儂、夜天嬢雅 八々は、聖蘭学園の正門にて友人であるマサキを待っておった。今日は授業も午前で終わり、午後は暇じゃったしのう。これを良い機会と思ってマサキに町を案内してもらおうと思っておる。
「……友人なぞと出掛けるのは初めてじゃが……こんな格好でよかったのかのう?」
我が格好を見回してみると、やはり不安にはなる。言うのも恥ずかしいが、儂に友人など出来たことがない。……ユウキ? 彼奴は別じゃ。
うぅ、マサキ、早よう来んかのう。
「おーい、ヤヤちゃ~ん!」
「む? マサキか」
「ゴメン! 少し遅れちゃった」
「大丈夫じゃ、気にすることはない」
駆け足で来たらしいマサキは、多少の息切れをしつつも笑顔で来よった。小柄故に、相変わらず可愛い奴よ。
さて、早速町案内をしてもらうとするか。
「まずは何処へ行くのじゃ?」
「あー、えっと、ここからだと近くのおやっさんの所かな」
「其奴は誰じゃ?」
「えっとね、模型屋さんの店長さん。すっごく大きいの」
大きいと聞くと何故あの顧問を思い出すのじゃろうか。まぁそれは良い。歩くことに集中するか。
聖蘭学園の正門から僅か数分で、目的の模型屋とやらに着いた。案外近場なんじゃなぁ。
「ここがその模型屋か」
「うん、色んなプラモが売っててね。初めてガンプラバトルをしたのがここなの」
「ふむ、折角来たんじゃし――と言いたいところじゃが、少し先を急ぐか。午後で見回れるだけ見回りたいしの」
「うん、そうだね。……じゃあ次は、お洋服でも見に行こっか!」
「お、おう」
発言に少し驚くが、遅れない様に儂はマサキの後を付いていく。普段のマサキは「げーむ」とやらの話しかせんから、少し意外じゃのう。儂も言えた義理でもないし、余り他人に口出しも出来ぬか。
「どんな服があるんじゃ?」
「んー、色々、かな? 結構様々な種類取り扱ってるから、答えると長くなっちゃいそうなの」
「ふむ、何か良いものでも見付けたら買うか」
「良いのあると良いね~」
「そうじゃのう」
世間話を喋りながらも辿り着いた店は、小規模ながらもカジュアルチックで落ち着いた雰囲気を醸し出していた。マサキは手慣れたように戸を開けて入る。それと同時に可愛らしい鈴が「チリン」と鳴った。儂も続いて入るが、やはり内装は落ち着いておった。
マサキは「ヤヤちゃんはどんな服が似合うかな?」と楽しげに笑いながら、早速儂に合いそうな服を探しだす。すると何やら見付けたのか、一着そこから抜き出した。
「これなんかどう?」
「ちょ、ちょっと待て! 儂にそんなフリフリしたやつは似合わぬ!」
「……え? でもヤヤちゃん、こういう明るい色の服、似合いそうなんだけどなぁ~?」
うぐ、マサキ、なんじゃその目は。似合わぬものを態々着るわけがなかろう! あんな丈も短く、フリフリが多いワンピースなど、一体誰が着るんじゃ!
「まぁ籠に入れておこう」
「な、それ買うのか!?」
「そうだよ? ……ははーん、ユー君の反応が気になるんだ~?」
「べ、別にそうではない! ユウキは関係なかろう!?」
「どうせ明日から静岡なんだし、それ用の服ってことで良いと思うけど」
「~~~ッ! 儂はそんなの! 絶ッ対に着ないからな!」
顔を真っ赤にしてまで反論するが、マサキは「ヤヤちゃん照れてる~」と笑っておった。うぅ~、べ、別にあんなの着たくも無いのに……。
儂はその場から逃げ出すように別の場所へと移る。何かないかと見回していると、オレンジ色の生地に所々白いラインのアクセントが施されたチュニックを見付ける。思わずそれを眺めていると、ふと隣から声が掛かった。
「ヤヤちゃん何見てるの……って、チュニック?」
「うっ、別に可愛いとか思ってないから大丈夫じゃ」
「別に痩せ我慢しなくても良いんだけどな~」
「や、痩せ我慢ではないぞ!」
慌てて元の場所へ乱暴に突っ込むと、マサキがクスクス笑いながら勝手に籠の中に放り込んだ。……全く、儂は別に欲しくなどないのに。
「マサキは何でそうほいほいと籠に入れてくのじゃ?」
「ちょっと目に留まって良いかなって思っただけのしか取ってないけど?」
「むぅ、庶民とは少し分からぬのう」
腕を組んで儂は悩む。やっぱり無理矢理溶け込もうなどとは思わぬ方が吉じゃの。
そう理解した儂は、マサキが会計を済ませるのを待つ。やがてマサキが戻ってくると、次の場所に向かうことにする。
その道中、儂は何処へ行くのか先に聞いておくことにした。
「次は何処じゃ?」
「うーんと、少し街の方にあるカフェかな。そこのケーキ、とっても美味しいから!」
「か、カフェか。少し緊張するの」
「この前カフェ行った時には、ユー君が何とかしてくれてたもんね」
確かに、この前はユウキのお陰で儂は自分の口で頼まず済んだが、今日は違う。今日こそは自分で言えるようにせねば。
■
「………はぁぁ~」
深く溜め息を吐くヤヤちゃんに、私は苦笑いで何て返そうかと迷ってしまう。あそこまでドギマギして戸惑ってるヤヤちゃん、初めて見たなぁ。ツクモ先輩達にも見せたかった気分。
「そう落ち込まなくても良いと思うよ? 私も、今はヤヤちゃんと来てるから良いけど、普段は結構あたふたしてるから」
「むぅ、そうなのか?」
机に突っ伏してたヤヤちゃんは、顔を少し上げて上目遣いでこちらを見つめた。しかも若干潤んでるし。不覚にも可愛い思ってしまった。
「ほら、ヤヤちゃんも元気出そっ! もう少しでケーキも運ばれてくるし」
「うむ……いつまでも俯いておっても空は見えんしの。失敗したなら、次回へ活かすのみじゃな!」
目を輝かせて腕を勢いよく振り上げるヤヤちゃん。その口調も相まって、私が恥ずかしい気分になった。……って、何で私が顔赤くしてるの!?
その後、店員さんが笑いを抑えながらもケーキとカフェオレを運んできたのを見て、私は淀んだ目で空を見た。
「空はあんなに青いのに……私の心は曇り空……」
「何を辛気くさい顔をしておる、このケーキは中々美味じゃぞ」
「……そりゃ私が選んだ店だもん。それなりの値段はするけど味は一級品だよ!」
自慢じゃないけど本当に美味しい。また別のカフェでも巡ってみるかな?
私も多少自棄になりつつ、ケーキとカフェオレを楽しんだ後、他愛もない話をしつつヤヤちゃんと再び外へ出た。次は何処にしようかなぁ。
「……あ、そうだ! ゲーセン行こうよ! ゲーセン!」
「げ、げーせん?」
私は名案だと思いつつ、ヤヤちゃんの腕を引っ付かんで早速ゲーセンへとダッシュした。出発進行!
駆け足でやって来たのは、中心街・主街区にある中規模ゲームセンター「コンペイトウ」。私が最も愛用しているお店かな。
当然人混みも多く、私は人見知りを何段階か昇華させた自称「対軍恐怖症」を治す為に来たりする。
そんなことはさておき、ここに来たのは当然バトルシステム。別におやっさんの所でも良いんだけど、ガンプラバトルに慣れるにはここの方が良いかなって。
早速バトルシステムの場所へ向かうと、幸い一台だけ空いていた。
「良かった、空いてたね。どうする? 私とやる?」
「流石に儂ではお主の相手にはならぬよ」
「そっか。それじゃあ私はセコンドに回るね」
「うむ、済まぬな」
するとお相手さんもやって来て、バトルシステムが起動する。GPベースとガンプラをセットして、
《BATTLE START》
「夜天嬢雅八々、ウイングガンダム! 推して参る!」
バトルシステムの真上に出ると、そこは巨大な峡谷。――そう、グレートキャニオンが広がっていた。谷の底には河が流れていたりする。
敵を虎視眈々と探していると、アラートが鳴って真上からビームが降り注いだ。
「上からじゃと?」
「ヤヤちゃん、バード
「くっ!」
瞬時にバード形態に移行して、ドリル状に放たれるビームを躱しつつ上昇する。その際、何か横切ったのを見て、ヤヤちゃんは驚きつつUターンして急速下降した。その後を追っかけると、見えたのは異形の機体。
「何じゃあれは!」
「ひっ! ……気持ち悪い……」
二者二様の感想を述べつつ、その機体を見渡す。――いや、余り見たいとも思わないんだけどね。
壺状の胴体に円錐形の頭部(?)、胴体側面から生えた腕はどこか生物的で、下半身にあたる場所はドラゴンみたいな形状をしている。……ハッキリ言って、
「「下手物(じゃな)」」
どう考えても上手物とは言い難い。と言うか、よくこれを思い付いた気がするよ。この人、何考えて作ったんだろう……ガンプラを作る人の思考って読みづらいかも。
「何はともあれ、対峙するなら倒すのみじゃ! 行くぞ、ガンダム!」
「あっ、ヤヤちゃん! 突っ込み過ぎは……」
言った時にはもう遅い。速度を上げて、こちらが上に居ると言う点を上手く利用してか、バスターライフルを容赦なくぶっ放す。しかしそれをヒラリと躱されたのを見て、ヤヤちゃんは更に加速して相手と並走する。そしてクローに機体を引っ掻けて、迫ってきた峡谷の壁に強引に押し付ける。
ガリガリと盛大に峡谷の壁を崩しながら下降し、やがて地面をある程度削ったところでクローから離し、ウイングガンダムはMSに戻る。数メートル離れた位置で止まった下手物は何とか立ち上がり、フラリフラリとこちらに振り向く。対してヤヤちゃんはビームサーベルを取り出し、フリーな体勢で構えた。
「どこからでも来るがよい、儂が全て見切ってやる!」
いやいや流石にそれは無理じゃ……と思ったところで相手が動き出す。再び頭部(?)からドリル状に旋回したビームが放たれ、ヤヤちゃんは一歩軽く踏み出したと思ったら物凄いスピードで加速してビームを切り裂いた。
私も相手も驚愕する中でヤヤちゃんは一瞬にして近付き、シールドで殴り付けた後に股間部にビームサーベルを突き上げて下半身が爆発する。
しかし下半身を切り離して上半身かも怪しい壺状の胴体が宙に浮いて頭上を走り抜ける。
「チッ! 儂から逃げようなぞ百年早いわッ!!」
またしても一踏みで相手に追い付いてはビームサーベルで袈裟斬りにした後、バスターライフルで撃ち抜いた。
《BATTLE END》
「ふむ、詰まらぬ物を斬ってしもうた」
ホログラムが解除されて、ヤヤちゃんはキメ顔でそう言った。……相手は唖然としちゃってるけど、私には可愛らしいけど格好良く見えた。ヤヤちゃん、楽しそう。
■
バトルを終えてから私達は、休憩スペースで一旦休むことにした。
そこで私は、ヤヤちゃんに改めて尋ねてみる。
「どうだった? ガンプラバトルは」
「……初めてユウキが“楽しい”って言っていた理由が分かった。私もこんな楽しいこと、何でもっと前から初めてなかったんだろって、思ったんだ。ユウキと会えたあの時から……」
私は少し呆然とする。今のヤヤちゃん、口調が変わったような……?
その視線を感じ取ったのか、ヤヤちゃんは慌てて何かを取り繕うよう喋った。
「あ、今のはその、ちょっと口調が昔のに戻っただけじゃ! 気にするでないぞ! ……っと言うか忘れてくれぇ!」
必至に泣き縋るヤヤちゃんを見て更に唖然とする。……ヤヤちゃんもあんな口調出来るんだと知った私は、満足しながら「分かったよ」と笑顔で言った。その後のヤヤちゃんは「その顔は嘘じゃ! 絶対嘘じゃぁ!」と私の腰に抱き付いては、ズルズルと引き摺られていた。
そんなこんなで、町の色んな所を見回って、ヤヤちゃんの意外な一面を見付けることができた。初めて“友達”と出掛けた今日だけど、今度は皆で見て回りたいな。新しい場所や、皆の新しい一面を見付ける為に。私の一面を皆に知ってもらう為に。
そう言うことでは、今日は今までで一番楽しかった日なんじゃないだろうかと、私、七種真幸はそう思うのでした。
最初の語り部はヤヤでしたがそれ以降はマサキが語り部に。ですが基本はヤヤを中心とした回でした。
さて、そんなヤヤの初勝利の土台になった相手ガンプラの紹介です。
グルドリンD
武装:ビームスクレイパー、ビームバルカン(ビームサーベル)×2、グルドリンキャノン、グルドリンスピナー
見た目はグルドリンにダナジンの下半身をくっ付けた下手物。何故作ったし。
武装は機体の先端にあるグルドリンの代表武器(これしかないだろとか言わない)ビームスクレイパーに、ヴェイガン系には当然の如く着いてるビームバルカン、そして股間部に着いた本機最高火力を誇るグルドリンキャノン、そして尻尾のグルドリンスピナーを装備している。
劇中のグルドリンは宇宙で行動していたが、今回はダナジンの下半身が着いた所為か地上でも活動できるようになってる。腕と足を畳めば高速巡航形態になれる。
以前よりか武装も増して、尻尾のお陰で後方も対処できるようにはなったものの、やはり側面には弱い。
尚、カラーリングは深緑の模様。
グルドリンDの「D」とは「ダイナソー(Dinosaur)」の意。「無用の長物」と言う意味も……
以上です。グルドリンDは、前々回のシグレと同じく蒼鋼さんの案でした。活動報告にて機体案募集してるので、ご自由にお書きください!
ではまた、ノシ