ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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胸に描く場所は─────

34話 胸に描く場所は─────

 

 

 

 

6月のとある日曜日。

今日は音ノ木坂学院オープンキャンパス当日。

そして俺たち……新生μ'sの始まりの日。

午後、外に作られた特設ステージにて。

彼女達は、再び走り出す。

 

 

 

 

 

『皆さん、こんにちは!

音ノ木坂学院スクールアイドル、μ'sです!』

 

 

 

観客は十分。外に出ようとしていた中学生も、何事かとステージに集まりだしている。

 

 

 

『──────私達はこの学校が大好きです。

素敵なみんなと出会えて、そんなみんなと笑いあえるこの学校で送る日々が、大好きです!』

 

 

 

舞台袖に立っていた俺は、穂乃果達2年生3人を見やる。

 

 

 

─────成長したね。

 

もう君達は講堂で敗北を味わったあの頃とは違う。

 

今の君達には、仲間がいる。

 

何も恐れることはない。

 

だから、ここから……もう一回。

 

 

 

 

『今日歌う曲は、私達が9人になってから初めて歌う曲です!

 

──────9人の……始まりの曲です!』

 

 

 

この曲は、俺の願いを込めて作詞した。

 

 

 

 

絵里と希が素直になれた時……

 

同じ目標を求めた俺たちの道が一つになる時

 

 

 

その日が来た時に、みんなで走り出せるような

 

 

 

『START:DASH!!』から始まった俺たちの夢を

 

 

 

この曲で……新たな道を切り拓くため

 

 

 

 

 

 

『────それでは聞いてください!』

 

 

 

 

 

 

俺たちの想いよ─────届け!

 

 

 

 

 

 

 

 

「『“僕らのLIVE 君とのLIFE“!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曲が始まった。

 

絵里と希の加入でμ'sの魅力は格段に上がった。

絵里のダンスの上手さは知っての通りだったが、希がダンスが上手だったのは予想外だった。

本人はみんなに才能だなんて言ってたけど……きっと違う。

 

アイツはきっと、いつかμ'sに入る日のことを思って、一人で練習を重ねていたんだ。

間違えない。アイツはそういうやつだから。

 

どこまでも……素直じゃない。

 

でもそんな努力が……今のμ'sをさらに輝かせている。

現に今、中学生達は心を奪われたかのように目の前に広がる彼女達のステージに夢中になっている。

 

その瞳に宿すのは……憧れと、輝き。

 

それほどまでに、今のμ'sは輝いていた。

これが本来の姿。

これが希が……夢見た“奇跡”。

 

やっと……揃ったな。

 

ステージで楽しそうに踊る希を見て俺は一人感傷に浸る。

 

時間はかかったけど……君の願いを叶えられた。

俺は1人、達成感を感じていた。

でも、まだだ。

これからが本番。

 

これから、きっとたくさん苦しい場面が来る。

でもきっとこの9人なら、大丈夫。

どんなことも乗り越えられる。

 

 

 

だって俺たちの“胸に描く場所”は───────

 

 

 

“同じ”だから。

 

 

 

 

 

 

曲が終わり、歓声と拍手が上がる。

ステージ上の9人も、やりきった達成感を笑顔に表して感極まったように瞳を潤ませている。

 

この歓声と拍手が……答えだ。

 

 

 

 

 

俺たちの新生μ'sのファーストライブは────

 

 

 

“大成功”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優真せんぱーい!!」

 

ライブを終えたμ'sが先に舞台裏に回っていた俺の所へ降りてきた。

穂乃果が叫びながら俺の元へと駆けてくる。

 

「先輩、やりましたよ私達!やっと……やっとここまできました!」

 

「お疲れ様、穂乃果。……よくここまで頑張ったな。俺は本当に嬉しいよ」

 

「優真先輩のおかげです!優真先輩がずっと私達を側で応援してくれたから…今日あんな最高のライブが出来たんです!だから……これからも、一緒にいてくださいね?」

 

「当たり前だ。俺はお前達の……ファンだからな」

 

俺の言葉に、穂乃果がえへへっと笑った。

 

 

 

 

 

 

「優真くん!」

 

「ことりちゃん、お疲れ様。凄く良かったよ」

 

「ありがとうございます♪全部……優真くんのおかげですよっ♪」

 

満面の笑みを俺に向けることりちゃん。

その笑みを見ると俺は…なぜかドキドキする。

直視できなくなって、思わず目をそらす。

 

「や……俺は何も……」

 

「ううん。優真くんが私達をずっと近くで応援してくれたから、私達は今日このステージに立てたんです。優真くんがいなかったら……きっと私達は最初のステージで諦めてた。

だから、優真くん。

これからも、よろしくね?」

 

「……うん、俺でよければ」

 

ことりちゃんの天使のような笑みは、俺の心臓に良くない。

 

 

 

 

 

 

「優真先輩」

 

「ん、海未。お疲れ様っ」

 

「ありがとうございます。……そして、素敵な曲をありがとうございました」

 

「いやいや、俺と君の2人で作った曲だろ?」

 

「いえ。今回の曲…作ってる途中で気付いたんです。この曲は……7人で歌う曲ではないと。

先輩は……9人で歌う曲を作っているのだと」

 

「……海未…」

 

「だから嬉しいんです。絵里先輩と希先輩がμ'sに加入してくれて。

……優真先輩と絵里先輩が、仲直りをしてくれて」

 

そう言って笑う海未だったが、その笑顔はわずかに陰って見えた。

きっと海未は、あの日からずっと後悔していたのだろう。

自分のせいで俺たちの溝が深まってしまった、と。

 

「……心配かけてごめんな。大丈夫、海未は何も悪くないよ。もう仲直りもしたし……

全部打ち明けた。スッキリしたよ」

 

「優真先輩……」

 

「だから、もう何も気にしないでくれ。

これからも……俺に笑顔を見せてくれ。

一緒に作詞、頑張ろうな」

 

「……はい!」

 

最後の笑顔は、海未の心からの笑顔だった。

 

 

 

 

 

「優真お兄ちゃん!」

 

「花陽。頑張ってたな。少しは自信ついたか?」

 

「うん…!……μ'sに誘われた時、にこ先輩が言ってたの。

“自信は積み上げるものだ”って。

ステージ上で…積み上げた自信が輝く、って。

……今ならその意味、わかるんだ。

だって今日、緊張なんかよりもずっと楽しかったから!」

 

花陽が浮かべる笑みは、心からのものだ。

自分の気持ちを押し殺して、周りの空気に流されていた頃の花陽の面影はもうない。

 

「……大きくなったな、花陽」

 

「えぇ!?どこ見て言ってるのぉ!?」

 

「今の流れで下ネタなわけねぇだろ!!…ったく」

 

そう言って俺は花陽の頭を撫でる。

 

「……心がだよ。花陽は強くなった。もうお前はあの頃のお前じゃない。これからも、もっとその笑顔を俺に見せてくれ」

 

「お兄ちゃん……うん!私、頑張るね!」

 

花陽はまさに花のような笑顔で、俺の言葉に答えた。

 

 

 

 

 

 

「朝日さん」

 

「真姫。よく出来てたぞ、お疲れ様」

 

「……どうも」

 

「……どうした?」

 

「いや……その…」

 

真姫は何故か顔を赤くして髪の毛をクルクルしている。

 

「…………ぃます……」

 

「え、なんて?」

 

「……もう!ありがとうございますって言ったのよ!」

 

「や、なんで怒ってんの!?」

 

「……朝日さんがいなかったら、私は今頃このステージに立ててなかったから…」

 

「いや、君を勧誘したのは穂乃果と海未だぞ?」

 

「……そうだけど…私にきっかけをくれたのは……朝日さんのコトバだったから」

 

────君の本当にやりたいことは?────

 

「……あの言葉で、私は自分の夢と本当に向き合えた。だから……ありがとうございます。

朝日さんのおかげで、私は今日こんな気持ちになれたから」

 

「こんな気持ち?」

 

「……“やってよかった”、って。“楽しかった”って心の底から思えたんです。

……今まで、やっぱりこれでよかったのかなって思うことが、何回もあったから…。

 

でも、わかったの。

私は間違ってなんかなかったって。

だから朝日さん……ありがとうございました」

 

「真姫……」

 

知らなかった。彼女がそんな悩みを抱えていたなんて。気付いてやれなかった。

……俺もまだまだだな。

 

俺は真姫に笑顔を向ける。

 

「……そっか。そう思えたなら、良かったよ。でも、悩みを一人で抱えてたのはいただけないな。これからは俺にきちんと相談してくれよ?」

 

「……はい!私を……支えてくださいね?」

 

「任せとけよ」

 

真姫が、今日一番の笑顔で笑った。

 

 

 

 

「ゆーう兄ィ!」

 

「凛、お疲れ様。ダンス、すごい上手だったぞ」

 

「ありがとにゃ!…ねぇ、優兄ィ」

 

「ん……どうした?」

 

「─────凛、可愛かった…?」

 

心配そうな顔をして、凛が俺に問いかける。

俺は笑顔で凛の頭に手を乗せた。

 

 

「……何言ってんだお前。

────当たり前だろ?最高に可愛かったぞ、凛。

今までで一番、可愛かった」

 

「……!あり、がと……」

 

「なんで照れてるんだよ。お前が言わせたんだろ?」

 

「い、いいのいいの!気にしないでにゃ!

 

……優兄ィ。

 

これからも、ずっと凛のこと見ててね?」

 

少し頬を赤らめて小声で囁いた凛を見て…

何故か少しドキっとしたのは何故だろうか。

 

「……おう。ずっと一緒だって言ったからな」

 

「……へへっ。ありがとにゃ!」

 

凛はいつもの笑顔でそう言った。

 

 

 

 

「朝日」

 

「矢澤。お疲れ様。最高の笑顔だった」

 

「当たり前でしょ!……ここは、私がずっと夢見続けてきたステージなんだから」

 

「矢澤……」

 

一度は仲間と決別し、夢に敗れた矢澤。

そんな彼女は、1つの“光”と出会った。

その光は、彼女の加入でさらに輝き、

そして今──────完成した。

 

彼女が夢にまで見た……憧れのステージで。

 

「……ありがとね、朝日。また私に夢を見させてくれて。……μ'sを完成させてくれて」

 

「こちらこそありがとな。あの2人が参加する最初のきっかけを作ってくれたのは矢澤のあの提案だったから。……何より、また君の笑顔が見れて嬉しいよ」

 

「……これから何回だって見せてあげるわよ。

だって、これからなのよ?

───────やっと今から始まるんだから」

 

「……そうだな。期待してるぜ?“笑顔の魔法使い”さん」

 

「…その名前で呼ぶの、アンタだけなんだけど…」

 

最後はいつも見たいな軽口を叩きながら、矢澤は穂乃果達の元へと去っていった。

 

 

 

「……優真」

 

「ん………………絢、瀬」

 

その瞬間、絵里の表情が一気に不機嫌になる。

 

「ど、どうした……?」

 

「……わかってるくせにっ」

 

「……………………絵里」

 

「よろしいっ♪」

 

俺が下の名前で呼ぶと、絵里は機嫌を取り戻した。

 

「なんでそんなに遠慮してるのよ?あの時は自然に呼んでくれたじゃない」

 

「いや……あれは空気っていうかなんていうか…女子の下の名前を呼ぶのは恥ずかしいっていうか……」

 

「今さらそれ言うの!?貴方3年生以外普通に呼び捨てじゃない!」

 

「や!年下はセーフなの!…凛とか花陽とかいるから妹にしか見えない…し……」

 

「なんで最後どもったのよ」

 

「い、いいから!わ、悪かったよ……」

 

「はぁ……ちょっと耳かして」

 

「ん……?」

 

絵里に言われた通り、絵里に耳を差し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────2人きりの時は、“絵里”って呼んで」

 

 

 

 

 

 

 

「……お、おう」

 

「な、なによ……ハッキリしないわね」

 

何故か知らんが、今めっちゃドキドキした。

絵里も顔を赤くして、俺から目を背けている。

 

「……優真。今回のこと、本当にありがとう。貴方がいたから、私は夢に正直になれた。

これからは、もう1人で何でもしようとなんてしないわ。

だから、もし私が辛い時は……」

 

「……当たり前だろ?俺を…俺たちを頼ってくれ。

そのための“友達”で、そのための“仲間”なんだから」

 

「……ありがと」

 

絵里が笑う。

 

その笑顔は、義務感に縛られていたあの頃と違う。

 

絵里の、心からの笑み。

 

2年越しで初めて見たその笑みは。

とても美しくて、輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

「ゆーまっち♪」

 

「…東條。お疲れ様」

 

「……ウチのことは名前で呼んでくれんの?」

 

「…………」

 

「…………冗談や。ごめんね」

 

「……悪い…」

 

「もう。ウチがからかったんやから、気にせんでええんよ!

……それより、言いたいことがあって」

 

「ん……どした?」

 

「─────ありがとね。

 

……私の願いを…叶えてくれて」

 

「……俺だけの力じゃないよ。叶ってよかったな」

 

「ううん。私の願いを聞いて、一番頑張ってくれたのは君。だから私は君に─────」

 

「──────やめてくれ」

 

「っ……」

 

「……そっちで話されると、調子狂う」

 

少しずつ、自覚しだしている。

 

 

 

俺の…“希”への思いが再び募り始めていることに。

 

 

 

でも、ダメなんだ

 

 

その気持ちを認めたら

 

 

俺は変われないから

 

 

過去に縛られるのは……もう嫌だから

 

 

 

 

 

 

「────うん、わかった。じゃあこっちで!

ありがとね、ゆーまっち!」

 

「──────おう」

 

でも……

 

東條の笑顔を見たときに

 

この胸に走る気持ちは何だろう

 

 

「これからも、ウチらのことよろしくね!」

 

「当たり前だ。……“友達”だからな」

 

「ふふっ♪」

 

“東條”の笑顔を浮かべて、希はみんなの元へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと、ありがとね───────優真くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、今日はお疲れ様」

 

俺は改めて9人に労いの言葉をかける。

 

「正直……今すごいビビってる。

お前たちが、あそこまで完成度の高いライブをやり遂げたこと、本当にすごいと思う。

まだ結果は出てないけど───────

 

 

──────“奇跡”は起こった。間違いない」

 

俺の言葉に、メンバーの表情が明るくなる。

これはテキトーを抜かしたわけでもなんでもない。

“確信”だ。

思い出すだけで鳥肌が立つような大喝采。

そして会場のみんなの笑顔。

 

─────あれで魅了された人がいないなんてこと、あり得ない。

 

 

「やったぁーー!!」

 

穂乃果を筆頭に、みんなが喜びの声を上げた。

 

「お、おい……まだ結果が出たわけじゃ……」

 

「ううん!違いますよ優真先輩!絶対になんとかなってます!だって、私たちをずっと近くで見てくれていた優真先輩が言うんですから!」

 

「穂乃果……」

 

「よーしみんな!これからも頑張ろうね!

いっぱい頑張って…出よう!『ラブライブ!』!」

 

穂乃果が指をピースの形にして前に突き出す。

それに合わせるように、他のメンバーも指を合わせる。

 

俺はその光景を外から眺めていたのだが……

 

 

「先輩!何やってるんですか!早く早く!」

 

「……え、俺もやるの?」

 

 

 

 

 

「──────当たり前じゃないですか!

 

先輩は私達の“仲間”なんですよ?

 

同じステージには立てないけど、私達と同じ夢を描いた、大切な大切な仲間です!」

 

μ'sメンバーが、穂乃果に賛成だと言わんばかりに俺を笑顔で見つめている。

 

 

「……みんな……」

 

 

 

 

 

俺は今まで、心のどこかではみんなと距離を感じていた。

自分はあくまで傍観者だと。

どれだけ彼女たちに尽くそうと、本質的なところでは同じ土俵には立てないのだと。

でもそう思っていたのは、俺だけだったようで。

 

───────ここが

 

君達が、俺の居場所。

 

 

そう自覚すると、急に心が軽くなった。

俺の体が、みんなの温もりで包まれていく。

それは優しくて、心地よくて……

 

 

俺の心に孕んだ影を、てらしていくような。

 

 

 

俺も───────俺にも、居場所があったんだ。

 

「……へへっ」

 

「え、朝日あんた泣いてんの!?」

 

「うるせぇよバカ。……なんでもねぇよ」

 

俺の頬を、一粒の涙が伝った。

俺はそれを強く拭い、みんなに合流し、指を突き出す。

 

 

指が繋がる。

繋がったのは……10人の思い。

 

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

 

ありがとう、みんな

 

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

 

こんな俺に、居場所をくれて

 

 

「7!」

 

「8!」

 

「9!」

 

 

これからも──────ずっと君達と

 

 

 

 

「───────10!」

 

 

 

 

 

 

 

「────────μ's!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミュージック……!スタート!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて三章、堂々完結です!

さて、作中の優真の地の文での絵里と希の呼び方ですが、
優真の性格、心が以前のものに戻りつつある状態を意味します。
そして、優真たち3人が、本当の意味で友達となったことを意味しています。
しかしまだ優真の心には、迷いがあります。
だから今回、絵里と希にあのような接し方をしたのです。

そして次回からは新章に突入します!
新章一発目は個人回!
誰になるかどうぞ楽しみにしていてください!
今回もありがとうございました!
感想評価アドバイス等お待ちしております!

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