エミヤ兄貴の本題と言ったな。あれは嘘だ。
─────確か、あれはもう
六時限目の授業が終わり、なんとなく外を眺めてみる。空は青く、己が身の矮小さを知らしめるが如くただそこに在る。そして思い出すのだ。もう二度と会うことのない養父を。
養父の病死。そこそこの若死にだった。輝く満月の下、俺の真横で草臥れたヤニ臭い男が眠る様に息を引き取ったのである。
────士郎は、どんな大人に成りたいんだい?
死の間際、少しばかりの言葉を交わして満足したのか穏やかな顔であっちに逝ってしまった。その表情の通りそこに悔いが無ければ良いのだが、とふと想う。
「おお、ここに居たか衛宮」
窓の外から目を離し、机の上を片づけていると、話し掛けてきたのは親友の一人、柳洞一成である。
「ん、一成か。また備品の修理か?」
「────毎度毎度すまんな、本当に」
「気にするなよ。生徒会だって忙しいし、もっと言えば修理業者を頼む金が惜しいのは俺だって分かる」
「あぁ、だが無茶はするんじゃないぞ。お前の、何て言うか働きぶりは少し過剰な気がしてな。体を壊すのではないかと心配になる」
そうだろうか。一応自分の体の事は誰より理解しているつもりなのだが。いや、自覚していないだけで、もしかしたら働きすぎなのかもしれない。
「無理して体壊してもろくな事にならないだろうし、ちょっと抑え気味にしておこうかな」
「そうしておけ。いやまぁ、自分で言うのもなんだが、俺も少しばかり過労働の気があるからな。この機会に衛宮、お前も確り休んでおけ」
「あぁ、ありがとう」
これは、一成なりの気遣いでもあるのだろう。不器用だとは思うが、その点では俺も同じ穴の狢である。きちんとした注意として素直に受け取っておく。
「じゃ、例の備品の点検を済ませたら帰るよ。一成はどうする?」
「うむ、俺はまだ生徒会の仕事があるのでな。恐らく6時頃までは帰れないだろう」
大変だな、と思う。なにかと騒がしい人物の多いこの学校。一成は生徒会長という立場上、相性が悪くても相手にしなくてはならない者たちがたくさんいるのだ。最近は目に余る行動を続けたどこぞの部活の部長を解任したとかなんとか、そんな話も聞く。
そういえば、と気になっていた事を思い出した。
「なぁ、最近慎二が休んでるけど何かあったのか?」
「む、そうだな。俺はあまり聞いていない。妹の方の間桐に聞いた方が良いのではないか?」
「それもそうだな。今度弓道部で会ったらそれとなく聞いてみるよ」
それじゃ、と備品のある場所へ足を向け歩き始める。今日の晩御飯は何にするかをつらつらと考えて、後ろから聞こえる一成の声に意識を取り戻した。
「ああそうだ! 衛宮! 最近は不審者の情報も出ている。気をつけて帰れよ!」
「そっちも気をつけてな」
後ろを見ずに手を振る。今度こそ、振り返る事はなかった。
★
夕方、点検を終え帰路についた時の事である。士郎は唐突に非日常と対面していた。
「─────ふぅん? 結局呼び出さなかったんだ」
──────ねぇ、お兄ちゃん?
言うなれば直感。衛宮士郎の優れた探知能力が嗅ぎとったのは、異界と化した周囲の気配と、一人のニンゲンの反応。
振り向いた先には、魔性のモノが。
雪を彷彿とさせる少女が士郎をこの場に縫い止めた。
異変を感じたのはつい先ほど。道路上のある空間に足を踏み入れた瞬間である。
あまりにも人が少ない。現在位置は住宅街からそこまで離れていない路地。この時間帯ならば、まだ下校中の学生や帰宅中の社会人もいる筈だ。だというのに。
眼前には白い少女。先日こちらに声を掛けてきた人物である。出会ったのはこれが二度目。未だ正体の知れぬ怪人物を視界に収め、無表情で問い掛ける。
「君はその、この間より前に俺と会ったことがあるのか?」
「ふふっ、答えは『NO』よ。貴方と私はこの前初めて知り合ったわ」
この空間の異常はとりあえず置いておくべきだろう。寧ろ気に掛けるべきは目の前の少女。異常の発生源と思われる
思考が加速する。
「どうしたの? お人形さんみたいに固まっちゃって。折角お兄ちゃんに会えるからオシャレだってしてみたのに、それじゃあレディをエスコートする時にガッカリされちゃうわ?」
紅い瞳を細め、少女はさも可笑しそうに、嘲る様に言葉を紡いだ。そこに映るのは、ただひたすらに磨き上げられた憎悪だ。思わず、手を握りしめた。
「そうか」
それを確かめるための前口上は無い。それは
なにより、背後の怪物から目を逸らせば数瞬で死ぬ自信があった。
無表情のまま佇むこちらの様子に何を思ったのか、少女はどこか歪んだ印象を受ける笑みをこぼした。
「─────へぇ、分かるんだ。ちょっと興味が湧いてきたわ。でも、駄目ね。お兄ちゃんは私の仇敵みたいなものだもん。
──────豪ッッッ!!!!
少女の背後、何者かの重圧が溢れてくる。空間が軋み、豪風が道路のコンクリートを根こそぎ剥がし尽くす。
「──────やっちゃえ、バーサーカー!」
「────■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」
黒い絶望が顕現し───────────
────────士郎はパチリと目を閉じた。
★
─────条件を構築します。
───最終目標を衛宮士郎の生存に決定。
────敵性反応2体。それぞれを仮称α、βとして再認識。警戒レベルを4に引き上げます。
─────βから強力な神秘反応を検知。最低でも星に属する上位の精霊級と仮定。
──────全魔術回路の使用許可申請、却下。限定行使13本使用許可申請、承認。
────固有結界『■■■■』使用許可申請、却下。限定使用許可申請、承認。
──────α、β間に於ける魔術的ラインの存在を確認。逆算探知開始、終了。大本となる『器』とその派生である『刻印』に依存する主従契約と認識。
─────αの肉体から術式を検知。αその物が人間大の魔術的礼装と認識。αの危険性を『無尽蔵の魔力生産装置』であると仮定します。
───────警戒レベルを5に引き上げます。
───βの霊基がαの魔術回路に依存することを認識。
──αを排除することでβの霊基を破損可能と推測。
───────最短生存確定条件はαの撃破です。
────撃破対象をαに決定します。
──────戦闘準備開始。思考加速、並列思考展開、魔術回路13本励起、全身に強化魔術を行使、固有結界『■■■■』より防護結界を構築、戦闘シミュレーションを開始、終了。
─────全工程、終了。
────これより戦闘行動に移行します。
「────
★
──────必滅の一矢が迫る。
顕れた黒き巨人がつがえた大矢が岩弓から射ち放たれた。音速の三倍を超える速度で飛来する矢は士郎の頭蓋を捉えんと空を裂き、そして
「─────え?」
─────ドォォォオオオッッッンッッ!!!!
至近距離でミサイルが着弾した様な衝撃と轟く爆音が周囲に致命的な被害をもたらす。辺りは土煙が立ち込め、一寸先も見えやしない。
ふと、巨人が次の矢をつがえた。
「─────シッ」
声と共に少女へと迫る複数の黄矢。
魔力で形成されたそれは、物体を貫徹することに関して無類の力を持つ、士郎の札の一つである。もしも少女が矢に当たれば、何の抵抗もなくその華奢な体を貫通するだろう。
「■■■■■ッ」
──────正確無比な豪矢が、黄矢を弾かなければの話だが。
一片の理性すら感じられぬ巨人は、その狂気とは全く不釣り合いな精密過ぎる射撃で全ての黄矢を弾き飛ばした。
土煙が晴れ、士郎の姿が明らかとなる。
「──────射抜く」
既に矢はつがえられていた。しかし、ただ射つのでは巨人、バーサーカーに防がれる事は明白である。ではどうするか、答えは単純である。どうあっても
──────それは『柱』だった。
分厚く、大雑把で、且つ大きい。直径にして60cm、全長2m30cm、重量
あまりにも歪な光景に、少女は目を見張った。
「削ぎ穿て、断絶の巨矢」
───────ガォォオオオオンッッッ!!!
空間が爆ぜるが如き轟音。否、削り抜いているのだ。
あまりの衝撃に思わず見開いた目を閉じてしまう。このままではあの柱に擂り潰されて──────。
「■■■■■■■!!!!!!!」
───────しまう訳がない。
侮るなかれ。此所に在るは古今無双、万夫不当の大英雄。ギリシャ神話最強の一角を担う不死身の戦士ヘラクレス!
獅子王を絞め殺し、水蛇を撲殺し、果てには神々の難行を十と二つ粉砕した。その偉業は、全ての神話でもってしても肩を並べるものは無いと憚ることなく口にされる、文字通りの最強。
「─────っ!」
─────────鷲掴み。
天地を支える怪力が、超重量を握り潰した。
「
詠唱を紡ぎ、自我の奥底まで埋没する。巨人は既に握り潰した矢を弓につがえていた。コンマ一秒の猶予もなく、変形した巨矢が射ち放たれる。回避は不可能、防御はそれごと擂り潰される筈だ。その様に造ったのだから。
鋼の閃光が迫る。埋没した意識と無意識が入れ替わるその前に、あの矢は己を射抜くだろう。しかし、しかしだ。その程度を、この俺が想定していないとでも?
───────境界結界、限定展開。
「ォオッ!」
両の拳を中心に結界を構築。巨人の放った豪矢を真正面から殴り返す!
──────ドグシャァッッッ!!!
金属が潰れ、異音が鳴り響く。振りかぶった拳は、何の抵抗もなく金属塊を押し潰した。
「──────■■■…………」
獣が唸るような、そんな声が巨人の口から漏れ出た。
魔力で構築した弓は既に破棄している。いざという時に回避行動を取り難いからだ。しかし、問題はそこから先である。他の武器を構築することが、出来ない。隙が無いのだ。アレ程の化け物だ、こちらが武器を準備する時間など寄越してはくれないだろう。
つまり、俺はこの五体と魔術のみであの巨人と相対する他ない、ということ。
「ふわぁ、お兄ちゃん凄いのね。人の身にしては随分すばしっこいし、それに堅いわ。まさかバーサーカーの攻撃に耐えて、あまつさえ反撃までしてくるなんて」
「──────フゥッ、フ、くそっ」
見据える先は絶望。白い少女の囀りなど耳に入らない。その音を認識する一瞬でも意識を逸らせば、巨人に撃ち抜かれるのは明白故に。
生き残るには、巨人の動きを妨げなければならない。どうすれば奴の行動を制限できるか、そんなことは分かりきったことだ。
じくり、と巨矢を粉砕した手の甲が痛む。意識の外、弓を放り捨てた狂戦士もまた拳を握った。
拳を握りしめる。一点だ、奴にとって最重要の一点を貫く。
「─────往くぞ」
「■■■■■ッッッッッッ!!!!」
振りかぶった拳は、白い少女を打ち抜かんと迫り──────。
★
「─────驚いちゃったわ。まさかバーサーカーの行動を制御して逃げきるなんて」
狂戦士が、少女の仇敵を討つことはなかった。否、出来なかった。
「私を狙うと見せかけて、そのまま逃走する。ありがちだけど、これ以上にない位効果的」
サーヴァントは、
そこに、少女は記録の中の誰かを垣間見てしまった。完全に反対方向の行動理念であるはずなのに。その行動、その心の迷いと冷徹に少女はくしゃりと喉を押さえた。
あぁ、悪夢の弾痕が疼く。
─────ホント、憎たらしいわ。
苦虫を噛み潰した様に、泣きそうで、そしてとても嬉しそうに。少女は父の面影を少年に追ってしまった。後悔か、羨望か、嫉妬か、或いは歓喜か。
曇天の空の下、答え合わせはまだ来ない。それは祝福の様に。
「──────フフ、昼は晴れだったのに。この国の天気予報とやら、見ておくべきだったかしら?」
少女の足下に、はらりと水滴が零れ落ちた。
いや、まあ、その。(言い訳)
Q.エミヤ兄貴の本題じゃねぇじゃねぇか!ふざけんな眼鏡!ぶっ○すぞ!!
A.こうなったのは私の責任だ。だが私は謝らない。(思ったよりエミヤ兄貴のせいでネタバレが酷くなったので已む無くカット致しました。期待されていた方、申し訳御座いませんでした。)
Q.え、これホントに士郎君? というかケリィが二年も早く他界してるんですがこれは………
A.士郎君は色々と最初の地獄でやらかしたせいで原作よりもさらに人間性が破綻しています(=能力及び固有結界の変質)。また、切嗣が原作より早く他界した影響で、月下の誓いが変質しました。それによって士郎君の夢、というか理想はまたおかしな事になっています。正義の味方? 何のこったよ(タイトル回収)
Q.イリヤちゃんが原作より拗らせてそうなんですが………
A.気にするな!(魔王)
Q.もしやマスター組もインフレしてんの?
A.そうだね。プロテインだね。ほぼ全員インフレしてるね。(マジキチ笑顔)
Q.そういや学校のアーチャーvsランサーはどうなった?
A.そもそも遭遇すらしてません。というのも、まずライダーが魔力不足じゃないので学校に結界が配置されていない+ランサーのマスターがことみーじゃないので偵察が疎らだったという要素があります。結果として第一回衛宮士郎ハートブレイクイベントは無くなりました。
Q.ヘラクレスの弓って?
A.ああ!(原作では神殿の柱を削って作った斧剣でしたが、そっくりそのまま削って作ったのが弓ってことになってます。要は原作で斧剣になるはずだった柱をそのまま弓に加工したということです。)
Q.つーかもう少し投稿早めろタコが
A.許してください! 何でもするとは言わないけど!