完結から約半年、新章を引っさげて『背中合わせの2人』が帰ってまいりました!
早速ですが本編をどうぞ!
【UA100000突破記念】行こうよ!!温泉旅行!!
ex1話 行こうよ!!温泉旅行!!
「見えたーー!!!!」
「ついたにゃーーー!!!!」
「お前ら、うるせぇ!!」
8月某日。夏休みも終盤に差し掛かった時期。
この時期は冬にきたる受験に向けて基礎を固め、秋への飛躍に向けての下積みを行う時期であり、もちろんそれは高校三年生の俺……
ないのだが……
「あぁ凛ちゃん待ってぇー!!」
「穂乃果、凛、花陽!あまりはしゃがないでくださいみっともない!」
「まぁまぁ海未ちゃん落ち着いて……」
そんな勉強尽くしの日々の合間を縫い、俺は一泊二日の旅行に来ていた。
賑やかな同行人達と共に。
「ふぅ……バスって疲れるのね」
「真姫……アンタバス乗ったことないの?」
「さすがはお嬢様ね……」
その同行人とはもちろん、俺の大切な仲間であるμ'sの皆。というか、旅行の発案者がいま真っ先に旅館目掛けて駆け出して行った我らがリーダー、
「……うぷっ……吐く……もう無理……」
「悟志くん……乗り物弱かったんやな」
「じ、自分が運転しないと……酔う……」
そして今にも
ポケ◯ンのゴー◯キーみたいな見た目のコイツはその見た目に反して弱点が非常に多い。“乗り物酔い”もサトシの数多い弱点の1つである。
「優兄ィも早くおいでよー!」
「り、凛ちゃん大声出したら迷惑だよ!!」
穂乃果と共に駆け出し、誰よりも早く自動ドアの前に辿り着き俺の名前を呼びながら手を振るのは俺の大切な幼なじみ、
「……ったく…」
「優真先輩、どうしてあの3人から目を離したのですか!」
「俺が悪いっていうのかよ!?海未!どっちかっていうとお前の仕事だろ!」」
「2人とも、みっともないよっ?」
俺に責任転嫁してきたのは、
そんな俺たちの間に割り込んできたのが
「ほらアンタ達、そんなとこに突っ立ってないで早く行くわよ」
「そう言いながらにこ、貴女も早く旅館の中ではしゃぎたいんじゃないの?」
「なっ……!そ、そんなわけないでしょ絵里っ!この私がたかが旅館ごときで喜ぶわけが」
そう言いながらも、
そんなにこを見ながらクスクスと笑っているのは、
「はぁ……んじゃま、俺たちもいこうか」
俺の声と共に残りの皆も歩き出した。
▼
「西木野様ですね?お待ちしておりました」
「え…あぁ、はぁ」
ロビーへとたどり着くと、女将さんと思わしき人に話しかけられてあたふたしている3人の姿が。
「どうした?穂乃果」
「あ、優真先輩……」
「ようこそいらっしゃいました。長旅の疲れもあるでしょう、早速お部屋の方へご案内致しますので」
「あ、あの!どうして私達が“西木野”ってわかったんですか……?」
穂乃果の疑問に、女将さんは笑顔で答えた。
「ご冗談を……今晩この旅館に来館される方々は、西木野様一行以外にはいらっしゃいませんよ?そういうお話でしたので」
「はい??」
女将さんの言葉に、俺を含めμ'sの皆の顔はキョトンとしたものになる。
……ある1人をを除き。
「……なぁ、真姫」
「ん?何?」
「この旅館予約してくれたのはお前だよな?」
「ええそうよ」
「どんな風に?」
「え?えーっと……────」
『……はい、お電話ありがとうございます』
『あ、あの、と、泊まりたい、んです、けど』
『え?』
『ご、ご宿泊を、したいんです』
「お前たどたどしすぎだろ」
「し、仕方ないじゃない!慣れてなかったんだから!!」
『あ、ご宿泊の予約でございますね。かしこまりました。何名様でのご利用でございますか?』
『あ、11人です。1泊2日でお願いします』
『かしこまりました。11名様ですので、お部屋は3つでお取りしてよろしいでしょうか?』
『へ?お部屋?』
『えっ?」
「別に聞き返すところじゃなくないかにゃ?」
「うるさいわね!慣れてなかったって言ってるじゃない!」
「慣れてる慣れてないの話じゃないと思うけど……」
『あの、私達、そちらの旅館に、泊まるんです』
『は、はぁ』
『だから、借りさせてください』
『か、かしこまりました。ですから、何部屋』
『───この旅館丸ごと』
「待て待て待て待て!!」
「? どこかおかしかったかしら」
「そこだよ!!旅館丸ごとのところ!!」
「え?だって泊まるんでしょ?旅館借りないでどうするのよ」
「違う真姫、部屋だ、宿泊予約をするのは旅館ごとじゃない、部屋単位だ!!」
「っ─────!?」
「そんな深刻そうな顔して驚く!?一般常識だぞ!?」
その場に崩折れんばかりの勢いの表情で彼女……
『知らなかったわ……』と小声で呟くあたり本当に悪気はなかったのだろう。
しかし真姫がここまでお嬢様とは……真姫なら旅行とか慣れてるかなって思って頼んだんだけどそういえばそうだね、普通に考えて旅館じゃなくて別荘行くよね。確実に俺の人選ミスですごめんなさい。
「っていうか、よく旅館ごと借りられたな……」
「『西木野』って名字を伝えたら快諾してくれたわ。なんでもここの旅館、たまたまウチと少しだけ関係があるらしくて」
「お、お金は?」
「元々みんなが立ててたプランのままで問題ないわ」
その瞬間真姫以外の皆がほっと胸を撫で下ろした。やはり皆そこが心配だったようだ。
「みんな……ごめんなさい。私のミスでこんなことに」
真姫が申し訳なさそうに俯き、彼女の紫水色の瞳が陰る。
そんな彼女に声をかけたのは───
「大丈夫よ、真姫ちゃん!」
「……希」
「別に損したわけやないし、それにこんなに素敵な旅館をウチらだけで使えるんやから!ねっ、みんな!」
「そうだよ真姫ちゃん!貸切だよ、貸切!」
「テンション上がるにゃー!」
「みんな……」
みんなからの声を受けて、真姫は少しだけ笑った。
暗いムードになりかけていたが、真姫の笑顔によってそれは見事に払拭される。
流石、の一言。
こんな芸当、彼女にしかできない。
その彼女というのが─────
「─────“優真くん”もそう思うやろ?」
「……あぁ。そうだな、“希”」
そして彼女は文字通り────
「なーにいちゃついてんのよバカップルが」
「なっ……!い、今のは別にそんなんじゃねぇだろ」
「あー、優真先輩顔真っ赤だ!」
「はぁッ!?」
「うっそ〜〜〜!!」
「……穂乃果、張っ倒す」
「わ、冗談冗談!!ごめんなさぁーーい!!」
───彼女は文字通り、“彼女”なのだ。
5年前、俺は希と出逢った。
俺たちは互いに惹かれあい、その淡い恋心を抱きながらもそれを伝えることもないまま、離れることになった───周囲の歪んだ悪意に阻まれて。
そして2年前の4月。高校入学時にこっちに帰ってきた希と俺は再会した。
離れた後でも同じ思いを抱えていた俺たちは
───互いの気持ちに、嘘を吐いた。
彼女は、俺のために。
俺もまた、俺のために。
そんな想いは紆余曲折を経て、つい先月結ばれた。本当は紆余曲折なんて言葉じゃ済まされないほど色々あったのだが、それを振り返るのは、またいつか。
「……ほら、女将さん待たせてんだろ、行くぞみんな」
「よーしそれじゃみんな!!せっかくの貸切の旅館、目一杯楽しむわよ!!」
『おー』
「ぬゎんでにこの時にはいつも反応薄いのよッ!!」
「いつも通りだろ」
「みんな、いこーう!!」
『おーっ!!』
「ちょっとぉッ!待ちなさぁぁぁあい!!」
「……ホント、いつも通りだな」
でも。
そんな“いつも通り”に嬉しさを感じた俺は、少しだけ溢れた微笑みを隠して、皆の後を追いかけた。
今から紡がれるのは、“俺たちの奇跡”のひと夏の思い出。
───“背中合わせの2人”が向き合ってから
そんなお話。
というわけで新章、【背中合わせの2人が向き合ってから】です。
時間軸的には1期と2期を繋ぐ、1.5期のようなものとなっております。
温泉旅行編に加えてあと2つ、オリジナルのストーリーを用意しています!どうぞお楽しみに!
同時投稿されました『キセキの星』もよろしくお願いします!
それでは今回もありがとうございました!
感想評価アドバイスお気に入りなどお待ちしております!