全国レディースガンプラバトルコンテストを見事優勝して見せた私達、聖蘭学園模型部。そんな私達は、ただ今生徒会室に来ていた。
「……初めまして、と言うべきか。それとも、また会ったね、と言うべきか。そんな些細な問題は置いておくとしよう。ようこそ生徒会室へ。君達には随分申し訳ないことをしたね」
目の前には、眼鏡を掛けたル○ーシュ・ヴィ・ブ○タニアがゲ○ドウさんみたいな座り方をしてこちらを見ていた。背後から日光が差しているお陰で、余計にそれっぽくなってる。
ツクモ先輩は既に呆れた態度のようだけど、その隣に立っている私とユー君は緊張して固まっていた。……ひ、冷や汗が止まらないよぉ……。
「僕の名は知っての通り、
「……ったく、最初から本題に入んなさいよ。アンタの前口上は長いのよ」
「少しは“待つ”というのを覚えたらどうだい? ……さて、言うのが遅くなってしまったが、大会優勝おめでとう、ツクモ、マサキさん。これで部活存続が決まった訳だが、本当に全国に出るつもりかい?」
ジンナイ先輩の鋭く突き刺さる視線が向けられる。それに対して尚怯まずに、ツクモ先輩は口を開いた。
「当ったり前じゃない! じゃなきゃ……模型部を作った意味がないわ!」
「……今年の全日本ガンプラバトル選手権。――それの為だろう?」
「そうよ、だから私は――」
「“だから私は今回の全国で勘を取り戻したい”だろう?」
「……っ!?」
「図星、のようだね。一度は全国を勝ち取り、あの時のプレイヤー達に恐怖を植え付けた君が、今じゃ前線で戦うどころか、後輩に前を預けて自分はのうのうと後ろで撃っているだけ……。だからせめてでも全国で優勝した時の勘を取り戻したい。そうだろう?」
「……あっ、アンタに何が分かるっていうのよ! 私の気も知らないで! 私だって、私だってマサキちゃんにばっか前に出させたくはないわよ! でも……でも! 今はこうでもしてないと、満足にバトルだって出来ないのよ!? もう皆に迷惑を掛けるの嫌なのよっ!」
目の前の机を思いっきり叩きつけるツクモ先輩。私とユー君は心配になって様子を窺うと、ツクモ先輩は涙を流していた。今まで見たことの無い顔で、ツクモ先輩は泣きじゃくっていた。
そして急に生徒会室から走り去ってしまい、私達は置いてけぼりにされてしまう。
「……済まない、嫌なものを見せてしまったみたいだ。だが彼女の実状を知ってもらうにはこれが一番と判断したものでね。さてマサキさん、さっきの話を聞いて、ガンプラバトルを続けられる自信はあるかい?」
その心を覗く様な目に私は耐えつつ、ゆっくりと口を開いた。
「私は、少なくとも続けていたいです。ツクモ先輩は私にガンプラバトルの楽しさを教えて下さいましたし、助けてくれるとも言ってくださいました。……なら、恩返しとして、側で一緒にガンプラバトルをしてあげたいです。例えツクモ先輩が何処に立とうが、私の立ち位置は既に前だと決まっていますから」
私はハッキリとジンナイ先輩にそう告げた。そうだ、私にガンプラバトルを教えてくれたのは、ツクモ先輩とユー君だ。それなら、私はそんな二人と一緒にガンプラバトルをしたい。
隣のユー君も私を見て頷いた後、ジンナイ先輩に向き直った。
「ジンナイ先輩、悪いんですけど、俺達は全国に行きます。途中で諦めたアンタとは違って、俺らは前に進みます。……では、失礼しました」
「し、失礼しました」
ユー君に続いて私も生徒会室を後にする。ジンナイ先輩、どうしてあんな態度を取るんだろう。私はその疑問を強引に押し込めて部室へ戻った。
「ただいま~」
「あ、マサキちゃん、ユー、お帰りなさい」
「お帰りなさい。ツクモちゃんは?」
「えっと、その、何処か走って行っちゃいました……すみません……」
私がペコリと謝ると、アイカちゃんが強引に顔を起こさせた。
「なに謝ってるのよ! マサキちゃんが謝ることじゃないでしょ?」
「でっ、でも! 私とユー君は追っ掛けられなかったし……」
私の気弱な発言に、更にムッとしたアイカちゃんが後ろから抱き締めてくる。
「あのね、ツクモちゃんは昔からああなのよ。何か嫌な思いをすれば、必ず逃げ出しちゃうの。気丈に振る舞ってるけど、それは弱さの裏返しとも言えるのよ」
「弱さの……裏返し……」
「そう、だからマサキちゃんが心配することはないわ。ツクモちゃんのことはミナツに任せてれば良いのよ」
「あら、さらっと面倒なことを言わないでね? ツクモちゃんは一回折れちゃうと直すまで時間掛かるんだから」
ミナツ先輩の困り顔にアイカちゃんはムスッとしつつ、ユー君の方を見る。
「ユーも何か言ってやんなさいよ」
「俺はノーコメントで。先輩はそっとしておいた方が良いだろ。俺やミナツさんが行ったところで、どうにかなるような問題でもないからな」
「ユー……」
一気に静まり返ってしまう部室は、物凄く寂しく感じた。いつも明るいから、余計に。
そんな時、唐突に部室の戸が開いた。そこにはバスケットを抱えたヤヤちゃんが不思議そうな顔で立っていた。
「な、なんじゃ、この入り辛い空気は……お菓子を持ってきたと言うのに、こんな空気では茶も楽しめんではないか……」
少し残念そうな顔をして落ち込んだヤヤちゃんを見て、全員が動揺してしまう。そこでユー君がヤヤちゃんに近付いた。
「べ、別に何もねぇから入れって! ……ほ、ほら! 皆でお菓子食べようぜ? な?」
「う、うむ。無理矢理感しかせんが、良いか。今日は儂が手作りで作ってきたんじゃ、皆で食べようぞ!」
「ヤヤちゃんお菓子作れるんだ!」
「おう、和菓子も一部じゃが作れるぞ。今度作ってきてやる」
「ホント? やったー!」
私が喜んでいると、アイカちゃんやミナツ先輩も笑顔になってくれた。ユー君も若干呆れ顔ながらも微笑んでいた。
私が紅茶(最高級品)をこれまた高そうなティーカップに淹れて、皆のところに運んだ。匂いだけでもどれだけ高いのかが分かっちゃう……。
「マサキ、ありがとうな」
「ううん、お茶とか淹れるのは昔から慣れてたから平気だよ」
私もヤヤちゃんの隣に座って、お菓子に目をやる。
「ホントスゲェなぁ……ヤヤってこんなのも作れたのか」
「うん、口調の割りには以外よね」
ユー君とアイカちゃんが立て続けに酷いことを言ってる気もしなくないけど、ヤヤちゃんは寧ろ胸を張って答える。
「文武両道を目指したらこうなっただけじゃ、当然の結果じゃよ」
……流石ヤヤちゃん、カッコいい。私は隣のヤヤちゃんに目を輝かせつつも、目の前に並ぶお菓子を見てみた。プレーンスコーンを始め、ジャムタルトやウエハース、ビスケット、ドーナツ、ヌガー、マカロン、マドレーヌ、ワッフルと、様々な洋風菓子が色取り取りと並んでいた。
試しに好きなマドレーヌを手に取って頬張った。バターのしっとりした食感と甘さが口一杯に広がる。……美味しい。久しぶりに食べてみると、こうも美味しいんだね。
「「「美味しい!」」」
「そう言ってくれて何よりじゃ! まだまだあるから、遠慮せずに食べてくれ!」
女子にとってはある意味至福かもしれない。……ユー君はと言うと、普通に紅茶を楽しんでいた。
「中々良い香りだな」
「本場から取り寄せたからの」
それを聞いて私は反応する。
「あの茶葉はダージリンだよね、しかもS.F.T.G.F.O.P.の。それに今季取れたてのファーストフラッシュ品。……まずこんな奇跡が起きたこと自体が驚きだけど、よく手に入れられたよね? 相当な額が掛かると思うけど」
「まぁ、姉上が友達と飲みなさいと申してくれた物じゃから、いくらで取り寄せたのかは知らぬ。じゃが、そんなに凄いものなのか?」
「私達庶民が飲める事は一生無いぐらいに」
「そうハッキリ答えられると反応に困るが……ほぉ、そんなに凄いものじゃったのか」
ヤヤちゃんの感慨深い顔を見てハッとする。思わず紅茶について話し込もうとする意気込みだったよ、恥ずかしいなぁ……。
私の意外な一面としか言い様のない光景に、アイカちゃんとユー君はやっぱり驚いていた。ミナツ先輩はいつも通りクスクスと笑うだけ。
「マサキってそんな趣味あったんだな……」
「珍しいと言うか、なんと言うか……」
「いやっ、これは、その……偶々身に付いただけなのっ!」
私は余りの恥ずかしさに顔を真っ赤にして、顔の前で手をブンブンと振り回した。
「あらあら、可愛いこと。別に恥ずかしがることはないわよ? それも立派な趣味なんだから、ね?」
ミナツ先輩に優しく言われて私は顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。やっぱり恥ずかしいよぉ……
■
しばらくお菓子やお茶に舌鼓しつつ談話していると、ガラガラと戸が開いて自然と皆の視線が戸に集まる。そこには生徒会室から走り去ってしまったツクモ先輩が息を切らして立っていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……急に居なくなってご免なさい。目の前ではしたない姿見せちゃったわね……」
申し訳なさそうに謝るツクモ先輩は、悲しそうに微笑んだ。
「……ツクモ先輩……」
私は意を決して椅子から席を立ち、ツクモ先輩の元へ駆け足で近寄る。その手をとって、私はツクモ先輩の顔を見上げながら言う。
「はしたなくなんか無いです! 私だって、第四回戦までの待ち時間の間、あんなはしたない姿を見せたんです! ……それに比べたら、ツクモ先輩のあの言葉は、ツクモ先輩自身の優しさの表れなんです!」
「マサキちゃん……でも、私泣いて――」
「私、ツクモ先輩があんなこと言ってくれて、とても嬉しかったんです。今まで誰も、“
私は涙が出そうなのを堪えて、ツクモ先輩の言葉を遮って続けた。ツクモ先輩はそれを聞いて、顔をくしゃくしゃにして、泣き始めてしまった。
「私は、ツクモ先輩の側で一緒にバトルします。……だって、私にガンプラバトルを教えてくれたのは、ツクモ先輩とユー君じゃないですか。だから私は、教えてくれた二人に、恩返しとして側で一緒に戦い続けます!」
「……マサキちゃん。……そっか、一緒に側で戦ってくれるんだ。こんな頼りない先輩でも、一緒に……!」
するとミナツ先輩が私の隣までやって来て、ツクモ先輩の肩を優しく叩く。
「ツクモちゃん、ここに居る皆は、全員貴女の味方よ? 困った時はお互い様、助け合うのが仲間でしょ? ……貴女は頼りなくなんかない、私の自慢で頼りがいのある親友よ」
「ミナっちゃん……うう、うわぁぁぁぁぁぁん!!」
「あら」
思いっきりミナツ先輩の胸に顔を埋めて思いっきり泣き出したツクモ先輩は、子供のように泣きついた。ミナツ先輩も、そっとツクモ先輩を撫でて、あやすように子守唄を歌い始めた。
しばらくしてツクモ先輩が泣き疲れた様にソファーの上で眠ってしまうと、ユー君が呆れたように言った。
「結局、こうなった先輩を家まで運ぶのは俺なんだよな~」
「そう言う時こその男の子でしょ、しっかりしなさい!」
アイカちゃんに背中を叩かれて、ユー君は深く溜め息を吐く。時計の時間ももう少しで五時を示そうとしていて、下校時刻間際なのだと気付く。
「仕方ねぇ、それじゃ今日はこれでお仕舞いってことで。明日は部活は休みな。明後日は朝からバスで静岡だし」
その言葉に私を含めた皆が驚く。
『えぇっ!?』
「お前らなぁ……本戦は静岡で行うって、知ってる筈だろ。そうなると模型部全員で行くにはバスが必要になるし、朝から行かねえとホテルにチェックインした後のバトルの練習とか出来ねえだろ」
「まぁ、そりゃそうか……」
アイカちゃんの一言で皆も納得する。確かにそうなると明日は準備期間として休みになっちゃうのかあ。
でも、何日間滞在するんだろう?
「因みに、何日間滞在するの?」
「ん、良い質問だ。滞在期間はざっと一週間ちょいだ。本戦は全国から各部門一チームずつ出場するからな、それなりに長くなる。……それと、先輩やミナツさん、アイカの慰安も兼ねてるんだ。だからざっと見一週間ちょいって訳だ。まぁ、俺の里帰りってのも含んでるんだけどな、ハハハ」
それを聞いて更に納得する。確か静岡はユー君の地元なんだよね。……やっぱり恋しくなるんだろうな、地元とか。私はそうでもないけれど。
取り敢えず粗方の概要や説明は聞いて、そのひは解散となった。ユー君がツクモ先輩をおぶった時に「んしょ……少し重くなったか?」と失礼なことをボヤいていたのは気のせいとしよう、そうしよう。
明明後日からは本戦なんだ。ツクモ先輩の為にも、絶対に優勝してみせる!
……と言うわけで今回は、予選と本戦の間のお話でした。まあ、今後の伏線でもあるんですが……それは置いといて。
お菓子の名前を書いてみたら、物凄く食べたくなるものですね。特にマドレーヌ。今度レシピ調べて作ってみようかなぁ……
皆さんはどんな洋菓子がお好きですか?
ではまた次回、ノシ