ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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EPISODE-15:この戦い、勝つんだから!!!

 早くも土曜日がやって来たこの日。新たに新入部員を迎えた聖蘭学園模型部一同は、再びここ、グランド・アリーナへと足を運んでいた。

 目的と言われればただ一つ、――決勝戦で優勝すること。勿論、全国大会に出場するという目的も存在するのだが、今は置いておこう。

 

 そこで部長であるツクモは腕を振り上げてマサキに言った。

 

「マサキちゃん、ここまで来たら最後の一組だけよ! 模型部存続の為に頑張るわよ!」

「当然です! 私も“負ける”のは一番嫌いですから!」

 

 二人して「オー!」と意気込むのを見て、他の部員達は苦笑していた。だが、苦笑してても、負けたくないと思うのは誰もが一緒だ。

 

「今回、先輩の機体には俺が勝手にだが、エクストリームにも使った特殊なクリアパーツを仕込んである。粒子保有量は倍以上になってる筈だ」

「ふふっ、そりゃありがたいわね。……それじゃ、私達は会場の方へ直接だから、皆は観客席でね」

「えぇ、健闘を祈ってるわ」

「頑張ってね!」

「しっかり応援しておるからの!」

「勝利の女神様がついてるんだから、負けんじゃねぇぞ、先輩、マサキ!」

「私の力、見せてあげないとね!」

 

 皆の激励の言葉に、マサキは力強く頷きながら言ってみせる。そしてツクモと顔を見合わせては会場へと走り出した。ユウキ達もその背中を見つめては観客席へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場の前へと来れば、会場の歓声がここまで届くほどの盛り上がりを見せていた。ツクモとマサキはそんな中から聞こえる声援にクスリと口元を緩ませていた。応援してくれる人がいる――人はそれだけでも頑張れる。それを知っているツクモは、マサキの手を握って、会場へ躍り出た。

 

『さぁ今回は二人戦(タッグマッチ)の決勝戦! 最後まで勝ち抜いたのは、この二組だ! 灯月母さんと七種真幸さんの二人と、藍禅佳花(アイゼン ヨシカ)さんと科衣漆火(シナイ ナナカ)さんの二人! 予選最後となるこの戦い! 一体どちらが全国への切符を手に入れられるのか! ……それではセットアップ!』

 

 実況の女性の一言で、会場が一気に暗くなり、バトルシステムが起動する。

 

《Press set your GP-Base》

 

 バトルシステムに三人がGPベースをセットする。

 

《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. field3, colony》

 

 プラフスキー粒子の散布が開始され、フィールドが設定される。今回のステージはコロニー内。しかもリボー・コロニーと呼ばれる、あの中立コロニー。

 

《Press set your GUNPLA》

 

 三人がガンプラをセットし、全ての準備が整う。

 

《BATTLE START》

 

「ガンダムアテナ、七種 真幸! 勝利を切り拓く!」

「鷹野 月母、ガンダムアストレアType-F! 出るわよ!」

「藍禅 佳花、」「科衣 漆火、」

「「ガンダムセラフ、出るよ!」」

 

 三機の機体がリボー・コロニーの中へ飛び出す。円柱状の典型的なこのコロニーは、機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争の舞台となった場所であり、かの有名な台詞「嘘だといってよ、バーニィ!」もここから生まれた。

 アテナとアストレアは早速コロニーの大地へと降り立つが、車が異様に多い。しかも全て動いている。

 

「あ、足元に車が動いて!」

「落ち着いてマサキちゃん、別に中に人は乗ってないわ、ただのホログラムよ。……踏んじゃっても爆発まではしないから安心して」

「ほっ、良かったです。何かちょっと心配でした」

「流石にPPSEもここまで細かくは再現できなかったんでしょ」

「何事にも限度はありますもんね」

 

 二人してバトルシステムの再現度について納得していると、早速前方から相手がやって来る。……しかし、何故か異様に大きかった。

 

「お、大きい……」

「可変機!?」

 

 赤い()()が迫ってきて、直前で変形してはマサキ達の目の前に立ち塞がった。

 

「一回り大きいわね、しかもフレームが剥き出しじゃない!」

「でもよく出来てますね。……ってうわっ!?」

 

 唐突な敵の攻撃に、反射的に避けたマサキは右手のGNライフルを放つ。しかし巨体でありながら俊敏な動作で避けられた。

 

「速いっ!」

「なら、狙い撃ちして足止めよ!」

 

 ツクモがGNスナイパーライフルを構えてガンダムセラフの足元に直撃させるも、傷1つ付けられずにこちらへ向かってきた。

 

「やっぱり硬いわよねっ!」

 

 バックステップでガンダムセラフの攻撃を躱したアストレアは、そのまま続けて関節を狙う。それに対してアテナは今回持ってきた質量兵器、GNハンマーを右腰から取り出してはガンダムセラフの腹部フレームに向けて射出した。

 

「先輩! 恐らく腹部フレームが弱点だと思います! あの上半身を支えているとなれば、細い腹部フレームには過負荷が掛かる筈です!」

 マサキの推測に、ツクモは頷く。

「……成る程ね。変形機構の関係で、腹部のフレームは剥き出しにしてないといけない訳ね……なら!」

 

 GNスナイパーライフルを構え直して、今度は腰部を狙う。狙う場所を悟ったガンダムセラフは跳躍し、変形しては高速で動き回った。

 

「チッ、ちょこまかと!」

「なら! 止めるだけ!」

 

 舌打ちしたツクモは即座に砲身を上空へ向けるが、やはりと言うべきか、照準が定まらずにいた。それを補助せんとマサキはガンダムセラフが突っ込んでくる直線上に立つ。そしてGNハンマーとGNソードⅢを捨て、そのまま体当たりするかの如くガンダムセラフが突っ込んできて、それをアテナが受け止めた。

 

「ぐぐぐ………重、いぃぃ……!」

 

 受け止める……と言うよりは押しているの方が正しいと言えるが、そうなるとコンソールの重みも半端ではない。必然的に押し込む力が必要になってくる。しかしマサキは体は至って普通どころか、平均を下回る結果である。腕力も自慢ではないが無いと自負している程。そうなると才能でも補えない部分が出てくる。

 

「せ、先輩ぃ……早く! 早く、フレームをっ!」

「……わ、分かったわ! こ、今度こそ!」

 

 マサキの苦し紛れの声に我に返ったツクモは、思わず下ろしていたGNスナイパーライフルを構え直す。そして腹部をよく狙っては、何の迷いもなくトリガーを引いた。

 銃口から飛び出たビームはフレームに一ミリのズレもなく命中するが、当たった際の爆風でマサキのアテナごと中央のシャフトに突撃した。

 歪んだシャフトからアテナは落下して、地面に落ちたGNハンマーとGNソードⅢを回収する。そのまま上へ振り向けば、シャフトから変形した状態でガンダムセラフがチェーンガンと共に垂直ミサイルを発射した。それらは一直線にアストレアへと放たれるが、軽いステップを踏みながらミサイルとチェーンガンを避けていく。

 

「一撃じゃ墜ちないわよね……」

「ですが、効果はありました。これで勝機が見えてたんです、あと一息ですよ!」

 

 マサキは眼鏡を外してからツクモに励ましの言葉を送った。ツクモもその言葉に頷き、狙撃地点を変更する為に移動した。あと一息、それならアレを使おう。

 

「マサキちゃん、アレを使うわ」

「……分かりました!」

 

 ツクモの一言に驚きつつも、マサキは了承する。

 アストレアが移動している最中に、アテナはセラフを引き付ける。垂直ミサイルとチェーンガン、そしてビームキャノンの弾幕で最早陽動どころの騒ぎではないが、マサキはこのままで良いとツクモの方をチラリと見やる。

 何かに気付いた素振りを見せたセラフに、マサキは接近戦を仕掛けることにした。今感付かれてはマズイ。もう少し陽動しなければ。マサキは今まで感じた事の無い焦燥感で一杯だった。

 近付いてGNソードⅢを降り下ろす。近接武器を持たないと確信していたマサキは何も躊躇わず降り下ろすが、直後、右腕が()ね飛んだ。

 

「………えっ?」

 

 遅れて気が付いたマサキは機体の右腕を見た。GNソードⅢがついていた右腕は根本から無くなっていた。次に気付いた時にセラフの爪先で顔面を蹴られ、そのまま叩き落とされる。

 

「嘘っ、ビームサーベル?!」

 

 無いと確信していたのに、その油断がまさか隙を生んでしまうとは。マサキは一瞬にして自分を許せなくなった。

 しかし今はバトルの途中、自分を卑下している暇など無い。マサキは反射的に起き上がらせて、GNハンマーを握る。

 

「まだ時間稼ぎが必要……だから!」

 

 そう、今はまだ。そう自分に言い聞かせて、マサキは一層焦りを募らせて飛び掛かった。今度はしくじらない、ビームキャノンの銃口がビームサーベルになることが判ったから。マサキは何時でも避けられる様にアテナを構えさせた。

 GNハンマーの射程に届いたと同時にハンマーのトリガーを引く。ハンマーが再び射出され、一直線へとセラフに飛ぶ。途中でグリップを後ろへ引き、更に加速を掛けて横薙ぎに振るう。――フェイントを掛けられたセラフは反応が遅れ、避けられずに命中した。

 

「マサキちゃん、準備は出来たわよ!」

「……なら、後は……狙い撃っちゃってください」

「了解よ」

 

 マサキは体力の限界を感じながら、()()()からアテナを退散させる。

 

「これで、私達の―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツクモは予定位置に到着して構える。そして両肩からGNライフルビットが飛び、アストレアの目の前で円を描くかのように並ぶ。そして円形に並んだライフルビットが、薄い膜を形成した。

 

「一ミリでも射角がズレたら、このバトルはお仕舞いかもしれないわね……」

 

 慎重にコンソールを操ってライフルの角度を調整する。画面の先には右腕を失ったアテナがセラフを怯ませるのが見えた。

 

「マサキちゃんも頑張ってるんだから、弱音なんて吐いちゃダメじゃない。私の……馬鹿。

 マサキちゃん、準備は出来たわよ!」

「……なら、後は……狙い撃っちゃってください」

「了解よ」

 

 ツクモはスゥーッと息を吸って構える。狙うはガンダムセラフの腹部フレーム。少しでもズレたら次チャージ完了まで三十秒。失敗はない、あるのは成功のみ。

 

「この戦い、勝つんだから!」

 

 ツクモはそう叫んでトリガーを引いた。

 GNスナイパーライフルから放たれた弾丸が膜を通過する。通過すると同時にヴァーチェのGNバズーカ並みの大きさとなってガンダムセラフへ襲い掛かった。

 セラフはGNハンマーが腹部に当たった衝撃で回避の体勢を取れず、粒子の束が腹部を貫通して爆発した。

 

 

 

 

 

《BATTLE END》

 

 

 

 

 

『……ワアァァァァァァァァァァァアア!!!!』

 

 静寂が裂かれ、歓声の波が押し寄せる。ホログラムが解除され、会場に照明が戻ってきたと同時に、マサキとツクモは我に返る。

 

『全国レディースガンプラバトルコンテスト! 二人戦部門、東東京予選! ……優勝者は――灯月母さんと七種真幸さんのお二人! 皆さん、盛大な拍手をお願い致します!』

 

 拍手喝采が吹き荒れ、マサキは目元に涙が溜まる。

 

「うへっ、マサキちゃんどうしたの!?」

「勝ったんですよ! 私達勝てたんですよ! うぇぇぇん!」

 

 そのままツクモに抱き付いたマサキは嬉し泣きしていた。ツクモはクスクス笑いながら、マサキを撫でた。

 

「……グズッ、こんなに勝って嬉しいことなんてありません!」

「そうよ、私達は部活を守れたんだから。だから今の内に沢山嬉しがってなさい!」

 

 優しく言ってあげては、マサキを連れてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中心街・主街区 とあるカフェテリアにて。

 

 その後、私達はグランド・アリーナ近くのカフェテリアで優勝の余韻に浸ることにした。

 

「――最終的に全国の方で見せる筈だったプラフスキー・パワーゲートも、今回使う羽目になっちゃったから何とも言えないのよねぇ」

「相手が大型だとは思いませんでしたからね……」

 

 ツクモ先輩が残念そうに語るのを見て、私は苦笑いで返す。するとアイカちゃんが仕方ないと言いたげな顔で言ってくる。

 

「大型なら使って尚更じゃない! ただでさえ装甲が硬かったんでしょ?」

「えっとね、フレームも全体的に硬かったんだ。HGサイズのを一回り大きくしたってだけはあるから、パワーも桁違いだったし」

「全国ってあんなのがうじゃうじゃいるんでしょ? あー、あそこで負けてて良かったかも~」

 そんなアイカちゃんの弱音にミナツ先輩がアイカちゃんの耳を引っ張る。

「痛っ!?」

「弱気なこと言うんじゃないの! そもそもアイカちゃんが良い機会だからって出場したんじゃないの。終わったからって弱音は許さないわよ?」

 

 ミナツ先輩の笑顔のままのお叱りにアイカちゃんは恐縮した感じで縮こまってしまう。それを見た私達は苦笑いするしかないが、そこでユー君がポツリと言った。

 

「全国大会ってもよ、分かんないもんだぜ? 確かに、強豪揃いなのには変わらないだろうが、中にはそこそこの実力って奴も居るかもしれねぇぜ?」

「……その推測が当たってくれれば良いんだけどね」

「ま、上手く行かないのが世の中なのよねぇ」

 

 ツクモ先輩が染々に言うと私も頷く。所謂「世知辛い世の中」というものなんだろう。普段ニュースを見ない私にとってはよく分からないんだけどね。

 すると今まで紅茶を楽しんでたヤヤちゃんがようやく口を開いたのだった。

 

「強いか弱いかなどは実力で決まるものではないぞ。己が心の強いか弱いかで決まるものじゃ。……じゃから相手の実力が上であろうが下であろうが、全力で掛かるのみじゃよ」

 

 その言葉に思わず皆で拍手していた。……何かヤヤちゃんってすごい。

 一口紅茶を啜った後に再びヤヤちゃんは言葉を繋げる。

 

「まぁ、この世に真の強さなぞ在りはせん。皆平等であり、皆弱いのじゃ。百獣の王と呼ばれる獅子であれ、弱肉強食の世に生きる以上は何時、誰に食われるかは分からん。それ故に恐怖心から強さを見せているに過ぎん。

 所詮、人なぞ“強さ”と言う仮面を被って生きているに過ぎんのよ。強弱を説く前に、まず己自身を切磋琢磨すべきじゃよ」

 

 ヤヤちゃんの悲しそうな声に、皆言葉を失ってしまう。正しいようで、よく解らないその定義に、少なくとも私は言葉を(つぐ)んでしまっていた。でも、何となくは分かる。自分を磨くこと……つまりは実力を付けろ、と言う意味なんだろう。もし間違っていたとしても、その時はその意味を考え直せば良いんだ。

 

「……私は、始めたばっかで、何も分からないことがいっぱいある。でも負けたくはない。だから、自分を磨きあげるよ」

「そうね、私も、何時までも過去を見ていちゃダメ。だから前を向かなくちゃいけない」

 

 私とツクモ先輩はそう言って、ティーカップに映る自分自身を見つめた。

 そう、天才って呼ばれても、弱いことに変わりない私は、自分を磨きあげる。それが今目指すべきことなんだ。役に立たないから卑下してきたこの才能を、きっと活かせる日が来るまで、私は伸ばし続けてみせるんだ。

 

 私達の予選大会はこうして終わりを告げた。次は全国大会。一体誰が待ち受けているのかは、私にだって分からない。でも、私の目標の為に、勝ってみせる。……絶対に。

 

 




イラストとか載せている人が羨ましく思わずにいられないカミツです。
私にも画才があれば良かったものを……

そんな事はさておき、今回相手として出てきたガンダムセラフについて、以下どうぞ。


ガンダムセラフ
武装:ビームキャノン兼ビームブレード×2、垂直ミサイル×複数、チェーンガン×2
特殊装備:ヴァリアブル・フライトブースター
特殊機能:飛行形態
「1/100 ガンダムバルバトス」をベースに、変形機構を組み込んで完成させた機体。全身の赤い装甲と、一部剥き出しの金色のフレームが特徴。
背部のヴァリアブル・フライトブースターはエルフ・ブルックの追加ブースターを基に作られており、排除する事も可能だが機動性がぐんと下がってしまう。
また普通のガンプラよりも一回り程大きいのも特徴。変形機構を組み込んだが故の支障である。しかし巨体に似合わぬ反応速度や出力を誇る。弱点は腹部の露出した細いフレーム。
元ネタはアーマード・コアシリーズより、「ナインボール=セラフ」。変形方法も同一である。


以上、ガンダムセラフでした。因みにこの機体はMR.ブシドーさんの案を元に自己解釈などを加えた物です。ブシドーさん、ありがとうございました!
ガンプラの案は活動報告にて随時募集しております故、自由に書き込んでください!
ではまた次回、ノシ

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