大会開催二日目、グランド・アリーナ
今日も前日と相も変わらず、絶大な熱狂を誇るここ、グランド・アリーナでは先日の続きである各部門第三回戦が繰り広げられていた。
そんな時に、昨日の夜の出来事で半分寝過ごしかけた少女達が駆けていた。
「もう、ツクモ先輩! 自分で起きれないと社会人として恥ずかしいですよ!」
「……うぅ、何も言い返せないのが悔しいけど、それを言うのならマサキちゃんだって気持ちよさそうに寝てたじゃない!」
「大丈夫です! 私は就職も進学もしませんから!」
「まさかのニート志望!? 現代の女子高生がそれなんて、きっとお母さん泣くわよ!」
「大丈夫ですよ、寧ろ私を家に閉じ込めると思います。主に過保護的な意味で」
「そのお母さん大丈夫!? 嫌になったら私のところにいつでも来ても良いわよ、大歓迎だから! ……って、私は何を言っているの!?」
マサキの衝撃的な言葉にツクモは自分でも訳が分からないことを口走っていた。マサキも苦笑いしながら頷くと、既にラストスパートへ差し掛かる。
会場の一歩手前にやってくると、ようやく二人はその足を止めて深呼吸する。昨日と言い、今日と言い、朝から走り回っている気がしなくもなかった。
息を少し整えつつも、会場の方へ歩き、歓声を浴びながら二人はバトルシステムの前へと躍り出た。
対面には二人の少女……の様だが、どう見たって小学生でしかなかった。
「えっ、ウソ! 小学生!?」
ツクモの素っ頓狂な声が、今の会場全体の思いを代弁する。目の前に立つのは、二人の“小学生”だ。高校生や中学生ではなく、小学生。
「ちょっとそれは失礼なんじゃないかな? 私達だって女の子だ、出場権はあるよ。それに、この大会には年齢についてのレギュレーションも甘いようだしね」
「キャハハハハハハハハ! だから私達はこの大会に出てるガンプラ全部をぶっ壊すの! ……勿論、貴女達のガンプラも破壊させてもらうんだから! 覚悟しなさい!」
高笑いする少女の言葉に、銀髪の少女がムッとした様子で相方に言う。
「私はそんなつもりは
「あら、私は別にそんな邪魔をしに来たわけじゃないわ! ただガンプラバトルを楽しみたいだけよ!」
そりの合わない二人を見てて、マサキとツクモは焦る。「このままだとバトルすら始まらずに喧嘩で終わるのでは?」と。
結果ツクモが仲裁に入って事無きことを得たが、二人の機嫌は直らないままでいた。
《Press set your GP-Base.
Beginning [Plavsky Particle] dispersal. field1, space》
バトルシステムは相も変わらず無機質な機械音声を告げ、四人は指示通りにする。
今回のステージは宇宙。しかし機体構成の影響か、場所は軌道エレベーター「ラ・トュール」宙域となっていた。
《Press set your GUNPLA》
その手に持ったガンプラが台座にセットされ、準備が整う。
《BATTLE START》
「鷹野月母、ガンダムアストレアType-F! 出るわよ!」
「七種真幸、ガンダムアテナ! 勝利を切り拓く!」
「
「
四機の機体が軌道エレベーターの真ん前へと飛び出し、お互いが視認し合える距離まで真っ先に近付いた。
「ソッコーで壊してあげる♪ ……行きなさい、シザーファング!」
カースロードのサイドコンテナから、計十機ものシザーファングが放たれ、マサキ達へ襲い掛かる。マサキとツクモは背中合わせにして両手の武器で迫りくるシザーファングを撃ち落としていた。
「いきなり劣勢なんて、ちょっと冗談キツイわよ……!」
「そうかな?」
事実劣勢に追い込まれているツクモが言うと、突如ブレイヴが突っ込んでくる。そして――
「まずは一機、落とさせてもらうよ!」
ミオはそう叫んで、急速変形でMSへと変わり、即座にドレイクハウリングを放つ。
「させない!」
しかし寸前にてGNソードⅢに阻まれ、アストレアへ攻撃が届くことは無かった。その代わり、シザーファングの包囲網を突破したアテナがミオのブレイヴに接敵する。
「
手に持ったドレイクハウリングを構えながらミオはマサキの行動を称賛するも、そんな暇さえ与えられなかった。
突如としてブレイヴの目の前をビームが通過したのだから。
「初撃は外しちゃったわね……マサキちゃん、後は頼んだわよ! 私は先にこの紅い奴をやるから!」
「分かりました!」
「中々の連携だね……いつの間にかシザーファングが無くなってるよ」
気付けばミオの言う通り、周囲からシザーファングが消えていた。
当初の予定と大幅にズレてしまったものの、ミオには焦りがない。兄の為なら、何だってできる。そう考えてるからこそ、ミオには焦りなんて無いのだ。
「……でもこの私を一人でやれると思ったら、
「うぇーん、ロシア語は分かんないのぉ〜!」
ロシア語の教養がないマサキは半泣きで斬り掛かる。しかしその機体の細さと機動力を活かした回避により幾度となく避けられた。
「さぁ、今度はこっちから行くよ!」
「ふぇっ!?」
避けられまくった上に、相手からの攻撃をまともに食らっては「勝利の女神」の名が泣くものだ。しかしマサキは空間戦には慣れていない。従って、
「きゃぁぁぁぁあ!!」
ブレイヴの左手に構えられたGNビームサーベルが直撃して吹き飛ばされる。多少の傷は付いたものの、機体自体にそこまで損傷は無かった。もっとも、マサキよりもミオの方が圧倒的有利に立っていることには違いない。
「中々に硬いね、彼女が作ってくれたこのブレイヴの一撃でも腕一本すら切れないとは」
ミオが軽く称賛すると、マサキは直ぐ様反撃に出る。
「このアテナはね、そこら辺のガンプラとは一味違うの!」
アテナのGNソードⅢが破棄され、両腰のGNブレードが取り出された。それと同時にGNドライヴを解放、一気にブレイヴとの距離を詰める。
「はぁぁっ!」
「先日の戦いで見させて貰ったよ。……でも私には通じない」
オーバーブーストしてGNブレードを打ち込むも、ブレイヴのドレイクハウリングにて防がれてしまう。そのまま鍔迫り合いの如く火花を散らしてぶつかり合うが、中々に決着が付かない。
「私も本気で行かせてもらうよ―――!!」
「それなら私も、―――!!」
膠着状態が続いた。
■
その頃、赤同士の戦いを繰り広げる二人は、激しくぶつかり合いながら激闘を続けていた。……しかし状況を見るとツクモが劣勢に陥っていた。
「くっ……何て乱暴な戦い方なの!?」
「アハ♪ もっと楽しませてよお姉さん!」
「ったく、これだから子供相手は苦手なのよッ!」
両手のGNピストルⅡサーベルモードで、カースロードのGNバスターソードと斬り結ぶものの、圧倒的パワーで押されていた。
その強引さに嫌気が差す程に、ツクモはヒット&アウェイを続けていた。しかし進展は無く、ただ関節に負担を掛けるだけだった。
「……お姉さん、何でもっと攻めて来ないの? お兄ちゃんならもっともっと攻め込んできたわ!」
「それが誰だかは知らないけど……私は私よ! その人と一緒にしないで!」
ふざけないでと言わんばかりに振りかぶり、それをカースロードへと直撃させて左腕を奪う。攻撃が当たったにも拘らず笑い続けるレイカに、ツクモは冷や汗を掻くしかなかった。「この少女はイカれてる」と。
そんなツクモの考えを知る由もなく笑い続けるレイカは、飛んだ左腕からGNバスターソードを繋げ、シザーソードモードにしてからアストレアを挟もうとしていた。
「何なのよ、このプレッシャー……相手はただの女の子じゃない!」
「斬り刻んで、ギッタギタにして、ぶっ壊してあげる!」
片腕を失ったからと言って、シザーファングが無くなったからと言って、彼女が不利にしか見えないと言っても、しかしツクモの方が劣勢だった。それは何故か? ――プレッシャーである。ガンプラを斬って、壊し、蹂躙することに快感を覚えるレイカは、威圧的に近いプレッシャーを放っており、それがツクモにとっては攻撃しにくい要因にもなっていた。
一撃の隙が多い彼女がどうしてこうまで強いのかは、シザーファングとバスターソードを駆使した戦い方ではなく、相手の「恐怖心」を煽るそのプレッシャーにあるのだと思う。それ故にツクモは、
「上手く切り出せないじゃない……はぁ、はぁ……」
精神的疲労と焦れったさが混じって、コンソールを握るその手が震えていた。
「………くっ、一旦マサキちゃんに合流しましょう」
そう言い聞かせて、ツクモは最大出力でマサキの方へ向かう。それを見て、少女とは思えない笑い声でレイカは追い掛けた。
「アハ♪ 待ってよ、お姉さん! キャハハハハハハ!!」
「「――トランザム!!」」
時間を巻き戻してこちらでは、やはりと言うべきか、トランザム同士で斬り合いとなっていた。
「トランザム時でもスピードは相手が上……でもパワーは負けない!」
「恐らくこちらよりもパワーはあちらに分がありそうだね。……でも、当たらなきゃ意味がない」
ミオはブレイヴを何度も変形させて、アテナの攻撃を躱していた。アテナの攻撃が決して遅いわけではない。寧ろ素早く、的確な攻撃だ。しかし相手のブレイヴの速さに付いて行けず、当たることが無いのだ。
「私じゃ当てられないの……?」
マサキは苦渋を飲まされるかのような顔をして、飛び回るブレイヴを見る。その時、後ろからアストレアが飛んで来た。
「ツクモ先輩! 大丈夫ですか!?」
「心配いらないわ。それよりも、ブレイヴは?」
「まだ倒せてません……ツクモ先輩の方は?」
「生憎こっちもまだだわ。あの子、本当に子供なのかって疑っちゃう」
そうこう言っている内に、カースロードまで追い付いてきた。こうなったらと二人は頷き、互いに交錯して敵へと向かう。
「「お相手交代よ!」」
アストレアがブレイヴへ、アテナがカースロードへと飛び、それぞれ交戦が始まる。
「今度はお姉ちゃんが相手してくれるの? アハ♪ どこまで保つかしら!」
「私はそこまで柔じゃない!」
シザーソードで挟んでこようと突っ込んでくるカースロードと、トランザムを解除してオーバーブーストのままGNブレードで斬り掛かるアテナは、互いに譲らずに接敵していた。
その直後に、GNブレード二本による高速の連撃が入れられた。
「ウソ!? そこまで速い動きなんて――!」
目を見開くレイカに、マサキは容赦せずカースロードを斬り刻んだ。四肢をぶった斬り、胴を突き刺し、首を刎ねた。
「え……何で……? 負け、た? 私が?」
「そう、貴女の負け。その性格が無ければ、もっと楽しくガンプラバトルが出来てたと思うよ」
そう言い終えたと同時にカースロードは爆発した。マサキはアテナを駆り、即座にツクモの方へと飛んで行った。
その頃ツクモは、軌道エレベーター付近でミオのブレイヴと射撃戦を展開していた。しかし分はこちらにある様で、あちら側にあった。
「もうちょこまかと! 少しはじっとしなさい!」
「嫌だね。それが兄さんの言葉だったら、喜んで聞くんだけどね」
「ええい、ブラコン!」
自分も弟分のようなユウキを昔から可愛がっていたので、あまり他人に言えた義理じゃないのだが。
そうツクモが思いつつ、両手で構えたGNスナイパーライフルが火を噴いた。ただしブレイヴを掠めることなくひらりと躱され、ドレイクハウリングからビームを放たれる。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
その時、どこからともなく叫び声と共に紅い閃光が残像を作りながら迸った。その一撃で、ドレイクハウリングの砲身を失い、ミオは舌打ちしながらも砲身を切り離してハンドガン状態にする。
「おや? レイカ、本当にやられちゃったのかい?」
相方がやられたと言うのにあっさりしていたミオは、トランザムとオーバーブーストを併用しているアテナにビームを当てようとしていた。が、流石に当たる筈がない。
「
銀色のブレイヴは迫りくる紅い残像と再び衝突する。……しかし、あくまでミオと衝突したのは、
その光景に、離れて見ていたツクモも驚きを隠せずにいた。
「なによ……今の……」
言葉で表すならば「質量を持った残像」が正しいだろう。しかし根本的には全く以て別物である。
――本来は機体表面の金属剥離によって起こる現象であるが、こちらは余りに
当然、ミオが認識した時にはそれは既に残像で、確かに火花を散らしてぶつかった感触はあるものの、そこにいたアテナはただの残像となる。
「
「これで、終わりよぉっ!!」
アテナの右手に握られたGNブレードが、ブレイヴの背中を勢い良く斬り裂いた。
《BATTLE END》
ホログラムが解け、会場の照明が明るく照らす。
「私が負けるなんて……ありえない!」
そう叫んだレイカはもう一回だと言わんばかりに抗議しようとするも、ミオに肩を掴まれて大人しくなる。
「私達は負けたんだ。それを認めよう。……認めることも大事なんだ」
「ミオ! アンタはそれでも良いかもしれないけど! それでも……良いかも……しれないけどぉ! ――うっ、うぇぇぇぇぇん!!」
突如泣き出してしまったレイカに、やや困り顔のツクモが近付いて、そっと優しく抱いてあげる。
「ある人は言ってたわよ? “有り得ない、なんてことは有り得ない”ってね。だから有り得ないことなんて無いの。だからこそガンプラバトルは楽しいのよ? 貴女にも、それが分かってくれたら、お姉さんは嬉しいな」
ツクモに撫でられていたレイカは泣きじゃくるに留まり、ツクモの胸に顔を埋める。隣で心配そうに見ていたミオを見て、ツクモは微笑みかける。
「心配しなくても大丈夫よ? ……貴女も実は大好きなお兄さんに大会で勝ったって、自慢したかったんでしょう? でも見栄を張ることはないわ。確かにお兄さんは褒めてくれるでしょうね。……でも、優勝できなくても、そこまでちゃんと行けたんだって自慢すれば、それだけでもきっと褒めてくれるわよ?」
ミオはその言葉を聞いて涙目になり、ミオもまたツクモに抱き着いて泣いてしまった。結果、ツクモが二人の少女を抱き締めながら第三回戦第三試合は無事、終了した。
その後、まさか二人に懐かれるとは思わなかったツクモであった。
■
あの後、ミオとレイカに別れを告げ、喫茶店に立ち寄っていたマサキ達一行。
「“
ツクモは苦笑いしながら銀髪の少女が残していった言葉を口にした。確かにまた会えたら良いな、とはマサキも思っていた。
「今度は、気兼ねなく楽しくバトルができたら良いですね」
「そうねぇ。……私も子供嫌いとか何とか言いつつも、本当は子供好きだったんだなぁー」
その言葉に、意外にもユウキが口を開いた。
「先輩は昔っからそうだもんな。口では嫌いとか言いつつも、何だかんだ言って子供を可愛がってたし」
「あら? そうかしら?」
身に覚えがないツクモは首を傾げるも、それにミナツも同意する。
「確かに、ユー君の言う通りよ? 私は元々好きだけど、ツクモちゃんはそれに負けないぐらい可愛がってたもの」
「あー、そう言えばそんなことあったわねー」
ミナツの言葉に、何故かやや疲れ気味であるアイカが答えた。
そんな中で空気なマサキは、大人しく紅茶を飲んでいた。今更省かれるのは慣れているが、流石に寂しいものがあった。なので懐かしき昔話に水を差すのもあれだが、マサキはふと話題を振った。
「そう言えば……第四回戦は午後の三時からですよね?」
「そうね、次の相手は誰になるのかしら?」
「それは行ってからのお楽しみにしとけよ。こっちはお前達の壊した部分を修復すんので忙しいんだから」
ユウキの愚痴に、皆して「ハイハイ」と軽く流す。その反応に溜め息を吐いたユウキだった。周りが女子だけなだけに、流石に精神的苦痛を味わうしかなかった。黒一点とは、辛いものである。
……と言う訳でですね、ハイ。今回はMR.ブシドーさんの所から小学生二人組に出演してもらいました!
ロシア語については、グーグルセンセーが大活躍してくれましたよ。本当にこの言葉で合ってるのかと疑問に思った部分も多々ありますが(←オイ
自分が思うままに書いてみましたが、何かバトルシーンからバトル後がかなり滅茶苦茶な感じになっちゃいました、HAHAHAh(殴
それとブシドーさん、美桜ちゃんの名前の読み方、間違っていたらすみません。
さて次回は第四回戦目!実は未だ誰が出るかは未定なんです……
ではまた、ノシ