夜空の武偵   作:トナカイさん

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Ammo07。吸血鬼と名探偵

サイド 理子

 

私は混乱していた。

今、私の前で起きたのは現実なの?

______それは数分前の出来事。

いつも通り、牢屋の中で膝を抱えて、うずくまるようにしていると、薄暗い通路を誰かが歩く足音が聞こえてきた。その足音を聞いていた私が思ったのは、『ああ、また奴らが来たのか……』というもはや諦めの境地だった。

奴らというのは、私をこんなところに幽閉した人物達……いや、アイツらは人なんかじゃない。

______吸血鬼。

お伽話のような存在が実在して、私を拘束している。

昔。

フランスで8歳まで普通に暮らしていた当時の私は、お母様が読み聞かせてくれた絵本でその存在を知った。

闇夜に生きる人外。人とは異なる怪物。

私が好きだった本ではお姫様を捉えて、牢屋に閉じ込めてしまうといった内容のものだった。

その当時はまさか、それと似たようなことが自分の身に起きるなんて、想像していなかったけど。

それが自分の身に起きた時の恐怖、絶望感。

物語の中では、囚われのお姫様を助けに、勇者様が来てくれるけど。

ここは、現実。

勇者はいない。

そんなことはわかっていた。

誰も助けに来てくれない。

期待するだけ無駄。

そんなことはわかってるのに。

なのに……。

その足音は今まで聞いていたものよりも、小さく、そして速かった。

近づいて来る貴方はいったい、誰?

 

 

 

 

 

牢の前に来たのは少年だった。

理子よりも大きな背丈、黒髪、少し赤みがかかった瞳。身体は鍛えているのか、私と違い、お肉がついていて、ガッチリした体格をしているように感じた。

顔はヨーロッパ人ではなく、アジア的な、昔、あったことがあるお父様のお友達のような顔をしていた。

刀っていう武器を腰に差しているところも似ている。

もしかして……日本人なのかな?

お母様は純粋な日本人でお父様も日本人の血が流れているから、日本語も少しは解る。

けど、目の前の人が本当に日本人なのかはわからない。

だから、最初はフランス語で会話してみようとして……その時、彼が取った行動に驚いてしまった。

な、なんと。彼は私の目の前で。

ボロ雑巾のように引きずっていた吸血鬼(ヒルダ)を足蹴りしたのだから。

だから、その行動に驚き、大声を上げてしまった私は、悪くない!

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド 昴

 

 

さて、どうやって理子に状況を説明すればいいか。

とりあえず、会えばなんとかなるとか思っていたが、ここで最大の問題が浮上した。

そう、言葉の壁である。

俺は典型的な日本人である為、日本語しかわからない。

前世の知識もあるが、語学方面の知識はからっきしだから、会話なんか不可能だ。

日常会話はもちろん、英単語すらよくわからんレベルだ。

会話が通じないというのはかなり不便だが、人間、コミュニケーションの取り方は会話だけではない。

肉体言語。つまり、ジェスチャーや読唇術とかで相手と意識の疎通が出来るはずだ!

では、さっそく。

 

『初めまして』→これをジェスチャーでやってみよう!

うーん、初めまして……とりあえず、自分の方を指差してみるか。

人差し指で自分を差しながら、理子の顔を見てみた。

 

「……」

 

「……?」

 

「……」

 

うん、そうだよね。何も言わないで自分を差す奴がいても意味がわからないよな!

じゃあ、次は……もっと簡単な方法で。

人差し指に自分の唇に向けて理子を見た。

 

「……」

 

「……!」

 

おっ、目を大きく見開いてガン見してくれた!

これならいけるか?

 

「……」

 

「……(フルフル)」

 

理子は首を横に振ってイヤイヤをした。

がーん、だな。何か嫌われるようなことしたか?

……待てよ。冷静になってみよう。

突然、目の前に現れた奴が自分の唇に人差し指を向けて見つめてきたらどう思うか?

……。

……。

……ヤッチマッタ。

これ、どう見ても怪しい不審者じゃねえか!

イヤイヤ、違うんですよ! 理子さん!

キス魔とか、怪しい人物じゃないですから!

くっ、ジェスチャーはダメだな。

アレは難易度高い。

なら、読唇術はどうだ?

よし、覚悟しろよ理子。

S◯Kで鍛えた俺の読唇術を解くとみよ!

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

……うん、なんか話そうか理子さん?

口開けてくれないと、読唇できないですよ?

くっ、俺の読唇術を初見で破るとは、さすが理子りん、恐るべし。

 

「やはり、ロリータは格が違うな……」

 

そんなことを呟いたその時だった。

 

「ねえ、ロリータってなに?」

 

理子りんが答えてくれた!

 

「え? 理子さん、君、日本語わかんの?」

 

わかるなら、もっと早く言ってくれよ!

 

 

 

そして、俺は理子にロリータについて熱く語った。

ロリータだけじゃない、スク水やバニーガールの破壊力の凄まじさとか、いろいろと。

遠回しに、ロリータは個性。ロリータは最強の思想を植え付けた。

もしかしなくても、これは『教唆術(メンタリズム)』になるのか?

いや、まさかな……。

そんなしょーもない会話をした後、本題に入る。

 

「さて、理子。俺がここに来た理由だけどな……」

 

「うん、わかってるよ」

 

「おっ、何も言ってないのに伝わるとか、流石は理子だな!」

 

「理子にバニーガールの格好させに来たんだよね?

恥ずかしいけど、昴になら……いいよ?」

 

「バッ、ち、違げよ! お、俺は別にバニーガールなんて……」

 

いかん、幼児体型な理子りんにバニーガールとか、犯罪臭が……だが、それもいい!

 

「……見たくないの?」

 

「……」

 

あ、鼻血が……。

 

 

 

 

しばらくして、鼻血が治った俺は改めて本題に入ることにした。

 

「さて、理子りん。俺がここに来た理由だけどな……」

 

「もう、バニーガールネタはいいの?」

 

「ネタとか言うな! って、それは置いといて」

 

「置くの?」

 

置かして下さい、お願いします。

 

「俺がここに来た理由……それは君を助ける為だ」

 

「……ッ、助けてくれるの?」

 

俺の答えが予想外だったのか、理子がかなり驚いた顔をしている。

くそ、こんな可愛い理子にこんな酷い仕打ちをするとか……ブラドの奴、死刑だね!

 

「ああ、他に人探しもあるんだが……まずはそこから出ようか。危ないからちょっと後ろに下がってくれ」

 

俺は理子にそう言うと、手にした木刀を頭上に掲げて。

 

「ギ◯ストラッシュ!」

 

 

雷神モードの状態を維持したまま、木刀を横に振り下ろした。

アバ◯ストラッシュと変わらないだろう、っていうツッコミはなしでな。

あくまでもなんちゃって、だからな。

鉄の冊子は、まるで豆腐のようにスパァァァアアアと斬れた。

恐るべし、ギ◯ストラッシュ!

なんて、アホなこと考えていると。

 

「……夢じゃない。夢じゃないんだ! 私は自由になれたんだ!

ありがとうー、ありがとう昴!」

 

ガシッと理子に抱きつかれた。

ちょっと苦しい。

ガリガリに痩せてるとはいえ、理子は女の子だから結構、柔らかいし。

まだ、無いとはいえ、その……当たってるしな。

いや、どことは言わんが。

そんなことを考えながら、俺は泣き叫ぶ理子の背中を優しく撫でてやるのだった。

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「うん、ごめん。もう、大丈夫!」

 

落ち着いた理子を離し、気絶したままのヒルダを起こす。

 

「ほら、さっさと起きろ。起きないと口の中にニンニク突っ込むぞ?」

 

「んにゃ〜……ニンニクは嫌ぁ……って、何してたの、私?

……っ、人間の分際で高貴なる私を引きずって走るなんて……これだから人間は」

 

「知らん。勝手に気絶したのはそっちだろうが!

それより、ほら、行くぞ。理子も後ろに隠れなくても大丈夫だから……」

 

「理子? ……お前は!」

 

ギリリ、と犬歯を剥き出しにしながらヒルダは理子を睨みつける。

仇敵にでもあったかのような、表情だが……理子、ヒルダになんかしたのか?

 

「そんなに睨むな! 理子が怖がるだろうが……頼むから喧嘩はしないでくれよ?」

 

「……誰のせいだと思ってるのかしら?」

 

「ぐすっ……昴〜〜〜やっぱ恐いよー」

 

うーん、この2人の仲の悪さ、なんとかならないかなー?

原作通りなら、ヒルダの命を理子が救うことで和解するのだが……今の状況だと、それは難しいし。

うーむ。

 

「まあ、時が解決するか。もしくは、逸般人な金ちゃん様に丸投げだ!」

 

誰にも聞こえないくらいの大きさで呟いた俺は、ヒルダにもう一人の少女がいる方へ、案内をさせる。

 

「着いたわ。ここよ。この特別飼育室の中にその雌犬はいるわ」

 

「人間を家畜扱いするのは止めろ。高貴なる吸血鬼(笑)さんよ!」

 

「誰が吸血鬼(笑)よ!」

 

おお! すっかりツッコミが板に付いてきたな。将来的にお笑い吸血鬼にジョブチェンジできるなー。

よかったな、ヒルダ。ツッコミマスターになれるぞ。

 

「なんか、馬鹿にされてるような気がするわね」

 

「気のせいだ、気のせい……」

 

さて、そんなことより。依頼の完了が先だ。

そう、思った俺は特別飼育室の中に足を踏み入れた。

 

「ッ______ブラドォォォ!!!」

 

そして……そこで見た光景により、俺は改めてブラドを殴る決意を固めるのだった。

 

 

 

サイド 綴

 

「チッ、ここにもいないやなぁ」

 

「ええ。でも、おかしいわね。

あれだけ、暴れたのにさっきの人形以外に誰も出てこないわ。これはひょっとしたら……罠、もしくはガセネタだったのかしら?」

 

先ほどまで、私達の前に、武装した人形が襲ってきていた。

欧米の一部の国々でオートマタと呼ばれるそれは近年、欧米や米国などの先進国で開発中のヒューマノイド。

人型ロボット。

こんな科学後進国のルーマニアで見られるなんて、予想外だったけど。

しかし、蘭豹と私の敵ではなかった。

確かに苦戦したけど、動きが機械的で、パターンさえ解れば倒すのも簡単だったからな。

だけど、機械的な動きはしたけど……見た感じただの人形だったのよね。

人形が意思を持つように動き回るなんて、可能なのか?

もしかしたら、私が知るロボットとは違う原理……SSRの領域に踏み込んだのかもしれないわね。

そんなことを思っていると突然、大広間の扉が開け放たれて、そこから一人の人間……いや怪物が入ってきた。

 

「グゲゲゲ……まさか、俺様が寝ている間にドブ鼠が3匹も侵入してきたとはな……」

 

顔は犬、いや狼……変身した人狼に近い。

図体はデカく、鋭い牙、鋭い爪を持った正真正銘の化け物。

吸血鬼・ブラドが目の前に現れた。

 

「お前が『無限罪のブラド』やな?」

 

「やっと見つけた。攫った子供達はどこだ?」

 

蘭豹と私は問いかけるがブラドはそんな私達をゴミ扱いし、あたかも上から目線で見下した態度をとる。

 

「鼠が騒がしい……踏み潰してくれるは……」

 

こうして、私と蘭豹は『無原罪のブラド』に挑むことになった。

私達は武偵としてこれまで数多くの組織、人間と戦りあってきたから、ブラドにも勝てる自信があった。

蘭豹は香港で恐れられたマフィアの娘として、その人脈と筋肉を武器に、私は拷問紛いの尋問を武器に。

しかし、そんな私達でも目の前に佇む怪物、吸血鬼(ブラド)には歯がたたなかった。

戦闘開始から10分後。

 

「くっ……不味いで、何度傷つけても再生可能とかチートすぎやろ……」

 

「かっは……確かに絶対絶命ね。遺書でも書いとく?」

 

「あほか。まだまだ、余裕やわ……」

 

満身創痍ながらも笑顔で答える蘭豹。

私はそんな相方(蘭豹)を見て同じく微笑み、化け物……ブラドに、残った力を全てぶつけてやる!

そう思って、蘭豹と共にブラドに向かって駆け出した。

私達の意地、武偵としての『誇り』にかけて、ブラドに一撃入れてやる!

そういった決意を胸に秘めてブラドに近づく私と蘭豹。

と、その時、4発の銃声が鳴り響き、ブラドがその巨大を大きく揺らし、今にも倒れそうになっていた。

 

……?

ブラドに駆け寄るとブラドの体にある目玉模様のど真ん中に弾丸が命中して風穴が開いているのが見えた。

 

「はっ? 何がおこったんだ!?」

 

二人して今起きたことに戸惑いを感じていると大広間の扉の前に一人の少年が銃を構えてたっているのが見えた。

ああ、やっと来たのね。

来るのが遅いのよ……。

 

『『______待ってたわ、昴!』』

 

サイド 昴

 

地下路から地上に出て城内に浸入すると、奥から銃声が聞こえた。

音が聞こえた方に走って向かうと、そこには大きな扉があり、内部からは人の気配や、争う音。

それに、人体の、筋肉が動く音が聞こえてきた。

扉をそっと開けると、そこにはいかにも満身創痍といった状態の蘭豹と綴がブラドに向かって駆け出していた。

 

(オイオイ、無駄死にする気か……仕方ない。

本来なら目撃者なしで倒したかったんだが……)

 

俺はホルスターから右手にデザートイーグル、左手にファイブセブンをそれぞれ抜き、ブラドに向けて発砲した。ブラドを倒すには、ヒルダと同じように体のどこかにある4箇所の魔臓を同時に破壊すればいい!

ヒルダと違い、3つの魔臓の位置は目で確認しやすいしな。

では4発同時に弾を当てるにはどうすればいいか?

そんなの簡単だ!

まずは、普通に1発ずつ発砲し、即座に第二射を……ガンダールヴの反射神経を便りに速撃ちをすればいい。

不可視の銃撃(インヴィジビレ)』……原作において、カナ、遠山金一の得意技の一つ。

本来なら、シングルアクションリボルバーで放たなければ真の速撃ちではないが原作知識を便りに使った。

もちろん、これだけではなく銃弾撃ち(ビリヤード)を併用させ4発の弾丸をブラドの弱点である左肩、右肩、右腹脇……そして、僅かに開いた口の中の舌。そこにある目玉模様に叩きこんだ。

そして、苦痛の雄叫びを上げるブラドにガンダールヴの速度で近づいて、俺は拳を握り締め、振り上げる!

 

「______歯ぁ、食いしばれよ、吸血鬼(最強)

俺の筋肉(最強)はちっとばっか、響くぞ!」

 

そう言って、切れかかっていた雷神モードの出力を全て出しきって、素手でブラドの顔面を殴りつけた!

ドゴォォォォォ!

と、轟音が炸裂し、ブラドは倒れる。

蘭豹達を見ると唖然とした表情で俺を見ていた。

 

(説明どうするかな……)

 

よし、蘭豹達への説明は後回しにして、さっさとブラドを縛るか。

そう思ってブラドに近づいたのだが……。

俺はこの時、完全に油断していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー バシュー!

 

 

「え?何だ? 左肩が……痛い……なんだ、これ?」

 

「見させてもらったよ……昴君」

 

突然、大広間に男の声が響き渡る。

そして、その男は語り始める。

 

「はじめまして……というべきかな?」

 

コツコツと、床の大理石に足音を響かせて、近づいてくる。

 

「僕の名は……「シャーロック・ホームズ……なぜ『今』あらわれた?」……なぜ僕のことを知っているんだぃ?」

 

シャーロックの言葉を遮るように、話した俺の前に立つのは。

その瞼に閉じた瞳を見開きながらも質問をする男……もとい、イギリスの英雄にして世界最高&最強の名探偵。教科書にも載っているほどの偉人。

その歴史上の偉人が床に倒れた俺を見下すように見つめていた。

そう。俺達の前に。

シャーロック・ホームズが現れたのだ。


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