────もし、騎士王が竜の心臓と鞘有りだったら。
────もし、クランの猛犬が地元仕様だったら。
────もし、ギリシャ最強の戦士が無窮の武練と弓矢持ちだったら。
────もし、錬鉄の弓兵が答えを得た上で自重しなかったら。
────もし、ゴルゴンの怪物が魔力に困ってなかったら。
────もし、神代の魔女が神殿クラスの工房をしっかり構築出来ていたら。
────もし、英雄王が慢心を捨てていたら。
────もし、NOUMINが暗殺者だったら。
集うは八つの可能性。たかが八つ、されど八つ。そのどれもがその道の最強に相応しい実力者。サーヴァントという匣に押し込められつつも、天下無双を示した強者たち。
舞うは英雄、奏でるは戦禍の調べと相成った。これより動き出すのは運命の夜ではなく、集いし最強たちによる大戦争。
★
ぶっちゃけあれだよね。ほら、聖杯戦争とか言うやつ。英霊の座とか招かれた覚えはないけどさ。亡霊枠アリならいけるんだねぇ。
というかここって型月ワールドだったんか!? 通りであんなSYURAやらSINBUTUやらMONONOKEが存在するわけだ。え、もしや軋MAX日本におるのか。やべぇ会ったらサイン貰お。
なんてアホみたいな一人芝居はともかくだ。まさか亡霊生活満喫してたらキャス子に召喚されるとは思わなんだ。エルフ耳ってぶっ殺した神様とかしか覚えがないんだが実際問題型月ワールドにも居るの? フェアリー的なエルフ。いや、たいして興味も無いけどさ。
後、アレ酷くね? 召喚された瞬間に山門に縛り付けられるとか。いや、SM的な意味じゃないよ。霊的なやつだよ。依り代がどうとかって話だけどさー。いや、まあ、召喚に応じた私も私なんだけどね。
「フン、脳味噌がそこらの奴隷以下である貴方でもこれだけ説明すれば分かるでしょう? 理解したならさっさと山門の警備に戻りなさい」
「承った。なに、これでも神殺しだ。そう簡単には通さんよ」
「ホラ吹きも大概になさい。空間ごと圧砕するわよ」
「おぉ、恐ろしや。精々殺されぬよう立ち回るとするか」
キャス子さん毒舌すぎね? ブラックな上司よりひでぇ脅し掛けてくんだけど。酒呑ちゃんレベルだよこれ。あっちと違って貧乳じゃないけど。ていうか正規のマスターなら私のステータスとかスキルとか見れると思うのだけど、キャス子さん見えねえのか。
いや、まぁ、うん。真面目な話するとそうされる前に全身を細切れにする自信はある。たとえコンマ一秒で詠唱を終えようが、発動までのラグで一閃。発生保証があっても縮地で離脱すれば良いわけだから。他にも、空間ごと隔離されようが縮地で突破して一閃。なんて事も出来るし。
まぁ、あれかね。暫くはここでゆっくりするかねぇ。
─────なんて考えていた私にランサー兄貴が勝負を仕掛けてくるまで後4分。
★
静寂の中、闇夜を疾走する青い影が一つ。お察しの通りその男も人外の輩─────サーヴァントである。
現在彼は他陣営の偵察に奔走している。それはマスターからの指示であり、同時に彼からの提案でもあったからである。
(今回の聖杯戦争とやらは何処かおかしい。何だこのふざけた気配の群れは!? 神代に劣らん戦場に成り得るぞ)
彼こそはケルト神話、アルスターサイクルにて名乗りを挙げた大戦士。たった一人で万の軍勢を年単位で食い止めた護国の騎士である。その真名を『クー・フーリン』という。
「バゼットに感謝だな。こりゃ良い。早速誰かに喧嘩でも吹っ掛けるか!」
台詞の通り、彼は聖杯に託す願いがあってこの戦争に参加したわけではない。単純に強者と武を競うために現世に降り立ったのである。であれば、偵察といえど手加減は無粋。もともと生前の大半を戦場で過ごした身である。不利有利に関係なく、ある程度の事情は汲むが、宝具以外出し惜しみはしないつもりである。
「エーデルフェルトの双子館って言ったか。あれも拠点・霊地として良質だが、出来るならもっと良い方が欲しいからな。槍の燃費はともかく、俺自身の燃費は悪いのが考え所か」
そう、狙うのは良質の
「──────そらァ!」
「────フッ」
柳洞寺、山門。こちらの気配を察知したのか青い袴姿の男が待ち構えていた。眼光は鋭く、こちらを見つめている。
暫定的な標的を視界に捉え、山門への階段を一足で飛び越え、上空から音速を超える一撃を叩きつけたランサーだったが、その渾身の一撃を男は手に持つ長刀で易々と受け流す。
流された運動エネルギーが石畳に蜘蛛の巣状の罅を入れ、その感触からランサーの表情が歪む。
しかしそれも一瞬の事。バックステップで一旦間合いを外したランサーは油断なく槍を構え直した。
─────違和感。手応えがおかしい。よく見れば、間合いが半歩ずれている。まさか敵の位置を見誤った? このクー・フーリンが?
内心の僅かな動揺は表に出さず、ランサーは明瞭とした笑みと共に称賛する。
「ほお、やるじゃねえか」
「フッ、奇襲とは私の株を奪ってくれる」
「フン、こっちの最高速を軽々防いどいて何言ってやがる。というか、テメェセイバーじゃねぇのかよ? どう見たって剣使いだろうが」
改めて視界に敵を収める。どうにも測り難い気配を放つ眼前のサーヴァント。言葉で表現するのは難しいが、不気味でありながら自然である、という形容が妥当だろうか。
しかし、この男は明らかに剣使いであるところのサーヴァントである筈だが、クラスが違うとはどういうことだろうか。不気味に佇む侍は苦笑しつつこう答えた。
「む、申し遅れたな。アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎と申す。よしなに」
「─────良いのかよ。真名を名乗って」
真名。名を晒せば伝承をなぞる弱点を突かれる可能性がある。例えばアキレウスの踵。例えばジークフリートの背中。それを隠すためのクラス名。だが、その利点を投げ捨てたアサシンのサーヴァントは何が狙いなのか。
「構わん。元よりただの亡霊である私が再び剣を執る機会を得た事こそが重要なのだから」
「────ただの亡霊だと? 戯けたことを。その殺気、並の英雄ならもっと分かりやすく放つモンだぜ。ソレを自然に紛れさせるどころか、そのものと化した人間なんざ聞いた事がねえ」
どこか朧気な気配。自然そのものと化した殺意。なるほど、暗殺者としては便利な能力だろうが、なんというか、この男は致命的に何かが違う。
前提として、この男は暗殺も出来る戦士である事が予測される。それは彼の『再び剣を執る』という言葉から容易に推測できるだろう。しかし、だ。それならばなぜ暗殺者として呼ばれたのか。
聖杯戦争による英霊召喚というのは、その英霊が持つ一側面をサーヴァントという匣に押し込めて運用するという、魔法に匹敵する大儀式である。必然、彼らは呼び出されたクラスに即したカタチをもって顕現するのだ。
例えば、史実のフランスより救国の大元帥ジル・ド・レェがキャスターとして呼び出されたなら、晩年のジャンヌ・ダルクを喪い正気をなくした精神異常者として顕現する。逆にセイバーとして召喚された彼は、基本的に人格者であり、正道の騎士として、往年の大元帥としての姿で顕現する。このように、サーヴァントというのはあくまでも聖杯戦争に沿った形でしか顕現することはない。
だが、アサシンのサーヴァントは暗殺者としての側面があまりにも少ない。その要素があるとすれば、朧気な気配と殺意程度のものだ。
そもそも、暗殺者として動くならば白兵戦にてセイバーと双璧を成すランサーの前に出てくるべきではないのだ。いかに暗殺のスペシャリストといえど、ただの正面衝突ならばランサーに勝る道理は無い。ならば何故、アサシンはランサーの前に現れたのか。
「─────参られよ。我らサーヴァントにこれ以外はいるまい」
「────違いない。行くぞ、アサシンのサーヴァントッ!」
まあ、小難しい話はどうでもいい。我らは所詮雇われ。ならば、役目を果たして逝くのみである。
ランサーは呪いの朱槍を構え、前方のアサシンへ突貫し、静かに長刀を構えたアサシンは口許に淡い笑みを浮かべ、ランサーを待ち構える。
青い獣が地を駆け、見下ろす影が刃を降り下ろした。両雄が激突し、世界が震撼する。
ここに、第五次聖杯戦争の第一戦が始まった。
NOUMIN「暗殺は自重気味で、後は流れでお願いしまーす」
というわけで続きました。あんまりインフレ具合が分からないのはご愛嬌。大丈夫! いつか兄貴の不死身ぶりとか、人気の無い戦場に誘導したエミヤの投影宝具大量狙撃とか、神殿内で無双する若奥様とか、とりあえずカリバーぶっぱしてくる騎士王とか、その他いろんな鯖の活躍する描写がある筈だから!
ふとしたときに悪ふざけってしたくなるよね。多分もう暫くは書かないけど、また気が向いたらこれの続きも書くと思います。