夜空の武偵   作:トナカイさん

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ようやく、この作品のメインヒロイン登場です。
ここまで長かった。やっと出せました。

なんていう理子回とか言わないでください。
ちゃんとメインヒロイン回……なはず。


Ammo22。桜咲く日に、君と出会う

朝食を食べ終えた俺は今日から通う神奈川武偵高付属中学に登校する為に、玄関で靴を履いていた。

俺が靴を履き終えたタイミングで橘花が手にしていたお弁当を差し出してきた。

 

「はい、これ兄にぃの分。ちゃんと卵焼き入れといたから」

 

「おおっ! サンキュー。ウィンナーは?」

 

「もちろん入れといたよ。タコさんウインナー!」

 

手作り弁当っていったら卵焼きとタコさんウインナーは定番だよな。

 

「おおっ、キッカちゃんやる〜理子も負けてられないな! はい、昴。今日のおやつのバナナだよ!」

 

「おおっ、ありがと……って待て! お前は遠足に行く気か! バナナはおやつに入りません。つうか、今日お弁当いらねぇんじゃないか?」

 

入学式って午前中だろ? 午後から大抵の奴は用事ないはずじゃ。

 

「いいから、兄にぃはそれ持って出来るだけ人目が多いとこで食べて!

その方が虫除けになるから」

 

「うん、うん。なんだったら、理子があ〜んしてあげよっか?」

 

理子があーんする真似をすると、それを見ていた桜と橘花が猛反対をした。

 

「それは駄目です!」

 

「ちょっと理子さん、それは同盟違反だよ!」

 

「ちぇー」

 

唇を尖らす理子。

なんか知らんが、三人は同盟を結んでいるらしい。

 

「兄さん、時間です。新学期早々遅刻してはいけませんよ」

 

「ああ、んじゃ行って来ます」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

「理子さん、兄にぃに変な虫が付かないようによーく見張っておいてね」

 

「うー、了解(ラジャ)!」

 

橘花の言葉にビシッと敬礼する理子。

この二人は仲がいいのか、悪いのかよくわからんな。本当。

玄関を出てからも、手を振り続ける二人の姿をチラ見しながらも、俺はゆっくりと歩き始めた。

家を出た俺達は河川敷をゆっくり歩く。

土手沿いに植えられた桜の木々、ソメイヨシノの花は満開になっていた。その花は咲き乱れ、風が吹く度に散り、木々の下は春らしい陽気に包まれている。俺と理子はそんな桜並木の下をゆっくりと歩く。

ああ、気持ちいい。春の陽射しは眠くなるのがちょっとツライが。

 

「ふぁーあ、いい天気だな。ビバ、平和って感じで。心地いい。ああ、平穏って素晴らしい~」

 

なんて当たり前な事を思ってしまうが、そんなことを思うのも今までの俺の日常が非日常的過ぎた反動だな。俺からすると平穏はもっとも遠いものだ。なのでそう思ってしまうのはある意味仕方がないことだと思う。

 

「桜って綺麗だよね?」

 

おっ、理子が珍しく女の子らしいことを言っている。まさか、理子が花に興味を持つなんて。

花よりダンゴじゃなかったのか。

 

「……なんか失礼なこと考えてない?」

 

勘が鋭い奴だな。

 

「か、考えてないゾ」

 

「ふーん……ま、いいけど。桜ってなんかいいよね。風に吹かれて舞う感じとか、綺麗で」

 

「ま、散り易い花だからな」

 

「むー、そういうこと言わないの! せっかく可愛い女の子と二人きりなんだから、もっと他に言うことあるでしょ?」

 

「他に?」

 

……えっと、何を言えばいいんだ?

駄目だわからん。気の利いた言葉なんか言えない。俺はヒス金じゃないからな。

女の子が喜ぶ言葉なんか知らん。

 

「んもう、昴の鈍感。そこは『桜吹雪綺麗だけど、一番綺麗なのは理子、君だよ』とか言うとこだよ。キャー!」

 

いや、何がキャー! なんだ。そんな小っ恥ずかしい台詞言えるか!

 

「ほらほら、昴早く言ってよー」

 

「誰が言うか!」

 

「むー言ってくれないなら、今日の昴の寝顔現像してサクサクやキッカに売りつけてやる!」

 

胸元からデジカメを取り出す理子。

そんなとこにそんなもん入れんな。ってか、よく入ったな。四次元ポケットか何かなのか。

 

「おい、お前か! 俺を盗撮している馬鹿は!」

 

小学校で高値で売られていた俺の写真。盗撮犯が誰かわからなかったが、やっぱお前だったのかよ。

 

「そのカメラ渡せ!」

 

「嫌だよー、これは理子の大切なものなんだから」

 

「じゃあ、せめて写真消せ!」

 

「えー、理子の精神安定剤だからダメです〜」

 

な、何が精神安定剤だ。俺の精神がガンガン削られていくわ!

渡さないなら仕方ねえ。武力行使だ。

俺が銃を抜こうと思ったその時、理子も銃を抜いていた。

 

「武偵になるなら、やっぱ武力(これ)で問題解決しないとねー」

 

「ハッ、お前が俺に勝てるのかよ?」

 

「勝てないよ、真正面からやればね」

 

そう言って理子は発砲した。俺は理子の弾を銃弾撃ち(ビリヤード)で処理し、銃口を理子に向けた。

理子は首に下げていた懐中時計をふわぁ、と空中に投げていた。

あれは……まさか⁉︎

地面に懐中時計が落ちると、強烈な閃光が辺り一帯を照らし、あまりの眩しさに俺は両目を瞑ってしまう。

光りが収まり目を開けた時には既に理子の姿は消えていた。

チキショウ、逃げられた。

理子の得意な『逃げ足』にしてやられた。

 

「えへへ。(お義兄)さんこちらー」

 

理子はそんな捨て台詞を吐いて走り去ってしまう。

クソ、待ちやがれ! 今すぐカメラ置いていけ!

俺の言葉は届くことなく、理子の背はどんどん遠ざかっていく。

俺は直様、ガンダールヴの力を使って理子の追跡を開始した。

風と一体になったように、一瞬で駆け抜けるように。

そんなこんなで中学の正門の前に到着した。

 

「はぁはぁはぁ、馬鹿理子の奴、後で覚えてろよ」

 

息を切らしながら俺は学校の中に入ろうとした。

その時、背後から誰かが近づく足音と気配を感じ取った。この感じ、プロではないな。だが、ど素人でもなさそうだ。それなりの訓練はしている。そんな筋肉の動かし方だ。それにしても俺の背後に立つとは命知らずな奴だな。俺が某スナイパーなら銃撃してるぞ。さて、どんな奴だ? どうせむさいおっさんか、野郎なんだろうな。そんなことを思いながら後ろを振り向くと、一人の少女が立っていた。

風に靡く髪は黒色で、腰まで届くロングヘア。

凛と佇む姿は大和撫子を体現しているかのように、優雅で、綺麗だった。

その姿に目を奪われた。綺麗だ。可憐だ。

 

「……君は?」

 

誰だ? こんな美少女、一度会えば記憶に残っているはずだけど。

駄目だ、小学生時代の記憶にはこんな子と過ごした覚えがない。

少女はそんな俺の顔を見ると、上品な仕草で口元に手を当ててクスリと笑い、話しかけてきた。

 

「お久しぶりです。……昴君」

 

そう言った彼女の顔をみた俺は、何故だか懐かしいような、何処かで見たことがあるような、既視感を感じていた。いや、既視感を感じるのは当然かもしれない。何故なら見たことならあるからな。それもつい最近、写真で。そう、彼女は俺の婚約者様(・・・・)だ。知っていて当然だ。だが、それとは別に何処か懐かしさを感じる。俺は彼女と会ったことがある気がする。初対面なはずなのに。そんな不思議な感覚を感じていた。なんだこの感じ? 何処かで見たことあるような。俺はこの少女を知っている。そうだ。知っているんだ。思い出せ! あれは確か……7、8年前の……そうだ、夏祭り! 青森の夏祭りだ! あの時出会った女の子に似ているんだ。

俺はあの青森の夏の出来事を思い出していた。

女の子を狙っていた変な連中を木刀でボコって、武偵免許持ってないから途中で逃げたんだよな。彼女と一緒に。そして、自己紹介して別れた。

うん、ここまでは覚えてる。

 

「えっと……確か、風斬(かぜきり)……さんだっけ?」

 

「嬉しい! 覚えていてくれたんだね。うん、そう。私は風斬(かぜきり)風香(ふうか)。私のことは風香って呼んでください。よろしくお願いしますね、ア・ナ・タ♡」

 

「貴方ってどちら様のこと⁉︎」

 

あ、ヤバい。なんか知らんが嫌な感じがする。

これはアレだ。桜や橘花、そして、理子が偶に出すあの(・・)感覚に似ている。

 

「それはもちろん、昴君のことだよ〜。私の旦那さんになる人なんだから、アナタって呼んでもいいよね?」

 

「絶対駄目だ!」

 

人前でアナタなんて呼ばれたら絶対誤解される。

俺の中学時代が暗黒時代になってしまう。

入学早々、ぽっちは嫌だ。男友達作って普通の学生生活満喫するんだ。

 

「わかりました。なら、昴君って呼ぶね。よろしくね、昴君」

 

おや?

 

「……ん? どうかしましたか?」

 

「あ、いや、なんでもない……」

 

やけに引き下がるの早いな。桜や橘花ならもっといろいろ聞いてくるのに。いや、これが普通の反応か?

俺の周りの奴が非常識過ぎるだけか?

 

「……後で身辺調査しとかないと」

 

「え?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない……」

 

き、気のせいか。なんか身辺調査とか不穏な単語(ワード)出た気がしたんだが。

気のせい、だよな? 妹達がアレだからちょっとナーバスになってるのかもしれないな。うん。

 

「ところで昴君には妹さんが三人いるんだよね? どんな子?」

 

「どんなって言われてもな。んー、一言で言うならブラコン?」

 

「へー、とーってもお兄さん思いな妹さん達なんだねー……要注意人物達だね」

 

「え?」

 

「ん? なんでもないよー?」

 

ニコニコと、笑う風香。

笑顔だが、目は全く笑ってない。

何コレ⁉︎ メチャクチャ怖いんですけどー⁉︎

 

「ところで昴君は探偵科(インケスタ)志望だよね? 実は私もそうなんだ!」

 

「おっ、そうなのか。知り合いがいてよかったぜ。探偵科(インケスタ)が一番安全で、平穏な学生生活送れそうだからな」

 

「うん、そうだよね。私は昴君が入る学科ならどこまでも(・・・・・)ついて行くけど」

 

なんか発言が重いな。ん? というか、俺。風香に妹がいることや探偵科志望ってこと言ったけ?

もしかして、父さん経由で聞いたのか?

 

「いえ、光一お義父様からは何も聞いていません。その情報は独自の情報網から入手しました」

 

「心読まれた⁉︎」

 

「風は嘘を付きません。風はいろんな情報を運んでくれます。だから、今日の朝、昴君が妹さんといちゃいちゃしてたことも知っています」

 

「なんで知っているんだ⁉︎」

 

「風(盗聴器)が教えてくれました」

 

「盗聴器⁉︎ 今、盗聴器って言った⁉︎」

 

「……気のせいだよ?」

 

「その間はなんだ⁉︎」

 

盗聴器ってどこに仕込まれたんだ。っていうか、いつ仕込んだ?

風香、恐ろしい奴。油断ならねえ。

 

「俺のことはなんでも知っているってことか」

 

「なんでもは知らないよ。知っていることだけ」

 

まさかその台詞を聞ける日がくるとは。いや、違うシチュエーションで聞きたかったな。それもメガネ女子の口から聞きたかった。

 

「メガネっ子好きなの?」

 

「い、いや、別に好きってわけじゃ……」

 

メガネをかけた学級委員長とか、ポニーテールメガネ女子とか、ツインテールなメガネっ子とかちょっと萌えるけど。

って、また心読まれた⁉︎

また盗聴されたのか⁉︎ 盗聴器ってもしかして、俺の身体に仕込まれてんの?

俺の内心の疑問に風香は「いいえ」と首を横に振って答えた。

 

「婚約者には好きな人の心を読むスキルがデフォルトされているんだよ」

 

「何そのスキルの無駄遣い⁉︎」

 

「安心して、明日からちゃんとメガネかけてくるから!」

 

「安心できるかー!!!」

 

思わず突っ込んだ俺は悪くない。

そして、突っ込んでいると。

風香の背後に黒いバンが急停車した。

サイドドアが開き、中から伸びてきた手が風香の口を塞いだ。

それはあっという間の出来事だった。

叫び声すら上げられずに、風香の身体は車内へと引っ張られていく。

俺は突然の展開に呆然としてしまった。

え? 何コレ? 何かの撮影? そういうプレイ?

しかし、風香が必死に抵抗する様を見た俺はようやくこれがただ事ではない事件だと認識した。

バンはサイドドアを閉めて急発進した。

俺は、左手に木刀(通販サイトで購入した『星砕き』)を握り締め、右手にガンダールヴの槍であるDE(デザートイーグル)を握り締めて、全力ダッシュを始めた。

ただのダッシュではない。『縮地』と呼ばれる歩法の一つだ。

爺ちゃんと母さんに叩き込まれた。なんでも土御門家に代々伝わる伝統武芸らしい。

あの地獄のような特訓を受けた俺から……ガンダールヴから逃げきれると思うなよ!

 

バンの速度は法定速度を無視した100㎞越えだが、相手が悪かったな。

俺はただの人間じゃないからな!

爺ちゃんや父さんが出す技の速度に比べたら全然遅えよ。

普通に音速越えてくるからな、あの二人。

100㎞なんて、止まってみえる。

バンに追いついた俺は運転席側のフロントガラスにへばりついた。

中には黒い目出し帽を被った男が二人いた。

 

「あ〜あの〜悪いんだけどさ。その子返してくれないかなー?」

 

「あ、兄貴っ⁉︎ ひ、人が」

 

「わかってるよ、ちょっと黙ってろ」

 

俺の姿に驚いたのか、ハンドルを握る男は俺を振り落とそうと、左右に激しく揺さぶりをかける。

勢いよく、揺らされた俺はバンの前方に落ちて、そのまま轢かれて吹き飛ばされたが……。

 

「はあはぁ、ざま〜みろ」

 

「あ、兄貴、ひ、人を」

 

「うっせ、落ちて轢かれた方が悪いんだよ」

 

急停車するバン。

 

「いやー本当その通りだよな、まさか、落ちるとはおもわなかった」

 

「そうだろ、そうだ……⁉︎」

 

驚いて俺を見つめる二人組。

 

「な、な、なっ⁉︎」

 

「なんで生きてんだよ!」

 

俺がほとんど無傷でいるのが信じられないって顔してるな。

いや、無傷じゃねえよ。体質的にマッハ8くらいまでなら普通に受け止められるけど、皮膚は人間と変わらないから血は普通に出るし。殴られたら痛みもある。

今のも脳震盪を起こしても不思議じゃなかったんだが、昔、もっと強い衝撃を受けたことあるから無意識のうちに身体がガードしてくれたみたいだ。

あーよかった。血出るだけで。いや、よくねえか。痛てぇし。

 

「車に轢かれる衝撃なんてな。昔、爺ちゃんや熊と戦った時の衝撃に比べたら全然大したことじゃないんだよー!!!」

 

「ば、バケモンだ……」

 

「一体どこのガ○ダムだ?」

 

失礼な奴らだな。

俺はれっきとしたただの『普通』な人間だよ!

内心そうツッコミながら、男二人に近づき、その手に手錠をかけた。

 

「未成年者略取・誘拐罪及び道路交通法違反ならびに、殺人未遂の現行犯で逮捕する!!!」




筆が進んだから久しぶりの連続更新!

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