斬撃増やそうぜ!お前TSUBAMEな!   作:モブ@眼鏡

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いつから兄貴が全力だと錯覚していた?

 

 縮地。

 

 漫画やライトノベルでよく見る瞬間移動的なアレである。正確には古代中国の仙人が扱う仙術の一種であり、単純な話目的地にル○ラするだけの技術であるという。別に天井にぶつかったりはしないが。

 

 じゃあ仙人でもないのに足捌きだけで再現する幕末の天才剣士とかNOUMINってなんなのさ。という話になってしまうが、そこはそれ、某ロボット戦闘シリーズの黒い鴉とかイレギュラー的なアレである。

 

 ひとのもつ かのうせいって スゲー!

 

 さて、どうでもいい縮地の説明はこんなものだろう。

 

 では次だ。唐突だが、皆様も一度はこう思った事があるのではないだろうか。

 

─────実際に戦闘で使われたらどうなるの?

 

 

 

 ★

 

 

 

「─────ッ!? オオォァァアアッッ!!!」

 

─────キィイ、キュゴオオオオーzzーン!!!!

 

 咄嗟に爆発的な魔力を紅蓮の焔として全身から放出したランサーは、その爆発によって辛うじて斬撃の檻を弾き返し、同時にその場からの離脱を彼に決断させた。

 

─────敏捷A++

 

 サーヴァントの中でもトップクラスの更に一握りが保有するステータスは、この状況で最大限の効果を発揮する。

 音速を易々と突き抜ける健脚は、撤退戦に於いて無類の重要性を持つ故に。

 

──────しかし、この世に"速さ"を無視する"早さ"が存在する事を忘れてはならない。

 

「────遅いな、ランサー。それで私から逃げ切れるか?」

 

 距離を跳ばす。一歩を百歩に、万歩を一歩と化す魔技。どれ程速く動こうが、1メートルの踏み込みを地球一周と変貌させるアサシンの前では全くの無意味である。

 

 まぁ、縮地抜きでも敏捷EXと、最速の筈のランサークラスを凌ぐ暗殺者がこの男であるわけなのだが。

 

「チッ、オラァッ!」

 

 二度目の魔力放出。爆炎を纏った朱槍が幾閃もの碧光を纏う斬撃を薙ぎ払い消し飛ばす。

 

─────だが、高々十数の斬撃を蹴散らした所で、数百の斬撃が待ってくれる筈がない。

 

「クソッ! 無尽蔵の斬撃ってのがこうも面倒だとはなぁッ!!」

 

 前方、後方、頭上、足下、数えれば限りがない。全方位を取り囲む刃の檻を、半ば無視する形で強引に駆け抜ける。

 落としても落としても止まらない斬撃の奔流は、次第にランサーを呑み込みつつあった。

 どうにか隙を見て反撃する心算ではあるものの、先程掻き消えた瞬間から全く気配が掴めない。斬撃は放たれているにも関わらず、姿形だけが世界から消失したような違和感に反撃すら儘ならない。厳しい戦況に、ランサーは焦りを感じ始めていた。

 

(ぐぬッ、マズイな。バゼットの魔力が持ちゃ良いんだが、そうも言ってられねぇか。とりあえず仕込みはさせてもらった。今回は逃げに徹させてもらうか)

 

─────故に、ランサーは手札を切る事を決断する。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

───────ボッ、ドヒャアッ! 

 

────ドドドドドドドドヒャアッ!!!

 

「────ッ!?」

 

 不意に漏れたアサシンの驚愕。その原因は、ランサーがしでかしたある行動に有った。

 

(ハァッ!? 何か魔力放出っぽいのでア○マ○ドコアのQBだとォッ!? しかも8連とかバケモンかよ兄貴ィッ!)

 

 そう、例のアレである。やったことは至極単純、魔力放出をブースター代わりにして吹っ飛んだだけである。

 だがしかし、ただそれだけと侮るなかれ。ともすれば宝具の真名開放にも劣らぬ魔力を爆発させるということは、とてつもない推力を生み出し、短距離ならばアサシンの縮地に匹敵する瞬間速度を叩き出す。

 時折朱槍を地面を突き立て異様なまでの方向転換を行う事によって器用にアサシンの斬撃をやり過ごしていくランサー。しかし、その爆発的な加速に勿論代償は付いてくる。

 

─────それは急加速の反動によって自らの肉体すら傷つけるという事。

 

「────グ、ウゥォオオオアアッッッ!!!」

 

 異常なまでの急加速に、エーテル体である筈の身体が悲鳴を上げる。並みのサーヴァントであれば2、3度の加速で身体が千切れ飛ぶ反動の中、ランサーは苦悶の表情を浮かべる。

 

───────だが、それがどうした。

 

 普通であれば身体が四散するような急加速? それがどうしたというのだ。そのための対策を己は召喚された瞬間から保有しているではないか。

 

──────耐久EX

 

 今の今までアサシンの斬撃をやり過ごしていたランサーだが、当然被弾が無かった訳ではない。一閃一閃が全て評価規格外(EXランク)の神秘を纏う斬撃を耐えてきた鋼の肉体は、宛らジェット噴射の如き超加速にも易々と耐え抜く。

 

「─────逃すものかッ!!」

 

 一層の気合いを斬撃に込め、幾千もの剣閃を放ち始めるアサシン。

 その様子は、三次元的な超機動を描く火の玉(ランサー)を、無限の閃きで象られた鋼の龍(斬撃)が呑み込まんとする一枚の幻想的な絵画にすら見える。

 

 しかし、そんな追い追われる関係にも漸く終わりが訪れる。アサシンがふと気が付けばもうすぐ山門から離れるには限界の地点だったのである。ここまで来て、山門を依り代とする特異な召喚の弊害が彼を苦しませる。

 

(クソッタレッ! ランサーが山門を跳び出るのに間に合うか!?)

 

 内心の悪態。千の幻影と共に渾身の一閃を振り抜くアサシンだが───────

 

「─────逃げ切られた、か。生存に特化したサーヴァントという話だったが、ランサーめ。半神とはいえ本当に元はただの人間か?」

 

 惜しくも、ランサーは山道を飛び抜けた後であった。振り抜いたままの長刃を下げ、深いため息を吐く。

 

『────ランサーを撃退したならさっさと戻ってきなさいアサシン。貴方に話す内容が増えたわ』

 

「了解した。直ぐに跳ぶ」

 

 キャスターからの念話を受け取り、異形の長刃を鞘に収めるアサシン。ふらりとランサーが去った方向を一瞥すると、階段の一段目に足を掛け軽くジャンプするように次の一歩を踏み出した時には、アサシンの姿は消え去っていた。

 

 結果として、ランサー・アサシン共に五体満足で生き延びた。人知れずとも、聖杯戦争の初戦に相応しい恐ろしく素晴らしい闘いは一旦の幕を閉じる事となる。

 

─────時に、皆様は覚えているだろうか。

 

 今回のランサーによる柳洞寺襲撃、その目的を。

 

(────何か兄貴の槍の狙いが雑だった様な………。気のせいか? まぁ、全力じゃなかったのは確実だろうぁ。それ言ったら私も手札全部切った訳じゃないけども。でもそうだとしたら何が狙いで柳洞寺を襲撃して来たんだ? こんな早期に仕掛けてきて、尚且つ全力じゃない…………あ゙)

 

 アサシンの脳裏に過るのは、ランサーによる柳洞寺襲撃寸前のキャスターとの会話。そして、ランサーが槍を突き立て、地面を削りつつ(・・・・・・・)逃げる様子。遥か彼方の記憶には、彼がルーン魔術の達人であるという情報が残されている。恐らくはここに襲撃を掛ける前に仕込み(・・・)はされていただろう。

 

─────やられた

 

 ランサーの鮮やかな手並みに、アサシンは心中で賞賛を送った。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「─────バゼット、無事か? 」

 

「────フゥッ……、フゥ。えぇ、些か魔力を消費しすぎた様ですが、此方に問題はありません。今はあのアサシンのサーヴァントへの対策を練るとしましょう」

 

 エーデルフェルトの双子館。およそ70年程前に建築されたエーデルフェルト家の別荘である。その実態は、第三次聖杯戦争の際にマスターの一角を担った当時の当主たちが冬木の土地の中でも優れた霊脈の真上にある土地を買い取り、工房として居住した物だという事らしい。現在は権利ごと時計塔に委譲されている。

 その館を、現在時計塔の経理担当者とエーデルフェルト家から許可を得て拠点として半ば買い取っている魔術師が存在する。

 

─────バゼット・フラガ・マクレミッツ

 

 アイルランドのとある寒村に本拠地を構える『現代に在りながら神代を引き継ぐ』ルーン魔術の大家、マクレミッツ家の才女である。

 イギリスはロンドンに所在する世界的な魔術結社『時計塔』の封印指定執行者である彼女は、手にした聖痕によって時計塔上層部から直々に極東の魔術儀式『聖杯戦争』より聖杯を持ち帰るという依頼を受けた。

 

 そして、マクレミッツ家に代々伝わるクー・フーリンの耳飾りを触媒として用いて『アイルランドで』ランサーを召喚し、今に至る。

 

「あぁ、その事なんだがな。アサシンの対策はぶっちゃけ要らねぇだろうよ」

 

「─────ふむ。根拠は何でしょうか」

 

 暗殺者を、更に言えばその道の最上位と評価してもまだ足りないあのサーヴァントに対して、警戒しなくても良いとは随分と恐ろしい事を言ってくれる。

 

「アレはな、縛り付けられてんのさ。どういう訳かは知らんが、あのサーヴァントが土地その物を依り代として(・・・・・・・・・・・・)現界してるのが原因だろうな。一歩でもあそこから出たら一瞬で現世との繋がりが消えて脱落してもおかしくねぇ。アレのマスターは相当なバカか………そうだな、どうしても守りたいモンがあの山に隠されていると見た」

 

「───────俄には信じ難いですが、貴方が言うのなら間違いは無いのでしょう」

 

 忘れてはならない。ランサーはあくまでも斥候として偵察に出ていただけ。本来の戦装束を着込んでいた訳でもなく、本当に必要最低限の装備で情報収集に努めていたのである。

 

 今回の偵察の手順はこうだ。

 

 まず始めにルーンを刻んだ小石に円蔵山を包囲させ、簡易的な結界を構築する。優れた霊地ならば、既に先客が訪れているかもしれない可能性を考慮しての行動だ。

 

 次に、結界その物にも隠蔽術式を刻み、内部の探査を行う。柳洞寺を覆う様に展開された工房を探知すると、その瞬間ルーンによる結界を破棄した。何せ足が付いては困るので。といっても、こちらの試みはバックに潜む何者かに看破されていたらしく、結界を消す寸前に逆探知されかかったために、随分と肝を冷やしたが。

 

 後は何の考えもなく隠密をしながら柳洞寺に突貫であったのだが、そこであのアサシンである。逆探知の件で多少なり警戒はされていただろうが、全力での隠密を見破られたのはかなり驚いた。面食らいつつも情報収集と並行しながら交戦へ入ると、卓越を越えて超越と形容すべきであろうあの剣戟が襲ってきたのである。幸いにして仕込みは出来たし、大きな負傷は無い。

 だが、幾つかの手札を切らされた上に鬼札の魔力放出まで見られたのは少々不味かった。そしてそれ以上に─────

 

「ランサー、その傷はどうしたのですか?」

 

「─────治癒阻害の呪詛って訳じゃねぇぜ? こいつはな、神性に対する特効効果でも付与されてたんだろうよ。視覚繋いでたから解るだろ? あの剣さ。いや、或いはアサシン自身も神殺し系統のスキルを持っていやがる。佐々木小次郎なんて名乗っちゃいたがな、十中八九嘘っぱちだろうよ」

 

 ランサーの肉体。その所々に残る裂傷が、全く癒えていない。これはとてつもない偉業である。

 ランサーの高ステータスの中でも輝きを放つ耐久ランクEXは、何も単純な頑健さだけが評価基準である訳ではない。持久力や回復力もその範疇に含まれるのである。それが単なる裂傷ならば、腹を横一文字に切り裂かれようとも父たる太陽神の加護によって立所に完治するだろう。その治癒力がどうだ。実際問題傷は治癒されず、鮮血を垂れ流し続けている。

 

──────神話の軍勢と闘うには

 

 脳裏を掠めるアサシンの言葉。なるほど、それは真実だったか。大英雄クー・フーリンを傷付ける程の毒性を持つ刀とは、驚かせてくれる。

 

 驚くバゼットを見やり、ランサーは少し呆れた様な顔をすると、すぐさま普段の澄ました表情に戻し本題を切り出した。

 

「本題に戻るぞ。あの山の付近で真に警戒すべきは、アサシンのバックに居る奴だ。柳洞寺って言ったか、あそこはもう工房になってやがる。加えて言うなら最高位の神殿レベルの工房だ。俺の専門はルーンだから深くは分からんかったが、軽く視ても異界化やら竜牙兵やら高位の呪詛やら空間の無限分割やらでとんでもない罠屋敷と化してやがった。どう考えてもキャスターのサーヴァントの仕業だろうよ」

 

「となると、アサシンとキャスターのマスターは同盟関係にあると考えるのが自然。ですがそれならば何故、アサシンはあの土地に縛り付けられているのでしょう」

 

 当然の疑問である。基本的に裏切る心配の無い同盟関係ならば、暗殺者を縛り付けなどしない。いや、単純に同盟の条件としてそれを提示した可能性もあるが、あのアサシンを相手にキャスターが有利に立ち回れるのか。先程のランサーの言の通り、リスクを度外視してでも守りたい物があると考えるべきか。だが、相手が神代と同格以上の魔術師ならば、アサシンの警護を欺きマスターを人質に取る事も可能やもしれない。

 

 バゼットの思考が堂々巡りの様相を晒している最中、ランサーがポツリと言った。

 

「─────なるほどな。『発想を逆転する』ってのはこういう事か。おいバゼット!」

 

「何か分かった事が?」

 

「いや、一つ質問してぇだけだ」

 

 ニヤリ、と意地の悪い笑みを浮かべるランサーは、その勢いのままこう言い放った。

 

─────サーヴァントがサーヴァントを召喚するってのは可能か?

 

 










Q.兄貴の戦装束って?

A.ああ!(斥候の時は何時もの青タイツで、本当の戦闘スタイルは青タイツの上にプロト兄貴霊基再臨三段階目の鎧と赤いガウンです。)

Q.何でNOUMINが獲物を逃がしてる訳?(半ギレ)

A.土地に縛られてるし仕方ないね。

Q.山猫と化した兄貴

A.ぶっちゃけNOUMINの縮地に対応できる魔力放出の運用方法はこの位でした。

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