36話 【Days.Before】Venus of White 〜天使とお買い物♯2
「なぁ……もっかい聞くけど本当に俺がいなくちゃダメ?」
『ダメ』
「……さいですか」
私たち3人の言葉に、もはや諦めの表情を浮かべた優真くん。
今は私たち3人で互いに水着を選びあって、最後に優真くんのアドバイスをもらう、っていうことをやってます。
「えりち、それなんか似合うんやない?」
「……これ、布小さくない?」
「絵里ちゃんはスタイルがいいからきっと似合いますよ♪」
「あ、ありがと、ことり……。あ、希これなんかいいんじゃないかしら?」
「それはウチにはちょっと……小さい、かな?」
「うぅ〜、希ちゃん嫌味ですか?」
「………………居心地悪すぎ」
まぁ、確かに優真くんには少し気の毒だったかな……?
解放する気もないけどね♪
「……ねぇ、絵里ちゃん、希ちゃん。よかったら、試着してるとこ見せてくれないかな?」
「え?試着するのか?」
「うん!着てるところ見たら、衣装作りのヒントになりそうだから!」
「……俺も見るの?」
「もちろん♪」
「まぁまぁ、ゆーまっち。どうせ合宿で見ることになるんやから……」
「……とか言いながら顔赤くしてるから説得力ないんだけど、東條」
「……そうよね、慣れてないと大変なことになってしまうわ!私試着する!」
「あぁ……絢瀬の真面目が変な方向に働いてる…」
頭を抱えていた優真くんだったけど、絵里ちゃんは水着を選ぶと意気揚々と試着室へと入っていきました。
ほどなくしてカーテンが開く。
「……どう、かしら…?」
「おぉ〜!」
「絵里ちゃん可愛いっ!」
絵里ちゃんは濃い青色のビキニタイプの水着で、その上に淡い水色のベストを着てその端を正面で結んでいました。髪色が金の絵里ちゃんがその姿をしていると本当に海外モデルさんみたいに綺麗です!
「……どう?優真……。似合ってる…?」
顔を赤らめながら、絵里ちゃんが優真くんに尋ねます。
「………………ちょっと待ってて」
そう言うと優真くんはどこかへ行くと、手にとあるものを持って帰ってきました。
「……これ掛けてみて」
優真くんが持ち帰ってきたのは、サングラス。黒ではなく、暗い茶色のような色のレンズ部分の大きなもの。
絵里ちゃんはそれをおでこの上にかけました。
「……こう?」
『おぉー!』
「……うん、やっぱり似合ってるよ、絢瀬」
「そ、そうかしらっ…あ、ありがとぅ……」
絵里ちゃんも優真くんに手放しで褒められて嬉しいみたいです。
「つ、次は希よ!!」
「へっ、ウチ?う、ウチはいいかな……」
「の〜ぞ〜み〜〜??」
「わ、わかったって……」
次は希ちゃんの番。希ちゃんは少し顔を赤くしながら試着室へと入って行きました。正直、希ちゃんの水着姿は……色々と刺激が強すぎるような気が……。主に優真くんに。
そして開いたカーテンの先には…
「わぁ〜!♪」
「ハラショーよ、希!」
「そ、そーやろか……」
希ちゃんの水着は、濃い紫を基調としたビキニで、腰には水着と同じ色のパレオを巻いていました。それは希ちゃんのスタイルを強調することにもつながっていて……すなわち、希ちゃんの胸を強調する形になっていました。
「どーかな、ゆーまっち……?」
「えっ!?あぁ、い、いいんじゃないか!?」
優真くんも目のやり場に困っているようで視線をキョロキョロさせて顔を赤くしながら答えています。……優真くん、やっぱり大きい方が好きなのかなぁ……
……っていうか、優真くんこんな感じで合宿大丈夫なのかなぁ……
「じゃ、じゃあこれにする!次はことりちゃんね!」
「は、はいっ!」
ついに来てしまいました……。
でも、ここまできたら後には引けません!
私は水着を手にとって、試着室へと入りました。
そして着替え終わって、カーテンを開けました。
「ど、どうかな……?」
『………………』
「えっ!?おかしかったかな!?」
私が着た水着は、白地に小さな花柄かたくさんプリントされたビキニタイプの水着で、上下それぞれに、透明なレース生地の布がこしらえてあるもので……やっぱり似合ってなかったのかな……?
「ことりちゃん……可愛すぎやん!!」
「何よその可愛さは!反則級だわ!!」
「えっ、ええぇ!?」
絵里ちゃんと希ちゃんが顔を赤くして興奮しながら私へと寄ってきました。
「あぁ〜可愛いよことりちゃん〜♪」
「本当、持って帰りたいくらいだわ…。
優真もそう思うでしょ?」
絵里ちゃんが先ほどから固まって動いていなかった優真くんに声をかけました。優真くんはビクッと肩を震わせた後、照れたように言いました。
「─────めっちゃ可愛い、やばい」
「あ、ありがとう……優真くん……」
私も思わず顔を赤くしてしまいました……。
嬉しいな……♪
「次はゆーまっちやね!」
「大体そんな気はしてた。でも俺が着る意味絶対ないよね!?」
「私たちの水着みたんだから貴方も着なさいよ!」
「はい出たー!その謎理論!もうその手には乗らないからね!!」
「───────優真くん」
先ほど絵里ちゃんに名前を呼ばれた時よりも、さらに大きく体を震わせた優真くん。
これから何をされるか、理解したようです。
「ま、待って!水着でそれは本当にやば────」
「───────おねがぁい!!」
カシャン。
一切の迷いのない動きで、優真くんは試着室へと入って行きました。
「……ことり、貴女なかなかやるわね…」
「えへへ〜♪」
そして出てきた優真くんの水着姿は……
……え?カット?
すいません、作者さんが男の水着姿を描くのは面白くもなんともないし需要もないとか変なこと言ってて……申し訳ありませんが、優真くんの水着姿は省略させてもらいますね♪
とりあえず、『筋肉がすごかった』とだけ言っておきます!
▼
水着を選び終えて、次に来たのは裁縫店。
いつも来てるお店よりも、大きくて、布の種類も多そうです。
「……これを探してくればいいんだね?」
「はいっ!よろしくお願いしますね!」
「わかった。……んじゃ行こうか」
「ええ」
優真くんのメッセージアプリに、探して欲しい生地の種類とサイズを送って、私たちは二手に別れて生地を探すことになりました。
優真くんと絵里ちゃんと、希ちゃんと私です。
本当は優真くんと一緒が良かったけど、希ちゃんがテキパキと決めちゃったから、何も言えませんでした。
ふと後ろを振り返ると、楽しそうに笑顔で話している2人の姿が。
「───────気になる?」
「へっ!?」
「さっきからチラチラ2人の様子見よるからね」
「…………うん、少し……」
「ごめんなぁ、今日はいきなり2人に合流しちゃって」
「いえ!そのおかげで衣装のイメージもつかめたし、買い物も分担できて楽になりましたから…」
「そっか、ありがとね。……でもことりちゃん羨ましいな〜」
「えっ?」
「気づいてなかった?
────さっきの水着姿、“可愛い”って言われたの
ことりちゃんだけなんよ?」
「えっ……?本当に?」
「ほんとほんと♪えりちには“似合ってる”とは言ったけど、ウチに至ってはそれすら言ってもらえなかったし。あ〜あ、ウチもちゃんと水着見てもらいたかったなぁ〜」
半ば冗談のような口調で、希ちゃんが笑いながら言いました。
……でも。
──────それは本当に冗談なの?
私が思い出したのは、あの日の病院での会話───
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「希ちゃんにとって─────────
──────────優真くんは、何?」
あの日私は、勇気を出して希ちゃんに問いかけました。
希ちゃんは私の質問に、しばらく考え込むような様子を見せた後、ゆっくりと口を開きました。
「─────友達。ゆーまっちはウチの大切な友達」
「……本当に?」
「隠す理由なんてないよ?」
「……それ以上は、望んでないんですか?」
「……ウチにそんな気持ちはないし……
────────その資格もないから」
「え……?」
ふふっ、と希ちゃんが笑う。
「────────ウチはね、ゆーまっちに幸せになって欲しいん。ずっと笑ってて欲しいんや。
ウチにできるのは、一歩後ろでゆーまっちを支えてあげることだけ。隣に並ぶなんて、出来ないんよ。そこはウチの場所じゃない。……ゆーまっちを幸せにしてあげられる誰かがいるべき場所なんよ」
「希ちゃん……」
「やから、ことりちゃんは安心してゆーまっちに恋してていいんよ?」
「んえぇ!?」
「ふふっ♪可愛いなぁことりちゃんは〜♪」
「も、もう!希ちゃん!からかわないでくださいっ!」
「……ウチは応援するよことりちゃん。
それがゆーまっちの幸せに繋がることやから」
最後の言葉ともに希ちゃんが浮かべた笑顔は、なぜか悲しげに見えました。
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「……えりちね、久しぶりなんや。ゆーまっちとあんなに笑ってるのは。せっかくの機会やから、2人きりにしてあげたくてこんなことしちゃった。ごめんね?」
「……絵里ちゃんも……?」
「多分ね。気づいたのは最近みたいで、ウチに遠慮して何も言ってこんけど」
遠慮することないのになー、と希ちゃんは呟きました。
絵里ちゃんも、か……
強敵だな……ううん、私じゃ絵里ちゃんには勝てない。現に2人は今あんなにも楽しそうで……お似合いで……私なんかじゃ足元にも……
「違うよ、ことりちゃん」
「え?」
「──────ことりちゃんは、えりちとは違った魅力やいいところがあるやん。やから、比較する必要なんてないんよ?」
「……今私、口に出してましたか…?」
「んーん。そんなこと考えてそうな顔してたやん?」
……希ちゃんはエスパーか何かでしょうか…?
それはまさしく私が悩んでいたことで……。
「やから、頑張ってね。ウチはえりちの味方でもあるけど、ことりちゃんの味方でもあるからね♪」
希ちゃんがウィンクをしながら言いました。
結局、希ちゃんの本心はわかりませんでした。
ただ一つわかるのは────────
希ちゃんが優真くんを本当に大切にしていて
──────優真くんを、愛していること。
▼
「これで全部かな?」
それぞれの買い物を終えた私たちは、お店の外で合流しました。
「はい、全部揃いました!3人ともありがとうございました」
「いいのよ、ことり。私たちのためでもあるんだから」
「そーそ♪……んなら帰ろうか、えりち」
「ん?もう帰るのか?」
「うん、今からえりちの家に行くからウチらはお先に失礼するね!……あ、ことりちゃん、その荷物邪魔やろ?半分持って帰ってくよ!」
「えっ、でも……」
「いいんよいいんよ♪ウチらは後は帰るだけやしね。……ゆっくり楽しんでね♪」
「……それじゃあね、2人とも」
そう言い残して、2人は出口へと歩いて行きました。
最後希ちゃんが私に笑顔を向けてくれたけど、『頑張ってね♪』と聞こえた気がしました。
──────希ちゃんは、すごい。
本当に、私と絵里ちゃんの恋を応援してくれてる。
──────自分の想いを、殺しながら。
優真くんの幸せを願って、自分の想いを捨てて……
どれだけの覚悟をもってその選択をしたのでしょう。
きっととても辛いことだと思います。
でも希ちゃんは、それに耐え続けている。
それができるのはきっと……
──────優真くんを、強く深く愛しているから。
これも一つの、“恋”の形なのでしょうか。
そうなのだとしたら……悲しすぎる。
でも今の私には、希ちゃんの選択がすごく正しいことのように思えました。
だからと言って私にその選択は、出来ない。
だって、自分の気持ちには嘘はつけない、つきたくないから。
そんな心の強さは、私にはない……
希ちゃんは病院で言いました。
『優真くんの隣には、優真くんを幸せにできる誰かがいるべきだ』と。『自分にはその資格がない』と。
─────────でも。
優真くんを幸せにできるのはきっと─────
「──────ことりちゃん?」
「んえぇっ!?どどどうひまひた!?」
「どうしてそんなに焦ってるの……。いや、何回呼んでも返事がなかったから」
「あっ……ごめんなさい、少し考え事してて……」
「ん、そっか。大丈夫?」
「は、はい!心配かけてごめんなさいっ」
「気にしなくていいよ。それより、これからどうする?」
「……そう、ですね……」
どうしよ……もう少し時間がかかるつもりだったから、何も考えてませんでした……
「ゆ、優真くんは!優真くんは、何かないんですか?」
「俺か……そうだね、ことりちゃんがやりたいことをやりたいな。
──────折角のデートなんだから」
「……へ…?」
「……え?」
で、“デート”?
「私たち……デートしてるん、ですか…?」
「…………と、思ってた……。やっば、俺だけかよ、恥っず……」
優真くんが、顔を赤くしながら片手で顔を隠しました。……全然意識してなかったけど、確かにこれは……
2人きりで、水着を選んだり、どこに行くか話したり、手をつないだり……
デート、なのかな……?でも……
「……優真くんは嫌じゃないんですか…?」
「え?」
「私と…デート、して……嫌じゃないんですか……?」
「──────そんなわけないじゃん」
笑顔と共に、私の頭に手が乗せられました。
「──────正直、今日のコト楽しみにしてた。
……俺、今もずっとドキドキしてる。
───────って言ったら、引く?」
「……ううん、嬉しい、です…」
そのカミングアウトに、私の顔は一気に真っ赤になってしまいました。
……そっか。
私、優真くんとデートしてるんだ。
「……わかりました!じゃあ、私の行きたいところ、着いてきてくださいね?」
「うん、わかった。行こっか」
今度は私から優真くんの手を握り、2人で歩き出しました。
▼
「すっかり遅くなっちゃったね。ごめんよ」
「いえいえ!楽しかったです!」
あれから2人で色々なお店を回ったり、ゲームセンターに行ったりして、夜ご飯を食べてから帰ってきました。夏が近づいていたとはいえ、外はもう真っ暗になってしまっています。
優真くんは、私を心配して家まで送ってくれました。
「ここまでありがとうございました。そして今日は改めて、ありがとうございます」
「こちらこそありがとね。楽しかったよ。
……ねぇ、ことりちゃん」
突然の問いかけに、私は首を傾げました。
「……敬語、外してくれない?」
「え……?」
「んや、なんか今更なんだけど、ことりちゃんが中学校の頃は普通に話してたからさ。やっぱ普通に話してくれた方が、距離が近づいた気がするっていうか……ほら、時々ことりちゃん敬語が外れそうになってるときもあるし……とにかく、俺とはタメ口で話して欲しいの!」
優真くんらしくない、ハッキリとしない物言いを少し疑問に抱きながらも──────
「───うん、わかった。ありがとね、優真くん♪」
「……それでよろしいっ。……じゃ、俺行くから」
じゃあね、と言い残して優真くんは私に背を向けて歩き出しました。
それがなんだか、物寂しくて。
だから少し、大胆になってみようかな、なんて。
私は優真くんの後ろ姿に近づいて、そのまま抱きしめました。
「!?こ、ことりちゃん!?」
「─────優真くん。
私、頑張るね。みんなに負けないように」
「な、なにを……?」
「だから優真くんも……私のこと応援してくれたら嬉しいな♪」
「……うん、わかった。頑張れ」
きっと優真くんは、なにのことを言ってるかわからなかったはずです。
でも、優真くんは優しくそう返して……
優真くんの体の前で結ばれた私の両手を、優しく握ってくれました。
それは今日の昼に繋いでいたときよりも、心地よくて。
私、やっぱり優真くんが好き。
他の誰が相手でも、譲りたくない。
この想いを───────大事にしたい。
我儘かもしれないけど、それくらい好きだから。
私は──────ずっとあなたの側に居たい。
通行人に見られて恥ずかしくなった私が慌てて優真くんから離れるまで、優真くんは私の手を握っていてくれました。
そして今度こそ、家路につく優真くんの後ろ姿を見えなくなるまで見送りました。
────いつか、もっと自分に自信が持てたら
ちゃんと伝えよう
中途半端なままじゃ、嫌だから
私は今日、そう誓いました。
でもこのときの私は知りませんでした。
この誓いは、叶うことのないものだと────
別の形で、遂げられてしまうものだと。
次回から合宿編突入です!
今までとは違ってコメディ要素強めで書いて行こうと思います!
私が一番書きたいところだったので、気合入れていきますよ!
今回もありがとうございました!
感想評価アドバイス等よろしくお願いします!