CINDERELLA GIRLS×GRP TOKYO Highway XTREME RACER's M@STER 作:アマネモ
A Moonside 00:03
《you win》
電子音声の乾いた一言が車内に響く。
「今夜は逢える、そんな気がする・・・」
先の電子音声とこの声。
それは「首都高サーキット」の環状線、C1内回りを疾走するBCNR33の車内での事だ。
「もう一周・・・そうだね、R」
R33のドライバー、原田美世にとってクルマは幼少期から共にあった自分の一部。
中でもこのR33とは10年来の付き合い、自分の身体より神経と意識が馴染む程の存在だ。
「・・・感じる・・・レインボーブリッジから?」
自分と同じ気配を持つ人物が"判る"様に、彼女は此処を走るクルマの気配が判る。
「よし」
今夜、自分と走るクルマの気配だ。
@
C1を一周する必要はなかった。
「居る・・・間違いない。
この先に居る・・・!」
自然にアクセルを踏む右足に力が入る。
眼前の、直前までそのクルマとバトルしていたのであろうZ33を難なくパスし、追撃。
2、3とコーナーを抜けた先で、お目当てのクルマに遭遇した。
「あれだ、FC3S・・・」
極自然に左手がコンソールに伸び、「バトル」を送信する。
彼女が選んだのは一定距離先のゴールを目指す「ロードスプリント:RS」バトルだ。
「・・・」
@
「ワンダラーネーム「レッドシャイン」。
車種、BCNR33。
ドライバー、原田美世・・・女性」
「ビンゴだ。
向こうから来たな」
奏とプロデューサーも美世のR33を認識する。
「どうするの?」
「PAに誘って缶コーヒー、って訳には行かなそうだな」
「最寄りのPAも、そんなに近くないわ」
「じゃあ、仕方無い。
まずは先に腕前拝見といくか」
「ハイハイ」
奏はコンソールをタッチする。
先程のSPバトルとは違い、RSバトルの「バトルモード」画面は、バトルタイム、走行マップ、そしてレース順位のみとシンプルだ。
R33の前にいるFCは、スタート時点で1位扱い。
「今夜は・・・楽しめるな・・・!」
プロデューサーはステアリングの感触を確かめ、不敵にそう呟いた。
@
「いくよ!」
カウントが「GO」になったと同時に、美世の右足がアクセルペダルを踏みつける。
それに呼応する様にタコメーターとブースト計の針が一斉に右側へ傾き、320km/hスケールのスピードメーターもジワリと頂点を示す。
(向こうのFC・・・思ったより加速が鈍い。)
首都高に走るFCは、大抵が軽量なボディとロータリーエンジンにモノを言わせた加速重視に仕上げられている事が多く、美世もそういうFCを相手にした事は少なくない。
当然前のFCも加速ではR33を引き離したが、追い付く事に造作も無い位だった。
「なら湾岸系か・・・厄介かな!」
では、大抵ではないFCは単純に考えると最高速重視という事になるのだが、この場所、新環状でFCのその仕様は相性がいいのだ。
(湾岸合流までに前に出られるか・・・だね)
このバトルのスタート地点が丁度C1内回りとの分岐点を過ぎた所で、そこから再度C1内回りと合流するまでが今回のRSバトルとなっている。
大抵のFCは湾岸に合流してからのストレート区間で速度が伸びず、そこを悠々と追い抜かれるのだが、大抵ではないFCはストレート区間で追い抜かれてから粘るのだ。
(ブロックも巧い・・・。
走行ラインを重視しない辺り、実戦系のバトル派だ・・・)
ここ数年で路面整備が行き届き、すっかり「サーキット」らしくなった首都高。
大掛りなタイムアタックも容易になり、レコードラインに相応するモノも出来つつある。
今や「いかにそのラインを走り続けるかで首都高最速は決まる」と嘯く者達も多い。
「だから!」
美世はレコードライン上を走るサポートアザーカーと、それを躱すFCの間をくぐり、FCの前に躍り出る。
「よし!」
@
かつて、まだこの首都高が「首都高速道路」として運用されていた頃。
きちんと制限速度が示され、概ねそれを守って通行する車が渋滞を作っていた頃。
そんな首都高を違法なスピードで駆け抜けた走り屋達はこう言った。
「首都高は、生き物である」
目まぐるしく変わる交通状況は首都高に2つと同じ姿を持たせず、常に”生きていた”。
「首都高サーキット」として生まれ変わる時、運営は”生きている首都高”に拘った。
その結果誕生したのが「走るパイロン」と呼ばれるサポートアザーカーだった。
@
実戦系に見受けられる、余裕を持ったアザーカーパスを、見事に突かれてしまった。
「見事だな」
「やるね、彼女」
FCの車内では今のオーバーテイクに評価が下っていた。
「湾岸合流よ、プロデューサー」
「だな」
「どうするの?
湾岸でFCは、キツイんじゃない・・・?」
奏はそう言いながらも、口元は薄く笑っていた。
「FCにしては、加速もコーナーも鋭くないと思っていたんだが?」
プロデューサーもまた、ニヤリと口角を上げながらそう言った。
「貴方にしては、随分察しが良いのね」
「いつもは、察しが悪いのか?」
「そうね、わるいわ」
「えぇー」
若干オーバーリアクションに項垂れつつ、シフトアップするプロデューサー。
4→5への滑らかなギアチェンジ。
「伸びるな・・・」
車速312km/hはFCとしては十分なスピードだ。
「このFC、馬力は?」
「480位?だったかしら」
「100程鯖読んでるんじゃないかと疑うんだよな・・・」
「それはプロデューサーのクルマが250kgこれより重いから、よ」
そんな事を言っている内に美世のR33を眼前に捉える。文字通り当直線上に、だ。
先程言った湾岸系FCの粘りの正体。
最高速で劣るFCが脅威の追い上げを見せる、恐怖のトリックの仕組みはシンプルだ。
「スリップストリーム、てかバンプドラフトだな」
「クルマに口紅つける趣味はないよ、私」
スリップストリーム。
レースの世界ではよく聞くどころではない、ドライビングテクニックの一つ。
前方のクルマにピッタリと張り付く事で空気抵抗を無くし、速度を上げる技だ。
確かにこれならFCでも前方の車に引っ張ってもらう事で、最高速度を引き上げられる。
事実、現在FCは320km/hをゆうに超えて走行している。
「あのR33・・・意外と伸びないな・・・」
ではなぜそんなに浸透しているテクニックがトリックなのか。その答は単純だ。
スリップストリームは前方のクルマに追い付く事が絶対条件であり、前方のスピードに追い付けなければ効果が発生しないからだ。
そして、湾岸系のFCは追い付く事が出来る。
それ以外のFCは、概ね追い付けずに更に引き離される。
それだけなのだ。
「ナナマルじゃこうもいかないからな。
真後ろに張り付くのは、結構楽しい」
「女の子の尻を追い駆けるのが好き、ねぇ・・・」
「クルマだよクルマ」
「大抵の男的には乗り物は基本的に女性よ」
「ぬぬぬ・・・」
「ほら、近づいて来たわ」
新環状の湾岸線ストレート区間から、レインボーブリッジへ向かう分岐である結構な右コーナーが迫る。抜き所としては上等、FCなら尚更だ。
「いっくぜぇ!」
減速したR33をイン側からド派手なブレーキングドリフトで躱すFCがそこにあった。
@
「な、なんて漫画チックな事ををを・・・!」
ブレーキングしたらドア越しにFCのテールランプがコンニチハすれば流石に驚く。
「流石首都高・・・変なヒトが居る!」
だが抜かれた事は事実だ。
バトルに勝つには抜き返すしか方法はない。
そういうシンプルな世界だ。
「レインボーブリッジで並べば、その先で抜き返せる。
頼むよ、R!!」
そしてレインボーブリッジ。
美世は自分に掛けた条件を見事クリアする。
(この右コーナー、決める!)
そして速度重視でインを開けたFCとラインをクロスさせ、前に出た。
しかし、無理が過ぎた。
「ッ・・・しまっ・・・!」
イン側に拘り過ぎて減速できず、再度FCとラインをクロスさせる。
「くっ・・・並べ・・・!」
失速したR33を立て直し、再度アクセルを踏み倒す。
自慢の相棒はそれに応えようとRB26エンジンを唸らせる。
「!?」
だが、それにはゴールが余りに絶妙だった。
@
「「「ど・・・同着!?」」」
《draw》
START EPISODE
played result:SUCCESS!
「ストーリーリプレイ」が記録されました
NEXT…
@
原田美世R33VSプロデューサー&速水 奏FC
「ストーリーモード」NEW GAMEでの最初のバトル。
難易度は(文章では大仰な事を書いているが)低め。
勝っても負けても引き分けても次のムービーに影響は無い。
(ただし負けるとリザルトは失敗(FAILURE)扱いとなる)
RS(ロードスプリント)形式は某湾岸アーケードレースゲームのオマージュ。
バトルタイムを相手と下3桁まで合わせると《draw》判定になる。
「ストーリーリプレイ」では奏&P側のプレイが可能。