聖蘭学園 正門前
「ふぁ、ぁぁ~」
「んん~っ」
聖蘭学園の目の前にバスが停車しており、その目の前では私服姿の数人の少女と一人の少年が立っていた。そう、聖蘭学園模型部の部員達だ。
そして白衣を纏った熊が、のっそのっそと二足歩行でやって来ては、集まった部員達を眺める。
「皆揃ったようでなによりだよ。――それでは点呼を取るよ。鷹野月母君」
「はい!」
「宇多野深夏君」
「はい」
「七種真幸君」
「はい!」
「芳堂木綿樹君」
「はい!」
「星河藍花君」
「はい!」
「夜天嬢雅八々君」
「うむ」
全員の点呼が取れ、ミズノ先生は名簿を懐に仕舞うと皆へと向き直った。
「明日から本戦となる。ツクモ君、マサキ君、二人ともどうか頑張って欲しい。先生も応援しに行きたいものだが、生憎保健室での仕事があるから、今回は行けそうにもない。非常に残念なことだが、優勝できると信じているよ。健闘を祈る」
「ありがとうみずのん。私達だって負けるつもりなんて更々ないわ」
「寧ろ負けません。絶対に優勝してみせます!」
「その息だ。きっと勝てる筈さ」
水野先生の力強い一押しに二人は励ましをもらい、その後皆バスへ乗り込む。
これから向かうのは、本戦の会場となる静岡県静岡市だ。会場は県庁の目の前にある、かつて徳川家康公が隠居場所として住まわれた地、駿府城跡ガンプラバトル専用施設「駿府アリーナ」。そこで今回の大会は行われる。
「何かワクワクするな~♪」
「そうじゃな、儂も静岡は久々故、少し緊張しておる。やはり一度離れた土地は緊張するものじゃのう……」
「そんなこたも言ってらんないでしょー。“郷に入っては郷に従え”困ったらユーに聞けば良い話だし」
「そうだね、そうしよっか」
一年生の三人でそう話し合っているも、その後ろの三人は、
「……って言われてるけど、ユーは大丈夫なの?」
「大丈夫だ、問題ない」
「そんなキメ顔で言われても反応に困るわね……」
「フフフ、かっこよくて良いと思うわよ? 頼れる男子って感じで。困ったら助けてね、ユー君?」
「み、ミナツさんに言われると何か心配になってくるな……」
「あら、心外ね。失礼しちゃうわ」
頬を膨らませては不機嫌を示すミナツにユウキは戸惑った様子でご機嫌取りをする。ミナツを怒らせるのは得策ではないのだ。
ツクモはその様子を見てケラケラと笑っていた。親友と弟分がこうしてじゃれあっているのを傍で見ているのは悪くないからだ。
「さて、静岡に着いたら何をしましょうかしらね」
ふと呟かれた一言と同時に、バスはエンジンを掛け、静岡へ向けて走り始めたのだった。
■
東名高速道路 富士川サービスエリア
私達は小休憩を挟む為に富士川サービスエリアに止まった。丁度富士山も若干遠目に見え、私とアイカちゃんとヤヤちゃんは、バスの窓からその富士山をじっと眺めていた。
「やっぱり富士山って大きいね~」
「流石日本一高い山よね~」
「時季が春と言うこともあって、風流じゃのう」
三者三様に言いつつ眺めていると、ふと私のお腹が「くぅ~」と、仔犬の悲しげな声のように鳴ってしまった。
当然直ぐ傍に居る二人に聞かれたわけで、私は顔を真っ赤に染めて、余りの恥ずかしさに抱き抱えていたバッグに顔を埋めてしまう。
「マサキちゃんのお腹の虫は可愛い音を鳴らすのね。私も小腹が空いたし、何か買いに行ってきましょ?」
「……うん」
「なら儂も同行しよう。それとアイカ、お主は帽子を被らんで良いのか?」
「あっ! そうだった! 思わず行列を作るとこだったわ……」
慌てて鞄の中から帽子を取り出して被るアイカちゃん。
最近になってアイカちゃんも結構人気だと知った私は、それを見て不便だなぁと思ったりしていた。だから聞いてみる。
「一々帽子とか被って顔を晒さないようにするのって、不便じゃないの?」
「んー、確かに不便っちゃあ不便だけども、慣れるとそうでも無いのよね。……ほら、帽子だってお洒落の一つじゃない」
「それは捉え方によって変わるじゃろ。儂が言えた義理ではないがの」
アイカちゃんは例えるみたいに帽子を人差し指で指して言うも、ヤヤちゃんの発言で納得する。ほら、十人十色って言うしね。
するとアイカちゃんが何か見つけたようで燥ぎながら指を指す。
「ねぇ! あそこに富士山型のパンがある! あそこ行きましょう!」
「えっ!? あっ、ちょっとアイカちゃん待ってよ~!」
「全く、しょうのないヤツじゃのうアイカは。行くから余り燥ぐでない」
アイカちゃんが走っていったのを私が追いかけ、ヤヤちゃんは半分呆れながらやれやれと首を振って着いてきたのだった。
入ったベーカリーショップには、アイカちゃんの言った通り、本当に富士山型のパンが売っていた。
「わあ~、ホントだ! 可愛い!」
「でしょでしょ? 私これ買おうっと!」
トレーに幾つか乗せたアイカちゃんは、他にも色々と買う為に店内を彷徨き回った。私もトレーを手にヤヤちゃんと一緒に店内を回ることにした。
「パンがあり過ぎてもうお腹が……」
「仕方なかろう、お腹が空いておるのに食べ物を見ていたらそりゃ腹は更に空くじゃろう。早めに決めて買うしかないの」
「あ、これ可愛い! よし、これとこれとこれ食べよう」
「案外食べるのじゃな……」
「えへへ、今日の朝寝坊しちゃってね。朝御飯食べ忘れてたんだよね~」
「まぁ、寝坊するのは致し方あるまい」
ヤヤちゃんが苦笑いしながらフォローしてくれて、私は早速会計を済ませに行った。
無事買い終えると、ヤヤちゃんとアイカちゃんが一緒に待っててくれて、アイカちゃんの手元にはパンの入った袋が数袋もあった。
「アハハ、買い過ぎちゃった!」
「あ、アイカちゃん……」
買い過ぎにも程があるよ……。
「これじゃから燥ぐでないぞと言ったのじゃ」
ヤヤちゃんは心底呆れるように溜め息を吐いた。それに対してアイカちゃんは、舌をちょっぴり出すだけで反省する気も無かった。
バスへ戻ってくると先輩達も戻ってきていて、休憩時間は終了となった。勿論、買ったパンはバスの中で食べたよ。買い過ぎたアイカちゃんは先輩達にも分けてたっけ。
■
しばらくして静岡市に着いたら、早速ホテルへと向かった。ホテルに着いてチェックインを済ませ、皆が泊まる部屋に着いた。
「んじゃ、俺だけ別の部屋だから。そんじゃな」
「えー、ユーも一緒で良いじゃない」
「……あのな、女所帯の中に一人だけ男子ってのはどんだけ惨めか分かるか!?」
「分からない」
「あ、アイ……お前なぁ」
テヘリと舌を見せるアイカにユウキは嘆息する。男の苦労を知らない女子に聞いた自分が馬鹿だった、とユウキは激しく後悔したのだった。
結局はちゃんとバラバラに別れて、後々ロビーで落ち合おうということになった。
女子部屋にて、マサキ達が荷物を置くと、真っ先にツクモがベッドにダイブした。
「はぁ~! 久々のホテルのベッドだ~!!」
「あらあら、ツクモちゃんたら、ちょっと燥ぎ過ぎよ? もう子供じゃないんだから」
「えー、少しは燥いだって良いじゃない。ユーだって、慰安目的もあって来たんでしょう?」
「それはそうだけど……」
ツクモの返答に困るミナツに、マサキが助け船を出す。
「ツクモ先輩、それは大会が終わった後ですよ。その後に思いっきり楽しめば良いと思います」
「うー、マサキちゃんもミナツの肩を持つの?」
「今ここで気を抜いたらユーにどやされるわよ」
ジト目でアイカに止めを刺されてツクモは、ぐってりと項垂れた。流石のヤヤも、目を瞑りつつ確かにと頷いていた。
ぐうの音も出ないツクモは仕方なしにと起き上がり、ボストンバッグの中からガンプラのケースを取り出して部屋を出ていった。パタンと閉じられた扉に全員目を丸くし、マサキは慌てて鞄の中からケースを取り出しては、ツクモの後を駆け足で追っかけた。
「まっ、待ってくださいよ~!!」
今回は短めに書かせてもらいました、カミツです。
ただ静岡に行ったってだけのお話でしたねw
次回からはちゃんと本戦に入っていくので悪しからず。
ではまた次回、ノシ