「夜天嬢雅八々、ウイングガンダム! 推して参る!」
暗闇の中へ、明るい山吹色と白が眩しい機体が躍り出た。しかし全く初めてのヤヤにとって、その感覚は未知でしかない。したがって、
「む、ユウキ、これはどうやって動かすのじゃ?」
「……手元に黄色い球体があるだろ? それを前後に操作して動かすんだ」
「こうか?」
ヤヤの疑問系な言葉と共にウイングガンダムが高速で前へと進んだ。画面越しとは言え、余りの速さに驚いたヤヤは即座にコンソールを後ろへ引く。するとウイングガンダムは急停止した。
「や、ヤヤ……説明はまだ終わってねぇぞ……うぷっ」
「す、済まぬ。ここまで速いとは思わなんだ」
「――まぁ良いや、話を続けよう。右コンソールを前に押しつつ、左コンソールを後ろへ下げると左旋回。逆に左コンソールを前に押しつつ、右コンソールを後ろへ下げると右旋回だ。コンソールを両方共後ろへ下げればバックだな」
「ふむふむ」
ユウキの説明通りにコンソールを動かしたヤヤは、コツでも掴んだのか上手いこと機体を操作して中々にアクロバティックなことをしてみる。それを見たユウキは頷いて次へと移る。
「次は相手と戦うときだ。試しにビルゴを出すぞ」
手元のパネルを操作して、バトルシステム上に三機のビルゴが現れる。それを見たヤヤは、
「むぅ……カッコ悪いのう」
「まずそこ!?」
ヤヤの台詞に思わずツッコミを入れてしまったユウキは気を取り直す。
「コホン。本題に戻るとして、動きは分かったな?」
「うむ、バッチリじゃ。問題ないぞ、どんどんやってくれ!」
「どんどんなんて今日日聴かねぇな――じゃなくて! 次は武器の使い方だ。武器選択には右コンソールを使う。右コンソールを左クリックする感じで押してみろ」
言われた通りにコンソールを左クリックしてみる。するとウインドウが現れ、バスターライフル、バルカン、マシンキャノン、ビームサーベルの順にアイコンと英語表記で現れる。
「何か変なのが出たぞ」
「それが武器選択画面だ。そのまま適当にコンソールを捻ってみろ」
「む、こうか?」
手首を捻らせるとウインドウが動き、カーソルはビームサーベルに定まっていた。
「そのまま左クリックで決定してみろ」
左クリックしてビームサーベルに設定すると、ウイングガンダムが動き、右手のバスターライフルをシールドに取り付け、左腕のシールドが中折れして内側からビームサーベルの発振器が現れては、それを右手で抜刀した。
「おおぉ! ユウキ、儂のウイングガンダムが動いたぞ!」
「ま、最初はそんなもんだろ。だがバスターライフルの弾数には気を付けろよ?」
「うむ、承知した。それでは手始めに……推して参る!」
思いっきりコンソールを押し込み、ビームサーベルを構えて一機のビルゴへと斬りかかる。しかしビルゴは肩から四基のプラネイトディフェンサーを集中的に展開してビームサーベルの一撃を防ぐ。
「何っ!? 防いだじゃと!」
一旦距離を取ったヤヤは、ビルゴのプラネイトディフェンサーに驚きを示す。ただし直ぐ様バスターライフルに持ち替えては出力を半分に抑えつつも放ち、プラネイトディフェンサーを押しきってビルゴを貫いた。
「まずは一機じゃ!」
「よーし、そんじゃ次は攻撃も入れてみるか」
ヤヤの歓喜する声と同時に、ユウキがパネルを操作しつつビルゴに指令を出した。
するとゆらゆら左右に動きつつ、二機で若干の連携を取り合っては右腕のビームキャノンを放ってくる。それをヤヤはシールドでカバーしつつ軽快に避けた。
「流石ヤヤだな、慣れるのが早い」
「ふん、もっと褒めても良いのじゃぞ?」
「なら、次はこうだ」
ユウキがそう言った直後に、今まで安直な機動しかせず単純な攻撃しかしてこなかったビルゴの動きが変わった。
機動がより柔軟になり、ビームキャノンを撃つタイミングが変わったうえ、より正確になった。それを躱しつつもヤヤは出力を極力抑えたバスターライフルを連射する。するとエネルギーパックの一つがエネルギー切れを起こしたのか、再充填が始まる。
「なっ! やはり大出力でなければ撃ち抜けぬのか!」
背を向けないように立ち回るも、見違える程に動きが変わったビルゴを相手にするのは、ガンプラバトル初心者のヤヤには多少なりとも辛かった。しかしここで諦めてしまえば立つ瀬がない。
残るエネルギーパックは二つ。丁度二回程最大出力で撃てる。
「背水の陣……とはよく言ったものじゃの」
すぅ、と息を吸って吐き出した。ヤヤは目の前を見直し、目標を視線の先に捉える。そしてウイングガンダムは右腕を持ち上げ、右手に持ったバスターライフルを構える。チャンスは一度のみ。
「そこじゃっ!」
定めた位置でバスターライフルの
落とした余韻に浸りたいのも束の間、ヤヤは即座に次の目標へと目を向け、バスターライフルを構える。
「最後じゃ!」
放たれたビームは、一直線に残ったビルゴへと迫る。焦ったかの様に避けようとするも、横を掠めては半身を持っていかれて爆散した。
《BATTLE END》
ホログラムが解除されて、ヤヤは長い髪を揺らして後ろへ倒れ込む形でよろけた。それをユウキが受け止める。
「お疲れ様、初めてにしては上出来だったよ」
「う、うむ、これぐらいは普通じゃ! 別にほ、褒められるようなことでも――」
「さっきもっと褒めても良いって言ってただろ、矛盾してんぞ。……ほれ、撫でてやるからこっち来い」
「な、何を! ……ひゃう!?」
ユウキに抱き寄せられては大人しく撫でられていたヤヤは、少し恥ずかしそうに、でも満更でもない顔をしていた。
そんなヤヤを見て二年生二人は「可愛いなあ」と微笑ましく見ていたが、対してアイカは不満気に、マサキは苦笑していた。
「見知らぬ子がユーに撫でられてる……何か悔しい」
「ユー君とヤヤちゃんは、一応幼馴染みっぽいみたいだよ?」
「うー、私もユーに撫でられたい!」
「ユー君撫でるの上手だからね~」
一年生コンビでそんなことを話してると、ユウキは撫でるのを止めて製作用デスクに置かれた黒いエクストリームを手に取った。
「……あれ? ユー、そのエクストリームさっき壊れてなかった?」
「カラーを変えた奴を差し替えただけだよ。まぁ、それ以外と言ったら、ちょっとばかし関節の強度を増してみただけだし、さっきのとそこまで変わんねえな」
「関節の補強だけでも十分性能上がるじゃない。反応速度や着地時の衝撃耐性、武器の重量制限暖和、エトセトラエトセトラ……別物じゃないの」
「でも今のこのエクストリームの武器なんざ、ビームサーベル二本とギター型ビームライフルにギターケース型シールドだけだろ? まだまだミナツさんには敵わねぇよ」
「あら? そうかしら」
ツクモの台詞に受け答えていたユウキの言葉で、今まで大人しくしていたミナツがふと口を開いた。
するとユウキは口元をへの字にしてはジト目で言う。
「ミナツさんの射程範囲に入ったらギリギリで躱すのが精一杯だし、精神結構磨り減らされるんだぞ?」
「ツクモちゃんなら、弾を
「いやいや、俺をあんなバケモノと一緒に……あ」
そこで禁句を口にしたことに気付いたユウキは、マズイと思ってツクモの座る方を見るも時既に遅し。背後から殺気を感じて背筋に悪寒が走った後、耳元にツクモの優しい声が響いた。
「最後に言い残すことは?」
「………す、すいませんでしたぁぁぁああ!」
直後、軽くジャンプしたツクモが脚をユウキの首に回し、天井に指を食い込ませて懸垂の要領で吊し上げる。
当然首が絞まったユウキはツクモの脚を掴んで放そうとするも、逆に絞め上げられて気絶した。
そんなユウキを解放して、ツクモはストンと床に着地する。
「私をバケモノ呼ばわりした御返しよ」
フンと鼻を鳴らしては、ふんぞり返って椅子に座り込む。当のユウキは口から泡を吹きつつ白目を剥いていた。花も恥じらう十代乙女に対して言葉を選ばなかった男の末路である。
「うー、あー、もー! ユーの所為で気が立ってしょうがない! ミナっちゃん、バトルして!」
「ふふふ、もうツクモちゃんったら、しょうがないわねぇ」
カタリと席を立つと、二人はそれぞれバトルシステムの前に立った。
「……あれ? ミナツ先輩、ガンプラは?」
マサキの言葉にピクリと反応するミナツ。そして振り返っては、
「忘れてたわ♪」
可愛らしく言って見せたミナツに他の皆がズッコケた。それでもクスクスと笑うミナツはユウキのエクストリームを手に取る。
「仕方ないからこれにするわね? ユー君ごめんなさい、後で一緒に改造してあげるから。ふふふ♪」
「え、武器は……」
「ビームライフルとシールド。それとビームサーベル2本だけなら十分よ」
笑って言ったミナツにマサキは唖然とするしかなかった。しかしそれはアイカもヤヤも一緒だった。
ツクモは張り切りつつバトルシステムを起動させる。
「制限時間は2分で良いわね?」
「了解よ」
《BATTLE START》
「鷹野月母、アストレアType-F! 出るわよ!」
「宇多野深夏、エクストリームガンダム/ナハト! 出るわ!」
赤と黒のガンダムが宙を舞って飛び出したのは、真空と言う名の暗闇――即ち、宇宙。しかも回りには戦艦の残骸とも見れるスペースデブリが漂う。グリプスⅡの跡地と言うべきか。
「厄介なスペースデブリね、――」
「――でも私達からしたらただの、」
「「盾同然よ!」」
息の合った台詞の後、アストレアもエクストリームも、デブリを蹴ってジグザグに移動しながら探し合っていた。
ただしセンサーの効果範囲はアストレアの方が上。つまりは、
「……見付けたっ! それぇ!」
ツクモが先に見付け、GNスナイパーライフル片手にエクストリームを捕捉する。そしてトリガーを引いて銃口から放たれたビームは、デブリを貫通して一直線にエクストリームへと向かう。
《CAUTION》
「攻撃!! ……クッ!」
アラートの方向へシールドを向けて防ぐも、勢いまでは殺せない。エクストリームはそのまま背後のデブリにぶつかっては無防備を晒してしまう。
「やっぱり、本命で来るべきだったかしら? ……でも、ただでは負けないわよ!」
その場で一回転してから背後のデブリを蹴り飛ばし、その反動を利用してアストレアへと近付く。接近警報に気付いたツクモはGNスナイパーライフルを右肩に仕舞い、両手にGNピストルⅡを持ちながら突貫してきた。
「やっぱり、ミナっちゃん相手だと接近戦が一番かしら!」
「あら、言ってくれるわね。ツクモちゃんとの接近戦だったら、四十三勝五十六敗よ?」
「敗数が多いのに誇れることなの!?」
「少なくとも四割三分は勝てる見込みがあるってことよ!」
シールドからギター型ビームライフルを取り出したミナツはそのままシールドでアストレアを叩く。ツクモはGNピストルⅡをサーベルモードにし、X字に構えてギリギリ防いだ。
しかしその直後、シールドバッシュしたエクストリームはビームライフルを構え、至近距離にも拘らず発射する。
「ちょっ! マズ――」
ツクモがそう言い掛けた途端にアストレアに爆発が起こる。しかし爆煙から赤い機体が排出され、そのまま近くのデブリに数度ぶつかっては慣性のままに宙を漂った。
「あらお堅いこと」
「装甲が堅くなかったら即死だったわ……」
「じゃあ次でラストよ」
「倍返しにしてあげるわ!」
デブリすら無視して、寧ろ盾にして近距離の銃撃戦が始まった。エクストリームは右手に構えるビームライフルで、アストレアは両手に持ったGNピストルⅡでそれぞれ撃ち合いを始める。
「うららららららららら!!!」
「せいっ! はっ!」
手数と威力の差が激しいものの、激戦攻防は数十秒に渡って繰り広げられた。しかし両方ともこれといった外傷は無し、代わりに近くのデブリ全てが塵と化す程までに撃ち合っていた。その為か、二機の粒子残量は最早からっきしも同然だった。
「撃ち過ぎたのは私のミスね……ごめんなさい、エクストリームガンダム」
「あー、スッキリした! やっぱり、ミナっちゃん相手じゃなきゃ対等に出来ないわね!」
《BATTLE END》
本日三度目となるバトルが終わり、ホログラムが解除され二分ばかしの“お遊び”が終わった。
そんな時に外を見れば既に夕方。時計も後少しで完全下校時刻の五時を示そうとしていた。
「……へっ!? もう五時!? ユー、アイカちゃん、帰って料理作っといて! 私収録あるから! ミナっちゃん行くわよ!」
「あら? そんなに急ぐことだったかしら……?」
「ミナっちゃんはマイペース過ぎるのよ! ほら行く!」
「え、えええ~」
ミナツを背中から押して行ったツクモを見送って、部室に残った三人は顔を見合わせてから足元の物体を見る。
「今日は私だけで作ろうかしら?」
「あ、私も手伝おうか?」
マサキの一言にアイカは直ぐ様頭を下げた。
「お願いできる? 普段ユーばっかに任せてるから……」
「……人数多いもんね」
中々に大所帯だと言うことを思い出すマサキは、苦笑いしつつもヤヤを見た。
「ヤヤちゃんは?」
「うむ、儂は六時までには家に戻らねばならぬのでな。これで失礼するぞ、また明日な!」
そう言っては即座に荷物を纏めて颯爽と出ていった。
「……あれ、もう行っちゃった。……仕方ないからユー君置いて帰ろっか」
「そうね、水野先生に見付かる前に退散しましょう。……あー、結局スーパー寄ってかなきゃじゃん!」
「大丈夫だよ、私も居るから、ね?」
ガックリ項垂れるアイカを宥めつつ、マサキはアイカを押して学校を後にした。
決勝戦まで後4日。
因みにその後、ユウキが起きたのは翌朝だったりする。
父親に「宇宙空間(=真空)じゃ煙は出ないから、ガンダムとかどうすんだろうね」と笑って指摘されて、表現方法に苦悩して知恵熱を出したカミツです。
何なんだろうね。それは昔から分かってた筈なのに、今更感が半端ない気がして変えなくて、そして今更指摘されて苦悩するって。
馬鹿馬鹿しいけど結構重要な事に涙したい気分ですよw
ではヤヤのウイングとユウキのエクストリームの紹介です。
ウイングガンダム
武装:バスターライフル、ウイングシールド、ビームサーベル、頭部バルカン×2、マシンキャノン×2
特殊機能:バード形態
ヤヤがユウキに教えを請いて製作したガンプラ。見た目重視で使う人が多い様だが、実際は弾数制限や武装の少なさも相まって扱い辛い。ヤヤは寧ろ「装備が少ないから扱い易い」と言う理由でそのまま製作した。
濃紺の部分は明るい山吹色に変えられており、それ以外は然程対して変わらない配色をしている。
初心者にしてはユウキが手を加えたということもあって、そこそこの性能を誇る。
エクストリームガンダム/ナハト
武装:ギター型ビームライフル、ギターケース型シールド、ビームサーベル×2
ユウキがバトル用にと作った漆黒のエクストリーム。武装はキットのままであり、追加装備と言ったものは一切作られていない。
素の状態でミナツに勝手に持ち出されたが、出来の良さもあってツクモと互角に戦い抜いた(ミナツの技量の高さもあるが)。
白い部分が黒、青い部分やクリアパーツが紫、センサー系が赤に変わっている。
後に様々なフェースに変貌するが……?
以上です。
次回こそは地区予選決勝戦!
ではまた、ノシ!