翌日、学校にて。
「東條希です。よろしくお願いします」
「……マジかよ」
同じクラスだったのかよ、まったく気づかなかったわ。
昨日探すとか言ってたのに手間が省けたわ。
今はクラスのロングホームルームの時間。
出席番号順に自己紹介が行われている。
ちなみに俺のクラスはA組、出席番号は1番。“朝日”だからな。
それから昼休み。俺は希の元に向かおうとした…
……ってなんだあの人だかりは。
「希ちゃん!私も占って占って!」
「私も私も!」
「ふふふ♪うちに任せときっ」
占い?そんな趣味があったのか…
あれだけ人がいたら近寄れないな…仕方ない。
もう一つ別の目的を果たそう。
「……友達、作らなきゃな…」
そして俺は男子ペアの内の一つに声をかけた───
▼
そして放課後。
希はまた女子集団に囲まれている。
ずいぶんと人気だな、あいつも……
中学の時とは全然違うな。
そう、俺が知ってる希は、周囲と積極的に打ち解けていくタイプじゃなかった。
そんなことを考えながら、俺は遠いあの日へ想いを馳せる……
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希と友達になってから一ヶ月。
俺は希と過ごすことが多くなった。
家が近いこともわかり、一緒に登下校もしていた。
でも、ずっと一緒にいるわけでもなかった。
俺だって男友達とバカやりたかったし、むしろ一学期は希と学校で話すことはほとんどなかったと思う。
俺が男友達と遊んでいる時は、希は大抵一人だった。
やはり、周囲に対して壁を作ってるみたいだ。
そこで俺は希の友達を作ってやることにした。
結構男女仲のいいクラスだったから、希を連れていろいろな女子に話しかけて、交流を試みた。
そんなことをしていたある日。
「ねぇ、優真くんっ…」
「ん?どしたの?希」
「今日一緒に帰らなくても、いいかな?」
「うん、いいよいいよ。なんかあったの?」
「……クラスの女の子から、喫茶店、行こうって誘われて……行ってみようかなって」
なんと!それは本当によかった……
希に、友達ができた。
それだけで、自分のことのように嬉しくて。
「おお!本当に!?よかったじゃん!」
「うんっ」
そう言って希は────
心の底から嬉しそうに、笑った。
それは今までの笑顔とは違う、見る人を魅了するような、目に焼き付いて離れない、そんな笑顔だった。
────なんだ、そんな笑顔もできるんじゃん。
その希の笑顔に俺は────奪われた。
もっと希を笑わせたい。こいつには、ずっと笑顔でいてほしい。
希の笑顔を────1番近くで見ていたい。
そう、思った。
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結局俺は、今日は希と話すことを諦めた。
人だかりが消えるまで待とうかと思ったけど、同じクラスだし、話そうと思えばいつでも話せる…………はずだ。
それに、今の俺には勇気がない。
希の過去を知り、自分の心の傷と向き合う勇気が。
とりあえず今日一日考え直して、明日希と話そう。
そう思いながら俺は学校を後にした。
▼
帰り道の公園。
いつもどおりに通り過ぎようとしたとき、
木の下でしゃがむ一人の少女を見つけた。
「あれは…音ノ木坂の制服?」
俺は公園へと足を踏み入れた。
▼▽▼
「どうしよう……」
私は今、音ノ木坂の近くの公園にいる。
家に帰る途中、犬の鳴き声が聞こえた気がして、辺りを探してみると、公園の木の下で足を怪我している子犬を見つけた。それで近寄ったまではよかったんだけど……
「どうにかしてあげたいけど、治療できる道具も何もないし…」
困ったわ……
置いて帰るのもかわいそうだし…
「───どうしたんですか?」
そんなとき、不意に後ろから声をかけられた。
「……あれ、貴方は同じクラスの…朝日くん?」
間違いない。彼は私の一つ前の出席番号。
今の私の席の一つ前に座っている。
「え、俺、君と同じクラスなの…?」
「覚えられてない!?貴方の後ろの席よ!?自己紹介も貴方の次だったのに!」
「や…ちょっとインパクトがでかすぎる自己紹介があってだな…」
インパクトのある自己紹介?
突然上裸になってボディビルを始めた剛力君のことかしら?
あれにはドン引きだったわね……
「じゃあ改めて自己紹介を。
───私は絢瀬絵里。
出席番号は2番よ。よろしくね、朝日くん」
今回も最後までありがとうございました!