ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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自業自得なのですが、μ'sメンバーを苗字で書くのに未だに少し抵抗があります。
今回は久しぶりにあの子が登場します!


超高校級の歌姫からのオクリモノ

18話 超高校級の歌姫からのオクリモノ

 

 

 海未との日曜日が開けて、月曜日。

 俺たちはいつものように神田明神での朝練に取り組んでいた。

 

「じゃあ曲は完成したんですね!?」

「あぁ、なんとかな。……って言っても、あとは曲をつけないとどうしようもないんだが……。穂乃果、説得は上手くいってるのか?」

「うっ……それが、西木野さんから避けられてるみたいで…」

 

 ……あの子の性格を考えると、避けてるっていうより、照れてるんじゃないか……?

 

「……まぁ今日は俺が説得してみるから。…最悪、諦めることも考えなきゃな」

「えぇ!そんなぁ!」

「考えてみろよ。作曲を頼んですぐに曲ができるわけじゃない。できた曲を練習する時間はそれ以上にかかるんだぞ?曲ができるのが遅かったので質が落ちました、じゃ話にならない。それに、俺が振り付けを考える時間も必要になるからな」

「うぅ〜…」

 

 

 …口ではこう言ったが、俺は西木野さんを諦めるつもりは、全くない。

 彼女の歌唱力、そして作曲力は素晴らしい。

 是非ともμ'sに力を貸して欲しい。

 そして何より、“希”の願い。

 そのためにも、何としても彼女を勧誘する必要がある。

 

 

「……優真先輩…」

「ん?どうした、海未」

「その…き、昨日はありがとうございました」

「いやいや、俺のほうこそありがとな。夕飯まで付き合わせ…」

 

 

 

「「夕飯!?」」

 

 

 

 俺と海未の会話に、大声を上げて割り込んでくる2人。

 

「ほんとなの!?海未ちゃん!」

「優真くんと……2人きりで!?」

「あっ……いや…………は、い」

「うぅ、ずるいよぉ海未ちゃぁん…」

「そうだよ!私たちも呼んでよ!!」

「……そうじゃなくてぇ〜……」

 

 ……穂乃果は仲間外れにされて怒ってる感じだけど、ことりちゃんはやけに落ち込んでるな……。

 そんなに仲間外れにされたのが嫌だったのだろうか。

 

「あー、ことりちゃん、そんなに行きたかったなら、今度一緒にご飯食べに行こうか」

「!? ほんとですかっ!?」

 

 瞳をキラキラさせ、心底嬉しそうに俺を見つめることりちゃん。

 

「約束ですよ、約束ですよ!?」

「あぁ、約束だ。今度食べに行こうな。

 

 

─────────四人で」

 

 

─────その瞬間。

 

 

 ことりちゃんの表情が凍りついた。

 

 

「……」

「えっ……あの…ことり、ちゃん?」

 

 

 ことりちゃんはそのまま無言で荷物をまとめ、その場を立ち去ろうとする。

 

 

「ちょっと、ことりちゃん!?」

 

 

 

「───────優真くんのバカっ!!」

 

 

 

 そう言うと、ことりちゃんは神田明神から走り去っていった。

 

 

 

「……今のは…」

「優真先輩が、悪いよねぇ……」

 

 

 

 

 後輩2人にも非難され、その場に立ち尽くす俺だった。

 

 

 

 

「ええと、西木野さんは、っと……」

 

 放課後、俺は一年生の教室に来ていた。

 目的は、西木野さんに会って作曲の話をするため。

 幸いにも1年生は1クラスだから探すのは楽だと思っていたんだが……

 

「あ!優兄ィ!どうしたの?」

「ん…凛。西木野さんいるか?」

「西木野さん?多分音楽室じゃないかにゃ?」

「え、もしかして毎日音楽室通ってるの?」

「うん、多分!少なくとも今日まではずっと!」

 

 …許可取りに来いって言ったのに一回も来てねぇぞ、あの子……

 

「そっか…わかった、ありがとな、凛」

「うん!…西木野さんもアイドルに誘うの?」

「…あぁ、作曲を頼もうと思ってる」

「そっか……」

 

 凛は少し寂しそうな顔をした。

 ───やはり本心では………。

 

「 ……凛?」

「にゃ!!なんでもないなんでもない!ほら、早く音楽室にいくにゃ!」

「……へ、お前もくるのか?」

「そうだよ!西木野さんともお話ししてみたかったし!」

 

 さぁいくよー!と凛は俺よりも先に音楽室へと走っていった。

 

 ……まぁ、いっか。

 

 俺は凛の後を追いかけた。

 

 

 

 

「〜〜♪」

 

 また今日も聞こえる、あの魅力的な歌声。

 

 

「すごぉい……。こんな綺麗な声、初めて聞いたにゃ…!」

 

 凛も西木野さんの歌を聴くのは初めてのようで、目を輝かせて感動していた。

 俺はあの日のように演奏が終わるまで入口の前で凛と待機していた。

 

 歌が終わった瞬間、凛が音楽室の中に飛び込む。

 

「すごーい!すごいすごいすごーい!西木野さん、こんなに歌上手だったんだね!あとピアノも!」

「うえぇぇ!?ほ、星空さん!?一体なんなの!?」

「凛でいいよ!それに優兄ィから聞いたよ!西木野さんその曲自分で作ったんでしょ?本当すごいにゃ!」

「ゆう、にい…?」

「……俺だ」

 

 そのタイミングで、ドアのところに俺が立っていたのに気づいたようで、西木野さんは顔をしかめる。

 

「……朝日…先輩」

「……俺、音楽室使うときは生徒会室に許可取りに来いって言わなかったっけ?」

「…ごめん、なさい……」

「別に使うのがダメなわけじゃないから。俺だって西木野さんの歌好きだし」

「なっ……!」

 

 あれ、なんで顔赤くなってるの?

 

「わかった?今度からちゃんと許可取りに来てくれよ?次はないからね」

「……はい」

「その代わりに…」

「……!」

「…なんてことは言わないよ。改めてお願いに来た。西木野さん、俺たちの…」

 

 

 

「優兄ィ達の曲、作ってあげて!」

 

 

 

 

 俺の声にかぶせて、凛が話に割り込んでくる。

 

「星空、さん…?」

「西木野さんが曲を作れば、ぜーったいにすごい曲ができるよ!だってこんなに歌もうまいし、曲作りも上手だし!」

「〜〜〜〜っ!」

 

 西木野さんは顔を真っ赤にしているが、凛のどストレートすぎる褒め方に、いつものツンデレを発動できないでいる。

 凛を連れてきたのは結果的に正解だったな。

 

 ……いや、ここまでなら穂乃果でもやれたはずだ。

 つまり、厄介なのはここから…

 

「ねぇお願い!西木野さんっ!」

「……ごめんなさい、私、アイドルの曲には興味がないの」

「えぇーなんでなんで!可愛いし、盛り上がるのに!」

 

 

 

 

「────軽いから。私が普段聴くのはジャズとかクラシックとかだし」

 

 

 

 西木野さんはそう言ったけど、俺にはわかる。

 

 ……この子も胸には、アイドルという存在に憧れを秘めている。

 

 そう思って俺が口を開こうとしたとき…

 

 

 

「─────嘘だよね?」

 

 

「え……?」

 

 笑顔で西木野さんに問いかける凛。

 

「なんで……そう言えるのよ」

「んー、なんでだろーね。根拠はないにゃ。

 

───でも凛、嘘ついてる人、わかっちゃうから」

 

 先程までの笑顔とは違い、悲しそうな笑みを浮かべる凛。

 

 

 ……それは自分自身が“嘘”を吐き続けてるから?

 ……それとも、ずっと嘘を吐き続けた“人”を見てきたから?

 

 

「だから西木野さんは、本当はアイドルに興味があるってことだよね!」

「な…!何よその理論!意味わかんないっ!アイドルになんか興味ないわよっ!」

「あー、顔赤くなってるにゃ〜」

「ち、違う!」

 

 

 ……俺が出るなら───ここだ。

 

 

「っ!?先輩!?」

 

 俺は西木野さんに、大きく頭を下げた。

 

「西木野さん───頼む。俺たちには君の力が必要なんだ」

「あ、頭上げて!」

「君が受けてくれるまで上げない」

「ず、ずるいわよ!」

「ズルでも何でもいい。────君じゃなきゃダメなんだ」

「……本気でやってるんですか?」

「…何を?」

「アイドルです。本気でスクールアイドルで廃校を阻止するつもりなんですか?」

「……あぁ、そうだよ」

 

 

 

「どう考えても無理よ!無謀だわ!」

 

 

 

 そう叫んだ西木野さんの声を聞いて、俺は静かに顔を上げる。

 

 

「──────そうかもしれないね」

 

 

「っ……認めるん、ですか……?」

「君が言い出したんだろ?どうしてそんなに傷ついた顔してるの?」

「っ…!」

 

 俺の言葉に、西木野さんは目を背けた。

 

「わかってるよ。本心じゃなかったんだろう?

俺が怒って帰ると思ったんだよね?

残念、無理無謀なんで最初からわかってるんだよ、俺たちは。

 

──────────でもやるよ、俺たちは。

 

誰になんて言われても

 

廃校阻止の奇跡を起こす」

 

 

 

 俺“達”の覚悟を乗せて、西木野さんに言葉をぶつける。

 

「どうして…そこまで学校のために……?」

「違うよ」

「え…?」

「学校のためにってのはもちろんなんだけど、1番はそうじゃないんだ」

「じゃあ、どうして……?」

 

 

「────“やりたいから”だよ。

俺たちは今、やりたいことを本気でやってるんだ。

そのためなら、どんなことでも惜しまない」

 

 

 

「っ……」

 

 ……今の西木野さんの表情はなんだ……?

 妬み?憧れ?…………否。

 

 

 羨望、か。

 

 

「だから改めてお願いするよ、西木野さん。

────俺たちに、曲を作ってください」

 

「……」

 

 西木野さんは答えない。そこで俺は、ポケットから一枚の紙を取りだした。

 

「これ、俺たちが作った詞。読んでみて」

 

 俺と海未が、たくさんの思いを込めて作った詞。

 この思いは必ず、君に届くはずだ。

 

 西木野さんと、その横にいた凛が歌詞を覗く。

 2人はしばらくの間、俺たちが作った歌詞の世界に入り込んでいた。

 

「……これは…」

「すごいにゃ……!」

 

 西木野さんと凛の口から、思わず言葉が溢れる。

 しばらく読んだ後、西木野さんはそれを丁寧に畳んだ。

 

 

「……俺たちの思い、伝わったかな?」

「…はい、とても」

 

 

 すると西木野さんはカバンをとって、音楽室から出て行こうとする。

 

「ちょっと、西木野さん!?」

 

 凛が思わずその後ろ姿に声をかける。

 西木野さんは、ドアの前で立ち止まり、振り返る。

 

 

 

「─────期待しないで待ってて。

 

 

……頑張ってみるわ」

 

 

 

 そう言って彼女は優しく微笑んだ。

 

 

 

「西木野さん…!」

「今回だけですよ?出来上がったら、星空さんに渡します。では、失礼します。早く作ってみたいので」

 

 最後にそう言うと、彼女は今度こそ音楽室を後にした。

 

 

「やったね!優兄ィ!」

「……あぁ。お前のおかげだよ。ありがとな、凛」

「凛は何もしてないよ!思ったことを言っただけだにゃ」

「俺一人じゃ、絶対説得できなかった。凛がいたからだ」

「そ、そっか〜うれしいにゃ」

 

 顔を赤くして照れる凛。

 

「じゃあ今度一緒にラーメン行くにゃ!」

「あいよ。美味しいとこ連れてってくれよ?」

「任せるにゃ!」

 

 

 

 

 この時見た凛の笑顔は、何故かとても輝いて見えた。

 

 

 

 

 ──────そして二日後、凛から曲ができたという知らせを受けた。

 俺たちに練習時間がないことを考慮してくれたのか、本当に速い完成だった。

 気になるところがあったら手直しするので報告してくれとのこと。

 

 昼休み、屋上に集まりPCの周りを囲む俺たち4人。

 凛は本番のライブを楽しみにしているということで、席を外してくれている。

 

「じゃあ……いくよ」

「あぁ」

「うん…!」

「はいっ」

 

 穂乃果は再生ボタンを押した─────その瞬間流れ出すあの魅力的な歌声。

 そして歌われているのは──────

 

「私たちの詞……!」

「これが、私たちの……!」

「─────私たちの…歌……!」

 

 ここまでの曲を、これだけの短時間で…!

 手直ししてほしいところなんて全くない、完璧だ。

 やはり彼女は……天才だ。

 この曲なら……やれる!

 

 穂乃果は突然立ち上がり、金網にしがみつく。

 

「ほ、穂乃果ちゃん!?」

 

 そして彼女は、叫ぶ。

 

 

 

 

「にしきのさぁーーーーーーん!!

 

 

ありがとぉーーーーーう!!!」

 

 

 

 

 

 

ありがとぉーーーーーう!!!」

 

 

 その声は、教室にいた真姫にも届いていた。

 

「…西木野さん、呼ばれてるの?」

「し、知らないわよ!」

 

 クラスメイトに反芻し、窓の外を頬杖をしながら眺める真姫。

 

 

 

 

「…ふふっ」

 

 

 その口元は、確かに微笑んでいた。

 

 

 

 

 




最近4,000字越えかデフォルトになりつつありますね、すいません。
というわけで今回は真姫ちゃんの久々の登場でした!
作詞を引き受ける経緯がアニメとかなり違ったと思いますが、いかがでしょうか。
さて、次回はファーストライブに突入するはずです!
次回もよろしくお願いします!
感想評価アドバイス等お待ちしております!

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