斬撃増やそうぜ!お前TSUBAMEな!   作:モブ@眼鏡

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専用BGM死亡フラグ兄貴@弓兵

 

 

──────鉄を打つ。

 

 結局己は何がしたかったのか。何を求めていたのか。

 

──────鉄を打つ。

 

 霊長の抑止力(アラヤ)との契約。消耗していく(ゆめ)。いやに透き通った、硝子の砕ける音を聞いた気がした。

 

──────鉄を打つ。

 

 ある時、答えを得た。とても大切な、そう、例えるなら朝焼けの清々しい蒼窮の様な。

 

──────鉄を打つ。

 

 ある時、理解を得た。生涯を通して在り得る事のなかった唯一の理解者を。それはまるで、蒼海に消える淡い飛沫の様な。

 

──────鉄を打つ。

 

 ある時、可能性を得た。焼き尽くされた人理の果て。足掻く者たちに希望を覚えた。或いは己も、と装いを新たに、鋼の瞳に少しばかりの苦笑を滲ませて悪魔の塔を従える魔術王に弓を引いた。

 

──────鉄を打つ。

 

 地獄を見た。地獄を見た。地獄を見た。現実と理想の軋轢。十全を救うと誓い、たった一つを切り捨て続けた。その果てに、我が身は何を知ったのか。我が身は何を手に入れたのか。結局その行為は、己自身を捨て去るという理想への裏切りであった事に諦観を知った。

 

──────鉄を打つ。

 

 あぁ、そうだとも。その人生に悔いはない。絶望を越え、希望を飲み干し、ただひたすらに夢を、理想を目指した。その一生に、後悔など有る訳がない。ともすれば、それは我が青春でもあっただろうから。

 

──────鉄を打つ。

 

 だが、もしも。もしもこの身がそれを為す機会があったなら。

 

──────鉄を打つ。

 

 私は、俺は、迷いなく手を伸ばすのだろう。

 

──────剣の体現、鍛鉄の妙境。

 

 何故なら、この身は正義の味方であるのだから。

 

──────至りしはヒト。鋼の剣は変生する。

 

 そう、在れかし。

 

──────そして男は、自らの(たましい)で以て暗闇の荒野を切り拓く。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 練鉄の英雄。正義の味方。贋作者。抑止の守護者。彼を表す言葉は数あれど、しかしながらその名を知る者は非常に少ない。そもそもこの時代、もしくは過去に活躍した存在ではないからである。

 

 この時代の彼を知る一握りの者たちは、彼の事をブラウニーやらお人好しだとか宣う。他人への献身もさることながら、その行為に対価を求めない上に、どのような頼みでも二つ返事で了承するのが原因である。甲斐甲斐しく、そして忙しなく動き回る彼の姿は、どことなく民話の妖精を想起させるのであろう。それこそ渾名の元ネタ(ブラウニー)の様な。

 

 当時の彼には夢がある。正義の味方となること。救われるべき人々を救うこと。養父から受け継いだ理想である。彼が人の頼み事を聞くのも、その夢の一端であるからなのだろう。

 

 だが、それにしたって度が過ぎているのではないか、と言う者も居る。当然であるが、普通の学生は遅刻間近の時間帯にボランティア活動などしない。だが、彼は違う。自身の行動が他人の迷惑にならない限りは、その有り余る奉仕精神で以て彼の思う形の正義の味方活動を行うのである。親しい者の一部は、(こぞ)って彼を諫めていた。

 

 彼は自らの行いで助けられた人に、対価を求めない。それどころか、感謝すら求めていない。人はそれを独善と言うが、それこそが彼の歪みである。

 

─────それは贖いだった。

 

 彼がそうするしか出来ない事に気付いた者は少なく、彼自身もそれを当然として受け取っている。その歪みの果てに、何が待ち受けるのかも知らずに。

 

 独善を貫かんとした彼は、それしか知らなかった彼は、当然ながら独善を貫くだけの機械へと変貌した。贖いは何時しか薄れ去り、残ったのは張る意味すらない、つまらない意地だけ。しかし、彼はそれを良しとした。諦めなければ何時か、とその意地を張り続けた。握りしめた独善の刃で以て多くの命を救い続けた。鋼の刃が自らの手を紅く染めるのも顧みずに。

 

 終わりは呆気ないモノだ。多くの人を救い、少ない犠牲者を出し続けた彼は、あらぬ罪を着せられて絞首台に立つ事となった。

 

──────それでも、この道は。

 

 間違ってなどいない。自らに濡れ衣を着せた者たちは悪くない。そう思われるだけの行いを、彼は行ったのだからと。結局最期まで、彼は誰かを恨むことは無かったという。

 

 悲劇と言えば悲劇なのだろう。どこまでも自分を救えなかった男は、誰かに殺されたのではなく、その独善の基盤とした社会に不要と断じられて処理されたのだから。

 

 だが、その当事者たる彼にとってそれは、果たして悲劇だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 召喚は滞りなく行われた。家系特有のうっかりもなく、触媒も伝説的な大剣士の宝剣の欠片を間違いなく使用した。家宝である宝石のペンダントを首から提げ、これで最優のサーヴァントが、と意気込み期待し、そしてその期待は裏切られた。

 

「サーヴァントアーチャー、召喚に応じ参上した」

 

─────問おう。君が私のマスターかね?

 

 顕れたのは聖なる気配を感じさせる鮮やかな深紅の外套を羽織り、漆黒の洋弓と飾り気のない無骨な長剣を携えた褐色白髪の男だった。

 鷹を連想させる鈍色の鋭い瞳がこちらを一瞥し、ニヒルな笑みと共に問いかけてくる。

 

「─────えぇ、私が貴方のマスター、遠坂凛よ。よろしくね、アーチャー」

 

 名を聞いて満足そうに息を吐いたサーヴァントは、宝具であるのだろう弓と剣の顕現を解除すると、静かにこちらを見据えた。大方私が話し出すのを待っているのだろう。英雄と呼ばれるからには、もう少し自分勝手な奴が出てくると思っていたのだが、殊の外弁えた者がやって来たらしい。こう言ってはなんだが、肩透かしを食らった気分だ。

 

 密かに、最優たる剣士(セイバー)ではなく弓兵(アーチャー)という(クラス)を呼んでしまった事に対し落胆はあった。だが、それは全くの間違いであるとすぐさま悟る。そも、英霊の所持する宝具とは、初見殺しその物と言っても過言ではない程の力を持つのだ。加えて、弓兵という職業は比較的魔術師と相性が良い。勝てるモノを準備する者が魔術師、勝てる位置を準備する者が弓兵。スタンスは似通っている。

 

「早速だけどアーチャー、貴方の手札を教えてくれないかしら」

 

「ふむ、些か性急にも感じられるが丁度良い。私の手札は特殊でね、運用に手間が掛かる。話すにしても長くなるだろう」

 

 運用に手間が掛かる宝具とは、騎乗兵(ライダー)でもあるまいし、弓兵のクセして複数且つ複雑なモノでも持ってたりするのだろうか。

 適当に当たりをつけて、アーチャーの方に視線を戻す。件の男はなにやら苦笑を湛えつつ、予想だにしていなかった言葉を放った。

 

「時にマスター、台所は何処かね? 簡素な物だが紅茶でも用意しよう。長い話となると、自然に喉も渇くだろうしね」

 

 お前何の英雄なんだよ、と素で思った。

 

─────ゆうがたれゆうがたれ

 

 清々しさすら感じられる眩しい笑顔を恨めしく思いながらも、半ばヤケクソで家訓を反芻し、肯定の意を頷くことで示す。

 こやつは執事の英霊か何かか!? 内心の戦慄をどうにか抑えて台所へ案内し、アーチャーであるらしい己の呼び出したナニカに応接間に居る事を念話で伝えて一息吐く。あの滲み出る奉仕体質的な人の良さは一体全体何なのだろうか。

 

「え? もしかしなくてもどこかでうっかりしてた?」

 

 一人になったことで冷静になったのか、唖然と呟く様は(さなが)ら迷子の幼児の様だ。まぁ、それも仕方のない事だろう。自分が召喚した英霊が、もしやすれば戦闘以外の事柄を専門とするサーヴァントであるかもしれないのだから。

 

 一概にサーヴァントと言っても、その能力は玉石混淆のきらいがある。

 

──────名だたる英雄として、武名を残した戦士型のモノ。

 

──────人類史の礎を築く発見や発明を成した探索者型のモノ。

 

──────ヒトの心に幾百幾千の時を越えて残り続ける"作品"を作り出した芸術家・作家型のモノ。

 

 簡単に纏めてしまえば、こんなモノたちが代表的であるが、無論これは一部分であり、そのカタチは多種多様極まりない混沌とした様相を晒している。

 

 当然だが、芸術家や作家など戦闘に向かない存在は多数いる。弓と剣を携えていた以上、それなりの手練れではある筈だが、本職なのかと問われれば疑問が残る。よしんば執事か何かの英霊だったとして、何らかの大人物の護衛であるとか、或いは従者であったとか、考えられるケースは色々あるのだ。もしも戦闘が出来ず初戦敗退などしようものなら、それこそ先祖ないし父母に申し訳が立たない。

 あーだこーだと少しの逡巡の後、どうせ考えても意味のない事だと思い直して応接間のソファーにふんぞり返った。とりあえずはあの弓兵がここまでやって来るのを待つしかないのである。

 

(………紅茶、美味しいやつだったら良いけど)

 

 待つこと二、三分。ガチャ、と応接間の大きな扉が開かれれば、現れたのは紅い外套を脱いだらしいラフな黒いシャツ? を着ている件の弓兵であった。

 

「────む、どうしたマスター。そんな呆けた様な顔をして」

 

「何でもないわ。ま、そこに掛けてちょうだい。今後の方針も含めて腰を据えて決めていきたいしね」

 

 目の前に置かれたティーカップに注がれる白湯を眺めながら、異様なまでに様になっている淹れ方に噴き出しそうになる。ティーポットは片手持ちだったり、キチンとティーコジーを準備していたりと、やはりそっち方面の本職だったのだろうか。チラリと顔の方を覗いてみれば、なんだか満足気な表情をしている。職人か何かかお前は。何が彼をここまで駆り立てるのか分からないまま、呆れた様に視線を送る。

 

「座らないの?」

 

「ん、いや、すまない。生前に執事の真似事をしていた時期があってね、その時の癖が抜けていなかったようだ」

 

 何分人の顔を窺わなければならない仕事だったのでね、と言いながら苦笑いする様子は、なんとなく顔を知る男の子に似ていて。そういえばアイツも奉仕体質な男だったな、ととりとめのない思考が頭の中を通り抜けていく。知らない内に、リラックスしている自分が居る事に苦笑しつつ、これから真面目な話をするのだから、と気を引き締める。アーチャーは静かにティーポットをテーブルに置き、対面のソファーに腰掛けているところだった。

 

 そっと紅茶を飲んでみれば、美味い。これまでのアーチャーの行動でほとんど分かりきっていた事だが、もう完全に本職と比べても遜色ない完成度である。一度見学に向かったロンドンの時計塔でも、これ程の紅茶を淹れられる人物は居ないに等しかった。いや、いけすかないエーデルフェルトの所の執事、確かオーギュストと言ったか。彼の淹れた紅茶は別格だったな、と思い返す。

 

「さて、マスター。私の淹れた紅茶を楽しんでくれている様でなによりだが、そろそろ本題に入るとしよう」

 

 カップをソーサーに置き直し、アーチャーの鈍色の瞳を見返す。彼の瞳には、凍てつく様な冷たさと無機質なまでの誠意が込められている様に思えた。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

「まずは私の能力の本質を理解してもらいたい。そうだな、これは見せた方が早いだろう。投影、開始(トレース・オン)

 

 そう言って、アーチャーは自らの手に剣を呼び出した。剣は刀身を含めた全体が紅く、血に飢えた獣を連想させる。傍目から見てもとてつもない神秘が内包されているのが分かった。間違いない、宝具だ。

 

「─────分からないか、マスター。とりあえずこれをよく観察してみたまえ。解析の魔術を使うのも良いがね」

 

 そう言われ、今一度その剣を観てみる。今度は解析魔術も並行してだが。

 

「─────うそ。これ、まさか全部が………」

 

───────投影、魔術(グラデーション・エア)………ッ!?

 

 いや、在り得ない筈だ。投影魔術(グラデーション・エア)とは、その術者のイメージを現実に形として投影するだけの代物。所詮人間の想像力では完璧な設計図(イメージ)を描ける筈もなく、出来上がるのは欠陥品(ハリボテ)だけ。それも世界の修正力によって、ごく短時間でしかこの世に存在する事は出来ない。加え、これは宝具(ノーヴル・ファンタズム)である。もはやその剣の姿を知る者が居ないに等しい現代に於いて、個人の想像力で真作の創造理念、構成材質、基本骨子、挙げ句の果てにはその機能までも完全再現するなど、狂気の沙汰である。

 

─────しかし、この世には『例外』が存在する。

 

「ご明察だ。この剣の銘は『フルンディング』。英雄ベオウルフの振るった魔剣だ。まぁ、これは全てが投影された模造品、贋作に過ぎない。本来のそれより一つ程ランクが落ちている。それでも効力は保障するがね。とはいえ、これは私の本来の魔術から零れ落ちた副産物の様な物だ。本質はまた別にある」

 

「────正直、受け入れ難いけど、とりあえず納得しておくわ。それで? その本質とやらは一体どんなモノなのかしら」

 

 どうやら、この弓兵は魔術師であったらしい。それも、現代に存在するのなら間違いなく時計塔に封印指定される程の、だ。恐らく、生前は一点特化の特異な魔術師だったのだろう。これはアドバンテージである。彼のイメージの幅が広いモノであれば、ほぼ全ての英雄の死因(モノガタリのオワリ)を再現出来るということ。アーチャーの極めて平均的な(・・・・)ステータスを覆しうる最強の矛であるのだから。

 

「む、マスター。そう結論を急ぐ事もあるまい。急いては事を仕損じること請け合いだからな。まだ私はこの力のデメリットも言っていないぞ」

 

 (たしな)められ、熱くなっていた自分を恥じる。こんなの優雅じゃないではないか。遠坂の当主たる者、どの様な情況でも冷静を保たなければ。

 

「落ち着いたようだな。よし、それではデメリットについても解説していこう」

 

 意外とノリノリなのではないか? この男。なんだかやる気に満ちている様に見える。なんというかこの男、職人気質というか近所の優しいお兄さん気質を多分に含む人格の様だ。人にモノを教えるのが楽しくてたまらない、教えた者が大成した際には盛大にプレゼントするような奴に思える。それも自分にはとんでもなく厳しい系の。なんて下らない事を考えていると、険しい顔をしたアーチャーが重々しく告げる。

 

「私が投影魔術で造り出せるのは、その九割以上が『剣』だけだ。私の魔術属性及び起源は『剣』でね、それが原因だろう。例外として、ごく少数だが盾や鎧、その他武器類をほんの僅かだが投影できる。基本はこの宝具の剣を矢に加工し、それを用いた狙撃がメインとなる。近接戦闘の場合は、そのまま剣として使用する」

 

 嫌な予感がする。それは、つまり。

 

「マスターの懸念通り、私がサーヴァントに対し優位性を持つのは極めて限定的な状況だけだ」

 

「もし今回の聖杯戦争で敵サーヴァントと戦うとすれば、相手の死因が剣によるもの、或いは竜殺しの概念など私が投影可能な何らかの属性が弱点であればほとんど勝てるだろうな。逆にそれ以外の相手には弓兵らしく狙撃位でしか勝ち目は無いだろう」

 

─────あぁ、やはりそんな上手い話は無かったか。

 

 儚い天下だった、と内心で呟きつつ、アーチャーに話の続きを促す。

 

「問題はまだまだある。私の扱う宝具クラスの物品の投影だが、これは物質として半永久的に世界に残り続ける。修正力をある程度無視して、だ。これは利点だが、慢心を呼びかねない。着目してほしい点は、あくまでも魔術の産物であることだ。何が問題か、分かるかね?」

 

「────対魔力、いえ、対魔術の宝具ないし礼装には無力となり得る、かしら?」

 

「凄いな、その通りだ。例えばケルト神話フェニアンサイクルの勇者、ディルムッド・オディナがランサーとして召喚されれば、破魔の紅槍ゲイ・ジャルグによって切り捨てられてお仕舞いだろう。無論、投影する宝具のランクや対魔の属性に耐性を持つ剣であれば話は別だがね」

 

「なるほどね。確かに、運用するには難儀なサーヴァントだわ」

 

 これ程の特殊性を持つ弓兵など、それこそ人類史中を探し回ってもコイツ以外に居るまい。なにしろ剣を矢とする様な変人狙撃主であり、戦士であり、魔術師であり、執事であるのだから。

 最後の一つでイメージが粉砕されるような衝撃を受けるが、それでも有能な事に変わりない。認める認めない以前に、コイツはあらゆるサーヴァントに対してジョーカーに成り得る鬼札である。

 

「─────ふふっ、やり甲斐があるじゃないの」

 

 ふと、溢れた言葉にアーチャーは微笑みを浮かべた。彼女らしい、気炎の立ち昇るような振舞いは、彼にとってかけがえのない思い出の一端だからであろうか。

 

──────しかし、その瞳に幾分か申し訳なさ気な感情が渦巻いているのは、果たして何故なのだろう。

 

 










 クソ長くなったので、エミヤ兄貴の本題は次回に持ち越しです。

 悪いね♪(無慈悲)



Q.エミヤの衣装は?

A.ぐだおの三臨時のアレ。キチンとした聖骸布製です。(伏線)

Q.エミヤが弓と一緒に持ってた剣って何ぞや?

A.ネタバレになるからここでは言えんのよ。すまない………。

Q.凛ちゃんは何を召喚しようとしてたん?

A.特に考えてない。ローランとかじゃね?

Q.何で凛ちゃんの事をマスター呼びしてるん? 普通に呼び捨てにさせろや!

A.彼にも色々あるんですよ。(黒い笑み)

Q.ラストの不穏な描写は……?

A.二律背反って知ってる?(愉悦の笑み)


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