ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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【UA100000突破記念】ツナガル、君と私

ex4話 ツナガル、君と私

 

 

 

 あんな下手な嘘、一瞬で見抜かれるだろうな。

 そんなことを考えながら私、東條希は行くあてもなく旅館内をさまよっていた。

 勢いよく抜け出しただけに、すぐにあそこに戻るのは恥ずかしい。また格好の的になりかねない。

 

 時間と共に、沸騰寸前だった思考回路も冷静さが戻り、先程より少しは客観的に自分を見ることができるようになった。思った以上に私は“その手の”からかいに弱い。耐性は人それぞれだとしても、これは余りにも弱すぎなんじゃ。

 

 そんなことを考えていた私は、ある場所へと辿り着き──

 

 

「あれ……優真くん?」

 

 

 彼に、出会った。

 

 

「ん、希。どうした?こんな時間に」

 

 私の呼びかけにソファーにもたれていた首だけを振り返り、笑顔とともに彼は私に問いかけた。

 

「優真くんこそ。どうしてこんなところにおるん?」

「……部屋の中で爆音のスピーカーが鳴ってるからうるさくて逃げて来た」

「へ?」

「……サトシだよ」

「あぁ……それは災難やね」

 

 察した。声色や表情を窺う限り、本当にうるさかったんだろう……悟志くんのスピーカー(いびき)が。

 

「希こそ。どうしてここに?」

「ウチ?ウチもだいたいキミと同じ感じ」

「スピーカー鳴ってんの?穂乃果?」

「違う、そうやない」

 

 しれっと穂乃果ちゃんに失礼。

 

「えりちとにこっちと起きとったんやけど、抜けてきた」

「え、なんで?ケンカ?」

「んー、何というか、居心地悪くて……あ、優真くんが心配するようなことは何もないから大丈夫や」

「ふーん……それならいいけどさ。なんか悩んでるなら言いなよ?」

 

 優真くんはそれ以上追求して来なかった。

 昔から変わらない、相手の触れられたくない所には触れない私たちの暗黙のルール。

 それは少しだけ距離が変わった今も同じ。

 

「ま、俺は」

 

 と前置いた優真くんが立ち上がり、私の目の前へ。

 

 そして優しい掌が、私の頭上に乗せられる。

 

 

「───キミが笑ってくれるなら、それでいいんだけど」

 

 

 

「っ〜〜!!」

 

 笑顔とともに告げられた言葉で、私の顔は先程えりちとにこっちにからかわれた時のように真っ赤になる。恥ずかしさと嬉しさが入り混じった感情が込み上がり、身体中が火照って熱を持ったと錯覚するくらいに熱い。

 

 

 ───でも。

 

 

 恥ずかしくてたまらないのに、不思議と彼から目が離せない。

 

 

 その眼差しで、もっと見て欲しいと思った。

 

 その笑顔を、もっと見ていたいと思った。

 

 頭に乗せた手で、撫でて欲しいと思った。

 

 

 

 様々な感情が入り混じって、私の赤く染まった心を揺らす。

 今自覚したこの感情は、きっとたった今生まれたものじゃない。ずっと昔から私の中にあって、誰にも……私自身にも気付かれぬよう、心の奥底で錠をかけて大切にしまっていたこの感情は。

 

 

 ───恋人(コイビト)という(カギ)で、開かれた。

 

 

 抑えていた感情は、溢れ出して止まらない。

 

 

 

 もっとキミに近づきたい。

 

 もっとキミに触れられたい。

 

 もっとキミを───知りたい。

 

 

 

 この想いに、素直に。

 見えない何かが、私の背中を押した。

 

 

「っ!」

「わっ…ちょ、希っ!?」

 

 

 そして私は、優真くんの胸に飛びついた。

 そのまま彼の体の背に手を回し、少しだけ強く体を抱き寄せる。

 

「の、のの、のぞ、希……?」

「……ねぇ、優真くん」

 

 そしてその言葉が、口から滑り出た。

 

 

 

 

「─────デート、しよ?」

 

 

 

 

「っ─────!!」

「………………っ!?」

 

 

 わ、私……今、なにを……!?

 

 ふと冷静に戻り、自分の今の状態の大胆さに気づく。

 顔はほんの数センチしか離れておらず、自分の胸と優真くんの胸は密着状態。

 優真くんの体は燃えるように熱くて……否、これはきっと自分の熱を彼の体を通して再確認させられてるだけ。

 

 そこまで考えたところで私は優真くんの後ろで結んでいた手を解き、バッと素早く彼の体から離れた。

 

「ごめんっ!!わた……ウチっ」

「違う…!」

「……ぇっ」

 

 謝ろうとした私を、優真くんが大声で制した。

 

「優真、くん……?」

「違う、違う……お前が謝る必要なんてない」

 

 苦しそうな顔を浮かべ、優真くんはその言葉を絞り出した。

 

「その、俺、お前と付き合えたことだけで満足してて……お前の気持ち、考えてなかった」

 

 優真くんが、本当に申し訳なさそうな表情で俯く。私の言葉に、何か思うことがあったのかな。

 

「……俺は希との『これまで』ばっか考えて、今の現状に満足してた。でも今、本当に俺が考えなくちゃいけないのは……お前との、『これから』だよな。“2人で幸せになる”なんて言いながら、俺はこんなに当たり前で大切なこと、さっきのを聞くまで気づけなかった……ごめんな」

 

 さっきの申し訳なさそうな表情のまま、彼は笑う。

私のバカみたいな発言に、『何言ってんだ』と、怒ることもなく。『面倒臭いやつだ』とため息を吐くこともなく。

 

 その事実に、死ぬほど安堵している自分に気づいたとき。

 

 

 ───あぁ、そっか。

 

 

 女が誘うのはちょっと違う。

 優真くんから言ってきて欲しい。

 

 

 こんなこと、本当はどうでもよかったんだ。

 

 そう、私は。

 

 

 ───嫌われるのが、怖かっただけ。

 

 

 『これまで』に囚われていたのは、優真くんだけじゃない。これまで私は……私達は、ずっと相手の心情を窺ってきた。

 本心を隠して触れ合って来た時間(高校一年生からの二年間)があまりにも長すぎて、気付けば自分の感情を伝える言葉より、相手の心情を汲んだ言葉をかけることが多くなっていって。

 本音を伝えることが、怖くなっていった。

 

 

 

 

 好きになればなるほど、嫌われることが怖くて

 

 相手のことを思えば思うほど、自分の本音に臆病になって

 

 

 ───そんな日々に慣れていたから。

 

 

 

「……ぅっ、うぅ…」

「え、ちょ、の、希!?」

 

 私の思いがきちんと伝わって。

 

「……ぇん、んっ…ぐすっ」

「まて、お前、なんで」

 

 キミがその思いに本音を返してくれたことが。

 

「……ぅわぁぁ、ん…」

 

 

 

 ──本当に、たまらなく嬉しくて。

 

 

 

「なんで……なんで希が泣くんだよ」

「ぐすっ……ごめん、何でも、ないんよ」

「いや、でも……あぁもう、泣くな泣くな」

 

 いきなり泣き出した私に驚いたようで、焦ったように早口にまくし立てながらも、彼は優しく私の頭を撫でる。

 

「……ごめんな、何も気づいてやれなくて」

「ううん……キミは何も悪くないよ」

「……なぁ希、こんなバカな俺だけど、君が俺を許してくれるなら」

 

 そして彼が笑う。いつもの様に、優しく。

 

 

「今度俺と───────」

 

 

 

 

「あぁ、帰って来たわね希……って!どうしたのよアンタ!」

 

 部屋に戻るなり、私にかけられたにこっちの大声。えりちはもう寝てしまったみたい。

 

「え……なんが?」

「目よ目!真っ赤じゃない!」

「あぁ……さっきコケたんよ」

「わかりやすい嘘吐くんじゃないわよ!まさか優真と何かあったんじゃ」

「大丈夫や、にこっち」

 

 本気で心配するにこっちをよそに、私は笑う。

 そんな私の笑顔を見て、にこっちは一瞬きょとんとした顔を見せたものの、ややあって安心したように笑った。

 

「……何よ、心配してソンした。

 

────何か“イイコト”、あったみたいね」

 

「ふふふ、どーやろね」

 

 ニヤニヤしながら私に言うにこっちを、私は至って普通にあしらう。もうその手の話題で弄られてなんかやるもんか。

 

 そんな私の反応に、面白くなさそうにため息を吐いたにこっちを背に、私は布団へと潜り込んだ。

 

 

 

 とってもイイコトだったよ、にこっち。

 

 

 心の中でそっと呟き、私は抑えきれない笑みを隠すように、枕の中に顔をうずめた。

 




ってなわけで、旅行編終了です!
元々優真と希のこのやり取りを挟むためのストーリーでした。
じゃあなんで旅行編にしたかって?サトシのあの話を書きたかったからです←
本来は前回と今回は1つの話として投稿する予定だったので今回は短めです。
感想を書いてくださっている方、本当にありがとうございます!
必ず返信しますのでもう少々お待ちを…


さて、次回はもちろん……?

今回もありがとうございました!
感想評価アドバイスお気に入り等お待ちしております!

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