あっ、俺死んだ……。
突きつけられたアサルトライフルの銃口から弾丸が発射されるのを俺を見ることしかできなかった。
床に座らされたというより、床に置かれたといった方がいいような状態。
手足は縛られていないが、赤ん坊の体では回避もできない。
いや、大人の体でも避けることなどできないだろう。
弾丸の速度は亜音速。
人間が避けれるはずがない。
ましてや、ただの赤ん坊の俺が避けれるはずがない。
だから、俺はただただ、迫り来る弾丸を見つめることしかできなかった。
(ちきしょう。せっかく転生したのに……俺はまた死ぬのか?)
そんなことを考えることしかできなかった。
普通の赤ん坊の俺には弾丸を回避する術などないのだから。
そう思っていた。
そう思っていたのに!
不思議なことに……テロリストが放った弾丸は俺の頭に当たることなく、『ギィン』という音を残して逸れていった。
え? なにが起きたんだ?
なんで俺生きてんの?
頭の中に浮かぶのは幾つもの??。
何故という疑問。
そして、右手に感じる熱さとチクチクした痛み。
訳がわからないまま、視線をテロリストに向けるも。
撃った張本人ですら唖然としていた。
『今、俺の前で何が起きたんだ?』といった顔をしている。
周りの人質達も訳が解らないとばかりに、唖然としていた。
そんな中、この状況でも冷静に分析している人がいた。
「へえ。凄いな、亜音速で飛ぶ銃弾を手の甲で弾いて軌道をずらしたのか。普通の人間なら銃弾の速度に反応できないし、出来たとしても衝撃に体が耐えられないけど、さすがは僕の息子だね。
先祖代々受け継がれた強靭な肉体の耐久性があった上で赤ん坊特有の体の柔らかさ、柔軟な関節を生かして衝撃を鞭のように弾くことで逃がしたんだね」
他でもない。俺の父親、星空光一その人だった。
「僕達の一族は普通の人に比べて高い持久力と高い耐久性持って産まれ、それに先祖代々先天性筋形質多重症を遺伝的に受け継ぐ一族だからね。出来なくはないか……うん、手出しはいらなそうだね」
『まさに、武偵憲章第4条だね』と笑う父親。
え? なにそれ?
先天性筋形質多重症?
それなんだ?
「こ、このバケモノがああああぁぁぁ」
と、父親が呑気に解説してる合間に。
錯乱したテロリストの一人が手に持つアサルトライフルを乱射した。
あっ……今度こそ死んだわ。
と思った俺だが。
その銃弾が俺や周りの人に当たることはなかった。
何故なら……
「やれやれ、そんなオモチャがなければ戦えんとはなさけないのう」
いつの間にテロリストの前に移動していたのか、爺ちゃんが放たれた銃弾を全て防いでいた。
弾丸を両手の掌を使い指と指との間に挟み込むようにして、受け止めていた。
「『銃弾挟み』……昔、戦友から教わった箸でハエを掴む技を真似たものじゃが、役に立つ日がくるとはのう」
持つものは戦友じゃな、と笑う爺ちゃん。
「馬鹿な……」
そんな爺ちゃんを見て戦意を失くすテロリスト。
「おおっ! さすがは生ける伝説」
「『一騎当千』の名は伊達じゃないですなぁ」
爺ちゃんの人間離れした技を見て感心する人質達。
……感心してる場合か!
もっと突っ込めよ!
素手で銃弾受け止めるとか、人間じゃないだろ!
「馬鹿な……ありえん。夢だ、これは悪い夢だ……」
現実逃避するテロリスト。
そんなテロリストに爺ちゃんは告げる。
「さあ、どうした? かかって来い! 儂と一緒に筋肉を極めようではないか!
なあに、筋肉を極めれば銃弾くらい誰でも掴めるようになる。さあ、儂と楽しい楽しい稽古をしよう!」
いや、無理だから!
筋肉極めても銃弾受け止められないから!
人間辞めてるアンタらと同じにするな!
「父さん、それはさすがに無茶ですよ?」
おおっ、さすがに父さんにも常識があったかー。
だよなー。いくら人間離れした父さんでもただの人間に銃弾掴みは出来るわけない、って解ってるよなー。
「む、そうか?」
「ええ、最初は腕を亜音速で動かす練習からしないと。
いきなり銃弾掴みは危険ですよ」
「バブバブ〜(一から常識学び直せ、コラ!)」
と、突っ込み入れてると。
「くっ、馬鹿にしやがって……おい、アレ。アレ、持って来い!」
テロリストのリーダーがそう叫び、テロリストの一人が駆け出し、戻るとリーダーの手にそれを渡した。
あれは間違いない。
いわゆるロケットランチャー。
某ラノベの主人公が『地球嘗めるな、ファンタジー』とか言いながらぶっ放したアレだ。
室内でぶっ放していい物じゃない。
「ふん、懲りない奴じゃな。どれ儂の筋肉を見せてやるか……」
「嘗めやがって……死に晒せ。あばよ、糞爺」
テロリストのリーダーがそう言いながらロケットランチャーを放つ。
爆音を鳴らして弾頭が発射された。
「爺ちゃああああぁぁぁぁぁぁん⁉︎」
俺は木っ端微塵になる光景を想像したが……。
爆音が鳴り響き、奇跡的にも爺ちゃんの周りには爆発の衝撃がない、やがて会場内を覆っていた黒煙が晴れるとそこには……。
「ふんぬ! 効かん、効かんぞ。足りん。火薬が足りんぞ。
儂を倒したいなら軍艦でも引っ張って来ぬと倒れんぞ」
無傷姿の爺ちゃんが立っていた。
「まったく、弾頭を筋肉解体するのは正直面倒なんじゃぞ?
男なら拳でこんか。拳で」
爺ちゃん……アンタ、本当に人間か?
筋肉解体って、何?
会場は壮絶となった。
余談だが、筋肉解体というのは『胸筋、腹筋、背筋、脊柱、関節を同時に動かし高速で連動させて、衝撃波を生み出し物資を破壊する解体方法』らしい……。
爺ちゃん、父さん曰く、『鍛えれば猿でもできる』とのことだが……出来てたまるかー!
と、突っ込んだ俺は悪くない!
結局、戦意を完全に喪失したテロリストを無効化するのに、爺ちゃんと父さん二人がいれば十分だった。
いや、爺ちゃん一人で十分だった。
なにあの強さ?
人間? 爺ちゃんの半分はバグで出来てんの?
いろいろと突っ込みを入れたい衝動に駆られるも、それを抑えて。
こうして、初めての社交界デビューは終わった。
星空家に新たなる伝説を残して。
それから四年後。
俺は五歳になっていた。
次回、筋肉無双するとか言ったな?
ちゃんとしたぞ!(爺ちゃんが)
ね、したでしょ?(爺ちゃんが)
……爺ちゃんと光一がチーター過ぎる件。
違うんです。最初は昴がもっと活躍する話だったんです。
でも気づいたら爺ちゃん無双になってました。
筋肉の呪い、筋肉病になった弊害が……。