――翌日、静岡へ来て二日目となった今日。本日から「全国レディースガンプラバトルコンテスト」の本戦が開幕される。
場所はここ、過去に天皇家の先祖であり、あの有名な将こと、徳川家康も住まわれたとされる駿府城。その跡地、ガンプラバトル専用施設「駿府アリーナ」。
その目の前に今、聖蘭学園模型部の面々が立ち並んでいた。
「……ず、随分と大きいですね」
「収容する人の人数も考えたら、これぐらいが妥当でしょうね。全国大会の会場だし。――世界大会は別だけど」
「それより早く中入んなきゃ! 私達、席取ってないんだから!」
「慌てんなって、心配すんなよ」
「な! そんなユーは呑気過ぎるわよ!」
「……昨日の内に場所は取ってあるんだが」
「………っ!」
ユウキの呆れ声にアイカは耳の先まで真っ赤になる。慌ててみっともない姿を見せたことに恥ずかしんでいた。
そんなアイカを余所に皆でアリーナを見上げていると、突然後ろから声を掛けられる。
「
流暢なロシア語と声質からして、もしかしてと振り返ったツクモの腰辺りに、何かが抱きついてきた。ふわりと銀髪が舞い、腰にその細い腕が巻き付かれる。
思わず驚いたツクモは足を踏み外してしまいそうになるも、ギリギリ片足で踏ん張った。
「み、ミオちゃん!? ……何で静岡なんかに?」
抱きついてきたものの正体は、数日前対戦した少女、ミオだった。目を丸くするツクモの質問に、当然と言いたげな顔でミオは言った。
「何でって、決まってるじゃないか。ツクモお姉ちゃんを応援しに来たのさ。……少し兄さんに無理を言っちゃったけどね」
「……そっか、お姉さん嬉しいな。わざわざ静岡まで応援しに来てくれたんだから。そうなるとお姉さん、全力全開で行かないとね!」
そんなツクモの言葉にミオは目を輝かせて頷いた。そんな時、更に後ろから、三人程走ってくる人影が見えた。ユウキと同い年ぐらいの男子が二人と、長い黒髪の少女――レイカだ――が走ってきた。
「……はぁ、はぁ、ミオ、いきなり何処行くんだよ」
「ああ兄さん、
「ったく、今度からは何も言わず何処にも行くなよ? ……あ、いきなりすみませ――えぇっ!?」
遅れて反応した少年は、頭を上げた途端に驚きの余り後退っていた。……まぁ、面々が面々なだけに、初対面なら普通に驚く。すると、そんな反応を見せた少年すら気にせずに、レイカもツクモに抱きついていた。
「お姉ちゃんまた会ったね! ……って言っても、本当は応援しに来たんだけどね」
「それはさっきミオちゃんからも聞いたわ。お姉さん嬉しい! ありがとね!」
「えっ、あっ、えっと……」
反応に困った少年は少したじろぎながらどうしようかと迷っていた。
「うふふ、そりゃ歌手とアイドルが居れば驚くのも当然よね。……どうも! 本物の灯月母よ!宜しくね、ミオちゃんのお兄さん」
握手を求めるように手を伸ばしたツクモに、少年はハッとしてその手を慌てて握ってから自己紹介をした。
「えっと、ミオの兄の、
「そうよねー、そりゃ普通は驚くわよ。ミオちゃんもレイカちゃんも、あんまし満更でもないみたいだけどね。それはそれで嬉しいんだけど」
「なんか、本当にありがとうございます」
頭を下げた少年――リョウに、ツクモは「気にしないで」と言う。
「お礼言われる筋でも
ツクモがウインクして言うと、リョウは顔を赤らめてしまう。隣で見ていたユウキは、そんなツクモの動作に何故顔を赤くするのか分からずにいた。純情すらも忘れたガンプラバカ故の、とでも言おうか。
その後、ミオ達と別れ、模型部も駿府アリーナの中へと入ることにした。中は外から見た時よりも広く感じ、正面玄関直ぐのロビーは人で溢れ返っていた。
そのロビーの様子を見てユウキ達は絶句するも、そうこうしている内に時間が無くなっていくのは変わりなく、ツクモとマサキ、それ以外の部員で別れることにした。
流石にうろうろとしている時間も惜しい為、ツクモはマサキを引っ張って人混みの中を突っ切った。当然、当のマサキはすっかり怯え混んでおり、怯えた子猫のように縮こまっていた。
ようやく控え室に辿り着き、部屋の中へ入ったツクモは、やりきった感満載の顔で額の汗を袖で拭い取る。そこで改めてマサキの方を振り向くと、マサキは部屋の隅っこで丸まっていた。様子からして、あの人数の中は流石に相当くるものがあったらしい。
「……あ、っとその……ゴメンねマサキちゃん……」
「悪いの私なんです……先輩は悪くないんです……悪いのは私なんですぅ!」
丸まって縮こまっていると、ただでさえ小さい身体が更に小さく見えてしまうのだから困ったものだ。ツクモはどうするべきかと悩んでいる中、備え付けの固定スピーカーからアナウンスが流れる。
『これより、開会式を始めますので、選手全員は会場に集まってください』
そのアナウンスを聞いてか、ようやく顔を上げたマサキを見て、ツクモは優しく微笑みながら頷いた。
「行くわよ!」
「はいっ」
■
駿府アリーナの会場に、私達選手が全員集まった。全部門が集まっているだけあってか、相当な人数が居た。全四七都道府県から集まっているから、総勢……二百八十八人!?
私は頭の中で余計な計算をしながら驚いていた。その姿を後ろのツクモ先輩に見られたのか、ツクモ先輩がクスクス笑っている)うに見えた。
『―――――』
「ねぇマサキちゃん、対戦相手はどうなると思う?」
「この人数この部門数となると、一週間でやるのは難しいと思いますよ。ですから――」
私の言葉を遮って、非常にハイなお姉さんの声が響く。
『各部門、第一回戦のバトル形式は――ジャカジャンッ! バトルロイヤル! 聞いて名の通り、読んで字の如く、ご存知かと思いますがバトルロイヤルとは、各部門総勢四十八組による入り乱れまくりの大乱闘戦!』
それを聞いて周りがざわつき始める。いきなりバトルロワイヤルとなると、しかも四十八組ものファイターをどうやってバトルシステムに入れるのかともなれば、驚くのも無理はない。
『心配する必要はありません! この大会専用に調整を受けた超大型バトルシステムをご用意しておりますので、人数が入りきらないと言うこと態は無いのでご安心を!』
その言葉で皆が安心し、ホッと胸を撫で下ろしていた。私とツクモ先輩は流石にそこまでの心配はしていなかったが、何故バトルロイヤル形式にしたのかが疑問だった。
「……兎に角、やるっきゃないって訳よね」
「そうなりますね、運営が何を考えているのかは不明ですが、私達はやれるだけやるってだけです」
私達は舞台上を見上げながら、自分達の出番まで待った。
■
あれから数時間、待合室にて個人戦第一回戦の模様を伺っていたマサキ、ツクモ、ユウキの三人は、その様子に見入っていた。ユウキの見解では、やはりここまで来ればそれなりの操縦技術を持っているが、機体の性能はそこそこと言ったところだった。
「なんちゅう奴等だよ、ホントに女子か?」
「ユー君、それは失礼じゃないの? 正真正銘女性限定なのは分かってるでしょう?」
「まあ、ユーは女性ファイターを甘く見てるってことよ。ホント、失礼しちゃうわ」
ぷんすかと頬を膨らませるツクモに、腕を組みつつそう言われたユウキはなんとも微妙な顔で悩んだ。
画面を見れば残る機体が十二機にまで減った途端にバトルが終了した。
「どうやら残れるのは十二組だけみたいね」
「まぁ、五部門でそれぐらいなら妥当だろうな」
「次はいよいよ私達ですね」
十七分の休憩時間の間、会場に集まるよう促すアナウンスが流れた後、ユウキと別れてツクモとマサキは会場へ向かった。
『さぁ、お次は二人戦! 個人戦よりもチームワークを重要とするこの部門では、一体どのようなバトルを見せてくれるのでしょうか? それでは皆さん定位置に着いてください!』
巨大過ぎるバトルシステムの周りに、私達を含めた総勢四十八組が並び立った。
『――それでは、セットアップ!』
《Press set your GP-Base》
お姉さんの声に合わせてバトルシステムが起動し、全員が一斉にGPベースをセットする。
《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Specialfield, stand by》
プラフスキー粒子が散布し始め、照明が落ちる。今回のみ、フィールド設定の音声が無い。不思議に思いつつも、私達は目の前に集中する。
《Press set your GUNPLA》
ガンプラをセットしてから私は眼鏡を外す。今回は最初から最後まで全力で行こう。
『それではバトルロイヤル、スタートです!』
《BATTLE START》
「ガンダムアテナ、七種真幸! 勝利を切り拓く!」
「鷹野月母、ガンダムアストレアType-F! 出るわよ!」
いよいよ、本戦が始まった。