夜空の武偵   作:トナカイさん

30 / 37
おや? おかしいな。気がついたら蘭豹とあの人の話しに。
きっともうすぐクリスマスが近いからダナー。
だから、あの人が不幸になるのも仕方ないナー。


Ammo24。 未来へ。

理子を救護室に預けた俺は、急いで体育館へ向かっていた。

神奈川武偵高附属中には体育館が四つある。

黒い外壁の体育館は強襲科(アサルト)専用。黄色い体育館は狙撃科(スナイプ)専用、白は超能力捜査研究科(SSR)専用……そして、どこの学校にもあるような一般的な体育館。

本日、入学式が行われているのが、この一般的な体育館だ。

中に入ると、校長と思われる人物が壇上で話していた。

 

「武という字は”(ほこ)を止める,,と書きます。__みなさんは犯罪の戈を止める探偵、武装探偵として、日本の、そして世界の未来を守る重大な責務、責任を負うことになるわけです。この中には、武偵という職業について、よくわかっていない人もいるでしょう。周りに流されて、または憧れて、ただカッコイイからという理由で武偵を志す人もいるかもしれません。……何人かのみなさん、顔色が変わりましたね。そんなに心配しなくてもよろしい。不純な動機、実に結構です。どんな理由であれ、学ぼうとする意欲がある限り、我々附属中学の教師陣は全力で支援します。しかし、武偵になるにはみなさんの想像以上の知識や技術、忍耐力、そして何より正義の__正しい義を通す__心が必要です。力を持つということは責任を負うということ。その責任の重さを知って、やがて、世界に羽ばたいてくれることを願っています。三年間しっかり学んで未来への大きな一歩を踏み出してください」

 

ここからじゃ、校長の顔はよく見えないが、どこにでもいそうな普通のおっさんっていうイメージ……というか、雰囲気だな。特徴がないのが特徴的な。

武偵高附属中の教師陣のトップにしてはやけに普通というか。普通過ぎて逆に不気味だ。

試しに筋肉感知(マッスルレーダー)してみたが、一般的な成人男性と筋肉量は変わらない。

だけど……そんな、馬鹿な。

筋肉の反応が僅かな間とはいえ、消えた(・・・)だと⁉︎

人は生きているだけで、筋肉を動かしている。

だから、筋肉の動きを止めるなんてことは不可能なはずだ。いや、止めるとかそんな次元じゃないな。

筋肉そのものが消えた。筋肉の反応感じなくなるとか、いろいろおかしいだろ!

 

(そういえば、原作にいたな。存在そのものがあやふやなキャラ。特徴がないのが特徴で、とにかく目立たない、背景に溶け込むように認識を阻害する男。それは……『見える透明人間』こと、緑松武尊(たける)

 

どこにでもいそうな中年のおっさん的な見た目してるが、まさか、この人がそうだったなんて。

なんで、中学の校長やってんだよ?

東京武偵高の校長じゃないのか?

原作と違い過ぎるだろ!

 

内心突っ込んでいると、突然、誰かに肩をガシッと掴まれた。

ギギギ、と左肩が圧迫され痛みだす。

 

「痛だだだだだっ!!!!!」

 

だ、誰だ⁉︎ 肩をそんな風に掴まれたら脱臼してしまうわ!

こんなことするアホは。

 

「みーつーけーた。さっさと死に晒せ」

 

「やっぱ、あんたかよ!」

 

やはり武偵高一の問題教師蘭豹だった。いや、まだ武偵中か。

……そんなことはどうでもいいな。問題なのは、何故蘭豹がここにいるのか、ということだ。

 

「ホンマ久しぶりやの、昴。会いたかったぜ」

 

「俺は会いたくなかっ……ワーイ会エテ嬉シイナー」

 

蘭豹先生と再会できるなんて、嬉し過ぎて涙が出る。(悪)夢のようだ。

チョー嬉しい。

だから、だから……眉間に押し当ててる(M500)しまおうか?

 

「そやろ。そやろ。これから三年間、毎日シゴいたるから覚悟せや! ワイ(のシゴキ)抜きではいられない身体にしたる!」

 

蘭豹のシゴキ⁉︎ 何、その罰ゲーム⁉︎ そんな特典いらないんだけど。

 

「はははっ! ……それはちょっと無理だと思いますよー?」

 

「なんでや?」

 

「だって、俺。探偵科(インケスタ)入りますから!」

 

探偵科(インケスタ)? お前が?

……なに、アホ言うてんねん。お前みたいなガンダ◯は強襲科(アサルト)入るに決まってるやないか!」

 

「そんな決まり、無いだろ!」

 

「無いなら、作ったる。校長に掛け合って、ワイがお前を立派な強襲武偵にしたる!」

 

「絶対やめろ! 俺は探偵科(インケスタ)で平穏に過ごしたいんだ」

 

「なんでや? なんで強襲科(アサルト)嫌やねん? 強襲科(アサルト)おもろいぞ。強襲科なら好きなだけ銃撃ちまくれるし、ワイが指導したるぞ!」

 

だから、それが嫌んだよ!

絶対、あの日の続きしたがるだろ!

 

「今ならサービスでワイのメアド教え「結構です。いりません」死にたいんやな、お前」

 

ひぃぃぃ!!! なんで、そこでキレんの?

暗黒オーラ全開って、メアド交換拒否っただけで、なんでそんなキレんの?

 

「俺なんかより、蘭豹先生に相応しいメル友いますって! えっと……例えば」

 

「例えば、誰やねん?」

 

ぐいっと顔を近づけてくるらんらん。

ち、近い。近いって。顔だけは(・・・)いいんだから。こうゆうのやめろ!

 

「と、遠山。そう、新入生に遠山金次って奴がいるはずです。そいつには兄がいるんですけど、かなりの美形なんで、きっと蘭豹先生も気に入「ちょっと探してくるわ。またあとでな」……本当に行きやがった⁉︎」

 

男が絡むと蘭豹、ヤバイな。金次と金一さんに幸あれ!

あんたたちの犠牲は忘れない。実に惜しい人を亡くしたな。(死んでないけど)

なーんて思ってると。

ピロリロリーン!

携帯に着信を知らせるメロディが流れる。

ん? メールだ。誰からだ?

 

from・金一さん

 

おっ、金一さんからだ。珍しいなー。なになに〜?

 

『昴、貴様ァッ! 蘭豹を何ケシかけてんだッ!』

 

からに始まり。

 

『無理矢理メアド交換させられた。お前のメアドもバラすからなッ!』

 

というメールも着た。って、ちょっと待て! 俺を巻き込むな!

 

『ウェディングドレスヤバい。ウェディングドレスヤバい。花嫁強い。ルリ先生も怖い』

 

ちょっと待てくれ! 何があった⁉︎ 蘭豹と戦ったのか⁉︎ ルリって誰⁉︎

などという、突っ込みどころ満載なメールや。

 

『昴、後でコロス!』

 

という一文のメールが送れてきた。

最近の若者ってキレやすくてあかんなー。あははは。

逃げよう。今すぐ、逃げよう。鎌を持った女装した死神が迫ってくる前に!

っていうか、らんらん行動力早いな。もう、見つけたのかよ。それも本人を。どんな嗅覚してんだ?

 

「ねえ、ねえ昴君。クラス分け見た?」

 

金一さんからどうやって逃げようかと考えている俺にいつの間にか、隣にいた風香が声をかけてきた。

 

「いや、まだだけど」

 

「じゃあ、こっち来て、一緒に見よ!」

 

ぐいっと腕を引っ張り、そしてそのまま腕を組まれる。

 

「おいおい、腕放せよ」

 

「なんで? 婚約者なんだからこんなの普通だよ? そうだよね? ア・ナ・タ……きゃっ!」

 

何がきゃっ、なんだ? っていうか、周りの視線が痛いから、さっさと放せ。離れろ!

 

「腕組んでくれないなら、あの泥棒猫ぶっ殺してやる! 昴君は私だけの昴君なんだから」

 

風香の瞳が一瞬のうちに暗くなった。いかん、これは桜や橘花と同じようなパターンだ。俗にいうヤンデレモードってやつだ。ん? 俗に言わない? 知らん。俺は勝手にそう名付けた。

 

「あーもう、わかった。わかったから、ぶっ殺すとか、人前で言うのやめろ! 仮にも武偵になるなら武偵法9条は守れ!」

 

日本の法律。武偵法の9条には次のような条文がある。

『武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない』

その法律を厳守しなくてはいけない。少なくとも日本で武偵活動するのなら。海外の武偵の中には殺しの許可証(ライセンス)持っている奴がいるから、日本の武偵だけの制約なんだけどな。

 

「うん、ならいいよ」

 

にこにこ、と笑顔を向けてくる。

くっそー、なんか調子狂うなー。

そんな風に思いながら腕を組んで風香と一緒に歩くこと数分。

 

「あ、ほら。あそこでクラス分け発表してるんだよ?」

 

風香が巨大な掲示板を指差す。

そこには平成◯◯年度、神奈川武偵附属中学校クラス分け名簿と書かれた紙が貼ってある。

人が多いが、かき分けて前に移動して見ると。あった!

一年A組。星空昴の名が。クラスメイトは……キンジと一緒か。

それに理子とも一緒だ。

理子の名前を見ていると、隣から呪詛が聞こえてきたが、きっと気のせいだろう。気のせいだ。

気のせいだよな? 風香さん?

ぶつぶつと、「泥棒猫と一緒泥棒猫と一緒泥棒猫と一緒泥棒猫に死を泥棒猫に死を泥棒猫に死を泥棒猫に死を天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅天誅」なんて言葉が聞こえるけど、聞こえない! 聞こえないったら聞こえない!

 

「ま、まあ、賑やかなクラスになるな、間違いなく。うん……」

 

登校したくねえ。なんか、胃が痛くなってきた。キリキリする。筋肉不足かな? 腹筋足りてないのかもな。胃って筋肉だっけ? 内臓系も鍛えないとそのうち死ぬかもな。ストレスで。マジな話し。

現実逃避してると、クラス表にありえない名前を見つけてしまった。

な、ば、バカな。なんでお前がここに。

どうして、不知火の名前があるんだよ!

原作では一般中(パンチュー)出身のはず、だろ?

なんで、神奈川にいんの?

 

「ちょっといいかな?」

 

後ろから声をかけられて、振り向いたらたった今、突っ込んでいた不知火ご本人様とご対面。

なんでや! なんでや! なんでや!

 

「僕、不知火(しらぬい)(りょう)。同じクラスメイトになります。よろしく」

 

右手を差し出してきた。握手しようってことか?

ま、いいけど。

 

「あ、ああ。俺は「星空昴君であってるかな? 祖父から聞いてるよ。面白い武偵見習いがいるってね。祖父との会話ではわりとポピュラーに出てくるよ。君と君のお父様の話しは」……うわぁ、マジかよー」

 

不知火の祖父ってアレだろ。政治家や警察関係者に顔が効くって噂の、権力者の一人だろ?

嫌だなー。キンジと不知火が揃うと平穏に学園生活送れる気がしないぞ。

頼むから、これ以上、原作崩壊するなよ? 絶対にするなよ? 絶対だぞ!

などともはや、お決まりのコントを内心してると。

 

「見つけた。昴テメェ、なんてことしやがる!!!」

 

俺の脳天にゴンッと強い衝撃が走る。普段から爺ちゃんに殴られ慣れている俺は首と肩の僧帽筋を震わせて、下肢にダメージを逃し、大臀、大腿を震わせまくり、衝撃を分散させて耐えた。

ふっ、俺の筋肉舐めんなよ。

顔を上げると、そこには般若なような顔をした金一さんがいた。

あれ、入学式に来れたんですね。いつもなら海外に行ったり、特秘任務(トクヒ)行ってるのに珍しい。というか。金一さんのその姿は何⁉︎

男子生徒が着るブレザーを身につけてる……だと⁉︎

 

「そんなバカな⁉︎ 金一さんが女装していないなんて! カナになるのは飽きたのか!」

 

「俺の前で____カナの名をッ!」

 

あっ、やべえ。しまった……つい、口を滑らしたッ……!

 

「俺に! 聞こえる! 範囲で! 口走るなッ!」

 

怒り狂った金一さんに馬乗りされて、ドカボカッと殴られた。

すっかり忘れてたが、そういや、金一さんはヒステリアモード化する為にカナになるが、本当は超恥ずかしいらしく、カナの話しをされるとキレるんだった!

 

「テメェが蘭豹をケシかけたせいで、しつこく付きまとわれてんだぞォ! 「キンイチー見ーつーけーたー!」ひぃぃぃ!!!!!」

 

なっ、あの金一さんが怯えているだと。

声がした方に顔を向けると、そこには蘭豹の姿があった。

何故か、花嫁衣装を着た。

 

……え? 何コレ、珍百景?

 

「さあ、ワイと一緒に来てもらうで! 役所まで一緒にタンデムしよーや!」

 

ガシッと金一さんの肩を掴んで体育館の出入り口まで引き連っていく蘭豹。

必死に足掻う金一さん。

 

「絶対に御断りだ!」

 

え? 何コレ? 本当に何がどうなったらこうなるの?

混乱していると、金次からメールが着た。そこにはあの後、何が起きたのかが書かれていた。

 

蘭豹が金一さんを見つける。

金一さんと無理矢理メアド交換。

金一さん、不慮の事故(神様の手違い)によりヒステリアモード化。

らんらん、金一さんに押し倒されて口説かれる。

金一さん、正気に戻る。

らんらん、花嫁衣装を近くにいた特殊捜査研究科(CVR)生から借りて(奪って)くる。

金一さん、逃走。

らんらん、金一さん追走。

金一さん捕まる←今、ココ。

 

……アー今日も日本は平和ダナー。平和ったら平和ダナー。

今日は大変良き日だな。いやぁーめでたい、めでたい。

金一さんには日中友好の犠……ごほん、ごほん。礎となっていただこう。

エジプトの砂礫の魔女さんは……うん、あれだよ。

世界には一夫多妻が許される国とかあるから大丈夫だよ。金一さんハーレム築けるね、やったね!

金一さん、貴方の身をもった犠牲は忘れない。

 

「今の花嫁さん、綺麗だったね〜いいなー憧れちゃうな〜」

 

風香の口からトンデモ発言が飛び出す。

綺麗? 憧れる? バカな⁉︎ ありえん!

 

「正気に戻れ! 蘭豹だぞ? 人間バンカーバスターな問題教師だぞ!」

 

そんな問題教師を金一さんに押し付けたのかよ、とか言うな。いいんだよ。金一さんも大概普通じゃねえし。

さて、これにて式は終わり。いやー、いい入学式だった。

蘭豹もよかったな。いいパートナー見つけられて。

 

 

と、ここで終わればどんだけよかったか。

ここで終わらないのが、『属性・不幸』を持つ、俺と金次の二人だということを嫌と知ることとなる。

 




さーて、来週の遠山さんはー? 金一、美人(笑)体育教師と結婚……の巻(笑)
嘘です。多分。ネタですって多分。

神様(作者)の手違いがなければ無事逃げられますって。多分。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。