ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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EPISODE-3:初めてのガンプラ、初めてのバトル 後編

 

 

 三人が等しく降り立った大地――正確には「大地」とは呼べないが――は、シリンダー型のスペースコロニーらしく、円柱状の大地になっていた。

 別段ガンダムシリーズでは珍しくもない「スペースコロニー」ではあるが、『アニメじゃない』この現実世界ではファイター達に“感動”と共に“不馴れさ”を知らしめていた。勿論、ガンプラバトルを初めて経験するなら尚更だ。

 

「本当に円柱状だ……これがコロニーなんだ……!」

 

 感嘆の声を上げるマサキは「アテナ」と名付けられたガンダムを駆り、コロニーの地面を数歩歩く。それと同時に背後からユウキの忠告も入る。

 

「マサキ、お陀仏になりたくなかったら、馬鹿なことしてコロニーに穴開けるんじゃないぞ」

「ほぇっ!? わ、分かった」

 

 内心で「この外はどうなってるんだろう?」と、子供でも思うような疑問を浮かべていたマサキは、直後にユウキに忠告されたために反射的に驚いてしまう。

 

「それでは早速、レクチャーその一! ……っていきたいけど、生憎そんな暇もないのよね。右側コンソールを人差し指でクリックして、コンソールを捻れば武器選択よ」

「く、クリックって、パソコンじゃないんですから」

「実際操作は似たようなものだから。何でも制作者の意図らしいけど。

 それじゃ次、左側コンソールを武器選択と同じようにクリックして捻れば、機能選択よ。トランザムとかがそれに当たるわね」

「成る程、分かりました。では、ユー君は建物の影に隠れつつ潜行して、私とツクモ先輩で陽動しましょう。陽動に成功したら、ユー君が裏から叩いてください」

「分かった」

「……えっと、それが妥当よね、うん、分かったわ。行きましょう、マサキちゃん」

 

 指示を飛ばしたマサキの言葉に従い、ユウキは建物の影に隠れつつ敵のいる方角へと向かう。それとは別に、マサキとツクモは少し遠回りして敵達を誘き寄せるために行動し始める。

 紅いアストレアと白いアテナは宙を飛んでいればかなり目立つ。それを活かして、わざわざ陽動と言う手を使ったのだ。

 マサキ達が適当に飛んでいると、見事陽動に引っ掛かったガンプラがやって来る。目的通り、三機もだ。

 

「そろそろ迎え撃ちましょう。ユー君ならその内来てくれます」

「ええ、そうね。私も久々のバトルで腕がなってきたわ! 行くわよ、マサキちゃん!」

「はい!」

 

 百八十度向き直り、後ろから追いかけてきた三機へと襲いかかる。

 マサキは直線上に居た一機――真っ白く翼の生えたようなシグーに殴りかかった。しかし、拳は寸での所で受け止められ、受け止めた手とは反対の手に握られたレーザー重斬刀を突きつけられる。だがアテナも、負けじと身を逸らして躱す。

 バックステップを建物の上で綺麗に踏みながら、アテナは腰から実体剣を振り抜き、その勢いでレーザー重斬刀と切り結ぶ。

 

「くっ、重い!?」

 

 感じたことのないコンソールの重さに驚きつつ、マサキは堪えずにコンソールを後ろに引く。同時にアテナが更に後方へと下がり、スラスターを噴いてシグーも追従してくる。

 舌打ちしたくなる衝動を抑え、もう片方の剣を引き抜いたアテナでマサキはシグーの追撃を防ぐ。

 防いだと同時にシグーを真上に蹴り上げ、そのまま宙に浮いたシグーへと豪快にタックルをぶちかます。すかさず剣で袈裟斬りにし、あっという間に真っ二つとなったシグーを撃破した。

 

「や、やったの……?」

 

 いつの間にか肩で息をしていたことに気が付きつつ、マサキは目の前で派手に爆散したシグーの残骸を見やる。

 しかしそんな隙すら与えず、近くに潜んでいたもう一機が襲ってきた。

 

「もう一機!?」

 

 マサキは瞬間的に反応して、剣を順手から逆手に持ち変えて再び切り結ぶ。今度もまたシグーであり、今度は白じゃなくて黄色かった。

 不意討ちに失敗したと知ったや否や、引き下がろうとするシグーに対し、マサキは追いかける。

 

「ま、待って!」

 

 ――謎の追い駆けっこが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、全くの音沙汰無しだったユウキはマサキの言う通り、建物の影を利用して進んでいた。遠回りしたマサキ達とは違い一直線に敵へ進んでいるため、実際はかなり近付いているのだが、敵はマサキ達に気付いて離されてしまう。

 そして一分も経たない内に戦闘が開始されていた。

 

「チッ、こっちに気付きやがったか!」

 

 ユウキは右肩のGNアサルトカービンを両手で構え、レーダーを見やる。敵と同時に、ツクモのアストレアも迫っていた。

 

「先輩の援護だな……任務了解」

 

 接敵まで残り十秒と迫り、ユウキは敵が見えるであろう位置へ移る。すると、アストレアのGNピストルⅡサーベルモードと切り合っている青いシグーを見付ける。

 

「へへっ、背後に注意だぜ……敵さんよ!」

 

 銃口から粒子の弾丸が三発放たれ、それは見事にシグーの赤い肩へ当たる。貫通こそしなかったが、大きくバランスを崩したシグーは、隙を突かれてGNピストルⅡに一刀両断された。

 

「先輩、ナイス!」

「ユーの援護がなければ、強引にでも切り刻んでたところよ」

「おー、それは怖い怖い」

 

 茶化すように冗談めいて言うと、ケルディムの真横にGNビームダガーが突き刺さる。それを見たユウキは自分の発言の不味さに青褪めていた。

 

「…………スンマセンでした」

「よろしい。後でカフェでケーキ奢って貰うから。私とマサキちゃんの分のね」

「マジで!?」

「貴方だってそれなりにお金貰ってるんだから! ちょっとは奢りなさいよね」

「うっ……」

 

 顔をひきつらせるぐらいしか反応できなかったユウキは、大人しく降参してケーキを奢ることにした。そうじゃなければ、後で泣きを見るのは自分である。

 レーダーを見ると、残るは一機のみと分かるが何故か敵の反応がない。マサキのアテナが移動しているのは分かっているが、そこは橋のある方角だった。

 

「ヤッべ! ……先輩、早くマサキを追っかけないと!」

「どうしたのよユー。そんなに慌てたりなんかして――」

「このままじゃコロニーの外壁に穴が開くぞ!」

「なんですって!?」

 

 橋が通る部分は、コロニーの外壁の中では比較的脆い。それを知らないマサキなら、誤って穴を開けかねないと判断したユウキは、機体を即座にその方角へ向けた。

 

「このままじゃ間に合わねぇ!」

「……ったく、ユーったら頭を使いなさいよねぇ……トランザム!!」

 

 ツクモが呆れたように呟いた後、紅のアストレアは更に紅く輝いた。ユウキはそれを見て閃く。

 

「そうか、トランザム! その手があったか! ……ケルディム、いっちょカッコいいところ見せようぜ! トランザム!!」

 

 ケルディムも真紅に染まり、移動速度が飛躍的に向上する。そして空を飛ぶ二機は、残像を残しながらその場から飛び去っていった。

 

「お願いだから、間に合ってくれよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃マサキは、橋の上に降り立ち残りのシグーを追い詰めようとしていた。

 

「もう逃さないんだから!」

 

 両手の二本の実体剣を振り(かざ)し、身構える姿勢を取る。敵であるシグーも、片手にマシンガンを持って迎撃態勢に入る。

 マサキはここぞとばかりに距離を詰め、間合いに入ったと思った途端、敵の銃口がこちらを向いた。

(しまっ――!?)

 銃口からマズルフラッシュが閃く――と思いきや、突如シグーが持っていたマシンガンが爆発する。突然過ぎる爆発に驚いて、マサキとシグーはそれぞれバックステップを踏んで距離を開ける。

 

「なに、攻撃!?」

「危ねえところだったな、全く」

「ほ、芳堂君!」

 

 射撃の正体はユウキのケルディムガンダムサーガだったようだ。右手にはGNサブマシンガンが握られている。その隣にはツクモのアストレアが降り立ち、一息吐いてみせる。

 

「あと一歩で間に合って良かったわね。そうじゃなきゃお陀仏になってたかもしれないわ」

「つ、ツクモ先輩まで!」

 マサキが状況に付いていけず混乱していると、ユウキが呆れたように尋ねた。

「俺の話を聞いてたか? ……コロニーに穴開けりゃお陀仏だって、最初に言ったら?」

「あっ……う。ごめんなさい、前しか見えてなくて……」

「取り敢えず、目の前のシグーをブッ潰すぞ」

「う、うん。気を取り直していこう」

「……そうね、そうこなくっちゃ!」

 

 ツクモの張り切った声と同時にアテナが動き、完全に近付くまでケルディムがシグーの頭部や腕部を撃ち抜く。零距離まで近付いたアテナがシグーを押し倒し、最後はType-FのGNピストルⅡで胸部を撃ち抜かれ、そこで試合が終了した。

 

 

 

《BATTLE END》

 

 

 

 ホログラムが解け、ようやく肩の力を抜くことができたマサキは、その場にズルズルと座り込んでしまう。

 

「ガンプラバトルって……こんなに疲れるんだね」

「そうだな。その時その場所によって戦術も変わるし、何より状況判断力がものを言うしな」

 

 ユウキの冷静な答えに、マサキは素直に首を縦に振る。まさしくそうだ。ガンプラバトルには、決断力と判断力が要求される。そうでなければ勝ち残れない。……でも、それでもマサキは思った。

 

「でも、すっごく楽しいね!」

「……あぁ」

「ふふっ、当然でしょ?」

 

 マサキの笑顔に答えるように、ユウキは素っ気なく、ツクモは当然の如く輝く笑顔で彼女を見た。

 かくして、七種真幸の初めてのガンプラバトルは大勝利で収まったのだった。

 

「さーてさて! ユー、約束通りケーキ、奢ってもらうんだからね!」

「オイ、それガチだったのかよ!?」

「あったりまえでしょー?」

「えー、何の話ですかー?」

「あっ、コラッ! マサキまで話に食いついてくんなって!」

「ケーキ奢ってくれるなら、お世話になろうかなー?」

「オイオイ勘弁してくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 くすくすと笑い合う女子二人の中で、ユウキの絶叫が模型店に木霊した。当然、他の客の迷惑と言われて、おやっさんにユウキだけほっぽり出されたのは言うまでもない。

 その後は、迷惑掛けたことをマサキとツクモで謝って、ツクモ行き付けのカフェに行くことになる。ツクモの性格からは想像できないような、落ち着いたシックな雰囲気のお店だ。

 

「なーんか、落ち着いた雰囲気で眠くなるな」

「あら、私は好きよ? まぁ、友達から聞いて、一度来てみたいと思ってたのよ」

「コーヒーもそれ程苦くなくて、随分飲みやすいですからね。ケーキも美味しいですし」

「女子ってのはよく分かんねぇなぁ〜」

「「逆にユー(芳堂君)の方が分かんないわよ(ですよ)」」

 

 そんなもんかねぇ、と軽くボヤきながらも一口だけケーキを頬張るユウキ。男でも甘味は好きな人は好きなんです。偉い人にはそれが分からんのです。

 しかし、落ち着いた雰囲気から人気はありそうだが、見たところ中々客脚が少ない。談笑するのには少々静か過ぎるが、これはこれで良いのだとユウキは思う。

 

「コーヒーは別に嫌いかと聞かれれば好きだけどよ、流石にコーヒーにケーキは無いと思うぜ? 普通は軽食としてサンドイッチとか、アメリカンなのが良いと思うんだが」

「そりゃアンタがコスタリカを愛飲するからでしょー」

「そう言う先輩はグァテマラ飲んでるだろうが」

「……」

 

 二人の言い合いに「どちらも中央アメリカ産でしょう」と言う無粋なツッコミをコーヒーと共に飲み込みつつ、マサキは敢えて何も言わず中立を取っていた。何事も中立に立てば、どちらの観点も窺えると言うものだ。

 しかし、マサキはそんなことお構い無しにスマホを取り出してはFG○を始めるのだった。

 

「やった! 黒○イバー来た! これで勝てる!」

「お前は勝手にガチャ引いてるんじゃねぇよ! 羨ましいなオイ!」

「ユーもマサキちゃんも、少しは静かにしなさい。……マー○ン復刻やらないかしら」

 

 何故かこの場の全員がF○Oやっていたことに驚いていたマサキだが……違う、気にするのはそこじゃない。

 結局は他愛も無い平凡な話でその日は解散することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の家は学園から近場のマンションの六階、六〇一号室にある。部屋は特に着飾られていなく、割りと高価なマンションの割には殺風景さが目立つ。あるのは備え付けのベッド、薄型のテレビとノートPC、テーブルぐらい。

 昔に「こんな部屋で寂しくないのか」と部屋に来た同級生に聞かれたが、私は「別にこれで良いの」と返したことがある。今思えば、自分の心を表していたのかと納得できる。

 

 私はテーブルにガンダムアテナを置いて、座り込みながら眺める。アストレアに酷似しているこのガンダムは、細部が事細かに違った。試しに画像をパソコンで調べて見てみると、やっぱり違う。

 本来露出しているGN粒子供給コードと言う名前の薄紫色のシール部分が無かったり、ガンダム00系に登場するガンダムの象徴となるGNドライブも割りと小型化していたり、肩のパーツも少し大きめになっていたり、本当に違う。……そう言えば、ツクモ先輩がユー君に聞いてくれるらしいけど、明日教えてくれるのかな?

 

「……それにしても、アテナ、かぁ」

 

 私はその名を呟く。あの時、パッケージに書いてあったこの名前を見て、私は決心した。この機体にする、と。

 結果それが正しかったのかも自分には分からないことだけど、それで良いんじゃないかって思ってしまう。

 

『分からないんだったら、取り敢えず後回しにしちゃうの。それで何かヒントになるものが見つかったなら、それがきっと答えに変わる日が来るよ。……だって、真実はいつも一つなんだから』

 

 私の中であの日あの人に言われた言葉が甦る。少し癪ではあるけど、そうだ、取り敢えず後回しにしちゃえば良いんだ。きっといつしか答えは出る。その日まで、後回しにしちゃえばいいんだ。

 そう結論付けた私は、そのままベッドにダイビングして横になる。今日は疲れちゃったからね。何もする気になれないかも。……まぁ、明日があるなら、それだけで良いんだけどね。

 

「ふぅ、お休み、アテナ」

 

 自分に対して揶揄された“渾名”を呟いて、私はそのまま寝てしまった。




色々と設定を塗り直していたら、別物になっていたでござる。

カミツです。

ではGBFアストレア同様、いつも通りのガンプラ紹介でございまーす。ではどうぞ。



ガンダムアストレアType-F
武装:GNスナイパーライフル、GNピストルⅡ×2、GNビームサーベル×2
特殊機能:トランザム
ツクモが使用した「HG ガンダムアストレアType-F」。マサキに作り方を教えるために作ったが、その出来映えは中々のもの。右肩をデュナメスのものに交換した以外は対して変わっていない。
武器にはデュナメスのGNスナイパーライフルに、銃口からビームサーベルを出せるようにしたGNピストルⅡ、そして腰裏のビームサーベルのみである。また、当然の如くアストレアの武装パーツも取り付けられるが、ツクモは身軽さを優先して付けていない。


ケルディムガンダムサーガ
武装:GNアサルトカービン、GNサブマシンガン×2、GNピストル×2、GNピストルⅡ×2、GNミサイルポッド、GNミサイルコンテナ、GNスモールシールド
特殊装備:フォロスクリーン
特殊機能:トランザム
ユウキが使用した「HG ケルディムガンダムサーガ」。装備や機能はそのままだが、カラーリングが緑と白の通常仕様に変更されている。
装備している武装や機能は全てケルディムサーガと同じなため、突出した性能はない。閉所での戦闘や敵機への強襲や奇襲などが得意。


ガンダムアテナ
武装:ブレード(仮称)×2
マサキが作った正体不明のガンプラ。アストレアに酷似しているものの、所々細部がはっきりと違う。GN粒子供給コードがエクシアRⅡと同じく隠されており、肩の形状はそこまで変わらないものの大型化、胸部のGNドライブ部分も小型化されており、頭部V字型アンテナも四本の黄色いアンテナへと変更されていた。更にアストレアの両腕両脚にあるハードポイントはエクシアと同じクリアパーツになっている。
付属していた武器が両腰に付けるブレードのみで、他の武装は無く、それでもマサキは機動力を活かした戦法で敵を倒す。


シグー
白、黄、青の三機。それぞれ、白が大型のウイングスラスターとレーザー重斬刀一本を装備し、黄はステルス性を高めマシンガンと重斬刀を持ち、青はレーザー重斬刀を二刀流にしている。結局はマサキ達、聖蘭学園模型部の初相手として負ける。今後の登場は一切無し。


以上です。今回のツクモは、もう元からType-Fに特注GNピストルⅡ二丁持ちですw
さて、アテナの武器は今後……あれ、どうしよ。
次回までに考えておくとして、それではまた次回。
ノシ

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