ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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EPISODE-12:私、今のままで良いのかな

 大会第四回戦が終了した翌日、私達模型部は通常通りに部室でのんびりしていた。

 

「あー、昨日は大変だったぁ~」

 

 疲れたと言わんばかりに机に伸びるツクモ先輩は、美人顔に似合わぬだらけた顔でダラダラとしていた。かく言う私はアテナをただぼんやりと眺めているだけ。

 

「二人共、気ぃ抜き過ぎだ。少しは今週の土曜のことでも考えとけよ」

「ユーは分かってないね~、乙女にだって休息は必要なのよ」

「休息なんざしてたらその内鈍るだけだろ。マサキも何か言ってやれ」

「……ケーキ食べたい……」

「お前もか!」

 

 深く深く溜め息をついたユー君は、大人しく作業用机に向かい直る。その手には見慣れぬガンダムが握られていた。

 しかし特に気にするこたもなくただボーッとしていると、唐突に誰かが入ってきた。

 

「模型部ってここよね!」

「普通は戸を三回ノックして、相手の反応を待ってから入りなさいね?」

 

 唐突に入ってきたのは、今日急に転校してきたアイドルユニットの二人、唄貝愛歌もとい星河藍花(ホシカワ アイカ)ちゃんと、宇多野心歌もとい宇多野深夏先輩。

 二人が入ってきて、私とツクモ先輩がそちらを向くも、ユー君は手元に持っていた部品が落ちそうになって慌てふためいていた。

 

「お、おわっ! 俺のクリアパーツがぁっ?!」

 

 そして手の中で曲芸のように宙へ舞った後、窓からぽーんと飛んでいってしまった。するとユー君は青褪めた様子で駆けていった。……ここは一階だからそこまで青褪めることもないと思うけど。

 

「ふふっ、ユー君は相変わらずね~。にしても大変ねぇ、生徒会室の真横が部室だなんて。……ファンの子に囲まれなくて済むってだけマシよね」

 クスクスと笑いながらツクモ先輩の隣に座るミナツ先輩。

「ミナツ先輩達は入部届け出したんですか?」

「ええ、出したわよ? ……顧問の先生が大分可愛らしかったのには驚いたわ」

「アレを可愛いなんて言うミナツの目が狂ってるのよ! あんな熊が顧問だなんて、誰が決めたのよ!」

 

 ミナツ先輩の感性については深く探らないとして、アイカちゃんの叫ぶような疑問に、私とツクモ先輩が顔を見合わせてから言う。

 

「「ユー(君)」」

「えぇっ!?」

 

 なんかアイカちゃんの反応は面白いかも。……いやいやそんなこと言ってる場合じゃないよね。

 アイカちゃんは驚いた後に、コホンと咳払いしてから一息吐いた。

 すると再び戸が開いてユー君が帰ってきた。

 

「セーフセーフ……宝石と間違われて拾われるところだったぜ」

「クリアパーツがそうそう間違えられる筈がないでしょ~?」

「まぁそうだけどさ……」

 

 ツクモ先輩の指摘に口先を尖らせるユー君。アイカちゃんはそんなユー君の様子にほとほと呆れていた。

 

「全く相変わらずね、ユーは。ガンプラ一筋で、少しは女の子に気を向けなさいよ……」

「生憎だが、女に好かれるような奴じゃないぜ? 寧ろ退かれるぐらいだろ」

「私は何でそこまで自慢気に言えるのかが不思議だよ」

 

 私の台詞に特に反応も示さず、ユー君はそのまま製作用デスクに向き合って製作を続けた。ユー君って今時珍しいよね、女の子に興味無いなんて。

 私はそんなことを思いつつ、ユー君の傍まで駆け寄って様子を見ていた。

 

「そう言えばなに作ってるの?」

「ああ、ケルディムサーガでも十分なんだが、アレは元々バトル用に作った訳じゃないんだ。だからこそ、バトル用のガンプラを作ってるんだ」

「……で、機体は?」

「素体はエクストリームガンダムだな」

「何ソレ?」

 

 私の疑問にユー君は思わず椅子からズッコケる。……大丈夫かな?

 ユー君はお尻を擦りつつ立ち上がった。

 

「アテテ……まぁマサキが知らないのも無理ないか」

「ご、ごめん」

「別にこれから知ってけば良いだろ? ……そうさな、エクストリームガンダムは色々特殊だからなぁ。なんていうか、自己進化するんだよな、動物の環境適応と同じで」

「自己進化?」

「そ、動物は環境によってその姿を変えるだろう? ガラパゴス諸島に住む動物が良い例だ。それらと同じで、エクストリームガンダムはその時その場の状況によって自己進化を遂げて、その姿を変えるんだ。……まぁ、進化と言えど、装着とかの方が正しいか。Type-レオスは別だが」

 

 まぁ、俺には関係ないけど、と付け足して笑うユー君は早速組み立てに入っていた。どんなのが出来ることやら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小一時間ぐらいして、暇になった私は部室内に置いてあったバトルシステムを起動させる。

 

《Press set your GP-Base》

 

 この機械音声に慣れを感じつつも、私は自分の小さな手に余る大きさのGPベースをセットする。

 

《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. field4, base》

 

 プラフスキー粒子が散布されて、青いホログラムが私を包み込む。

 

《Press set your GUNPLA》

 

 指示された通りにガンプラをセットし、眼鏡を外してから現れた黄色の球体――コンソールを握って息を飲む。

 

《BATTLE START》

 

「七種真幸、ガンダムアテナ! 勝利を切り拓く!」

 

 慣れ始めた台詞を放ちつつ今回のマップとなる補給基地の滑走路へと降り立つ。すると直ぐ側にあった格納庫の扉がゆっくりと開き始め、中から五機程のパワード・ジムが姿を現して突撃してきた。

 

「NPCなんかにっ!」

 

 咄嗟にバックステップを踏んで専用シールド「エイジス」を構えつつGNライフルで応戦する。すると後方にいた一機がハイパーバズーカ片手にこちらを正確に狙ってきた。

 弾頭がバズーカの砲身から飛び出て数秒の間に、私は横へ転がりながらバズーカを持ったパワード・ジムをGNライフルで撃ち抜く。

 爆散したのを横目に、立ち上がって跳ねるように飛んだら、エイジスから閃光を放つ。すると目眩ましのお陰で視界を塞がれた四機は狼狽えるかの如く固まり、その隙を突いてGNソードⅢで切り刻んだ。

 ――瞬間、時が止まったかのように思えたがそれも直ぐに解け、パワード・ジムは全て撃破された。

 

「まずは五機……」

《CAUTION》

「敵!」

 

 音声を聞き逃さず、私はその方角へ視線を向けると、茶色い巨体がホバーでこちらへと進んでくる。……確か、何と言っただろうか。次に立ち止まっては折り畳まれた砲身が展開され、間もなく発射された。

 身を屈めて前転し、砲弾をギリギリで躱すものの、爆風までは躱せずにもろに影響を受けてしまった。

 

「チッ」

 

 舌打ちしつつ逆立ち状態になった機体をそのまま両の手で上へ飛ばして、足先を巨体へ向けて目の前へと勢いよく降り立ち、再び屈んではその頑丈そうな身体へと体当たりを決め、そのままGNライフルを零距離で撃ち込んだ。

 その厚い装甲の内側から、赤熱して一部が膨れ上がり、私はバックステップで後退する。――爆散した。

 

 一息吐けるかと思いきや、背後の格納庫から強引に出てきたと言わんばかりの激しく崩れる音が聞こえた。

 

「今度は何?」

 

 その方を見ると、さっきのMS程ではないにしろ、MSとしては大型の部類に入るんじゃないかと思うぐらいのガンダムが出てきた。私はそんなガンダムを見てピンときた。……多分「ソロモンの悪夢」と言えば分かるんじゃないだろうか。決して駆逐艦っぽい人じゃないっぽい。

 

「核弾頭を放てない分、こっちに分がある!」

 

 格納庫へと一直線に跳んでいき、こちらに気付いたガンダム試作二号機にシールドで突き飛ばそうとするも、逆にシールドで塞がれてしまう。そのまま両肩のバーニアを全開で噴いてきて、そのまま押し返されてしまった。

 何とか立ち上がると、試作二号機(サイサリス)はその手にビームサーベルを握っており、既に高出力状態にされていた。そうなると一撃で両断されかねない――なら、

 

「三倍にして返すだけよ! ……トランザム!」

 

 機体が深紅に染まり、GNドライヴから大量の粒子が吹き荒れる。GNソードⅢを片手に構え、エイジスを前面に構えて突撃した。

 案の定試作二号機は、シールドで一旦防御しつつ、高出力状態のビームサーベルを袈裟斬りの要領で降り下ろしてくる。……しかしトランザムの速さにまでは追い付けない。

 私はそれを見越して右斜め前へと跳んで緊急回避しつつ、真後ろから試作二号機を貫いた。機能を停止した試作二号機のカメラアイから光は失われ、力を失った人形みたいに佇んだ。

 

 

 

《BATTLE END》

 

 

 

 ホログラムが解けて私は深く息を吐く。最近になってやり始めたとは言え、まだ僅か数日。にわかにも程がある私でも、今回の試作二号機とか一部のガンダムだったら分かるけど、分からない機体が圧倒的に多い。今度、ユー君に辞典でも作って貰おうかな?

 ……と、閑話休題。いくら才能持ちと言えど、私だって全く手探り状態な訳で、このガンプラ――ガンダムアテナだって本当に使えてるのか疑問が残る。そうなると私って案外馬鹿なのかなぁと思ってしまう。……いや、ゲームに関してはイヤというほど馬鹿だけども。

 ユー君はこれから知っていけば良いなんて言ってくれたけど、本当にそれで、良いのかな……。

 

「どうしたの? そんな暗い顔なんかして」

「へっ?」

 

 顔を上げると目の前にアイカちゃんが居た。私は驚いて思わず飛び退くものの、アイカちゃんが近寄ってくる。私は少しくぐもった声で答える。

 

「えっとその………私、今のままで良いのかな……って思っちゃって……」

「今のまま?」

「うん。私、ガンプラバトル始めたのって、つい先週のことで、まだ何にも知らないから……今のままで良いのかなって」

 アイカちゃんはそれを聞いては、「何だ、そんなことか」と言いたげな顔で言った。

「別に良いじゃない。少なくとも、ガンプラ始めてまだ数年の私にだって勝っちゃったんだよ? ……それにさ、私だって、このままで良いのかって思ったことなんてわんさかあるもの。人間だからこそ悩めるんだから、ゆっくり焦らず考えたら良いじゃん。……ってツクモちゃんの受け売りなんだけどね」

 

 苦笑いするアイカちゃんを見て、私は頷く。そうだ、無理に悩まなくても良いんだ。ゆっくり、焦らずに考えよう。そうして答えが見えたのなら、それが正解なんだ。

 

「ありがとう、アイカちゃん。元気出たよ」

「うん、何事も元気が一番! ……さぁ今週の決勝戦に向けて特訓しましょ! 私にだって出来ることはあるんだから!」

 

 そう言われて手を引かれ、アイカちゃんにそのまま連れ出されてしまう。……でも悪い気はしない。私のためを思ってくれている人がいるんだって、分かったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちまったな」

「アイカちゃんにも同年代の友達が出来て良かったわね」

「同年代って、俺がいるじゃねえか」

「……アンタって奴は……」

 

 ツクモの呟きにユウキは首を傾げていた。ガンプラバカに言っても、馬の耳に念仏にしかならないと知っているので諦めるしかないが。

 ミナツはクスクス笑いつつ、二人の様子を見ながら、鞄から一つのキットを取り出す。

 

「さて、私も新しいガンプラ作らなきゃね」

 

「「え゛」」

 

 

 ミナツのニコニコとした顔を見ながら、二人はこりゃまたとんでもないものが出来るんじゃないかと恐々するのだった。ただしそれはまた別のお話。

 




投稿が大分遅れてすみません。

カミツです。

風邪引いて、かんぱにガールズにハマって、PSO2でサブキャラ育てて、艦これで陸奥が量産されて、なんやかんやあって遅れました。すみません。

さて以下アテナの新装備の紹介。

アテナ専用シールド「エイジス」
マサキのガンプラ、ガンダムアテナ用に作ったシールド。大きさは宇宙世紀などの連邦製シールドぐらい。ただしシールド自体は多層構造となっており、強靭さを誇る。シールドの中心には、強烈な閃光を放つGNスプレッドガンが埋め込まれており、目の様な箇所から目眩ましする。
名前の由来は、女神アテーナーの持つゴルゴーンの頭部が付けられた山羊革盾「アイギス」の日本語読み「エイジス」から。


今回は以上です。
ではまた次回、ノシ

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