女性による女性だけのレディースガンプラコンテスト。予選大会も後半へと差し掛かった日曜の午後。
いよいよ第四回戦、準決勝が開催された。その中で、ツクモとマサキのペアは第三試合目となっている。
第一、第二試合が着々と進んでいく中、控え室にて第三回戦を待っていた二人――いや、正確には三人――は、試合の様子を中継を通して眺めながらガンプラの整備をしていた。
「――無事、勝てると良いな」
ユウキらしくもない台詞が口から出てきて、二人は驚く。
「どうしたのよ急に。気持ち悪い」
「そうだよユー君、持ち前の前向きさは何処へ行ったの?」
二人の心無い言葉で傷付きながらも、ユウキは反論する。
「ここまで進んでくると、いくら女性とは言えど、強くなってくるだろう?」
「そりゃ……そうだけど……」
いくら女性とは言えど――二人はその言葉に顔を暗くさせる。女性ファイター自体少ないのは元々であるが、昔と比べれば幾分か増えたのには違いない。ただし女性ファイターを続けていられるのは、いずれにせよ強豪だけである。有名なのが、世界大会でも優勝したある二人の少女くらいだ。
それをマサキは知らないが、それでも大会となれば、元々女性向けでもないガンプラバトルとなれば、結果的に強いファイターが残るというのは必然的に分かった。
「……でも、負けられない、負けたくない、負けることなんて許されない」
「マサキちゃん……?」
マサキの異様な雰囲気に気付いたツクモは、ふと不安になる。
噂に聞いていた“勝利の女神”と呼ばれる少女が、我が高校にやって来た。そうとなれば誰だって欲しい。――あくまで勝つ為なら。
その子をまさかユウキが連れてくるとは思いもしなかったが、その強さは確かに折り紙付きと言って良い程だ。それをつくづく実感しているツクモだが、たった数日の付き合いでしかないにも拘らず、マサキの異様な雰囲気を感じ取っては度々不安に駆られるこの衝動をどうしたものかと思っていた。
「……私は勝つしかないんだ、勝って、勝って勝って勝って勝って勝って、証明するんだ」
暗示にも聞こえるこの言葉に背筋が凍り付く。「勝つこと」に執着する人なんてそうそういない。でも見ているとマサキがまさにそれだと直感的に思った。
「マサキちゃん……大丈夫?」
「――ぁ……私は何を……?」
自覚してない所を見る辺り、彼女の本心の表れなのかと思う。
「勝つことに執着するかは人の勝手だけど……ガンプラバトルは勝つ為にやるんじゃないの、楽しくやる為にやるのよ?」
「はい……それは解ってます」
「なら良いのだけれど。マサキちゃん、試合とかになると人が変わった様な目付きになるから……」
そのツクモの言葉に、マサキは自分が眼鏡を外してる時だと咄嗟に理解した。
「多分、眼鏡を外してるからだと思います。……私、こうやって眼鏡を掛けてることで、ずっと落ち着いていられるんです。昔から、見るもの全てが怖くて……その時、お父さんがこの眼鏡を買ってくれたんです。でも眼鏡を外すと、何というか、気を張り詰めちゃって。ゲームとかやってるとそうなんですけど、勝ちに行こうとするんです。何をやっても。その所為で、脅迫観念って言うんでしょうか。何にでも「勝たなきゃ」って思っちゃって……それで、眼鏡を外すとこんな目付きになっちゃうんです」
外した眼鏡を手元で弄りながら、マサキはツクモに対して作り笑いを向ける。自分が無理してるってことは分かってる。でも勝たないと駄目だって思ってる自分がいる。そんなことの板挟みで、マサキは崖っぷちに立っているようなものだった。
それを見ているのが辛くなったツクモは、無理矢理にでも抱き締めた。サエグサ家がどんな内情なのか知らない。でも、その家の娘がこんな状態ともなれば、相当辛い思いをしているのだろうってことは
「別に勝たなくたって良いの。部活が潰れちゃったって、集まってガンプラバトルをすることなんて幾らでも出来るんだから。……だから無理しないで、楽しくやろう?」
「…………はい」
顔がツクモの胸に埋まったマサキは、力無く頷いた。例え勝てなくても良い、楽しめればそれで――
そんな事って自分にもできるだろうか? マサキの疑問は尽きないものだったが、それでも「やらなきゃ」ということだけは、ハッキリと分かったのだった。
「さ、ユー! ガンプラの整備はバッチリよね?」
「おう! 当ったり前だ!」
「なら、今から作ってもらいたい物があるわ。急造品でも構わない。全て
ツクモの強引な言い方に残りの2人はキョトンとするも、ユウキはフッと笑って答える。
「へっ、何でも言えっての! ガンプラ作って十年、改造し始めて七年! 伊達にやってねえからな!」
「それじゃあ今から作って欲しいのは二つよ。一つは――――」
その指示通りにユウキは早速作り始める。マサキは涙を浮かべながら、自分を“助けようと”してくれるツクモに感謝の意を込めて言った。
「ありがとう……ございます!」
「先輩が後輩の悩みことを解決しなくてどうするの? このツクモさんに任せなさいっての!」
ニカッと明るく笑ってみせるツクモは、同時に胸をトンと叩いて言ってみせた。
■
あれから数十分後、第二試合が意外にも長引いて、更に延長戦にまで
そこまで縺れ込んでくれたファイター四人に感謝しつつ、ツクモはGPベースに登録する設定を書き終えた。
GPベースと言えば、“ガンプラのデータを全て記録している媒体装置”と言うのが一般的な考え方だ。それは
それでは残りの十点は? ――GPベースにはそのガンプラとファイターに関するデータが
それ自体は――一部を除いて――バトルシステム上にガンプラと共にセットした時に上書きされるが、逆に上書きされないように細工することもできる。それはそのガンプラの設定を崩さない為と言う人が多い。
何が言いたいかと言えば、GPベースとは即ち“ガンプラ・ファイターのデータを全て記録・書き変えできる媒体装置”だということだ。故にバトル中のガンプラの性能や動きに深く関与してしまう。
ツクモはその登録したガンプラの設定や装備情報を、一から書き直していたのだ。新装備などのお披露目には必ずと言っても良い程やる。……そうでもしなければ、早速使った際に、使い勝手が悪いものとなってしまう。その機体に馴染みやすいものであるなら話は別だが。
先程「バトルシステム上にガンプラと共にセットすると上書きされる」と言ったが、それは装備や設定も例外ではない。一部は除くと言ったものの、それらは含まれていないのだ。よって「上書きされない様に設定+装備又は設定の書き変え」を行って自分の機体を“
「毎回毎回大変よね、これ」
「それじゃやらなきゃ良いだろ?」
素っ気ないユウキの言葉にムスッとするツクモ。
「あのねぇ、調整してあげなきゃ可哀想でしょう? 大体、結局使わず仕舞な上に扱いづらかったでーす、なんて許されないでしょう? だから調整するのよ」
「そりゃ俺だって知ってらぁ! ……ただ、ツクモ姉も無理しすぎだって言ってんだよ」
「……あら? 何か拾い食いでもしたかしら? ユーが家以外でそう呼ぶなんて珍しいわね。……でも、心配なんて無用よ。何せお姉ちゃんは歌手ですから!」
ドヤ顔しながら胸を張るツクモは、ユウキに向かってそう言った。こんなことをするのも、弟分のユウキに心配させないが為である。
ユウキは「そうだな」と呆れ半分笑い半分で言った。このバカ姉には何を言っても無駄なんだな、と。
「だったら俺がしっかり支えてないとな。じゃなきゃ潰れちまう」
「そうね、しっかり支えてなさいよ? ガンプラバトルも、私の歌も」
ツクモは久々に心底笑ってみせた。こんな笑顔は家族とユウキ以外に見せてないな〜、なんて考えながら。
そんな時に、ようやくマサキがお手洗いから戻ってくる。
「皆揃ったわね? ……それじゃあ準決勝、張り切って行きますか!!」
「はい!」
「おう!」
腕を振り上げて言ったツクモに続き、二人も声を重ねて腕を振り上げた。
そして控え室から廊下へ出て、一直線に会場へと歩き出す。
第四試合開始まで、後り数分。
「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」放送開始урааааааааа!!
カミツです。
いやね、仮面ライダーゴーストが始まったのも嬉しいんですけど、やっぱり鉄血のオルフェンズの方が待ち遠しかったですね。……Gレコじゃ「待ち遠しくても、待て!」なんて言われてましたが、あっちよりもこっちの方が大分待った感じがしますw
因みに今回は対戦相手が結局思い付かずにざっと書き上げました。ただの尺稼ぎです、ハイ。…………本当に対戦相手どうしよ……キャラが思い浮かばんのよ。まぁ、直ぐに思い付くでしょうけど。
ではまた次回、ノシ