ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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【UA100000突破記念】“幸せになろう”

 

 

ex 5話 “幸せになろう”

 

 

「昼ご飯は食ってきた?」

「んーん。朝からなんも」

「そっか。じゃあ、先に食べよっか」

「そーやね」

 

 なんてことない日常会話。

 極めて問題ないように見えるが俺の思考はパニック状態。

 

(昼飯!サトシと翔太はなんて言ってた!?クソっ、思い出せない……!!)

 

 動揺を悟られぬよう、俺は努めて普段通りに希の少し後ろを歩いている。

 すると突然、希は立ち止まって俺を振り返った。

 

「ひえっ!?」

「え……何よその反応」

「あ、あぁ違う!なんでもないんだ!!」

「優真くん……?」

「そ、それよりどうしたいきなり振り返って!」

「……何で隣歩いてくれへんの?」

「え……」

 

 希はむうっ、とわざとらしく頬を膨らませ、不機嫌さを露骨に俺にアピールする。

 

「なーんか距離感じるなぁ」

「あ……ごめん、気遣い足んなくて」

「なんか隣歩きたくない理由でもあるん?」

「いや、全然!全く!」

 

 そういうや否や俺はピタッと希の隣に立つ。俺と希の腕が触れ合うほど。

 

「い、いきなり近いよ優真くん……」

「わ、ご、ごめん!!」

 

 顔を赤くして顔を背けた希を見て、俺は即座に謝り、一歩距離を置いた。今日俺希に謝ってばっかだ。

 

「……まぁでも」

「へ……」

 

 すると希は一歩開けた俺との距離をぴょんっと飛んで一気に縮め、再び腕を触れ合わせた。

 

 

 

「────こっちの方が、恋人らしいやん?」

 

 

 

 ───ナンダコイツ、カワイスギカ。

 

 口からこぼれかけた言葉を、すんでのところで飲み込む。んふふ、と満足げな笑顔で放たれた言葉は俺にクリティカルヒット、顔は一瞬で沸騰状態。

 

「あ、優真くん顔真っ赤やーん」

「う、うるせぇよ……ほら行くぞ?」

「はーい♪」

 

 これ以上失態を晒すわけには行かぬ。

 先程から希にリードを引かれっぱなしだ。

 こんなに動揺しておいてあれだが、少しだけ悔しい。

 

 挽回のチャンスを狙うべく、俺は希と共に歩き出した。

 

 

 ……昼飯どうしよう。

 

 

 

 

 

 

「この中から選ぶ?」

「そうだな」

 

 駅から歩き辿り着いたのは、飲食店が立ち並ぶ通り。時刻は12時半を周り、短針は1に限りなく近づいている。少しはピークも過ぎ去っているだろう。

 

「結構あるなぁ……どこがいい?」

「んーウチは……あ、ここ!」

 

 そう言った希が指差したのは──

 

「……焼肉?」

「うん!ここって美味しいって有名なんよ!」

「……ここでいいの?」

「え、なんで?」

 

 素っ頓狂な反応をしてしまった俺を、希が不思議そうに覗き見る。

 

「いや、もっとオシャレなとことか、そういうのは……」

「んー??」

 

 俺の言葉の意味がわからないというように、希は首を傾げる。

 ややあって合点が行ったかのように、『あぁ』と声を漏らすと、希は俺に笑いかけた。

 

「優真くん、デートやからって別に深く考えすぎんでもええんよ?」

「えっ、いや、そんな俺は別につもりじゃ」

「さっきからなーんか様子おかしいなぁと思っとったんよ……そういうことやったんやね。

……キミがウチに嘘つけるわけ、ないやん?」

 

 た、確かに……。

 もはや誤魔化すことはできないだろう。

 確信を持って問いかける希に俺は頷きを返す。

 

「ありがとね、ウチのために色々考えてくれて。でも、いいんよ、そんなに深く考えなくて」

「え……?」

「ウチはね、優真くんがデートに誘ってくれて嬉しかった。優真くんと行く所なら、どんなとこでも楽しいんよ。だからウチは、ウチが行きたい所に優真くんと行きたいし、優真くんの行きたい所にウチも付いて行きたい。ダメ?」

 

 希の言葉に、思わず目を見開く。

 

 

 そっか。

 

 

 色々考えていたのが、馬鹿らしくなった。

 希が欲しかったのは、“特別な当たり前”。

 いつもと何も変わらないようで少しだけ違う、デートという名がついたそれを、希は求めていたんだ。

 だったら俺は何も着飾らず、いつも通りに彼女との時間を過ごす。希はこれを一番喜んでくれるはず。

 

「悪い……色々考えてきたけど、無駄だったかもな」

 

 全部忘れたけど、とは言わない。

 

「んーん、ウチのためにキミが色々考えてきてくれたのは凄く嬉しいよ?」

「そっか。よし、じゃあ焼肉食うか!」

「うんっ!」

 

 

 

 

 

「わぁ、学校の近くにこんなとこがあったんや!」

「あぁ。昔何回か凛達と来たことがあったんだ」

 

 あれから色々なところを回って地元へと戻り、たどり着いたのは、音ノ木坂から程なく歩いたところにある、街からほんの少し上にある展望公園。

 地元民でも知る人は少ないマイナーなこの公園は、俺の知る数少ない穴場と呼べる場所だった。

 

「一日中人混みの中歩き回ってたから、こういう静かな所もいいかなって」

「うん!少しゆっくりしたかったし、丁度ええ場所やね!」

 

 よかった、ハズさなかったみたいだ。

 希は笑いながら今にも沈む夕日を眺めている。

 その笑顔は普段μ’sの皆に見せる大人びた笑みとは違い、打って変わって子どものような、満足げなもので。

 そう、正に俺が惚れた、“希”の笑顔だった。

 

 それを意識した途端、再び鼓動は高鳴り出す。

 以前なら、笑顔を見たところで何ともなかったのに……恋心とは如何せん不思議なものだと改めて痛感した。

 

「ウチは……幸せ者やなぁ」

 

 ふと、希が溢す。

 

「いきなりどうしたよ」

「んーん。5年前、この場所からウチは居なくなった。大切な、大切な2つの宝物を残して」

 

 “2つの宝物”。

 1つが俺だとするならば──もう1つは、“紬”だろうか。

 

 紬は俺と希が2人でこっそりと空き工場で飼っていた犬で、俺たちを繋ぐ大切な絆だった。俺と結ばれて尚、希の5年前に俺と紬を残して消えてしまったことは、消えないしこりとなって胸の中に残り続けているようだ。

 

「帰ってきたウチに、この街は忘れていた宝物の1つと……もっとたくさんの宝物をウチにくれた」

 

 希が言っているのは、間違いなくμ'sのことだ。

 穂乃果たちが発端で始まったスクールアイドル活動。そこから孤独という仮面で縛られていた少女たちを紡ぎ、1つの奇跡を創り出すことを願ったのが、女神達の母である希だ。

 俺は希の願いの元、皆を孤独から救い出し、μ'sを結成するために尽力した。

 結果、彼女達と夢を目指して駆け抜けた日々は、確かな思い出となり、かけがえのないものとなった。それは俺だけでなく、μ'sみんなの思い出でもある。その中でも特に希は、この奇跡を望み続けた。故にその喜びや、μ'sにかける思いも一入だろう。

 

「でも神様は、ウチがずっとずっと欲しかったもの……“優真くん”まで私にくれた。幸せすぎて、バチが当たっちゃいそう」

 

 えへへ、と笑う希を見て、俺の鼓動は更に早まる。コイツ狙ってるんじゃなかろうかと思うものの、今の笑顔にそんな打算は感じられなかった。

 

「……いいじゃんか、幸せになったってさ。今までお前が受けてきた苦労を考えたら」

「そう?」

「そうだよ。お前が今俺と一緒に居られて幸せなら……もっと幸せと思えるように頑張らなきゃな」

「違うやん?」

「えっ?」

 

 

 

「──2()()()()()()、なるんやろ?」

 

 

「……そうだったな」

「うん♪」

 

 相手を幸せにするのではなく、2人で幸せに。

 それがあの時俺が希に誓った、俺達のあり方。

 

「ねぇ、優真くんはウチと一緒で幸せ?」

「当たり前のこと聞くなよ」

「ほんとにー?」

「本当だって」

「怪しいなぁ〜〜」

「疑ってるのか?」

「んーん。でも、証拠が欲しいなぁ〜とか、ね♪」

 

 証拠、か。

 恋愛下手検定一級の俺の頭に考えつくのは、頭を撫でるという行為。しかしそれはきっと不正解……常日頃俺のやってることと何も変わりはしない。

 だとしたら思いつく行為は──1つしかない。

 でも、“ソレ”はいくらなんでも、突飛すぎやしないだろうか。

 君は俺が出した答え(ソレ)を──望んでいるのか?

 

 希は先程とは違う、意味深な笑顔を俺に向けている。表情から答えを知ることは難しい。

 

 

 

 俺自身の心の問い。

 その問いかけに、俺は何度も間違えてきた。

 

 希との再会の時。

 希が発作を起こして倒れた後。

 ことりの留学騒動の時。

 希が再び俺の前から消えようとした時。

 

 俺はいつも選択を間違えて、その度に誰かを傷つけて、そしてその後の行いでその間違いを挽回してきた。

 今回も、間違いなのだろうか。

 今回も、彼女を傷つけるのだろうか。

 

 

 ──でも、間違いを重ね続けた俺は知っている

 

 その失敗は、“恐れ”と“諦め”が呼ぶのだと

 

 俺自身の、心の弱さが呼ぶのだと

 

 

 だったら俺は、逃げたくない。

 否、逃げるわけにはいかない。

 それが向き合うということだから。

 大切な友人が教えてくれた、俺のこれからの生き方の道標(みちしるべ)だから。

 

 

「……なーんてね、じょーだんじょーだん!優真くん本気にしな──」

 

 

 静寂が、2人を包む。

 風が木々を揺らす音が、やけに大きく聞こえる。

 

 

 

 言葉を紡ごうとした希の唇は

 

 

 俺の“ソレ()”で、塞がれて。

 

 

 

 

 

 数秒も経たない内に終わりを迎えたその時間は、何をされたか理解した希が顔を真っ赤にして驚きの表情を浮かべる──前に自分のしたことの恥ずかしさに限界を迎えた俺が声を上げることで現実の時と歩みを共にし始めた。

 

「ご、ごごごごご、ごめん希!!ほんと、いきなりこんな……」

「……………………て」

「え……?」

 

 

 

「──して、もう一回。もっと、ちゃんと」

 

 

 潤んだ瞳、上気した頬

 

 恥じらう表情、震える声

 

 その全てが、俺に訴えかけてくる

 

 そして俺は、今度こそ、優しく

 

 

 

 ──希に、口付けた

 

 

 伝わるように

 

 唇の感触が、俺の鼓動の高鳴りが

 

 俺の、君への溢れんばかりの、気持ち(幸せ)

 

 

 

 先程の何倍もの時間を経て、俺はゆっくりと唇を離した。

 再び俺たちを包む沈黙。その中で先に口を開いたのは希だった。

 

「……頭に、手がくるかなって思ってた」

「……俺もそう考えたけど、それだといつもと変わんないだろ?」

「やとしても、き、キスよりも前にもうワンステップあったやろ……?は、ハグとか……」

「……あっ、た、たしかに」

 

 俺から目をそらしてもじもじとする希に対して、忙しなく体を動かし続けてソワソワとする俺。そんな2人の、ぎこちない会話は続く。

 

「そ、それに初デートにキスって……良く思わない女の子もおるんやからね?」

「えっ、マジ!?」

「そうよー?まったく優真くんはせっかちなんやから」

 

 ……やらかした。

 今の希の一言で俺の心は完全にノックダウン。

 また、間違えてしまった。俺は何度、間違えれば気が済むのだろ───

 

「でも」

 

 

 

 今度は俺が、不意打ちされる番だった。

 

 

「──120点の回答やったよ、優真くん♪」

 

 

 1度目のように一瞬だったが、それでも希は確かに、俺と唇を重ねた。

 そして彼女は声高に叫ぶ。

 

 

 

「──大好き!キミと一緒に居られて、ウチはほんっとうに幸せ!」

 

 

 そして希は笑う。その笑顔に、俺は確かに“中学校の頃の希”の面影を見た。

 

 

 あぁ、やっと動き出したんだ。

 5年前(中学時代)に止まった、俺達の時は。

 

 過去の歯車に、今の歯車が重なってやっと、やっと回り出したんだ。

 

 そう、思えた。

 

 

 

 




約5ヶ月、お待たせいたしました。
筆が難航したのは、現実の忙しさもありますが、希と優真のデートシーンを、どうしてもうまく表現できている気がしなかったからです。
構想はありました。ラストのシーンをこう締めようというイメージもありました。しかし過程がどうにもうまく書けず、結局放置に近い形になってしまいました。お待ちしていていた方には本当に申し訳ありません。

さて、番外編も残り2話です!
ほぼ書きあがって居るので近日中に投稿します!

今回もありがとうございました!
感想評価アドバイスお気に入り等お待ちしております!

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