ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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前回とは打って変わって少々真面目なお話です。
誰の心がモヤモヤしてるのでしょうか…!


【Days.1-3】モヤモヤ心の中

39話 【Days.1-3】モヤモヤ心の中

 

 

 

「あー酷い目にあった」

 

「優真先輩遅いよー!」

 

時刻は5時過ぎ、あれからもうしばらく海で遊んだ後俺たちは別荘へと戻ってきた。各々が備え付けられていたシャワーで砂や海水を洗い流し、俺はそこから一番最後に戻ってきたところだ。なんでかって?察してくれ。

 

「遅いも何もお前らのせいだからな?」

 

「ウチらなんかしたかな?凛ちゃん」

 

「なーにもしらないにゃー♪」

 

白々しい。蹴り飛ばしてやろうか。

 

「……ねぇみんな、ちょっといいかしら」

 

不意に皆に呼びかけられた声。

その声の主は、意外にも真姫だった。

 

「真姫ちゃんどうしたのー?」

 

「夕飯の材料が足りないから近くのお店に買いに行かなきゃいけないんだけど……

 

……だっ、誰か着いてきて…くれない……?

 

べ、別に行きたくないなら1人で行くけどっ!」

 

そしていつもの赤頬横目髪クルクル。

皆も思わずおおっ、という表情を隠しきれていない。俺と絵里と希も顔を見合わせてニヤリと笑う。いい傾向だ。少しずつ…少しずつだけど真姫がみんなに対して素直になり始めている。

それだけで先輩禁止の意味があった、ってもんだ。

 

「はいはーい!私行く行く!」

 

「あー!穂乃果ちゃんずるいにゃ!凛も行く!」

 

穂乃果と凛も真姫からそんな提案がなされたことが嬉しいようで、瞳をキラキラさせながら真姫と同行を申し出た。……まぁでも。

 

「お前たち2人には買い物は無理だろ。俺が行くよ」

 

「ウチも行こっかな。2人と違ってウチなら安心できるやろ?」

 

「ん、まぁな……じゃ、俺と東條で行くから2人は留守番しててくれ」

 

「ちょっと!今しれっと2人とも酷いこと言ったにゃ!」

 

「そうだよ!穂乃果たちが買い物出来ないみたいに!」

 

「はいはい、穂乃果と凛、あなた達は衣装のデザインと作曲の手伝いをしてちょうだい」

 

そこに絵里が絶妙なフォローを入れてきた。

絵里と目が合う─────ウィングで返してきた。

俺もウィンクで返してやろうかとも思ったが、我ながらなかなか気持ち悪いなと思い直し、普通に笑顔で返した。

 

「そういうことだ。2人はそっちを頼んだよ?」

 

「「はぁーい……」」

 

渋々、といった様子の2人に、俺たちは苦笑する。

こうして俺、希、真姫の3人が買い物に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

海沿いの道を、3人でゆったりと歩く。

先ほどまで青く煌めいていた海は、夕日に照らされて橙色の光を放っている。

その光に照らされた2人の“女神”は本当に綺麗だった。

 

 

「珍しいやんな、この3人の組み合わせも♪」

 

「あぁ。そうそうねぇよな」

 

「ほんと綺麗な夕日やね!真姫ちゃんもそう思うやろ?」

 

「……どういうつもり?」

 

「ん?何がー?」

 

「……朝日さんも……希、も…どうしてそんなに私に気を使ってくれるの?」

 

「え?」

 

「……他のみんなもそう、どうして私に……」

 

真姫は先ほどから暗い表情を浮かべながら俺たちの後をついてきていた。

その表情の意図が読み取れずにいたが、なるほど……

 

「とりゃ」

 

真姫の頭にチョップをかます。

 

「痛っ!な、なにすんのよ!」

 

「……また1人で悩んでたんだろ」

 

「……うん」

 

「いったよな?何かあるなら俺たちに相談しろって。忘れたのか?」

 

「……ごめん……なさい」

 

「まぁまぁゆーまっち。怒ったってなにも解決せんよ?」

 

「東條……」

 

俺をたしなめたってことは、希にも何か考えがあるのだろう。

俺は希に任せることにして閉口した。

 

「どうして、って言ったよね、真姫ちゃん」

 

「……ええ」

 

「──────真姫ちゃんもメンドウなタイプやなぁって思っただけや」

 

「なっ……!」

 

「ほぉ〜……」

 

言うねぇ。…ていうか、それをお前が言うのかよ。

真顔を維持しつつ、内心では笑いを堪えるので必死だった。

 

「本当はみんなと仲良くしたいのに、なかなか素直になれない。違う?」

 

「私は…………」

 

「でも、良かったやん。真姫ちゃん少しずつ変われてるよ?さっきだって私たちを」

 

 

「───────やめてよ」

 

 

真姫が突然足を止めた。

先導する希、そして一歩後ろを歩いていた俺もそれにならって足を止める。俺は追い抜いてしまった真姫を振り返ったが、希は後ろを振り返ることなく、その表情は伺えない。

 

「私は─────普通にしてるだけ、よ…」

 

「ふふっ、そうそう♪」

 

希が言おうとしていること、俺にはわかる。

 

 

 

「わからないんやろ?人に素直になる方法が」

 

 

そういうことだ。

真姫自身、わかっているはず。

自分が、他の人に素直になれないことを。

そんな自分を“変えたい”と思い始めた。

だからこそ勇気を出して誰かを買い出しへと誘ったのだろう。

 

真姫は探し続けている。

自分自身を──────“変える”方法を。

 

あの日……穂乃果達に誘われて、μ'sに入ることを決めたあの日、真姫はあるものを手に入れた。

 

“自分のやりたいことに”素直になること

 

それがあの日真姫が手に入れたもの。

 

でもそれだけじゃダメだ。

それだけでは───────脆い。

自分の心持ち1つで、揺れて、潰されそうになってしまう。

だからこそ、真姫はもう1つ手に入れる必要があるのだ。

 

“自分以外の誰かにも”素直になること

 

これが真姫が手に入れなければならないもの。

真姫自身もそれがわかっているからこそ、今少しずつ、勇気を出して変わろうとしている。

 

 

 

「─────どうして私にそこまで絡むの?」

 

 

真姫が希に問う。

俺からすれば、愚問。聞くまでもないコト。

真姫が心配だから、友達だから、仲間だから……

そんな色々な気持ちが混じっているこの感情を、言葉で表現しようというのは難しい。

しかし希の口から放たれたのは俺の思っていたこととは違うことで────

 

 

 

「─────放っとけないの。よく知ってるから。あなたによく似たタイプ」

 

 

 

「え……?」

突然雰囲気を変えた希に真姫はもちろん、俺も面食らった表情になった。

今のは─────“希”?

俺と絵里以外で、初めて希が“本当の自分”を見せた。相変わらず希はこちらを向かないのでなにを思ってそんなことをしたのか、表情から知ることはできない。

 

「───────なによ、それ……」

 

真姫は強がって見せたが、その声には動揺が宿っている。

“あなたによく似たタイプ”か。

咄嗟に思い浮かんだのは、絵里のこと。

きっと希は絵里のことを言ったんだろう。そう思った……けど。

………本当に?

 

「まぁ、たまには無茶してみるのも悪くないと思うよ?」

 

そう言いながら希は歩き出した。この言葉を言った時には、もういつもの希に戻っていた。

若干腑に落ちない何かを感じながらも、俺と真姫は希の後について歩き出した───────

 

 

 

 

 

 

「まったく〜、しょうがないんだから〜〜」

 

買い出しから帰ってきた後、俺たちは改めて夕飯の準備を始めた。俺、矢澤、ことりちゃんの3人で調理することになったのだが、ほとんど矢澤に頼りっきりだ。

 

「ごめんねにこちゃん……私がもたもたしてたから……」

 

「いやいや、ことりちゃんは悪くないよ。矢澤の手際が良すぎ。俺よりいいんじゃないのか?」

 

「あったりまえでしょ!男のアンタなんかに負けてられないわよ!」

 

「へぇー、普段から家で料理してんの?」

 

「……まぁね」

 

……?一瞬表情が曇ったのは気のせいか…?

家庭の事情か何かだろうか、だとしたら詮索は良くないな。

 

「ところで朝日。今こうしてカレーを作ってるわけだけど、文句はないのよ?文句はないんだけど……どうしてエビなわけ?」

 

「確かに……普通はお肉を使うよね…⁇」

 

あぁ、それか……

まぁ一応理由はある。

 

 

 

 

「─────サトシ…あいつ肉食えないんだ」

 

 

 

 

「えぇ!?」

 

「はぁ!?あんなナリして肉が食べれないぃ!?

ギャグも大概にしなさいよ!」

 

「正確には、“ササミ以外の肉が食べられない”だ」

 

「あんな体になるのもなんか納得がいくわね……」

 

「だから肉は使えない……とはいえシーフードにしようと思っても今度は……」

 

「あ、凛ちゃんが……」

 

そう、凛は魚が食べられない。

猫語で話すけど、何故か昔から魚がダメなのだ。

 

「ってなわけで苦肉の策で……」

 

「エビってわけね、納得したわ」

 

「ごめんな」

 

申し訳ないとは思っている。

しかしこうするしかなかったんだ……

 

「優真くんが謝ることじゃないよ!」

 

「ことりの言う通り。誰か1人がダメなら、それに合わせるのは当たり前でしょ?」

 

やはりこの2人は優しい。

嫌な顔一つ見せることなく俺に笑顔を見せた。

 

「ほら、さっさと作り終えちゃいましょ!」

 

「おう!」「はーい!」

 

矢澤指導の元、俺たちのカレー作りが再開された。

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜食べた食べた〜♪」

 

「美味しかったにゃ〜♪」

 

「ご馳走様、3人とも。ありがとうね、美味しかったわ」

 

「お粗末様、絢瀬。……おい穂乃果、凛。食った後すぐ寝るな」

 

「そうですよ2人とも。自分の分の食器くらい自分で片付けなさい!」

 

「海未ちゃん、お母さんみたいやな♪」

 

「はぁ〜お米美味しかったぁ〜!」

 

「本当に幸せそうに食べるわよね、花陽は」

 

「真姫ちゃんも、美味しそうに食べてたけどね〜♪」

 

「ははは、美味しかったぜ!ユーマ、ことりさん!ありがとな!」

 

「ちょっと悟志!私にもお礼言いなさいよ!」

 

みんなでの食事を終え、まったりとした空気が俺たちの間に流れる。

 

「さて……これからどうする?」

 

「花火!花火やるにゃ!」

 

「ダメだよ、凛ちゃん。ちゃんとご飯の後片付けしなきゃ」

 

「あ、それなら私がやっておくから行ってきていいよ♪」

 

「それはよくないわ、ことり。みんなも自分の食器は自分で片付けましょ!」

 

うーん、この流れはみんなで片付けた後花火、かな……?

そこに新たな意見をねじ込んだのは海未だった。

 

「それに、これが終わったら練習です」

 

「えぇっ…」

 

「い、今から……?」

 

「当然です。昼間あれだけ遊んだんですから。

それに行ったはずです、終わったら練習をすると」

 

「でも……もうそんな雰囲気じゃないっていうか……それに穂乃果ちゃんはもう…」

 

 

 

「ぐへへぇ〜雪穂ぉ〜お茶〜〜」

 

 

……見るに堪えないってのはこのことだな。

自分の家かよ。あとヘソ出てるぞ、戻せ戻せ。

 

「……どうする?」

 

俺は絵里と希に問いかけた。

絵里は苦笑を浮かべ─────希は俺と目があってにこっと笑うと口を開いた。

 

「……なら今日はもう寝ちゃおうか」

 

「え?」

 

「みんなたくさん遊んで疲れとるやろうし、こんな状態で練習してもあんまり意味は無いんやないかな?やったら今日は早く寝て、練習は明日の早朝から。花火は明日の夜やろっ?それでどう?」

 

「うーん、それならいいにゃ」

 

「確かに……一理ありますね」

 

流石。特に険悪な雰囲気を作ることなく2人を納得させてみせた。

希が再び俺に笑顔を送ってきた。『これでええんやろ?』ってところかな。

 

「決定だな。んじゃもう風呂入って寝よーぜ」

 

「じゃあ私たちは食器片付けたらお風呂入ってくるから、朝日さんと悟志はしばらく待ってて」

 

「えぇー、俺らが後かよー」

 

「何よ、文句あるの?」

 

「男の俺らが先に入ったほうが早いんじゃねぇか?」

 

「あなた達が入った後の風呂に入れっていうの?」

 

……俺らがお前たちの入った後のに入る方がヤバいんじゃないのか?

 

「あ、2人はシャワーしかダメだからね」

 

ですよねーー。

 

「まぁいいじゃねぇかユーマ。男2人で語り合おうぜ!」

 

「お前と語り合うかは置いといて……わかったよ。サトシと待ってる」

 

「ありがと」

 

それからみんなで食器を片付けた後、女子はみんなで風呂へ、俺たちはしばらく待機することになった。

 

「……なかなか静かになったな」

 

「おう、そうだな……」

 

「…………」

 

「…………」

 

…あれ?サトシってこんなに静かなやつだったか?

なぜか俺たち2人の間に、喋ってはいけないような空気が漂っている。……なんでだろう。

先ほどから時計の針が進む音だけが部屋の中を支配している。

 

「……なぁ、ユーマ」

 

その沈黙を破り、サトシが口を開いた。

 

「ん?」

 

 

 

 

「────お前、好きな人いるのか?」

 

 

 

 

「……………………」

 

「……どうなんだ?」

 

「いきなりだな」

 

「せっかくの合宿なんだ、たまには恋バナもいいだろ?」

 

「女子かよ。しかも俺らが恋バナなんて……ガラじゃねぇだろ」

 

 

 

 

口では軽口で返すことができたが、俺の心の中は焦燥と動揺で渦巻いていた。

 

俺の───────好きな人。

 

己の内に問いかけて何度も否定してきた問い。

 

 

 

一番最初に思い浮かぶのは────────

かつて俺が心を奪われたあの笑顔。

 

違う

あの想いは2年前捨て去った

 

でもそれを否定した後思い浮かぶのが────

 

───────どうしてアイツの顔なんだ

 

今のアイツは俺の惚れたアイツじゃないだろ

俺があの日、どんな思いで自分の思いを捨てたか

自分が一番分かってる

 

 

もう一度アイツが好きになったなんて

 

認めてなるものか

 

それを認めてしまえば

 

あの日の俺の覚悟はどうなる?

 

何のために俺はあの日────────

 

 

 

 

 

 

「──────いないよ」

 

それだけ返すのが精一杯だった。

 

「そうか───────俺はいないぜ」

 

「なんだよ、それ」

 

「……じゃあ────────

 

──────お前のことを好きな人は?」

 

「はァ?」

 

何を言ってるんだこいつは。

サトシの意図が読めなくて俺の返事も怪訝なものになってしまった。

 

「……何が言いたいんだ」

 

「ユーマ…“人を傷つける優しさ”ってわかるか?」

 

「……わかんねぇよ」

 

「お前は優しい、優し過ぎる。だからその優しさ故に、誰かを傷つけることがあるんじゃないのか?」

 

「……さっきから何なんだよ」

 

自分の心の触れられたくない所ばかりに触れてくるサトシに段々と苛立ちが募る。

俺の疑問に返事をすることなく、サトシは黙り込んでしまった。

 

「おいサトシ!」

 

そして次の瞬間サトシから放たれた言葉に

俺は衝撃を受けた

 

 

「……まぁ仕方ないよな。昔あんなことがあっちゃ、な」

 

「─────────!!」

 

絶句した。

なんで……どうして………………?

 

「俺の母親と真姫の母親が仲良くてな。俺はよく塞ぎがちな真姫の相手をするために、病院に通ってた」

 

 

こいつ

 

 

「俺が中二の頃かな。真姫の母親が最近忙しくて大変だっていう話を聞いた。かかりっきりで付かなくちゃいけない患者が出来たんだと……俺と同い年の」

 

 

まさか

 

 

「真姫の母親は──────“精神科医”。

顔も知らない赤の他人だけど、心配だった。自分と同い年ってのが大きかったのかもな。興味もそそられた……いったいどんな人なんだろうってな」

 

 

やめろ

 

 

「そしてある日俺は見た。真姫の母親に連れられカウンセリング室へと連れて行かれている1人の少年─────────見るだけで慄いてしまうほどの殺気を纏いながら歩く少年をな」

 

 

やめてくれ

 

 

 

「朝日優真。─────俺は君の過去を知ってる」

 

 

 

 

 




後少しだけ次回に続いた後、1日目の最後の話に入ります!

それからお知らせ的なものを。
今後、第0章の1〜6話に加筆、修正を加えるかもしれません。
理由としてはやはりまだまだ執筆に不慣れだったこともあり、目に余る分量の少なさと内容の薄さが原因ですね。
特に1、2話に関しては2000字もないので……笑
話の内容を変えるつもりはありません!
ただ分量を少し増やし、わかりにくい描写などは表現を差し替えるなどして、読み応えのあるものに変えようかと思いまして今回このような報告をさせていただきました。
……あ、ちなみにするかどうかも未定ですので詳しい時期とかはまだわかりません。することになったら改めて作者の活動報告などで報告させていただきます!
ちなみに改変はやめてほしい、しないほうがいいなどの意見がありましたら感想欄及び作者のメッセージなどにその旨を送っていただけると幸いです!

長くなりましたが今回もありがとうございました!
感想評価お気に入りアドバイス等お待ちしております!

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