夜空の武偵   作:トナカイさん

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いつもながら、更新遅れました。
前回まではバトルパートでしたので、今話からはしばらくラブコメ風です。
ま、コメディーよりどちらかというとシリアスな雰囲気ですが。
ヤンデレます。ヤンデレますので、ヤンデレ苦手、ブラコンの妹は苦手だという方はバックを推奨します。


Ammo19。ルーマニアから来た少女

り、理子⁉︎

 

戸を開けるとそこに佇んでいたのは俺がルーマニアで助けた少女、峰 理子 リュパン四世だった。

 

おいおい、何がどうなってんだよ⁉︎ 何で理子が家に来てんだ⁉︎ ルーマニアにいる父さんの元でこれからのことを考えるんじゃなかったけ?

 

「兄さん? 誰がいらしたんですかー?」

 

リビングの方から桜の声が聞こえる。

ま、まずい。非常にまずい。桜と橘花は俺の服に女性ものの香水が付いただけでヤンデレモードになるのに、理子と玄関先で会話しているとこを見られたら……そう考えただけで震えが止まらなくなる。

ヤバイ。こんなとこ見られたら……俺、殺される。

ど、どうにかしないと。

で、でも……どうすりゃいいんだ?

 

「すばる〜ん、久しぶりー」

 

そうこう悩んでいると、理子が抱きついてきた。

むぎゅんと、柔らかい感触が俺の頬に伝わる。

し、知らなかった。小学生でも……女の子の胸ってこんなに柔らかいんだな。

原作ほどじゃないが、確かにそこには楽園(パラダイス)が存在した。

レモンより大きい。オレンジくらいあるか? ……いや、この感触、この頬に伝わる感触からするとこの形はりんごだな。メロンやパイナップルではないが、確かにある。小さなりんごが。

よし、今日から理子のことはりんごちゃんと呼ぼう。内心では。

 

「会いたかったよ〜〜」

 

ぎゅっと抱き締めてくる理子(りんごちゃん)。抱き締める度に俺の頬にりんごちゃんが接触してくる。

くっ、なんたることだ。がっちりホールドされているせいか、自分から動いてこの感触を堪能することが出来ないではないか!

楽園を堪能していた俺にその声は聞こえてくる。

 

「お兄ちゃ〜〜ん、いつまでそこにいるんですかー。そろそろさっきの話しの続きを……⁉︎」

 

俺を抱き締めたまま、理子はその声がした方向へ体を向ける。

リビングから歩いて来た桜と目が合う。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

ち、沈黙が怖えぇぇぇ。

 

「……」

 

「……兄、さん?」

 

どう説明すればいいのか、答えに詰まって沈黙していると、桜が口を開いた。

が、その口調はかなり冷たい。ここで説明ミスったら後がヤバイ。

な、なんとか上手い言い訳しないと。

 

「あ、あー……これはだなあ……」

 

「これは……なんですか?」

 

ひ、ひぃ! 怖ぇぇぇ!

や、やべえ。殺される⁉︎

 

「ねえ、昴。この子だれ?」

 

理子が桜について尋ねてくる。

 

「昴?」

 

「あー……こいつはなぁ」

 

「兄さん、この人は一体誰ですか?」

 

じとー、とした視線が桜から向けられる。

 

「こいつは……」

 

「兄さんってことは昴の妹さん?

だったらりこりんの妹だね!」

 

理子の発言にその場の空気が固まる。

り、理子めっ! もっと空気読め。ここでその発言はいろいろアウトだ!

 

「妹……あ、あはは! 聞き間違いですよね? 今、そちらの方から寝言が聞こえたようですが、起きてます?

まだお昼ですよ? はろはろー? 」

 

「やだなーちゃんと起きてるよー。私の昴の妹さんなら、未来の義妹ってことだよね?」

 

「……私の?」

 

「うん、私の」

 

バチバチ!

桜と理子の視線がぶつかり合う。

なんだろう。二人の周りだけ気温が下がってるような気がする。

ここにいたらまずい。とりあえず、理子の腕の中から脱出しないと。

 

「あっ。だ、だめっー!!! すばる〜ん、そこはだめだよー」

 

脱出しようともがけばもがくほど、手が腕が顔が、理子の柔らかい部分に触れてしまう。

ああ……これはあれだなぁ。

ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)は実在したんだ! ラフテルは女の子の体の一部に実在したんだよ!

 

「ちょっ、何してるんですかー⁉︎ 兄さん、離れてください!」

 

そうは言うが桜さんや。離れようとすればするほど、理子が持つ古代兵器級な胸の谷間(プルトン)からは逃げられないんだよ。

 

「なっ、なんていう羨ま……ハレンチなことをしているんですか!

え、えっちぃのはいけないと思います!」

 

そう言った桜は俺の顔を掴んで無理矢理引き剥がそうとする。

い、痛いたたたたたたった!!!!! く、首が捥げるぅぅぅ捥げてしまう_____!!!!!

馬鹿力で無理矢理引き剥がされた。

ちょ、ちょ待て! 俺の首がありえない方向に曲がってるんですけどー⁉︎

青白くなる俺を見た桜は。

 

「……今、治療しますね。『雷鶴(らいづる)』」

 

小さく呟くと、彼女の両手から小さな鶴が出現した。

その鶴は両翼を広げて、空へ飛び立つとやがて俺の頭の上でくるくるくるくると回り始める。

 

「『雷針(らいばり)』!!!!!」

 

広げた両翼から小さな無数の針が降り注ぐ。

って、針⁉︎

 

「あいだだだだだっ!!!!!」

 

上空から降り注いだ雷の針は俺に突き刺さる。

 

「あ、動いちゃいけません! まだ治療中なんですから」

 

そうは言うが、桜さんや。チクチクチクチクっと、針が全身に突き刺さるのは結構痛いんだぞ?

我慢できないほどじゃないが、下手な鍼灸より痛みがある。

 

「……どうせ、お母さんのように上手くいきませんよーだ……」

 

俺の心を読んだように桜はそう言って、唇を尖らせる。ああ……そんな桜の姿は可愛いなぁ。

こういうとこは年相応というか、七歳児そのものなんだけどな。

なんで、いきなりヤンデレるんだうちの妹達は。

 

「って、わわっ! 何それ⁉︎ 大丈夫なの⁉︎」

 

心配そうな顔をして、理子が聞いてきた。

 

「ああ、大丈夫だよ。今のは桜の陰陽術だからな。西洋で言う魔術みたいなものだ。

筋繊維や神経に針を刺して、回復を促す治療の一環だよ。たまにお世話になってるし、大丈夫だ……多分」

 

「多分って何⁈」

 

「多分って何ですか!」

 

いや、だってな。三回に一回は失敗してるじゃん。

この前なんか、父さんの肩凝り治そうとして、庭の木燃やしたし。

 

「大丈夫なの⁉︎」

 

理子が心配したのか、俺の手を握り……そして、その手を自身の胸に押し付けてきた。

WHAT? な、何が起きたんだ⁉︎

もみもみっ。

……これは、まさか⁉︎

 

「……兄、さん」

 

うおぉぉぉ⁉︎ 桜の視線がヤバイ!

ち、違うんだ。これは。

ど、どうにか桜を説得して切り抜けないと!

そう思っていた俺にもう一つの災厄が降りかかる。

 

「……何やってんの、兄にぃ(・・・)

 

……あっ、死んだ。俺死んだ。

俺の視界に、笑顔の橘花の姿が目に入った。

いい笑顔だった。いい笑顔をしている橘花だが、よくよく見てみればその手には包丁を持っていた。

いやいやいやいや!

 

「……桜お姉ちゃんが戻って来ないと思って来てみれば」

 

「ちょ、待て。落ち着け、話せば解る!」

 

話し合い大切。ラブ&ピース!

 

「問答無用! 死に晒せー!!!!!」

 

手に持った包丁を振り回してきた。

うおっ、ちょ、よっと!

パシッ、と両手の掌を合わせるように包丁を挟んで受け止めると、それを見ていた理子が「昴……人間辞めてるね」と若干引いていた。大丈夫だ! りこりん。世の中にはこれを片手で平然と行う根暗さんがいるから。近い将来、お前の前に現れるから!

 

「やっぱり、普通の刃物じゃ兄にぃは刺せないかぁ。じゃあ、これならどう!」

 

橘花はそう言うと、掌を上に翳して大気中にある水分を凝縮し始めた。

 

「いやいやいや……ただの人間相手に魔術なんか使うなよー!」

 

俺、ちょっと筋肉ある普通の人間。魔術なんていうオカルトは苦手なんだけど!

そんな俺に橘花は魔術で作った日本刀『水刃刀』を向ける。

 

「兄にぃなら当たっても大丈夫。どうせ死なないし……」

 

いやいや! それ、大理石に傷付けるくらい威力あるよな?

人間の皮膚に触れたら血が出るから。痛いから!

 

「……痛いですむのは兄さんやお父さん達くらいですよ?」

 

桜が呆れた顔をして、じとーといった眼差しを向けてきた。

え? 俺なんか間違ったこと言った? 痛いの嫌じゃん。

 

「じゃ、遠慮なく」

 

橘花は手に持つ水の刀を振るう!

 

「だから止めて! 血出るから!」

 

俺は慌ててしゃがんで回避した。あっぶねえー。あと数センチずれてたら血飛沫出てたよ。

どんなに殺傷力があろうが、当たらなければどうということはない!

橘花の動きは筋肉探知で、次どこの筋肉動かそうとしてるのかわかるからな。

 

「普通は血が出るから、ですむ話しじゃないよ、昴……」

 

理子の呆れた声が聞こえたきたが、知らん。気にしたら負けだ。周りの大人達が非常識の塊だからかな。

 

「く、この、えいっ!」

 

橘花は俺が避けたことが気に入らなかったのか、手に持つ水刃刀をブンブン振り回す。

だが残念! 当たりはしない。

 

「ははは、どこを狙っているのだね?」

 

気分的にはあれだ。ム○カさん的な気分だ。

 

「このー!!!!! 絶対、ぜっーーーーーたいに死なす!!!!!」

 

いや、橘花よ。その台詞はピンクの桃まん武偵に言わせたいんだ。

だからお前が言うな。それを言っていいのはレモンちゃん(ツンデレさん)だけだ。

 

「……んもう、兄さんたら……」

 

桜が呆れ気味に溜息を吐く。

 

「桜お姉ちゃん、手伝って!」

 

「もう仕方ないですね、二人がかりでやりますよ」

 

桜の掌から放電が始まった。

いやいや、止めろよ!

お兄ちゃん、本当に死んじゃうよー⁉︎

 

「だ、ダメ____私の昴に意地悪しないで!!!」

 

「だから、私のって何ですか!!!!! お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんですからね!」

 

「違うもん、私の兄にぃだもん!!!」

 

「昴は理子のもんだもん。だって昴は理子のお兄ちゃんになった(・・・・・・・・・)んだから!!!」

 

「……はい?」

 

俺が疑問の声をあげたその時。

携帯の着信を知らせるメロディが流れ始める。

……何だろう。凄く嫌な予感しかしない。

画面を見ると、父さんからメールが来ていた。

開いてみるとそこには……

 

『from 父さん

 

 

昴くんへ。

 

元気でやってるかな? ルーマニアのゴタゴタがようやく片付きそうなので、近いうちに帰ります。

あ、そうそう。理子くん達はうちの子になるからみんなで仲良く暮らすように。

可愛いからって、手を出してはダメだよ?

新しい妹達の面倒よろしく頼むよ 父より』と書かれていた。

 

……送ってくるの遅いよ。もっと早く知らせてくれよ、父さ____ん‼︎

ああ、なんていうか。

 

「……不幸だ」

 

「というわけで、今日からこの家で一緒に暮らす峰 理子です! あ、星空 理子の方がいいかな?

でも、同じ名字だと新婚さんみたいだよね〜。ねぇねぇ、昴は峰と星空どっちがいい?」

 

俺の携帯を覗き込んでいた理子がノーテンキにそんなことを言ってきた。

いやいや、理子さんや。それ、どっちを選んでも同じことじゃないかー。

どっちを選んでも死ぬことになるぞ。俺が!

 

「……兄さん?」

 

「……兄にぃ?」

 

はい、死んだ。俺死んだ。

 

「……えっとー……つまり……」

 

この状況どうにかしないと。

ここは。よし、伝説的な口説き文句のあの台詞で乗り切ろう!

 

「……悪いな。実は俺、2次元の妹にしか興味ないんだ!」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「も、もしくは、ポニーテール萌えなんだ」

 

「……に、兄さんの馬鹿____!!!!!」

 

「兄にぃのアホ______!!!!!」

 

「昴の鈍感______!!!!!」

 

某借金執事なごとく! のハ○ヒ的な口説き文句は大失敗だった。

って、うおおおい!!!!!

し、室内で能力使うのは止めろ!

理子を見習え! 拳で殴るとか、可愛らしい攻撃しかして来ないじゃないか。ポカポカと、殴る姿可愛いなぁ。って、なんで、妹達は睨んでくるんですかね? 気に触るならほら。

能力や武器を使わず、拳で語り合おう!

……あれ、なんか俺、爺ちゃんの悪影響モロに受けてないか?

いや、気のせいだよな。武器や能力使わずに拳で話し合うのは『普通』だしな。

うん、普通だ。普通。

変じゃない。

 

「いや、おかしいわよ⁉︎」

 

そんなことを考えていたら、誰かに小声で突っ込まれた。

その声は俺の影の中から聞こえてきた。

げぇ。そういや、こいつもいたんだっけ?

 

「ば、馬鹿、今話しかけんな」

 

お前が俺に憑いてることバレたらややこしくなるだろうが!

それに理子を怖がらせることになりかねない。そんなことになってみろ。俺はお前をぶん殴るぞ!

ヒルダが理子にしてた仕打ちを俺は許していないからな。

 

「……何ぶつぶつ言ってるんですか、兄さん?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

「そうですか。では気のせいですね」

 

「何がだ」

 

「物の怪の匂いがしたと思ったのですが……」

 

「あ、ああ……き、気のせいだろ。物の怪なんているわけないだろう? あははは」

 

疑わしげに俺を見つめる桜。

う、陰陽師の血を濃く継いでるだけあって、鋭いな。

冷や汗が止まらない。

 

「ま、いいです。……ところで、兄さん。今日の夕飯、ニンニク料理にしますね。それから料理は全て銀食器で提供します。食べる前にみんなで十字架のアクセサリーつけましょう。後で杭の用意もお願いします」

 

「なんでそのチョイス⁉︎」

 

バレていらっしゃる⁉︎

俺の影から悲鳴が聞こえてきたぞ!

 

「ニンニク料理は『精』が付きますし、お祓いは早めにした方がいいですから」

 

桜はそう言ってニッコリ微笑んだ。笑顔だが、その笑顔が怖い。

お前、本当に七歳児か?

 

「いつから気づいていたんだ?」

 

「最初からです」

 

「バレバレだったのか」

 

「バレバレです。兄さんが女性ものの香水を使うはずもないですし、こんな獣臭いわけありません」

 

「な、だ、誰が獣臭い、ですって!」

 

俺の影から数十匹の蝙蝠が飛び出してきた。その蝙蝠が一箇所に集まり、人の形になったと思えば蝙蝠は飛び去っていく。蝙蝠がいた場所にはいつの間にか、黒いゴスロリの服を着た一人の少女が立っていた。

黒いフリル付きの日傘をくるくる振り回しながら。

甘ったるい香水の香りを薄く漂わせながら。

 

 

____竜悴公姫(ドラキュリア)・ヒルダ。

 

 

ルーマニアで理子を苦しませていた吸血鬼ブラドの娘で、ブラド討伐後はシャーロックに連れられて一時雲隠れし、そして今現在、何故か俺に取り憑いている魔の化生が姿を現したのだ。

これには俺だけではなく、理子も絶句している。

 

全くの偶然だが、ルーマニアから来た二人の少女が出くわしてしまったのだ。




次話で小学生編は終了します。(予定では)

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