さらに皆様のおかげで、評価の部分に色が付きました!
本当にありがとうございます!
全て読者の皆様のおかけです!
これからも精進していくので応援宜しくお願いします。
さて、今日は個人回です!
初の個人回は海未ちゃん!
終始海未ちゃん視点で話が進みます。
では、今回もよろしくお願いします!
「では、いってまいります」
皆さま、どうもご機嫌よう。
園田海未と申します。
今日は日曜日、μ'sの練習は休みです。
朝日先輩が完全な休息日を一日も受けた方が体力的にも精神的にも効果的だと提案してくださったので。
私もその案には賛成でした。
ことりは今日は衣装作りの準備、穂乃果はにこ先輩から借りたアイドルのDVDを鑑賞すると言っていましたが、私と朝日先輩には大切な仕事があります。
──────そう、作詞です。
あの日、ことりの魔法にかけられ、私たちは作詞をすることになってしまいました…
あれは反則です…
今日は朝日先輩と会い、二人で作詞を行います。
待ち合わせの場所へ10分前に行くと、そこはもう朝日先輩の姿がありました。
「先輩、ご機嫌よう。お早いですね」
「ん、海未。ご機嫌よう。お前こそ。まだ10分前だよ?」
「先輩に言われたくないです!私よりもっと早かったじゃないですか」
「こういう時は男の方が先に来るのが普通だよ。……んじゃ、立ち話もなんだし、いこうか?」
「あ、はい!」
1年以上、朝日先輩と一緒に居てわかったことがあります。
朝日先輩は真面目な話をする時とプライベートでは口調や話すトーンが全然違います。
普段学校では話さないような優しい言い方で会話をしてくれるのです。
そのギャップに少しドキドキしたり───って私は何を考えているのですかっ!?
「ん?海未ー?どうした?」
「あっ、いいえ、なんでもありません……」
「……変なやつだな」
そう言って笑う先輩。
うぅ……恥ずかしいです……
「じゃあ、改めて行こうか。近くのモールの中の喫茶店でもいい?」
「あ、はい!どこでも!」
切り替えなければ…今日は真面目な話なのですから!
そう自分に念じて、私と朝日先輩は歩き出しました。
▼
1年前の夏にみんなで行ったモールの中にある喫茶店に着いてから注文した飲み物を待つ間、私達は他愛もない話をしていました。
「─────ですから、また穂乃果にしてやられたんですっ」
「はははっ。海未もいっつも大変だよなぁ。ことりちゃんもあんな風して実はストッパーというより悪ノリするタイプだからね」
「そうなんです!全くあの2人……もう少ししっかりと考えてから行動してほしいものですっ」
「本当に海未は立派だよ。俺もあの2人には振り回されることが多いけど、疲れるよなぁあの2人の扱いには……
そういえば、海未とこうして2人で会うのは滅多にないな」
「はい、2人きりで会うのは初めてのような……」
……ん?
“初めての2人きり”?
どどどどうしましょう…今までわかっていたつもりでしたけど、口にしたら急に緊張してきました……
「ん…?急に下向いてどうしたの?」
あぁ……優真先輩の口調が優しい!
その優しさは逆に私の心拍数を加速させるだけですっ!
「……いえ……大丈夫です…」
「いやいや、大丈夫じゃないだろ?そんなに顔赤くして……熱ある?」
そして朝日先輩は──────
私の額に自分の額を当てました。
「っ…………!」
その後数秒の記憶が、私の中から抜け落ちていました。
僅かに覚えているのは、先輩から出た大きな悲鳴だけ──────
▼
「本当に申し訳ありませんっ!」
「い、いやもう大丈夫だから……いきなり触った俺の方が悪いよ」
今私の目の前には、左頬を赤く腫らした朝日先輩が座っています。
「……うぅ…私はなんてことを……」
「大丈夫だってば。もうこの話は無しにしよう。俺にとっても海未にとってもいいことなんてないよ」
「……はい…」
「うん、じゃあ─────始めるぞ」
「……!はい」
朝日先輩の、雰囲気が変わった。
ならば私も私情を挟むわけにはいきません。
私と朝日先輩はノートを取り出しました。
作詞をすることが決まったあの日から、私達は曲に使えそうなフレーズをノートに書き貯めておくことにしました。
テーマは“始まり”。
μ'sがこれから歩む道が希望に満ち溢れるように。
そんな未来を創るための、始まりの曲。
そんな願いを込めた歌を作る。
それが私と朝日先輩が持った共通の意思。
「……なんか改めて見せ合うってなると緊張するな」
「はい……そうですね。では、互いのノートからこれは使えそうというものをピックアップしていきましょう」
それぞれのノートを互いに交換して中に目を通し、使えそうなものに印をつけていきます。
─────これは……!
─────この中から、ピックアップする……?
────こんなに素晴らしい詞ばかりなのに……?
朝日先輩の詞には思いがこもっている。
『お前たちの成功を、心から願っている』
詞がそう語りかけてくるようでした。
決して思いつきを並べただけじゃない、しっかりと考え抜いて形にされた一つ一つの詞。
結局私は先輩のノートに書かれたほとんどの詞を採用してしまいました。
一方先輩は、先程からずっと神妙な顔つきで私のノートを見ています。
やはり、出来が悪かったのでしょうか……
しばらくして、先輩が顔を上げました。
「ん……。あぁすまん、待たせたな。じゃあ、見ていこうか」
そして互いに、ノートをテーブルの上に広げました。
「これは……!」
私のノートに書かれた詞は、ほとんどが採用されていました。
「あれ、俺の全然減ってないけど…」
「先輩こそ。私の全然減ってないじゃないですか」
「……海未、正直俺はお前を見くびってた。
詞じゃなくて、“単語”を並べてくるんじゃないかと、そう思ってた。
でも、お前は違う。
─────この詞には、お前の思いがこもっている。
詞一つ一つに、お前のμ'sに対する気持ちもこもってる。
これを形にすれば、絶対いい曲ができる……!
俺の詞なんて、最初から必要なかったな」
「そ…そんなことありませんっ!」
突然の私の大声に、びくりとする朝日先輩。
「朝日先輩の詞にも、たくさんの思いが込められているのがわかりました!
私達に対して、たくさんの思いや願いを託していることも!
……それに先輩も、私達の大切なメンバーの1人なんですから。
先輩の詞が必要無いなんてことはありませんよ」
「海未…。ありがとな」
笑顔になった先輩を見て、私も笑顔になります。
……はっ!大声で喋りすぎました…周りの人が何事かとこちらを見ています…
「んじゃ…どうしようか、流石にこれだけの詞を全部は使い切れないし…」
「そうですね…では、お互いにの中にあった、これは使ったほうがいいというのを選んでいくのはどうでしょうか?」
「ん、そうだな。それがいい。…じゃあ海未から頼む」
「はい、わかりました」
そして私は改めて朝日先輩のノートに目を通しました。
「……私はこの『いつか空に羽ばたく』というのがいいと思います。
まだ始まったばかりの私達の活動が、いつか結果につながっていくという思いがぴったりだと思います」
「…俺もその詞はそういう意味を込めた」
「あ、当たりましたね♪…では、先輩、お願いします」
「あぁ。……俺はこれだな、『明日よ変われ 希望に変われ』ってとこ。自分たちの力で音ノ木坂の明日を切り拓いていきたいって気持ちが伝わってくるいい詞だと思う」
「……先輩も、凄いですね…」
「ん、当たりか?よかったよかった」
私の言葉に、先輩も笑顔を浮かべます。
「…あと、所々に使ってある、『ダッシュ』。
俺はこれも使っていきたいって考えてる」
「はい、“始まりの歌”と言うことでしたので、スタートを意識して……」
「「!!」」
私も先輩も同時に目を見開きました。
「─────考えてることは」
「おそらく一緒、ですよね?」
そこから私達の話は、恐ろしい程の速さで進んでいきました。
何せ2人の考えている曲のイメージは同じ。
あっという間に時間は経ち、気がつくと3時間経過していましたが、私達はそれを一瞬に感じるほど集中していました。
「────完成だな」
「はい…!」
今はまだ始まったばかり。
壁にぶつかる時もあるかもしれない。
でも、私達は止まらない。
最初から羽ばたくなんて、出来っこない。
だから今は───────助走。
“廃校阻止”のために、全力で走り出す。
そのための一歩を、今、踏み出す。
そしていつかは大空へ─────!
これが、私達の──────!
「「───『START:DASH!!』──!!」」
▼
「今日はありがとね、海未。俺1人じゃ絶対完成しなかったよ」
「いえ、こちらの台詞です。元々私1人でやるはずだったものを…協力していただいてありがとうございました」
時刻は午後6時、あれから私達は喫茶店を出て出口へと歩き出しました。
先輩も今は最初の優しい雰囲気へと戻っています。
私の朝日先輩の第一印象は、“少し冷たそうな人”でした。
もちろん、今では全くそんなことを考えていません。
ただ、出会った当初は、少しぶっきらぼうな言葉遣いや少し周りと距離をとっているような振る舞いが気になり、あまり好印象は抱いていませんでした。
しかし、それは先輩たちと付き合うようになってから変わっていきました。
しっかり者で、私達を引っ張っていってくれている絵里先輩。
大らかで、いつも私達の味方をしてくれる希先輩。
そして──────────
言葉には出さないけれど、誰よりも優しく私達を見守ってくれている朝日先輩。
本人には自覚はないのでしょうが、その優しさに私達は何度も助けられてきました。
しかし────それと同時に気になることもありました。
朝日先輩と希先輩────。
この2人は、本当にただの友人関係なのでしょうか。
2人が恋愛の関係にあるわけではないことは、わかります。
でも、2人には特別な何かを感じるのです。
そして朝日先輩と希先輩は……何かを隠しあっているのではないか、と。
互いが互いを信頼しあっている。
でもそれを互いに口にはしない。
μ'sの結成の際にも、希先輩が関わっているのではないかと、私は密かに疑っています。
あの日────μ'sの名前が決まったあの日、朝日先輩は顔色を変えて飛び出して行きました。
あれは、希先輩と話していたのではないでしょうか…
気になる。でも、聞けません。
どうしても聞いてはいけないことのような気がして……
普通なら、ここまで考えて自分の中で終わらせる。
でも今日は何故か、どうしても気になった。
だから────口に出してしまった。
「朝日先輩」
「ん?なに?」
「─────希先輩とは、どのような関係なのですか?」
私の口からこの言葉が放たれた瞬間、
明らかに朝日先輩の表情が曇りました。
「……どうして?」
「いえ……ただ、少し気になりまして」
「……友達だよ?うん、友達」
「……本当に、それだけなのですか…?」
「……なにが?」
「…先輩たち2人からは、特別な何かを感じるんです。恋愛感情とはまた違う…言葉には説明しにくいですけど……」
「…………」
朝日先輩は黙り込んでしまいました。
───私は何故、このようなことを聞いているのでしょう───。
迷惑になるのはわかっていたはずです。
なのにどうして……。
「……海未にならいいかな」
「…え……?」
「……みんなに言わないでくれよ?
俺と東條は、中学が一緒だったんだ。
一緒だったって言っても、1年の冬までだったけどね。
最後の最後に俺たち、喧嘩別れ? しちゃってね。
俺はあいつを───少し、憎く思ってた。
でもね、嫌いにはなれなかったんだ。
─────俺はあいつが好きだったから」
「……!」
「まぁ、そこからは色々あって、俺は人と関わることが怖くなった。でも、俺はそんな俺を変えるために音ノ木坂に行くことにした。
高校に入ったら、ビックリしたよ。あいつも音ノ木坂に居るんだから。
そして俺はあいつと話をした。
そしてあいつの本心を聞いた。
─────マジで誰にも言わないでね?
俺、いつかあいつに会えたら、今度こそは告白しようって、思ってた。
でも、いざ会って、あいつの気持ちを聞いて、思ったんだ。
この気持ちに縛られたままだったら、俺はいつまでたっても変わることなんてできない、って。
だから俺は、過去のことを忘れて、改めて希と仲良くしていこうって。
そう思ったんだ。
海未がそんな風に感じるのは、昔こんなことがあったからかな?」
「……そうだったんですね」
……朝日先輩は、気づいてないのでしょうか。
一度、“希”と呼んだことに。
「……なぁ、海未」
「……なんでしょう」
「……俺、間違えたかな……?
こんな形で、本当に良かったのかな……?」
初めて見る、朝日先輩の弱った姿。
その表情は、深い悲しみに満ちていて、下手に扱えば割れてしまう、薄い氷のようでした。
きっと先輩は、ずっと自分に問いかけていたのでしょう。
自分の選択は、間違っていたのか、と。
先輩は、自分の気持ちに嘘をついて、自分を傷つけた。
そしてきっとそれは、希先輩も傷つけたと思います。
2人が傷ついて、リセットして歩み出した新たな道。
その覚悟を否定する権利は、私には、いいえ、誰にも無いように思いました。
─────たとえそれが“間違いだった”としても。
「……私には、わかりません…。
ただ、朝日先輩が、今を…私達と過ごす今を楽しいと思うなら
先輩の“間違えた”選択は
“正しかった”のかもしれませんね」
「……!」
きっとそうだと思います。
間違い=不正解では無いのでしょう。
今が良かったと感じるならば、たとえその選択が“間違い”だったとしても、“正解”に繋がる。
そのとき私は、そう思いました。
「海未……。すまん、ありがとね。ごめんな、こんな話しちゃって」
「いえ!私が聞き出したことですので…。
朝日先輩にはいつもお世話になっていますし」
「そういえばさ、海未」
「? どうしました?」
「───いつまで“朝日”先輩なの?」
「っ!?」
「あぁいや。穂乃果もことりちゃんも、最初から名前呼びだったから。海未から苗字で呼ばれるのは少し距離感じてたんだ」
「っ!す、すいません!そんなつもりはっ…!初対面の方に礼儀を欠かないようにと…」
「あぁ、謝る必要は無いって。大丈夫、ちゃんとわかってるから。これは俺のワガママだよ」
さ、帰ろうか。と朝日先輩は歩き出します。
その背中を見て──────思う。
私も───勇気を出して踏み出すなら……今だ。
「“ゆうま”!先輩っ……」
呼び方を意識するあまり、名前のところだけ大きくなってしまいました…。
私の声に先輩は振り返り、私に笑顔で声をかけます。
「……ん?どうしたの?」
「……もう少し…一緒に…居ません、か……」
勇気を出して、踏み出した。
先輩は笑顔で私に歩み寄り───
私の頭の上に、優しく手を乗せます。
「────うん、いいよ。夕飯でも食べていこっか」
「……! いいんですか…?」
「折角の2人きりだしな。どうせならもう少しゆっくり海未と話してから帰りたい。お金は俺が出すから、どう?」
「はい…はい、是非!」
「んじゃ、いこっか」
そう言って先輩は再びモールの中へと歩き出します。
──────手を繋ぐなんて堂々としたことはできません。
でも──────少しくらいなら。
私は先輩の服の袖の端を、ちょんとつまみました。
自分でも顔が赤くなっているのがわかり、思わず下を向きます。
「ん……なんだそれ」
私を振り返り、声をかけた先輩。
「いいから!ほら行きますよ!
────ちゃんとエスコートしてくださいね?……“優真”先輩」
「任せとけよ、海未」
まだまだ2人だけの休日は続く──────
今回、何気に優真が“希”への恋愛感情をはっきりと口にしたのは初めてだったりします。今までは“大切な人”とかぼやかした表情ばかりだったので。
と言うわけで、海未ちゃん回でした。
ストーリーを進めるために、終始いちゃいちゃと言うわけにはいきませんでしたが、いかがでしょうか。
次は普通のお話です!作詞の次は…あれですね。
今回もありがとうございました!
感想評価アドバイス等お待ちしております