目覚めたあの日から、およそ一年ほどたったある日。
1歳になった俺は両親と祖父に連れられて、何処ぞの上流階級のパーティに参加していた。
参加すると言ってもまだ1歳なので、言葉もろくに話せないし、動くのも人前……とりわけ両親の前ではハイハイしかしていない。本当は拙いヨタヨタ歩きではあるが1人で自由に歩けるし、言葉も普通に話せるのだが。あの両親のことだ。
普通に会話が出来て、歩けると解ったら何をされるか……彼らが知った後の行動は容易に想像がつくので出来ない振りをして過ごしている。
下手に出来る子アピールして、変な英才教育とか始まったら俺が求める普通の生活。『一般人』として過ごすという当たり前の夢が遠ざかるからな。
などと、母親の腕と胸の間に抱かれながら考えていると。
「あら? あの人がそうかしら?
……なるほど。出来るわね」
母親の呟きが聞こえて。
そちらの方に視線を向けると。
膝にまで届きそうなくらいに髪を伸ばした、俺の母親にもひけをとらないほどの美女が顔に笑みを浮かべながら近づいてきた。その女性の髪は日本人にしては少し明るくブラウンかかった、ふんわりウェーブの髪をしている。その女性の姿は何処か神々しく感じる。
まるで……女神様が具現化したかのような______。
そしてその女性の腕には赤子を抱いていた。
その赤子の髪は金髪で。
肌は色白い。
どう見ても純粋な日本人ではない。
女性の子ではないのか? と思ったが。
「うふふ。こんにちは。初めまして。神崎かなえです。この子は娘のアリアです。よろしくね? スバルさん」
母親に挨拶を終えた女性が気を遣ってか、俺にも挨拶をしてくれた。
その女性の腕に抱かれていたのは。
女の子だ。
何処かで見たことがある。
……って俺のバカ、見たことがある、じゃねえ。
どっからどう見ても彼女は……。
(り、
なんでここにいんの⁉︎
メインヒロインとの遭遇イベントとか、何このテンプレ?
こんなテンプレいらないんだけど!
そんな風に内心叫んでいると、アリアと目が合って。
「あー、うー、だー!」
すまん。何を言ってるのかまったく解らん。
「うふふ。どうやらアリアもスバルさんのことが気に入ったみたいね。
何をどうよろしくするんですか?
「うふふー」
かなえさんは笑みを浮かべたまま、しばらく微笑んでいた。
アリアとはよろしくしたくはないが。かなえさんとならよろしくした「ぅえええ〜〜〜〜ん‼︎」スミマセン、アリアさん。冗談です。だから泣き止んでください。
今日のことは絶対に忘れてください。将来的にガバで撃つとかしないで!
絶対だからな! 絶対に撃つなよ! 絶対だぞ!
と、そんなバカなことを思っていると。
「おお、ここにいたか。探したぞ。ほれみろ光一。ちゃんと孫の『筋肉』の反応があったではないかー」
「あはは……まさか、昴君の『筋肉』が動く時の音を感知して居場所を探るとか、さすがですね。父さん」
俺の平穏を妨げる『逸般人』日本代表共がやってきた。
筋肉が動く時に出る音(?)を感知する祖父とか、それを当たり前のように受け入れてる父親とか。
もう、嫌だ______こんな家族⁉︎
「ガハハハ! 何、『筋肉感知』できなくては『筋肉』を極めた者の証である『一騎当千』を名乗れないからな。光一もできるじゃろ?」
「まあ、昔から貴方に鍛えられて生きてきましたからね。敵の動きを筋肉の動きで探る『
さらりととんでもないことを言う父親。
何だよ、『筋肉感知』って。何だよ、『筋肉殺し』って。
何でもかんでも、筋肉で解決しようとするなよ! この脳筋共。
ジト目を向けているとそんな俺に気づいたのか、母親が声をかけてきた。
「あらあら。いやですわ。この子ったら……そんな死んだ魚のような目をして……」
何気に酷いな。なんだよ、死んだ魚のような目って。
魚は陸に上がれば死ぬんだよ!
それと同じで、普通に生きたい俺に普通じゃない生活させたら即死だからね!
ねえ、解ってる? レベル1のスライムにドラゴンと遊べって言ってるようなものだからね!
そんなことを考えていた俺は母親に引き連れられて。
華やかな社交会の会場の奥。
一曲踊れそうなくらい(実際ダンスとか踊ることもあるのだろう)広いスペースに連れて行かれた。
連れて行かれる途中で、ふと父親と祖父の方に視線を向けると。
二人は小声で何やら会話していた。
会話の内容を知ろうにも周りの雑音で二人の声が特に小さめだったせいか聞き取れない。
(こんな場所で密談? ……気になるな)
父親と祖父の会話が気になった俺はその会話の内容を知ろうと意識を集中させた。
______その瞬間。
それまでの騒がしい雑音が嘘のように聞こえなくなり、祖父と父。
二人だけの声がバッチリ聞こえてきた。
それと同時に声と共にドク、ドクッという筋肉が動く心臓の鼓動やギッ、ギッといった感じの何か……筋が伸縮するような音のようなものも聞こえる。
(何だ______これは⁉︎)
その感覚に戸惑いながらも、「ま、集中してるせいか。集中してると周りの雑音が聞こえなくなることなんてよくあるよな」と1人納得して、会話を聞いた。
内容はこんな感じだ。
「なんじゃ、光一よ。お主に託した
「……残念ながら。あの技をやるにはあの刀を使いこなす必要がありますから。
僕には父さんのように力尽くであの刀を屈服させることは最後までできませんでしたから」
「うーぬ。腐っても妖刀なことはあるのぅ。光一でもあの刀を使いこなせぬか……」
「まあ、僕には無理でもきっと昴君ならできますよ!」
「うぬ。そうじゃな。わしらの目に狂いはなければ此奴には『才』があるからのぅ。
あと二、三年したら毎日のように遊んでやろうぞ」
「ほどほど、に。お願いしますよ?」
「ガハハハ! 心配いらぬ。悪いようにはせぬ。この『一騎当千』、星空
……寒気がしたのは気のせい……と思いたい。
プロローグはまだ続きます。
プロローグは二千文字程度。
本編は五千文字くらいにしようかなー、と思ってます。