斬撃増やそうぜ!お前TSUBAMEな!   作:モブ@眼鏡

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────一理ある。



二次創作のワカメはイケメンとかいう風潮

 

 

────別に完全な善意だった訳じゃないんだ。

 

 純粋に、少女の救いを願ってこんなことをした訳じゃない。そう、血を吐きながらも叔父は言った。蟲に歪められた酷い顔を後悔に滲ませて。もはや数分で死に至る、そんなザマで息も絶え絶えに。

 

「あぁ、あの子の笑顔が見たかっただけなのに、何時からこんなに歪んでしまったんだろうね」

 

 死にかけで、声を出すのも辛いだろうに、叔父は言葉を紡ぎ続ける。もう、哀れを通り越して惨いとすら感じる有り様だった。

 

 だけどそのザマを見てこう思って、こう言った。

 

「だけど叔父さんは最後の最期で桜の幸せを願ってくれたじゃないか」

 

 あぁ、そうだったね。叔父は救われた様に呟き、涙一粒と共に事切れた。その血と肉と骨が目の前で貪られて逝くのを、涙一粒と共に見送った。

 

─────なぁ、慎二。お前の名前はな………。

 

 アルコール中毒で肝臓を壊した、末期の父がそう言った。初めて、僕の名前の由来、僕に兄が居たことを知った。痩せ細った体の酒臭い口から紡がれたのは、ある男の悲愛の話。唯一、愛した女と息子を奪われた、哀れな男の話だった。

 

 語られたのはマキリではなく間桐の当主が代々務める儀式であり、呪い。蟲毒の壺を浄め祓う責任。

 

「だから、その、なんだ。お前の妹、ちゃんと守ってやれよ」

 

 桜を、最期まで自分の養女だと認めなかった父。その意味は、この血塗られた間桐の役目を幼い少女に押し付けないためだった。

 

 命を壊されるより、心を壊される方がまだマシだ。だって心には何度でも火が灯るのだから、と。

 

 何時からか化け物となってしまった蟲の翁を冬木に封じ込める為の人柱。アレを冬木の外に解き放つ訳にはいかん、そう呟いて父は暗い蟲蔵に消えた。

 

「あぁ、なんたってこの僕の妹だからな。仕方ないから守ってやるさ」

 

 見えなくなった背中に、そう吐き捨てた。笑った顔なんて見たことがなかったのに、自然とその表情が脳裏に浮かんだ。

 

─────兄さんが一緒なら、地獄に落ちたっていいんです。

 

 藤色の長い髪をたなびかせて、そう儚げに独白した少女がいた。そのザマがあまりにも痛々しくて、馬鹿なことを言うな、と頭を小突き、そしてこう言った。

 

「いいか、人間ってのは何時か独立するもんだ。何時までも僕がお前を守ると思うなよ」

 

 吐き捨てる様に呟いた。角が立つ言い方なのは自覚しているが、この位言わなければ、妙な所で頑固な妹は噛みついてくるだろうから。

 

「………はい。だけど、私は兄さんの事が───」

 

「それ以上言うなよ。桜、お前も戻れなくなるぞ」

 

 覚悟の上だ、と妹は言った。愛しているから、と。僕はそれを許さなかった。誰が近い内に死ぬ男を愛せというか。

 

 欠けた左腕に寄り添う様に垂れ掛かった妹は、壊れたビデオみたいにそれでも、それでも、と繰り返した。

 

─────貴方は、まるでペルセウスのようです。男前は随分と違いますが。

 

 長年の友であるかの様に、神話の女怪は呟いた。見た目もそうだが、その性質に至るまで瓜二つだと。

 

「知ったことか。僕は僕だ。そんな顔も知らない鈍物なんかと比べて欲しいなんて言った覚えはないけど?」

 

 そういう妙にプライド高いところが似てるんですよ。そう言って、懐かしそうに口許を弛めた事に少しムカついた。

 

「あのさぁ、桜と僕はそんな下らない虚言を交わすためにお前を呼んだんじゃないんだよ。これ以上バカみたいな戯れ言を垂れ流すんなら、その首を切り落としてもいいんだぜ?」

 

 右手の鎌をちらつかせる様にして凄んでみせて、しかし騎乗兵(ライダー)を拝命したサーヴァントは薄い笑みをこぼすばかり。溜め息を吐いて項垂れた。

 

─────お前には期待しているぞ、慎二よ。

 

 薄暗い闇の中、五百年の妄執が蟲のカタチに収まったモノの声が響く。胸の内に嫌悪と憐れみの情が湧いた。薄らとこの世から消え去った左腕が疼く。

 

 父から託された歴代間桐家当主の手記。数にして千冊はくだらない記録群には、マキリから間桐への変遷を始めとした、歴代当主が綴った間桐の役目と、蟲の翁の半生が描かれていた。

 

「あぁ、精々期待して待ってるといいさ。お祖父様?」

 

 皮肉も込めて、そう言った。だけど、それ以上に憐れみも込めて。

 

 左腕の骨肉と、とある聖遺物を加工して造られた大鎌を残った右手で握り、自問する。果たして僕は、あの憐れな妹と翁を救う事は出来るのか、と。

 

 愚問だった。元より間桐、もといマキリの血筋は諦めが悪いし、不器用だ。己が決めた道、こうと定めた思想をそう易々と曲げることはない。ならば、この命を擲ってでも、僕はこの愚かな一族を救い、そして終わらせる。

 

 それはとても傲慢で、上から目線で、この道を進む他にないと確信した。

 

 あぁ、だけど。

 

「────あいつには、桜にだけは、どうか光を見せてやって下さい」

 

 別段信じてもいない神に祈る。

 

 らしくない、本当にらしくない事だった。

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

─────よお、衛宮。

 

「邪魔してるよ」

 

「─────慎二?」

 

 黒い絶望をやり過ごし、なんとか家へ帰ってきた士郎は、居間に陣取る来客に驚いた。

 

 間桐慎二。互いが互いを相棒と称して憚らない、親友にして悪友である。椅子に座ってふんぞり返る様は中々似合っていて、ゆったりとした着物を着てこちらを見上げている。

 

「こんな時間にどうしたんだ? いや、それ以前にどうやって家の中に入ったんだよ」

 

「ん? どうやってといったらタイガーに頼んで鍵を貸してもらったんだよ」

 

「─────勘弁してくれよ藤ねえ………」

 

 半ば不法侵入だが、この家の住人と言っても過言ではない存在から許可を貰っている以上見逃す他無い。全く質の悪い男である。

 

「そういえば、最近休みがちだったじゃないか。今見た限りじゃ体調を崩してる訳じゃないみたいだし、何があったんだ?」

 

「まあまあ、僕の事なんて今はどうでもいいだろ? それよりも、来客が来てるんだ。相応のもてなしってのがあるんじゃないかな?」

 

「あぁもう、分かった分かった。とりあえずコーヒーでも淹れてやるから、ちょっと待ってろ」

 

 全く仕方がない、とインスタントコーヒーの袋を取り出して、電気ポットで水を暖める。自然と溜め息が漏れた。

 

 その様子を楽しむ様にこちらをせせら笑っていた慎二が、見計らった様に話し掛けてきたのはその直後である。唐突に、寒気のする程真面目な顔で、彼は言った。

 

「そうそう、衛宮はどうするのさ?」

 

「どうって、何の話だよ」

 

「決まってるさ。あのバケモノの対処だよ。このままだとまた襲ってきて、叩き潰されてスプラッタなミンチになるのは目に見えてる。そうだろ?」

 

 ピタリ、コーヒーを準備する手が止まった。

 

 慎二は大したことじゃない、と言わんばかりにパタパタと着物の袖を揺らす。

 

「────見てたのか?」

 

「そうだねぇ。覗き見ってのは趣味じゃないけど、そういう事になるのかな? いやいや、驚いたよ。衛宮があんな人外染みた動き方するなんて考えてもみなかったからさあ!」

 

 大袈裟に右腕を振り上げて、役者の様に声を張り上げる。なんとも胡散臭いが、しかしどうにも様になっていた。

 

「それで?」

 

「あぁ、ごめんごめん。で、何だっけ? そうだ、あの筋肉達磨の処理についてなんだけどさぁ」

 

─────協力しようじゃあないか、相棒殿?

 

「あぁ、分かった。じゃあ現在の状況と情報を教えてくれないか」

 

「ヒュウ! 相変わらずクールだねぇ、衛宮はさあ! 普通ならもっと、こう、『どうしてそれを!?』とか反応する所じゃないかい? 即断即決はいいけどさぁ、もっと狼狽えてくれたりした方が────」

 

「────慎二」

 

「オーケー相棒。ここからは真面目にいこう」

 

 一昔前のコントみたいなやりとり。少しばかり辟易するが、そんなことはどうでもいい。今は戦力と状況の確認が先決である。

 

「というか相棒、その『僕が絶対に裏切らない』的な信頼は何なのさ。今さらだけど」

 

「今は何より情報が足りない。俺が巻き込まれた、というより狙われたのは、俺の関係者が遺した因縁とみて間違いないだろうが、それよりも先にあの巨人が何者なのかが気になる。恐らくは『器』とやらがこの冬木に存在するのが原因だろうが、逆算が不十分で事態の委細は把握出来ていない。それらを踏まえた上で聞くぞ。このタイミングで俺に協力を申し出た、現状を理解しているらしき唯一の存在から情報を引き出さずして、どうやってこの異常を生き残るんだ? つまりお前の提案は、こっちからしてみれば願ったり叶ったりのソレな訳だ」

 

「おぉう、見事な説明有り難う。要は僕の思い違いか。相変わらず合理性の具現みたいな奴だな。恐ろしいったらありゃしない」

 

 好きに言えばいい。元よりこの身、この魂はその体現として産まれ出でたのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「さて、それじゃあいい加減今回の本題に移ろうか」

 

「聞こう」

 

 語られたのは我欲の闘争。万能の杯を求めし者たちによる代理戦争の実態であった。そして、慎二はその元凶の末の一人であるということ。

 

 始まりの御三家。遠坂、アインツベルン、そしてマキリ。彼らによって構築された術式は『大聖杯』と呼称され、現在も冬木市内の何処かに設置されているという。

 

「『聖杯戦争』。あらゆる願いを成就させるという杯の奪い合い。呼び出された七騎の英雄たちによる代理戦争。つまりは、あの巨人も呼び出されたサーヴァントだったってことか。よくもまあ、コレほどの大儀式を造り上げたものだな。軽く見積もっても魔法クラスのモノじゃないか?」

 

「そうだねぇ確かに、大聖杯の術式はほぼ神代の魔術、魔法と遜色ないと思うよ」

 

 紛れもなく神代の魔術、現代の魔法に匹敵する大儀礼。それを、あろうことかたかが三家の魔術一派が造り上げた(・・・・・・・・・・・・・・・・)のである。

 

「む、そういえば御三家って言ったか? 遠坂と言えば、あの?」

 

「あぁ、そうだね。彼女が魔術師ってことは知ってたのかい?」

 

「知ってる。魔術回路に使用した魔力の痕跡が残留してた」

 

「うへぇ、解析魔術にしても精度高すぎだろ。もしかして衛宮って特化型の魔術師だったり?」

 

「生憎とそういった事情には疎いんだ。だからよく分からない」

 

「ふーん、衛宮は家を継ぐとかそういったのには関係なかったり?」

 

「そもそも、俺は誰かに魔術を習ったこともなければ、なにかしらの後継証明など受け取った記憶もない。養父にその様な存在が居ることと、それらの基本的な知識を授けられた程度だ」

 

「──────完全な無意識下での自動魔術行使、一工程(シングルアクション)に見合わない効力、それらを制御する演算能力、か。起源覚醒者、或いは起源という概念の体現。驚いたな、現代に在って神代を維持、体現するほどの怪物がこの世に居たとはねぇ」

 

「聞き慣れない単語だけど、なるほど、起源覚醒者か。しっくりくる。確かに、俺はそういったモノの具現だからな。俺の魂、正確には人間のソレですらないんだろうよ」

 

「相棒、話が重すぎるよ」

 

「戯け、お前が振ったんだろうがこの話題」

 

 尤も、肉の器と結んだ縁故にこんな下らない会話が可能な位は人間性を保持出来ているが。口に出さずに思う。

 

「おっと、話を戻そうか」

 

「…………」

 

「そんな怖い顔をしないでくれよ衛宮。いや、大丈夫だから! 今度は真面目にやるから!」

 

「だったら言い訳を垂れ流すな。さっさと情報を寄越せ」

 

「はいよ。『聖杯戦争』の概要は分かったな? じゃあ、その裏側についても話していこう」

 

 ニタリ、といかにも悪人がするような凶相を浮かべた慎二は、さも滑稽だと言わんばかりに続ける。

 

「相棒、疑問には思わなかったか? 『何で聖杯を御三家で独占しなかったのか』ってことにさぁ」

 

「そうだな。ソレこそが最大の疑問だ。儀式の体はなっている。ならば独占主義の魔術師たちがソレを外に広める訳がない。何故、彼らは外部の魔術師たちを呼び込んだのか」

 

「答えは簡単、数が必要だった(・・・・・・・)。これに尽きるね。『聖杯』が、かの有名な十字教の聖遺物でないのは、その形をしているだけの術式をそう呼称しているだけってことから丸分かりだろうけど、そもそもどうして聖杯が願いを叶える願望器になるんだい?」

 

 そうだ。全ての魔術師が追い求める『万物万象の根源』に到るための手段として『聖杯』を作製したなら筋は通る。何らかの理由で数を集めなければならないのも、少し引っ掛かるが、理解の範囲内と言えよう。だがしかし、それならば何故、魔術師である彼らは『根源に至る杯』ではなく『万能の願望器』と称した?

 

「成就のための燃料は? よしんば叶えたとして、その基準点は? そもそも、そんな魔術としては大それたモノが本当に実在するのか? 願望器として売り込むのはいいけど、あまりにも情報が欠落している。まるで────」

 

気づかれてはならない所が存在するみたいに(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

──────さて相棒?

 

「喉が渇いたからさっさとコーヒーを淹れてくれない? 続きはその後ね」

 

「了解した。地獄に落ちろ親友」

 

 とことん大事なところを台無しにするのが得意な男である。士郎は苦笑しつつ止めていた手を動かした。











 前書きでタイトルを回収していくスタイル。だが私は謝らない。

 ぶっちゃけ長すぎたんで切りの良いところで本題は次回に持ち越しです。(デジャビュ)

Q.このワカメ………ワカメ?

A.今作のイケメン&士郎君のアドバイザー(原作だと凛ちゃん)&HF士郎ポジです。深くは語らんよ。最重要キャラの一角なのは確かですけども。

Q.士郎君、起源覚醒者なん?

A.せやで。もっと言っちゃうと魂の形が起源という概念そのものになりかけてます。流石に起源のネタバレはまだしないですが。

Q.ワカメ、片腕無いやん! というか余命宣告みたいなのとか左腕をもいで武器に加工って…………(戦慄)

A.HF士郎ポジなんで、今作に於いて一二を争う苦労キャラになっちゃいました。それに隻腕キャラは強いって言うので。テヘペロ☆

Q.ワカメの鎌って?

A.ああ!(ネタバレだからまだ言えないのよ。すまない…………、本当にすまない。)

Q.士郎君の人格ってアーチャー兄貴混ざってない?

A.単純に精神が成長したからですね。原作だと人間になりたいロボットでしたが、今作の士郎君は、災害後も一応人間のまま『だった』ので。

Q.桜ちゃんワカメのことが好きなん? 士郎君やなくて?

A.せやで。ワカメとその叔父、ワカメ父がイケメンになったせいです。士郎君は親切な料理を教えてくれる先輩という程度しか関係性はないです。逆もまた然り。

Q.間桐家の改変やりすぎじゃね?

A.どうしてもやりたかった。後悔も反省もしていない。

 その他疑問とかいっぱいあるとは思いますが、後書きで触れるのはこの程度です。たぶん伏線として回収されるからここで解説しなくてもええやろ。(慢心)





Q.ゴールデンウィークなのに一つ二つしか更新してないやんけ! ふざけんな眼鏡! ぶっ○すぞ!

A.許して! †悔い改める†から!

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