キャラが勝手に喋りだしたんだ。
だから、展開遅くなるのは仕方ない。
仕方ないんだー!
誘拐犯を捕縛した俺は武偵中に電話をかけることにした。つい、勢いで捕まえてしまったが、よくよく考えてみれば大変マズイことを仕出かしたと気づいたからだ。武偵中に入学は決まっている身だが、当然ながら武偵免許は所持はおろか、発行すらされていない。
当たり前だ。一般的に便利屋扱いされる武偵といえど国家資格。慢性的な人手不足とはいえ、免許が発行されるのは半年に一度開かれる学力試験と実技試験に合格した奴だけ。
そして、通常その試験は入学後に行われる。
武偵高なら入学試験に受かれば自動的に発行されるが、武偵高付属中学は違う。
在籍する多くが15歳以下。つまり義務教育を行う教育施設という建前上、生徒の身の安全を考慮し、
それもある意味当然だと思う。徒手格闘だけではなく、武偵は刃物や銃器を扱う技術はもちろん、車両の運転、尾行、調査能力、変装、医療技術など高度な知識や技術が求められる職業だからな。
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!
つい、ノリと勢いで誘拐犯確保してしまったが、教務課の反応次第では俺は今日死ぬかもしれない。
武偵には「武偵三倍則」と呼ばれる罰則がある。一般人と違い、武器を合法的に携帯できる武装許可、逮捕権、捜査権などの特権が与えられている武偵が犯罪を起こした場合、その罪は一般人の三倍となるんだ。
「……」
武偵中の番号にかけて、反応を待つ。
トゥルルル、という回線の音が聞こえるたびに俺の心臓は激しく脈打つ。
待つ時間が長い。一分一秒がとてつもなく、長く感じてしまうのだ。
ガチャ、と受話器を取られる音がした。
どうか、話しやすい人が出ますように!
「はいなー、えっと、もしもし? うちは……えっと、なんやっけ? そやそや、神奈川武偵高付属中学校の
お 前 か よ!!!!!
ってか、何で神奈川に?
東京じゃないの?
と一瞬思ったが、あ、そういえば原作で、蘭豹は全国各地の武偵高を首になった、って記述があったのを思い出した。各地の武偵高で問題起こしまくって、東京武偵高しか居場所がなくなった、とかそんな感じだったな。そういえば。
「で、用件なんや。早よ言えや。さっさとしないと
「やめろ! 一体なんの拡張工事を始める気だ、アンタは⁉︎」
ってか、そんな架空兵器持ってるのかよ!
「……その声、昴やな?」
いかん、つい突っ込んでしまった!
「久しぶりやな〜元気か〜?」
「え、ええまぁ」
「確か昴もうちの学校入るんやったな。あれ? 入学式の最中じゃあらへん?
……お前今どこにおるんや?」
後半からいきなり声のトーンが低くなった。
やめろ! ただでさえ、お前怖えのに、声低くしたら怖さ倍増するだろうが!
「えっと……じ、実は……」
俺は蘭豹にことの経緯を説明した。
「アホか! 何やっとるんや、お前! お前みたいなガ○ダムが出撃する案件やないやろ! 過剰防衛になったらどうするんや? 犯人無事か? 死人出してないやろな?」
人間バンカーバスターの蘭豹にガ○ダム呼ばわりされた。ショックだ。
「ははは、嫌だな、俺がガ○ダムなら先生はネオ・ジ○ングか、デビルガ○ダムですよ」
もしくはアレだ。デスト○イみたいな戦略装脚兵装要塞=戦略兵器だろ。
「言うやないか。ワイにそんなこと言うなんてやっぱりお前、おもろいやっちゃな。専修学科は当然、
ははは、何を言ってるんだね、らんらんは?
「ええ、お手柔らかにお願いします」
関わる気ないけどな!
「……
「全力で遠慮します!!!!!」
誰が
全力で拒否する俺に蘭豹は原作ヒロインのあの言葉を言い放つ。
「こんかったら、風穴や!」
蘭豹が手配した武偵附属中の学生に2人組を預けた俺は車内にいた風香を抱き抱える。
怪我は……ないな。見たところ外傷もない。薬で眠らされただけか。
風香を優しく抱き抱えて、武偵中まで歩き始めた。
車両を手配してくれるという話しだったが、先輩達の好奇な視線を受け続けるのは嫌だったから断った。
婚約者云々の説明もややこしくなりそうだから、伏せて昔から知っている幼馴染ということにした。
それでも、好奇な視線で見られたから、全力ダッシュして逃げた。
そして、再び辿り付いた神奈川武偵附属中学の正門前。
そこには、頬を膨らませた理子の姿があった。
俺が来たことに気付いたのか、駆け寄ってきた。
そして、俺に文句を言おうとして、口を開いたが。
「やっと、見つけた。遅い。もう、式始まってるよ? 一体今までどこに……え?」
途中で言葉をなくし、その場で固まった。
……ん? 何だ? なんで、そんなありえないものを見たような顔してるんだ?
首を傾げる俺に理子はわなわな、と震えながら、口を開く。
「昴、それは……一体どういうこと?」
理子の視線は俺が抱き抱えている風香に向けられていた。
風香はまだ目覚めていなく、俺の腕の中でスヤスヤと寝息を立てていた。
「お姫様抱っこ……私もまだされたことないのに」
ぷくぅ、と頬を膨らませ、ふんぬー、と鼻息を荒くして『私、怒ってるんだから』というアピールする理子。
「理子以外の子をお姫様抱っこしたら、いけないんだぞ! ぷんぷんがおーだ!」
「あー……いや、これはだなぁ」
なんて説明したらいいんだ? どうする。どうしたらこの場をやり過ごせる?
考えろ。考えるんだ、俺。
「そこの泥棒猫もいつまで狸寝入りしてる気だァ?」
理子の口調が変わった。あ、これ、スイッチ入った⁉︎
原作でいう『裏理子』になった。
「……バレちゃったか……もう少しお姫様気分でいたかったのにな」
「理子、人の物を盗るのは好きだけど〜盗られるは大嫌いなんだよね〜。お姫様気分……ふざけんじゃねえよ。人の物を盗る奴にはお仕置きが必要だよな。銃あるんだろう? 抜けよ。ワタシと勝負しろ!」
表の甘い声で言ったかと思えば直様、裏理子の口調に戻る。
情緒不安だな。良くない傾向だ。
「いいけど、貴女じゃ私に勝てないと思うよ? だって、私は
桜や橘花ですら、
原作ジャンヌで
「ハッ、言ってろ。人の物を盗すんだらどうなるか、その身にわからせてやる!」
理子は腰にかけているホルスターから銃を抜いた。
メタリックシルバーのワルサーP38。理子の親父さんが若かりし頃使っていた拳銃と同型のもの。
その銃で発砲してきた。
「わっ! バカ、やめろ!」
風香に狙いを付けた銃弾が飛んできたが、運良く強い突風が吹いて、銃弾は逸れていった。あ、危ねぇ。たまたま、突風が吹いたから助かったが、生身の風香に当たれば当たりどころ悪ければ死んでたぞ?
後で説教だな。
「人の大切な物を盗む泥棒猫は風穴だ__!」
いや、俺もいるんだけどー⁉︎
などと叫ぶ俺の声をスルーし。
パン、パン、パン!
続けて3発の銃弾を放つ理子。風香を両手で抱き抱えていたせいで、武器を持てない俺は任○堂が昔発売したゲーム、007『ゴール○ンアイ』に出る架空武器、黄金銃(金弾銃)から放たれる銃弾を躱す裏技、ボタン連打によるダンス(『ヘナチョコダンス』)擬きを再現して、全弾躱す。ちなみに黄金銃はその銃から放たれた銃弾が一発でも体に当たると即死する最強の武器なんだが、それは『当たれば』の話しだ。その攻略法はシンプル。『当たらなければどうということはない』を再現すればいい。
銃は人類が生み出した史上最強の武器だと金一さんは言ってたが、どんな武器もそれを使うのは人間だ。
ならば、人間の動きを感知して、行動を先読みできれば当たることはない。
つまり、人間が動く時は必ず筋肉も動くからその動きを感知すればいいんだ。簡単なことじゃないか!
「あー躱したな! 避けちゃダメ!」
地団駄を踏む理子。そうは言うがお前なぁ……
「避けるに決まってんだろ!」
避けなくても筋肉で銃弾は弾けるが、あれは痛えんだぞ。痛覚は普通の人間と変わんないからな。
「……私を守ってくれた。やっぱり相思相愛なんだね」
風香は風香でうっとりしてるし。なんなのこの状況。
「でも私は大丈夫だから下がってて。絶対に私に銃弾は当たらないから」
「だけど」
「大丈夫。もう私は守られるだけの弱い子じゃないから」
微笑む風香の顔を見た俺は何か言おうとして……やめた。
風香から強い決意を感じたからだ。
「あー見つめ合ってる! 昴は私だけの昴なんだから、さっさと離れろ」
むきー、と理子は今にも飛びかからんとしていた。
いや、別に見つめ合ってないんだけど。
「私の名は風斬風香だよ。古の時代からこの国を守ってきた由緒ある一族の娘。たかだか150年やそこらのパッと出の怪盗一族の貴女とは産まれた瞬間から違うんだよ。私の家は1000年続く武家の一族。本当は貴女が関われる間柄じゃないんだけど。いいよ。特別に相手してあげる。『決闘』しよう。どっちが昴君に相応しいか身をもって教えてあげる。さあ、かかって来なよ、
「私を数字で呼ぶなぁぁぁああああ!!!!!」
ワルサーP38を連続で発砲する理子。
放たれた銃弾は全て風香に向かっていくが、弾は一発も当たらない。
風香に当たる直前、銃弾がありえない軌道を描いてカーブしたからだ。
なんだ、今のは⁉︎ いや、風香が何かしたのはわかる。
「……これがG15の
あれはおそらく風を操る能力。
銃弾がホップしたり、カーブしたり、物理法則を無視して軌道変えたぞ。
「この距離からじゃ防がれるか。だったら……」
理子は風香に近いていく。
近接格闘で戦うつもりか。いや、違う。あれは
だが、相手の手の内がわからないのに、接近なんかしたら。
「うっ……」
理子の手からワルサーが落ちる。
俺は今、起きた出来事に呆然としていた。
今、風香は何をしたんだ?
風香は微動だしていない。
「ダメだよ。むやみやたらと武器なんか見せたら。情報は何処から漏れるかわからないんだよ?」
「今何を……」
「本当は私も戦いたくないんだけど……でも仕方ないよね? そこの害虫……じゃなくて、ちょっとお転婆な妹さんが銃向けてきたんだから。それにやられたらやり返すのが武偵だし」
害虫……⁉︎ いや、今のはきっと言葉のあやか何かだ。
気のせいに違いない。聞き間違いであってくれ!
「……まだ、負けてない」
「終わりだよ。貴女じゃ、昴君は守れない。色金すら満足に使えない今の貴女じゃ、何も守れない。昴君の隣に立つ資格はない。安心して、昴君はこれからは私が守るから」
「……待て。理子はまだ……「終わりだよ」……うっ」
理子の体が宙を舞う。全力疾走した俺は間一髪、吹き飛ばされた理子の下にスライディングして地面に激突する前にその体を受け止めた。理子をキャッチした際に、理子の体から握りこぶし大の石が落ちる。
何でこんなところに……⁉︎
「さ、式終わっちゃうから早く行こう」
気を失った理子を抱き抱えて、その顔を見た俺は心が震えるのがわかった。
この震えは……この感情は、怒りだ。
風香に大切な家族を傷付けられた怒り。
二人の戦いを止められなかった自分自身に対する怒り。
「風香、お前……」
「ごめんね、昴君。でも仕方ないよ。ああでもしないと、お兄ちゃん離れできないだろうし。力がある人に逆らえばどうなるか知るいい機会になったでしょう?」
「ふざけんな、理子は俺の妹だぞ! 俺の家族に手出すな!」
「うん、もう出さないよ。彼女から何もしてこなければ、ね?
今のは決闘であって、『殺試合』じゃないからね!」
ニコニコ顔でいう風香の顔を見た俺は、ゾクリと得体の知れない寒気を感じた。
何を言ってるんだ? こいつは?
まるで、殺し合いなら躊躇わないみたいな言い方じゃないか⁉︎
「お、お前は一体なんなんだ⁉︎」
俺の疑問に風香はクスリと笑って告げるのであった。
「ただの婚約者だよ。ちょっと歴史ある家系に生まれた、至って普通な、ね。
ただ、ちょっと違うのは……元内閣総理大臣の孫ってだけかな?」
いやいやいや⁉︎ 全然普通じゃねえから! 俺の周りの人達はみんな『普通』、『普通』言うけど、全然普通じゃねえから! ちょっと、普通の意味を辞書で調べ直して来いや!
「そんなことより、早く行こう! クラス分け楽しみだな!」
悪怯れなく笑う風香の顔を見て思った。
コイツは今までで一番厄介なトラブルメイカーと出会ったんじゃないかと。
そして、俺は思い出す。
さらなるトラブルメイカーがこの学校にいたことを。
「来るのが遅い、遅れた時間分死に晒せー!」
らんらんの関西弁めちゃ難い。関西弁になってるか果てしなく不安。
関西弁っぽく書いたが関西弁知っている人が読んだら……ごめん。ナンチャッテ関西弁でごめんなさい。
緋アリ二次の鬼門……らんらんとヒス金の口調、めっちゃむずい。