Ammo21。桜が咲く季節
ルーマニアでの冒険から2年以上の時が流れ、俺は今日第2の小学生人生を卒業する。
この世界に転生して10年以上経ったが思い返せばこれまでいろいろな事があった。
思い浮かぶのはこの12年で出会ってきた人達の顔……
濃すぎる家族に。
金一さんや金次との出会い。
ルーマニアで出会った蘭豹、綴、アリス、ヒルダ。
爺ちゃんに連れられた先で出会った巻。
中でも俺の転生人生を変えたのは間違いなく……
……る!
……ばる!
……昴!
「もう、ぼ~としちゃダメだぞ! 昴~」
その中でもあのルーマニアの大冒険で出会った大怪盗の血をひく少女。峰・理子・リュパン4世との出会いは俺の人生(というか平穏)をまるっきり変えてしまうほどだった。
「あ、悪い、悪い。えーと、なんだっけ?」
「だから〜式が終わったらみんなでカラオケ行くから昴も来るのかって聞いたんだよ?」
「カラオケかぁ。いや、俺はパス。流行りの音楽とか知らないし」
「もう、ノリ悪いなぁ。いいじゃん、行こうよ! 昴が歌うとこ理子みたい!」
お前が見たいだけだろ⁉︎ カラオケなんて誰が行くか! 音痴な奴が好き好んで行くわけないだろう!
と内心ツッコミながら、俺は理子をどうやって説得するか頭をフル回転させる。
ちなみに今、俺達がいるのは小学校の体育館で、卒業証書授与されるのを待っているところだ。
「あ、そうだ。だったらアレだよ。理子と一緒の部屋に入ればいいんだよ。確かカラオケにはカップルシートってものがあ「却下だ、却下」まだ、途中までしか言ってないのに〜酷い」
「酷くない」
カップルシートなんて、この馬鹿理子はナニを考えてんだ?
もし、そんなとこに二人で行ってたのが妹達にバレたら……アカン、悪寒がしてきた。駄洒落じゃなくて、マジでヤバイ。俺の命が!
「ええ〜いいじゃん行こうよ〜理子と一緒に歌おうよ。一緒にいちゃいちゃしようよ〜」
そう言って隣りに座っていた理子は身体を密着させてきた。
理子が身体を密着させるたびに俺の腕に柔らかいもんが当たる。
柔らかい、また成長しているな。原作でも凄かったが、この成長速度だと原作以上に凄くなりそうだ。
「は、離れろよ」
「嫌だ」
「いいから離れろ!」
「嫌だ。一緒にカラオケ行ってくれなきゃ離さない」
腕を絡めて、下から覗き込んできた。うっ、上目遣いとか……ズルい。
そんな顔されたら断りにくくなるだろうが。
「また、いちゃついてるよ、あの二人」
「おい、親衛隊はどうした?」
「僕達のりこりんに……!」
「RDCの鉄の掟、忘れたのかアイツは!」
「誰か会長を呼べ! 早く!」
うっ、ヤバイ。見られてる。周りの視線がかなり痛い。
小学生同士とはいえ、理子を狙う馬鹿者達の嫉妬に燃える視線がヤバイ。
ちなみにRDCとは『りこりん大好きクラブ』の略。
俺の義妹、星空理子ファンクラブのことだ。
「おい、こら離れろ!」
「嫌だ、嫌だ、離す代わりに、理子と一緒にカラオケ行くか、結婚の約束してくれなきゃ、離さない」
「わかったから離せ!!!」
「え? それって結婚してくれるってこと?」
「するか馬鹿!!!」
なんつうポジティブな奴だ。知ってたけど。
しかし、このままでは埒があかないので仕方なく、本当に仕方なくカラオケだけは付き合ってやることにした。周りの視線は痛いけど。周りの視線に耐えながら、隣でニコニコニヤけている理子を見て思った。
ま、たまには悪くないかもな。コイツと過ごすのも、と。
今に思えばこの時の俺はどうかしていた。
だから、あの日。入学式の朝、あんな目に遭うことになったんだ。
そんなこんなで30分。
俺は眠気に負けそうになっていた。
「ふぁ〜」
はぁ~どこの学校の卒業式もそうだが校長の話しは長いな~。なんでこんな無駄話を長く話すんだろう。もっと簡潔に述べてくれてもいいのに。
そんなどうでもいいことを考えているとついに俺の出番がきた。
「星空 昴君 かの者は小学校の課程を終了したことを……。おめでとう」
校長が読み上げた後、卒業証書を受け取り、校長と来賓へ向かって礼をし、壇上から降りる。
そして、式の終わった後は友人達との記念撮影をすませ、ようやく俺は卒業式から解放され……なかった。
帰ろうとした俺に笑顔の理子が抱きついてきて、そのまま強引にカラオケに拉致ったからだ。
カップルシートは体験できなかった。店員さん、ナイス判断!
理子はふくれっ面していたが、代わりに一緒にデュエットしてやったら喜んで歌っていた。
ノリノリで。こっそり、理子が歌う姿を写メったのは内緒だ。
そんなこんなで、卒業式も無事に終わり。
季節は桜が咲き誇る4月。
入学式の当日になっていた。
チュンチュン。
……きて。
……起きてよ。
……起きなさい。
薄っすら目を開けて、枕元に置かれている目覚まし時計を見ると時刻は6時30分だった。まだ起きるには早い。あと30分は寝ていられる。普通の人なら遅刻するかもしれない距離でもガンダールヴの速さで走ればギリギリ間に合う。だから、まだ寝ていたい。
「んー、まだ眠い。あと五分……」
「もー今日から新しい学校生活始まるんだよ! ほらほら、起きてー! 起きないと昴の大切なもの、盗んじゃうよ?」
「……それは貴女の心をです、ってか?」
「わたしの心は昴にとっくに盗まれてるけどね、起きないならもっと大変なもの盗んじゃうよ?」
「んー……盗めるもんなら……盗んでみやがれ!」
実は起きていた俺は慌てる理子の姿を見たくてつい、そんな意地悪を言ってしまう。
「……よし、言質とったよ。だったら一緒に寝るね」
なんだと……⁉︎
まさかの理子とのドキドキ添い寝……!
そんな夢みたいなことがあっていいのか? いや、いつもみたいに理子のお茶目っていう可能性がある。むしろ、その可能性が高い。これで反応すると『ほら、朝から変なこと言ってないで、さっさと起きないとぷんぷんがおーだぞ?』とか言うに違いない。なので、ここは真偽を確かめるべく、二度寝を続行だ……!
「一緒に寝るんなら、やっぱり制服は脱いだ方がいいよね?」
なっ、なんだとぉぉぉ⁉︎
原作理子も積極的な誘惑が多いキャラだったが、まさか朝からこんなことを言ってくるようになるなんて。
動揺して固まる俺を他所にシュル、と胸元のタイを抜き取る音が聞こえた。すぐ近くで美少女が生脱衣している姿を想像してしまい、かなり緊張してしまう。
まさか……そんな。こんなことになってしまうなんて。
これは夢か。夢だよな? 夢であってくれ!
シュル……シュル……シュル……シュル……トス……
衣摺れの音が聞こえ、床に制服が落ちる音も耳に入ってきた。
つまり、今の理子は少なくとも上は下着姿。つまり、ブラだけ。スカートだけ履いた状態ということ。靴下はどうかはわからんが、俺は靴下は履いててもOK派だから、そこは気にしなくてもいい、って何言ってんだ俺は⁉︎
「ムフフ。さーて、そんじゃー下も脱ぐとしようかな〜」
な、なんだとぉぉぉ、しょ、正気か貴様ぁぁぁ!!!!!
ドキドキ、バクバク心臓の鼓動が高まるのがわかる。
今、左手に武器を持ったら間違いなく、今までで一番ルーンの輝きは増すだろうな。
そのくらい感情が昂ぶっているのがわかる。
落ち着け。落ち着くんだ。俺の
などと、高まる感情によって昂ぶったモノを沈めようとしている俺に、理子はさらなる追い打ちをかけてきた。
「まだ起きないんだー? んじゃ、仕方ないなー。下着も脱ごうかな」
脱ごうかな、脱ごうかな、脱ごうかな……頭の中で理子の言葉が木霊した。
「なっ⁉︎ いかん、それはまだ早い。嬉しいけど……俺達にはまだ早い……!」
俺は大慌てで起き上がると、理子を止めようと手を伸ばした。
しかし、そこにはタイを取っただけで立つ理子の姿が。
「おはよう、昴☆」
「あ、あれ? 添い寝は? 下着姿は?」
理子の顔を見ると理子はしれっとした顔をしていた。
そして、理子の足元には何故かハンカチが落ちていた。
「……もしかして」
いや、そんな。こんなことって。
「ハンカチで衣摺れの音を作るテクニックって結構便利だよね〜? この前買ったギャルゲでもあったし、練習した甲斐があったよ」
してやられた。そういえば理子は器用な奴だった。
理子の年齢でギャルゲをやってるのはアレだが、いつも通りなんでそこには触れないようにする。
「さあ、昴。目醒めたんなら早く着替えてきて。もう、朝食出来てるよ?」
床に落としたハンカチを拾い、外したタイを付け直しながら、理子は部屋から立ち去っていく。俺はその背中をポカーンと見送ることしかできなかった。
バタン、と戸が閉められた自室で正気に戻った俺はいろいろ勘違いをやらかした恥ずかしさに絶叫してしまう。
「うおおおお、俺の馬鹿!」
ベッドでゴロゴロし、そのまま二度寝した俺は悪くない。
……さい!
……なさい!
……さっさと起きろ!
うつ伏せで寝ていたらバゴーんと、硬い物が頭に直撃した。
金属音が鳴り響き、そのあまりの痛さにより目覚めた俺は後頭部をさすりながらその痛みを作った原因を睨み付ける!
「痛ぇ~何するんだよ! 馬鹿理子……」
「昴が入学式前なのにグースカ寝てるから悪いんでしょ~。ほら、二度寝なんかしてないでさっさと起きて!」
俺を叩いた張本人、理子に文句を言ったが正論を返された。うぐぅ、その通りだ。
だが、フライパンで殴って起こすことないだろ?
理子の流行り『妹目覚まし』。
普通はお玉とフライパンでガンガン鳴らして起こす、というものだが、理子風はフライパンで殴って起こすという発想らしい。『物理で殴れ!』をこんな形で実行するとは……理子、恐ろしい子。
すっかり、
部屋をノックする音が聞こえ、戸が開かれると橘花が入ってきた。
「兄にぃ~朝だよ~……って、また峰さんが起こしてるし。もう、兄にぃは私が起こすんだから邪魔をしないでよ~!!!」
「え~理子~そんなこと知らない〜。早い者勝ちだよ〜⁉︎」
言い争いを始めた二人は、朝からテンションが高く、ギャー、ギャーと喧しい。
もう、慣れたけどな。理子が俺の義妹になってから2年。毎日がこんな感じで騒々しく、賑やかで、明るく、そして、楽しい。
そんな日々を俺は……いや、俺達は送っていた。
しかし、普段はなんだかんだで、仲がいい二人だが何故俺のことになると途端に喧嘩を始めるのだ?
うーん、大切な兄を取られたくないという妹の心境なんだろうが、よくわからん。
普通の兄妹ってこんなにも、仲良いものなんだろうか?
学校の友人も妹と仲良い奴多いが、毎日仲良いわけではなさそうなんだが。
「ねぇ、昴は理子に起こされた方が嬉しいよね?」
「何言ってんの? 私に起こされた方が嬉しいに決まってんじゃん! そうだよね、兄にぃ?」
「いや……俺は」
「「俺は?」」
問い詰めてくる二人の義妹。これは答えないと解放されないパターンだ。だが、どっちかを選んだら片方にお仕置きされるな。どうしたもんか。どうにかしないと下手したら殺されかねない。ガチで!
よし、こうなったら……
「あ、あんなところに俺の女装写真が!」
「「え? どこどこ?」」
窓の外に視線を逸らす馬鹿二人。
馬鹿め、俺が女装して写真なんて撮るわけないだろうが!
女装する予定なんかないし、そんな姿見せるなんて未来永劫ありえない。
抜き足で部屋から脱出した俺は足音を立てずに階段を降りて、リビングに入る。そこにはすでに起きて朝食の準備をしている桜の姿があった。
「おはよう、桜」
「おはようございます。兄さん。朝食の用意しますね」
仕事で家を留守にしがちな両親に代わり家事全般を取り仕切るのは桜の務めと気づいたらなっていた。一応、フォローはしとくが、理子も橘花も料理は一通りできる。
理子は洋食、橘花は和食。そして、桜は和洋中問わず作れ、和漢洋ともいうべき料理すら作れる。
最初、誰が俺の朝食を作るかで揉めに揉めた。ヤモリの串刺しやレアよりもレアな串刺ししか作らないヒルダは論外で。じゃんけんの結果、桜が朝当番。昼食は橘花。オヤツは理子の担当となった。
夕食は基本桜担当で、偶に橘花や理子が作ることもあるが、この前理子が作った鍋料理はやばかった。理子の馬鹿が原作通りに、鍋の中にパルスイートを500g、さらに大量の鷹の爪まで入れた、何鍋だよ、これ⁉︎
という最早突っ込む気力すらなくすとんでも鍋作りやがったからな。しかも、具材に本来入れてはいけないもんが入ってた。一体誰がこんなもんを……と思ったがこんなもん入れるアホは一人しかいない。ヤモリの串焼きとか、何入れてんだヒルダのアホは!
甘いのか、辛いのかよくわからん紫色のスープを吸ったヤモリが鍋に投下されていたのは罰ゲームを通り過ぎて一種のホラーだったな。
どうしたって? もちろん食ったよ。桜や橘花の分まで俺一人で。腹壊したけどさ。
「消える星、残った星も、消える星」という、星に寿命があるように、いつかは人間は誰もが死ぬんだ。だから鍋で死ぬのも寿命で死ぬのも変わらねえぞ、という意気込みで食った。
食って、30分しないうちにぶっ倒れた。俺、頑張ったよな、パトラッ○。
あやうく本当に星になりそうだったぜ、理子料理マジヤバす!
あー……朝から嫌なこと思い出した。
話題変えよう。
「ふぁ~……今日から中学生かぁ」
「はい、楽しい学校生活が送れるといいですね。ところで兄さんは今日の夕方何か予定はありますか?」
「ん? いや、なんもないな。式が終わったら真っ直ぐ帰ってくるよ」
「でしたら、お買い物につき合って下さい。日用品とか、お米とか、いろいろ買わないといけないものがありますから」
「ん、ああ、いいぞ~」
そんなやり取りをして一時の平穏を過ごす俺だったが。まさか、入学前にやっかいごとに巻き込まれることになるなんて。この時は想像していなかった。
あれ? おかしいなぁー、メインヒロインの出番なくなった。りこりんに全てもってかれた。これが原作ヒロインの力か。
りこりんのヒロイン力高いせいで空気に包まれたんだな。りこりん流石です。
……次話でメインヒロイン出ます。
多分、きっと。