。
そんな母さんの細かな優しさに、俺は感謝すべきだなと改めて思った。そこで俺は、傍から一向に離れようとしない妹達に尋ねる。
「ホノカ、リリカ、母さんは?」
「お仕事だってー! ボクとリリカ、ママにユー兄ぃ帰ってくること教えてないんだ」
「きっと帰ってきたらママも驚いてくれるよね?」
二人はやっぱり楽しそうにしながら、俺の手を引いてきた。
「カグ姉ぇにも教えてないから安心して!」
「お、おう、そりゃ助かる」
……そういやアイツの存在忘れてた。見付かったら色々とマズイ気がするぜ。
そんな時に限ってタイミング悪く誰かがインターホンを押す。俺はそれに反応して、ホノカとリリカだけじゃ危ないと思い、代わりに俺が出ることにした。
「ホノカ、リリカ、ここで待ってろよ? 誰か判んないんだから」
「「うん!」」
相変わらず無邪気なこった。そんなことを頭の片隅で思いつつ、俺はそそくさと玄関に向かった。
再びインターホンを鳴らされて俺は違和感に気付く。それと同時に謎の悪寒が身体中を駆け巡った。
しかしインターホンの音は止まらない。何故かそれを聞く度に心臓の鼓動が速くなってくる。立ち止まっててもその鼓動がハッキリ分かるほど。
――もう一度インターホンが押される。こんな慎ましやかで落ち着いたインターホンの音なんて、俺の中じゃ一人しか考えられなかった。
そして俺の頭にはひっきりなしにアラートが鳴り響いていた。……ひっきりなしになんて今日日聞かねぇな。
俺は恐る恐るながらも、そっと玄関の戸を開けた。そこには亜麻色の髪をロングにした巫女装束の少女が籠……と言うよりバスケットを手に下げて立っていた。
そんな少女に俺は目が釘付けになる。少女もまた俺に目が釘付けになる。目と目が合うとはまさにこのことだろう。
「…………どちら様で?」
俺は直ぐ様思考を巻き戻し、彼女を見ながらそう尋ねた。答えが分かりきってるとしても、俺は現実から目を背けたいが為に尋ねた。
「えっと、か、
俺は彼女の名を聞いた後に理解してしまう。これが現実なんだと。現実は非常だと。
そうと分かったら瞬時に戸を閉める。「お引き取りください」と丁寧に言って。
そんな俺の突然の行動に、思わず彼女は驚いて戸を叩いた。
「ちょ、ちょっと待ってください! ここ芳堂さんのお宅ですよね!? 私、間違ってませんよね!?」
「間違ってない! 間違ってないが、君の来たタイミングがいけないのだよ!」
俺は必至に戸を抑える。しかし彼女とて引き下がらない。「無礼を承知で失礼します!」と何やら呟いてから、戸を離れていった。俺は一息吐くが、彼女が向かった先は裏口だ。
「……もうダメだ、お仕舞いだ……」
その場でガックリ膝を着くと、想像通り彼女が中に入ってくる。無念なり。
■
そうして時は流れて居間に至る。……じゃない、今に至る。
ホノカとリリカはカグヤが持ってきたバスケットの中身――どうやらお手製のサンドイッチらしい――を食べていた。対する俺とカグヤは机を挟んで対面に座っていた。
するとそれを見たホノカが、笑顔で余計なことを言衣だす。
「ユー兄ぃとカグ姉ぇ、まるでお見合いしてるみたい!」
「「えっ!?」」
それを聞いてどう返したものかと思うが、当の彼女は何やらぶつぶつ呟いていた。
「……私にはユウキさんと言う大事な婚約者が居るんです、それなのに他の男性とお見合いなんて……私、許しません!」
……誰を許さないんだよ。と言うか俺はいつ婚約者になりやがりましたか。
「あー、えっとカグヤさん?」
「ほえ? あっ、はい、何でしょう?」
なんて淡白な返し方……じゃないや、俺はどうしてホノカとリリカにサンドイッチを作ってきたのかを聞いてみた。
「えっと、前はユウキさんが作り置きしてくれてたんですが、ユウキさん、四年前に何処かへ行ってしまって……それ以来、私が代わりに作ってあげてるんです」
そのユウキさんが俺なんだが、と答えたい気もするが置いておこう。後々の反応が面白そうだ。
するとサンドイッチを食べ終えていたホノカが、満足そうに指を舐めつつ、カグヤに対して素直に思ったことを言っていた。
「カグ姉ぇ鈍いなぁ、ボクさっき何て言ったと思う?」
「ほえ? さっき、ですか?」
「うん」
するとカグヤは一瞬考える素振りを見せてから、顔を赤くしつつ答えた。
「ま、まるでお見合いしてるみたい、と」
うん、一字一句間違えてはいないが問題はそこじゃない。当然、期待した答えじゃなかった為に、ホノカも顔をしかめる。
「その前だよぉ」
「えっ? ……えっと、ユー兄ぃとカグ姉ぇって呼びましたよね? ……あれ、ユウキさん何処に居るんですか?」
疑問に疑問が重なって、彼女の頭は混乱する。
正直、俺は頭が痛い。何だこの馬鹿正直な娘は。将来誰かに騙されるぞ。
「目の前に居る男性はだ~れだ?」
リリカが実に嬉しそうに、楽しそうにニコニコ笑いながら言うと、カグヤはようやく答えが導き出せたらしい。
疑問に満ちていた顔が、次第に明るくなる。……さて、そろそろ逃げるか。
「ユウキさんなのですね! カグヤはどれだけ待っていたことか……待ってくださいユウキさん!」
「待てと言われて待つ人間が居るかッ! 三十六計逃げるに如かずってなぁ!」。
前言撤回、そこまで面白くない。と言うか貞操の危機を感じるぞ!
相手は巫女服だ、さぞ走りづらい筈! ……と、そう考えていた時期もありました。
「ほぐあっ!?」
「捕まえましたよ、ユウキさん!」
俺の体育の短距離走タイムは五秒台だった。俺も半分引き籠もりだが、それなりに鍛えてるからこれぐらい造作もない。……しかし、まさかのカグヤはそれを上回った。しかも巫女服で。
「えへへ、念願のユウキさんです!」
ええい、こんな状況なのにその笑顔可愛いな!
「カグヤ、別に俺はお前に会いに帰ってきた訳じゃ……ってなに匂い嗅いでんだよ!」
するとカグヤは一瞬だけ鋭い目をして、何やら嗅ぎ慣れない匂いでも感じたのか、ふと顔を上げる。
因みに体制としては俺が仰向けになって、その上にカグヤが乗ってる感じ。……今大切なのはそこじゃない。
「知らない女の匂いがいっぱいします。一人はツクモさんですが、他は知りません。後の四人は誰ですか?」
「お前は犬かっ! 全員ただの部員だよ!」
いや、ただのとは言えないか、と内心付け足す。
「犬じゃないです! カグヤは、ユウキさんが他の女性に寝取られないか心配なだけです!」
「寝取られって、俺はいつからお前の夫になった!?」
「それは……生まれた時から?」
「何で疑問系!? しかもそんな時からって怖いわッ!」
何だこの会話は。話してて自分でもおかしくなってくる。ああもう何が何やら……。
首を上げてるのも疲れた俺は、そのままパタリと頭を床に置く。
「ふー、頭痛くなってきやがった」
「膝枕しましょうか?」
「……いや自分の部屋で寝る」
「それならお供しますね」
「いやしなくて良い」
どさくさ紛れに何を言ってるんだ。朝だったら完全にアウトだったぞ。意識がハッキリしてないし。
俺は起き上がってからカグヤを退かして、早速自分の部屋に向かう。隣でぷくーっと頬を膨らませるカグヤは、拒否したのにそれでも俺に着いてくる。
結局俺の部屋まで着いてきてしまった。
「何で着いてきた」
「寝るのならお供しようと……」
「夢の中にまでお供しなくて良い。――と言うか、家は大丈夫なのか? 戻らなかったら神主さん怒るだろう」
「別にそんな気遣いは大丈夫ですよ。今日はこれと言って何もありませんから」
大体頭一個分くらい背の低いカグヤは、俺の腕をそっと抱き締める感じで、目を閉じながらそう言った。
「私が寝てる時に起きてしまったら、変な気を起こしても良いんですよ?」
「起こすわけないだろ!」
余計に気が狂うな……これが数日間も続くのか。
そう渋々思いつつ、俺は自分のベッドに横になった。カグヤはドアの前で深々とお辞儀しながら入ってきた。そして恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、俺の隣に添い寝する。後ろから抱き締められる感覚がして、更に背中に柔らかいものが当たっていた。しかし特に反応を示さない俺は、気にせず携帯でメールを打っていた。「誰宛に?」と聞かれれば「先輩に」としか答えようがない。
「ユウキさん」
「何だ?」
俺は素っ気なく返す。
「ユウキさんは向こうの学校で、何をしているんですか?」
「模型部立ち上げて、普通に楽しくガンプラバトルしてるな。今回は大会の都合でこっちに来たけど」
「……部員の中には、殿方とかいらっしゃるのでしょうか」
「いや、俺一人だけだが?」
「ほえ?」
「へ?」
カグヤと俺は同時に疑問符が浮いた。
「そ、それじゃあ、他の女の匂いがするのは、他の部員が女性だけだからですか!?」
「さっき言った筈だが……」
するとカグヤは「このカグヤ、一生の不覚です……」と泣いていた。何故泣く。
しばらくして泣き止んだのか、さっきよりも抱き締める地からが強くなり、自然と曲がっていた背中が伸ばされていた。
「ユウキさんは私だけ見てれば良いんです。他の女を見る必要なんて無いんです」
「どうした急に」
「ユウキさんは、私のこと(女の子として)好きですよね!」
「まぁ、確かに(幼馴染みとして)好きだぞ」
何か激しい食い違いを感じたが、カグヤが一人でに喜んでるから良しとするか。……と言うか背中越しからじゃカグヤの表情なんて判らんがな。
取り敢えず、今日ここへ来て分かったことはただ1つ。
「俺、ここに帰ってこれたんだな」
皆さんメリークリスマス!
どうもカミツです。
今回はいきなり二章目突入で、早速新ヒロインが登場しました!
今章は一章と比べて短くなると思います。どれくらい短くなるかは想定してませんけどね!
今回はここまでです。
ではまた、ノシ