ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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さて、いきなりだけどスポット参戦三回目!
今回は孤高のスナイパーさんの所からあの二人が登場!

ではどうぞ!


EPISODE-20:最初から最後まで、フルスロットルで行くわよ!

 静岡に来て三日目、本戦が始まって二日目の今日、私はハッと急に覚醒する。朝だ。既に東から日差しが差し込んでいる。

 周りを見ても誰もベッドに寝ておらず、私だけ朝食を食べるのに取り残されたみたいだった。時間を見れば朝の七時半。いつもだったら学校へとっくに着いてる時間だ。

 

「うー、昨日戻ってきてからの記憶がない……」

 

 私は昨日ホテルへ戻ってきた後の記憶を掘り起こそうとするも、ちっとも出てこない。……二日酔いでもなんでもないんだけどなぁ~。

 

「と、取り敢えず着替えて朝食食べに行こう」

 

 まだハッキリと意識は起きてないけど、私は眼鏡を掛け忘れながら、トランクからもぞもぞと着替えを取り出す。そして着替える。

 着替えてドアから出て、初めてそこでボーッとしていた意識が目覚め、今の洋服を見て後悔したのだった。……確かこれ、お姉ちゃんが誕生日にくれたやつだった気が……。

 今の自分の格好に落胆していると、タイミングの悪さに定評のあるユー君がやって来た。

 

「お、マサキ、ちゃんと起きれたんだな。……んで、その格好はなんだ? 先輩が目立つから自分も目立ちたくなったのか?」

「私がそんな人間に見えるの!? 別に狙ってないもん!」

「そうなのか? ……いやそうか」

「一人で勝手に納得しないでー!」

 

 勝手に納得して勝手に頷くユー君に、私はポカポカと叩く。身長差もあってかどうも胸を叩く感じになる。

 ユー君は自分を叩く私など何処吹く風で、思い出した様に言った。

 

「あー、そうそう、さっさと朝食食べてこいよ? もう少ししたら出るから」

「えっ! 着替える時間は!?」

「無いな。……いやでも似合ってるし大丈夫ら」

「ユー君のバカ~!」

 

 それでも私のお腹は正直なもので、「くぅ~」と鳴った為に、顔を真っ赤にしながら駆け足で朝食を食べに行った。……やっぱりこの服は走り難いね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を済ませに行ったマサキを待つこと五分後、先程と全く変わらない格好でやって来た。その病弱そうに見える白い肌と、翡翠色の瞳が余計雰囲気を増している。更に眼鏡も掛けてないから、余計に。

 ……え? どんな格好って? それは――

 

「あら、マサキちゃんおは……」

 

 思わず先輩も言葉を途中で忘れるほど驚いていた。

 まぁ、無理もないんじゃないかと思う。普通、普段着で誰もこんなのを着ようとは思わないし。

 勿体ぶらずに言えば、ゴシック&ロリータ。黒を基調としたドレスに大量な白いフリルの着いたゴスロリ服、頭には同様のカチューシャも完備。誰だよ、こんなロリ体型に渡した奴は、ロリコン増やす気かよ。

 他の皆もさぞや驚いた感じでマサキをまじまじと見つめる。それを恥ずかしがってかもじもじする仕草も相まって皆して可愛いと囃し立て、更に真っ赤になったマサキは、ショート寸前になっていた。なんだよこの負の螺旋は。

 

「試合前にマサキを使えなくしてどーすんだよ! お前ら、ちっとはそんな目止めろって! お嬢様とアイドルと歌手がそんなんで良いのかよ!」

「「「「良いのよ」」」」

「おおう、四人にそんな眼差しで言われるとは思わなかったぞ……ってかヤヤまで口調戻ってたよなぁ!?」

「知らんな」

「おい! 目を背けるな! こっち向いて言え!」

 

 このままでは埒が明かないと思い、ショートしたまま固まってるマサキを抱っこして、さっさと向かうことにした。口笛で囃し立てるツクモ先輩とアイは後でとっちめるか。

 

 

 

 バスで到着したら早速アリーナへと向かう。だがマサキが未だに顔真っ赤のまま人形のように固まってるからまたしても抱っこしてバスを出る。しかし場所が場所で、マサキの格好が格好なもんで、周りからの視線が痛い。

 俺はそろそろ耐えきれなくなって、顔を手で覆ってるマサキに言った。

 

「なあマサキ、そろそろ降りてくれないか? 視線が痛いんだよ」

「うー、恥ずかしいんだもん……」

「子供かお前は。だったら手ぇぐらいは繋いでやるから、せめて降りろ」

「…………うん」

 

 なんだよこの間違ったラブコメは。って言うかお前らは後ろで何笑ってんだよ!

 

「お前らいい加減にしろよ!? 俺だって正直恥ずかしいんだよ!」

「「へぇ~、ユー恥ずかしいんだ~」」

「二人してウザイなオイ!」

「ちょいちょいミナっちゃん、ユーの隣に立ってみてよ」

「……うん? 変なことじゃないわよね?」

「だいじょーぶだいじょーぶ」

 

 先輩に押されてミナツさんが俺の隣に立つ。すると更に二人が大爆笑していた。アイドルと歌手が情けねえな、逆に悲しくなってくんぞ。

 

「アハハハハハ! 親子! 完璧に親子だわ!」

「ヤバい! お腹が痛い! (よじ)れ、捩れる~!」

「お、お前らなぁ……」

「あら、マサキちゃんが私の娘かしら? ……ふふっ、それも良いかもしれないわね~」

「ミナツ先輩それは……」

「大丈夫よ、マサキちゃんに似合いそうな衣装なら幾らでも持ってるから」

「そこ!?」

 

 マサキと俺は弄ばれて、朝からくたくたになりそうだった。そんな中、ヤヤだけは普通にしている様だ。まあ、内心笑ってるんだろうけどな。

 すると黙っていたヤヤが、ふと三人に注意を促した。

 

「三人共、そこまでじゃ。ユウキをからかうのは面白いが、ちと周りの目を気にしろ。迷惑はかけるものではないぞ」

「……うっ、ヤヤちゃんの正論が胸に響く……」

「少し遊び過ぎたわね、ごめんなさい」

「ま、まぁ確かに……悪かったわ」

 三者三様の反応を見せた後、俺も嘆息しながら言った。

「ヤヤの言う通りだな。先輩やミナツさんだって子供じゃないんですから。……それにアイも、仮にもアイドルが公共の場で醜態さらすなよ」

 

 困り顔になりつつそう言うと、二人残念そうに、一人は普通に微笑みながら「はーい」と言った。またしても嘆息しつつ、俺はアリーナの中へと入っていく。

 五人ともちゃんと駆け足で着いてきて、中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マサキとツクモが待機していると、やがてアナウンスが流れ、自分達の出番を知らせた。

 

「さ、そろそろよね。行きましょっか」

「はい! ……でも、今日は嫌な予感がします」

「……嫌な予感?」

「はい、何か感じるんです。虫の知らせとか、そんなんじゃないですけど、相手が強敵だとか」

「直感的な第六感(シックスセンス)かしら……? まあ良いわ、こんなところで足踏みしてるのもなんだし、負ける気だって更々無いもの。全力で行くわよ!」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 会場へと駆けて行って辿り着くと、既に相手も待っていた。ツクモは対戦相手が西東京だと確認すると、嘆息する。

 

「東と西の対決って、悲しいわねぇ」

「どちらにせよ、戦うことには変わらないんですから、気は抜けませんよ」

 

 ツクモの台詞に対して少々厳しいことを言うマサキだが、マサキは自分の衣装の所為で倒れるか倒れないかの瀬戸際である。

 そんなことはさて置いて、一方相手も片方はやる気が無かった。

 

「……はぁ、到頭ここまで来ちゃった……もう後戻りできないじゃない」

「キョウカさん、貴女も少しは動いたらどうです? 何時も私ばかりが戦ってばかりだと思うのですが……これではリハビリにすらなってなくてよ!」

「うっ……確かに、リハビリとして連れてきてくれたのは感謝するわ。……でも、思うように動けないのよ。コンソールを動かそうとすれば手が震えて、あの時のことを思い出しちゃって……やっぱり、ダメ」

 

 キョウカと呼ばれた少女はその両手を胸の前で強く握りしめ、目を瞑って震えていた。それを見た相方の少女は、はぁと溜め息を吐きながらツクモ達に向き直る。

 

「申し訳ありませんわね、相方がこんな態度で。ですが、精々侮らないでくださいまし」

「そりゃ当然よ。あの竜巻には呑まれたくないしね」

「ふふ、存分に楽しませてもらいますわ」

 

《Press set your GP-Base》

 

 少女の言葉に続いてバトルシステムが起動し、全員がGPベースをセットする。

 

《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. field10, city》

 

 ホログラムに包まれ、青い粒子が舞う。

 今回選ばれた場所は廃墟都市。それを聞いて宇宙空間じゃなかったことを悔やんだツクモは、それを顔に出さずにユウキから借りてきたガンプラを取り出す。

 

「ゴメン、ユー。この子の初バトル、私がやらせて貰うわ」

 

 目を閉じて、観客から見守ってくれているユウキに謝る。負ける訳にはいかない。なら十八番(おはこ)でやるしかない。

 

《Press set your GUNPLA》

 

 それぞれがガンプラをセットし、コンソールと画面が表示され、セットアップが完了する。

 

《BATTLE START》

 

天野杏夏(アマノ キョウカ)、ブルデュエル・イェーガー……焼き払う!」

空条美咲(クジョウ ミサキ)! フリーダムガンダム・ウィザード、参ります!!」

「ガンダムアテナ、七種真幸! 勝利を切り拓く!」

 

 

「最初から最後まで、フルスロットルで行くわよ! ……鷹野月母、エクストリームガンダム/ナハト ヴェヌス・フェース! 出るわよ!」

 

 

 四機が一斉に飛び出し、アテナを除いた機体全てが目を惹いた。ある機体は紫に怪しく光り翼を広げ空を駆け、ある機体は地をものともせず走破するバイクに乗り、ある機体はかのロボットを連想させるかの如くビルを蹴ってブーストをかけながら高速で移動する。

 そしてマップの中央、半壊したドームの所で互いに機体を捕捉する。

 

「マサキちゃん、あの黄色いブルデュエルを相手にして、私はあのバイクをやるわ」

「分かりました。無理は禁物ですよ?」

「大丈夫よ、だいじょーぶ。お姉さんはそこまで柔じゃないわよ。……それを言うならマサキちゃんもね!」

「はい!」

 

 そのままマサキは壁を蹴ってから滞空するブルデュエルへと向かった。

 対するツクモは地面を走るフリーダムへと、その銃を構えた。

 

「ユー、アンタが作ってくれたガンプラが日本一だってことを、証明して見せるから、絶対に……!」

 

 シグマシス・サイコ・ライフルのトリガーを躊躇いなく引いたツクモは、その反動に思わず驚いた。

 

「何よこの機体!? 出力が普通よりもダンチじゃない!」

「そんな大振りな一撃なんて、この私には通じませんわ!」

 

 反動で腕が上に向いてしまうも、ツクモはすかさずにミサキの反撃を避ける。しかしビームライフルの一撃を躱されても尚止まらず、ミサキはバイク――ウィザード・ガンナーでウィリーを決め、そのままビルの壁へ垂直に走らせた。その行動に思わずツクモは驚くも、直ぐ様機体を上昇させる。

 

 

 

「ただのバイクと思わないことでしてよ!」

 

 

 

 掛け上って宙を飛んで見せたウィザード・ガンナーに舌を巻きつつ、ツクモはシグマシス・サイコ・ライフルを構える。

 

「そんなことは一つも思ってないわよ! 特に、貴女はね!」

 

 放たれた高出力のビームがウィザード・ガンナーへまっしぐらに向かうも、ミサキは機首に授けられたビーム砲を発射させて相殺する。

 

「なっ、相殺!? そんな無茶出来るなんて聞いてないわよ!」

「まだまだですわ!」

 

 未だ宙に浮いた状態でハンドルから手を離し、サイドユニットからビームライフルを掴み、ツクモのエクストリームに向かって正確に狙ってみせる。

 

 

「その程度の射撃でぇっ! 行きなさい、アリス・ドラグーン!」

 

 

 左腕のビームシールドでビームを防御しつつ、背部に広げた紫の翼から無数のドラグーンが舞って赤いフリーダムへと突っ込んだ。

 そのまま自由落下の法則で地面へ着地したミサキは迷いなく走り出す。後ろからアリス・ドラグーンが追従してくるも、迷わず走る。このまま上手くことが運べば、と思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間を巻き戻して、マサキはキョウカのブルデュエルへと一直線に向かっていっていた。

 

「そこっ!」

「なっ、もう来たの?!」

 

 いきなりで反応の遅れたキョウカは、前面に突き出されたGNソードⅢの刃を防げず、そのままビルの壁に押し戻され、めり込んでしまう。

 

「くっ、このっ!」

 

 ギリギリ動かした右手で腕部レールガンを展開し、震えるその手でアテナを狙った。しかし、どう狙っても手の震えが止まらず、結果あらぬ方向へと弾が飛んで行ってしまった。

 

「……やっぱり、私じゃ……」

 

 苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めたキョウカは、マサキを、アテナを、相手を目の前にして俯いた。

 しかしマサキは攻撃すること無く、黄色いブルデュエルを見つめていた。それに気付いたキョウカは、ゆっくりと機体をビルから出して、目の前のアテナを見据える。

 

「……斬って。その剣で。私には貴女と戦う資格もないわ」

 

 その言葉にマサキは思わず押し黙るが、息を吸い込んでは、一拍置いてから口を開いた。

 

「いきなり何かと思えば、貴女が私と戦う資格がない? ……巫山戯ないでくださいよ」

「……は?」

 

 マサキのそんな台詞に、キョウカは思わず呆けてしまう。アテナがGNソードⅢの切っ先をブルデュエルに向け、マサキは自分の思うがままに言った。

 

「私は、自慢じゃないですけどゲーマーです。このガンプラバトルも少なくともゲームだと私は思ってます」

「い、いきなり何を――?」

「ゲームともなれば、ゲーマーはゲームに尽くすものです。だから私はこのガンプラバトル(ゲーム)に全力を尽くしたいと思ってます」

「……何が言いたいの?」

 キョウカの疑問に、マサキは迷い無く答えた。

「簡単です。私と――このガンダムアテナと戦ってください」

「っ!!」

 

 戦いたくもないのに戦えと言われて、誰が戦おうものか。しかしそれを現に言われてキョウカは目を見開いていた。依然と切っ先を向けたまま微動だにせず、背中から緑色の粒子を撒き散らす白い機体と、戦えと。彼女はそう言った。

 

「貴女はそのガンプラを操作している以上、このバトルに参加してるんです。資格がどうこうなんて関係ありません。貴女は、私と戦うしかないんです」

「くっ……」

 

 キョウカはふと自分の手元を見る。黄色いコンソールを握る自分の手はまだ震えていた。こんな手でバトルができようものか。……だが同時に、足掻いてみるのも悪くないと思った。こんな自分が戦っても録な戦いにならないのは目に見えている。なら、少し足掻いてみようと。過去に囚われる自分に、バトルに。

 瞳を閉じたキョウカはその赤い髪を振り払い、目の前のアテナを見据えた。

 

「……良いわ、戦ってあげる。でも、期待はしないで」

 

 ブルデュエルは両脚からビームソードを引き抜き、地面を蹴ってアテナへ向かう。

 マサキは待ってたと言わんばかりにGNソードⅢを振り、ブルデュエルに突撃する。しかし同時に突撃してきたブルデュエルが眼前から消える。

 

「消えた!?」

「こっちよ!」

 

 逆さの体勢から見えたブルデュエルは目の前のビルの壁に足を着けており、ブーストを活かした加速と同時にアテナに斬りかかる。

 しかしマサキも見付けた途端に動揺せずエイジスを構えて攻撃を防ぐ。

 

「固まれ!」

 

 マサキが叫ぶとエイジスから閃光が迸り、キョウカのブルデュエルは動きを止めてしまう。更にメインカメラが閃光のお陰で使えなくなり、それを良いことにマサキは踵落とししてブルデュエルを地面に叩き伏せる。

 

「これで――!」

「終わらないわよ!!」

 

 仰向けで倒れるブルデュエルは左肩からスティレット投擲噴進対装甲貫入弾を三本ほど引き抜き、アテナに向けて武器の名の通り投げつけた。ナイフ投げの要領で投げられたスティレットは三本共にエイジスへと突き刺さり爆発する。

 あまりの爆風に機体のバランスを崩し掛けたアテナはなんとか体勢を整えるも、エイジスが半壊しており、ひしゃげていた。

 

「何て威力なの……?」

 

 威力の高さに愕然とするが、マサキは即座にエイジスを投げ棄ててはGNブレードを引き抜いて逆手持ちにする。

 対するブルデュエルは地面を蹴ってグラインドしつつも、更に壁を蹴って加速力を高め、ビームソードを振り翳してアテナに打ち付ける。

 当たったかと思いきや、逆手で持ったGNブレードに防がれてしまった。しばらく鍔迫り合いは続き、バトルは更に白熱していく。

 

「ほら、出来るじゃないですか」

「……何が?」

「ガンプラバトルです」

「あ」

 

 思わず熱中しかけていた自分が恥ずかしくなるキョウカは顔を真っ赤にする。マサキはそれに笑いかけ、互いに一旦離れる。

 

「まだ震えは止まらない。でも、また出来そうな気がする……なら――!!」

「私もそろそろ本気で行きますか」

 

 

 

 互いに構え、キョウカは深く息を吸い込み、マサキは意識を集中させた。

 

 

 


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