ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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可能性、感じたんだ

13話 可能性、感じたんだ

 

 

 

 そして次の日の昼休み。

 

 今日も俺たち3人は廃校阻止についての話し合いをしていた。

 ただ昨日と違うのは、そこに穂乃果たちがいること。

 何やら、穂乃果からある提案があるらしい。

 …ことりちゃんと海未の顔を伺う限り、マトモな話じゃなさそうな雰囲気がプンプンする。

 

「……で、穂乃果。提案って何?」

「はい、絵里先輩!

 

 

 

────スクールアイドルです!」

 

 

 

 

 ……は?

 

 今……なんて……?

 

 

 

「……スクール、アイドル?」

「貴女たちが……?」

「はい!スクールアイドルって、今すごい人気なんですよ!」

 

 

 

……知ってる。

 

 

 

「スクールアイドルを始めて、この学校に注目を集めれば、入学希望者が増えるんじゃないかって…」

「穂乃果は入学式の時に見た、あのステージを思い出して、自分たちもやってみようと思ったそうなんです」

 

 

 

 

 ……あれを、見て、か。

 

 ……あいつが聞けば喜ぶかもしれないな。

 

 

 

 

 ──────でも、俺は知ってるんだ。

 

 

 

 ──────“ソレ“に本気で取り組んで失敗したやつのこと。

 

 

 

 ──────だから、軽い気持ちでお前たちが“ソレ”に取り組もうとするなら。

 

 

 いくらお前たちでも────それだけは。

 

 

 

 

 

「やめとけよ」

 

 

 

 

「…え…?」

 

 俺の真っ向からの否定に戸惑う穂乃果。

 

「軽い気持ちで始めてスクールアイドルが上手くいくなら誰だって始めてる。あのステージは、努力に努力を重ねたやつが立てる場所だ。お前みたいなやつが立てる場所じゃない」

「ちょっと、優真くん…!?」

 

 絢瀬が制止に入るが、俺は言葉を止めない。

 

 

「とにかくだ、穂乃果─────

 

─────アイドルは、無しだ」

 

 

 穂乃果はしばらく俯いて唇を噛み締めていたが、突然生徒会室を飛び出した。

 

「穂乃果っ!?」

「穂乃果ちゃん!?」

 

 2人が呼びかけるも、穂乃果はそのまま走ってどこかへ行ってしまう。

 ことりちゃんが俺たちに礼をした後、穂乃果を追って生徒会室を出て行く。

 

 …残ったのは、俺を睨みつける海未。

 

 

 

 言い過ぎたなんて、これっぽっちも思ってない。

 あれは俺の紛れも無い本心、そして────

 

 

 

 

「…ふふっ」

 

 

 

 

 睨んでいた顔を緩め、笑顔を俺に向ける海未。

 

「…どうした?」

「…ちゃんとわかってますよ。朝日先輩がどうしてあんなことを言ったのかくらい」

「……」

 

 

「……わざと穂乃果を“傷つけた”んですよね?

 

 

穂乃果が行動を起こして“もっと傷つく”前に。

 

 

私もことりも────おそらく穂乃果にも、ちゃんと先輩の思いは伝わっていますよ」

 

 

 

 そう言うと、海未は一礼して生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

「────全部バレてたみたいやね?」

「……東條もわかってたのか?」

「流石にわかるよ。ゆーまっちがどんな人か考えれば一瞬や。ちなみにえりちも多分わかっとるよ?」

 

 

 

 ……海未のいう通りだ。

 

 俺はわざと穂乃果を傷つけた。

 自分の苛立ちをぶつけたのも事実だが、

 それ以上に、もう見たくなかった。

 

 

 

 夢に敗れ、大切なものを失ってゆく人の姿を。

 

 

 だから、止めようとしたが……

 ここにいた全員に筒抜けかよ恥ずかしい。

 

「まぁでも……私もスクールアイドルには反対だわ。あの子たちの行動で、何かが変わるとは思わない」

 

 

「ウチは賛成やけどな〜」

 

 

「東條…?お前本気で言ってるのか?」

「本気も本気、大真面目やで♪」

 

 その笑顔が、今日は気に障った。

 

「お前……矢澤のこと忘れたのかよ」

「忘れるわけ無いやん。でも、穂乃果ちゃんたちがアイドル始めることと関係ある?」

「関係無いわけ無いだろ?またあいつらに同じ思いさせるつもりかよ!」

「そうよ希。あの子たちがアイドルを始めて学校のために活動したって…」

 

 

 

「ねぇ、2人とも。どうしたの?」

 

 

 

「は…?」

「どうしたのって……貴女の方こそ」

 

 

 

 

「さっきからどうして失敗が前提の話しかせんの?

どうして否定的な考え方でしか物事を捉えんの?」

 

 

 

 

「っ…」

 

 

「自分でもわかっとるんやない?

─────何もできない自分たちに苛ついて、公平な判断ができてないこと。

─────いつもの2人なら、頭ごなしに否定なんてせんはずや。

…立場は違っても、頑張れって言いながら、応援したはずや……

もどかしい気持ちはわかる。でもそれであの子達に当たるのは良くないんやない?」

 

 

 ……俺は、あいつらに当たっていたのか…

 

 

 否定しようと思った、そんなことはないと。

 

 でもできなかった。

 東條の言葉に、少なからず心当たりがあったから。

 自分たちができないこと───廃校を阻止することを、あいつらにされてたまるか、と。

 そんな気持ちが全くなかったといえるだろうか?

 矢澤のことを引き合いに持ち出して、苛立ちをぶつけただけではないと、心の底から断言できるだろうか?

 

 だとすると、俺はやっぱり穂乃果達にひどいことをしたのかもしれない。

 

……俺もまだまだガキだ。しかも人から指摘されないとそれに気づけない。

 

「……そうだな。ありがとう、東條。お前の言う通りだ。

まだ始めてもないのに、それを頭から否定する権利なんて俺にはなかった。まだ詳しい話も何も聞いてないのに。……放課後、あいつらともう一回話してくる」

「うふふ♪それでこそゆーまっちやな」

「……そうね、希。貴女は正しいわ。

─────でも、廃校を阻止するのは、私たち生徒会よ」

 

 絢瀬は確固たる決意を表情に表す。

 

 

 

「……えりちはまだ早いか……」

 

 

 

 東條の小さな呟きは、俺の耳にも、絢瀬の耳にも届くことはなかった。

 

 

 

 そして放課後。俺は穂乃果達に会うため、校舎内を散策していた。

 会って、謝らないとな。

 いかに別の意図があったとしても、俺の意思で穂乃果を傷つけたことには変わりない。

 

 

 

 そして特別教室棟に着いたとき。

 

 

 

「………る……んざ……」

 

 

 ん……?ピアノ…?それに歌声……?

 

 俺は音源と思われる音楽室へと足を向ける。

 

 

 

 

 そしてドアの前に立ち、中を覗き見る。

 

 

 

 そこには、赤髪の美しい少女が、それに見合う美しい歌声でたった一人の演奏会を行っていた。

 

 

 ────なんて綺麗な歌声なんだろうか。

 こんな綺麗な歌声、聞いたことがない。

 

 

 引き込まれた。少女の演奏、歌声、雰囲気、佇まい……その全てに。

 

 

 

 俺は彼女の演奏が終わるまで、ただそこに佇んでいた。

 

 

 

 演奏が終わる頃を見計らい、俺は音楽室に入る。

 

「すごい上手だったよ」

「……うえぇ!?またなの!?」

 

 ん…?“また“?

 

「“また”って?」

「……昼休みも来たの。私の演奏を盗み聞きしてた人が。『アイドルやってみないか』って」

「あれ、すごい心当たりある……」

 

 生徒会室から抜け出した後、ここを通ったのか。

 まぁなんにせよ。

 

「多分それ俺の友人だ。迷惑かけたね」

「別に。……で、次はあなたですか」

「俺もたまたま通っただけだよ。ドアから漏れてた歌声とピアノに、引き込まれたんだ」

「……」

 

 目の前の赤髪の少女は、少し顔を赤くしながら横を向く。

 

「まぁ、本当は俺の立場上勝手に音楽室使ってるのを注意しないといけないんだけど……」

「えっ、生徒会…なん、ですか?」

「あぁ。まぁでも、今回は勘弁してあげるよ。そのかわりこれからは一言生徒会室に許可を取りに来てくれないかな。そしたら、いつでも使わせてあげるから。

あ、俺の名前は朝日優真。君は?」

 

 

 

 

「……ありがとうございます。

 

 

────西木野真姫。一年生です」

 

 

 

 

「西木野さんね。よろしく。…その歌、自作なの?」

「えぇ。一応、私が全部」

「やっぱりか。どうりで聞いたことないと思った。作曲もできるんだな、すごいな」

「と、当然でしょ!」

 

 …あれ、この反応の仕方はもしかして…

 

「で、昼に歌を褒められて嬉しかった、と」

「そ、そんなわけないじゃない!普段から褒められ慣れてるし!別に嬉しくなんかないわよ!」

 

 そう言って俺に背を向けて顔を真っ赤にしながら腕を組む西木野さん。

 うん、この子、ツンデレってやつや。

 

「なるほどなるほど…君の気持ちはよくわかったよ」

「何勝手に人の気持ち読んでるのよ!」

「いや、読むまでもないわ、ダダ漏れだし」

「んなっ……!」

 

 あぁ、顔が髪に負けないくらい真っ赤になっていく……

 

「う、うるさーーい!!意味わかんないわよ!…今日はもう帰ります!ありがとうございました!」

 

 そう言うと西木野さんはすごい速さで音楽室を出て行った。

 ……あそこまでのツンデレはもはや希少価値だぞ。

 

 

 

 …まぁでも今は。

 

 改めて穂乃果の真意を見極めないとな。

 

 

 

 

「あれ、海未、ことりちゃん。何してるんだ?」

 

 廊下の窓から中庭を歩く2人を見つけ、俺は声をかけた。

 

「あ、優真くん!今から穂乃果ちゃんのところに行くんです」

「あ、本当?ちょっと待っててくれる?俺も行きたい」

 

 そして窓枠から身を乗り出し華麗に二人に合流……は、しないでフツーに廊下のドアから中庭に出て二人と合流した。

 

 

 

「穂乃果のせいです……穂乃果があんなこと言うから…」

「えぇと…弓道に集中できなかったのか?」

 

海未は現在、弓道部で活動している。

袴姿がこれほど似合う女性も、そうはいないだろう。

 

「海未ちゃん、さっき顔真っ赤にしてなにを考えて」

「やめてくださいことり!……やはり私は、アイドルが上手くいくとは思いません」

 

そういって俯く海未。やはりこの二人も、突拍子な穂乃果の提案に、内心では戸惑っていたのだろうか。

 

「こういう事って、いっつも穂乃果ちゃんから言い出してたよね」

「そうなのか?…まぁそうだろうな」

 

 

「穂乃果はいつも強引すぎます…」

 

 

 

「でも海未ちゃん。

 

 

 

後悔した事、ある?」

 

 

 

 

 海未は答えなかった。無言の否定。

 きっと、ずっとそうだったのだろう。

 あと一歩の勇気が出ない二人を、穂乃果がどこまでも引っ張っていく。

 2人だけでは見られない、3人でしか見られない景色を、何度も見てきたのだろう。

 どれだけ穂乃果が無茶無謀をしても、2人が穂乃果が好きなのは、そういう所に理由があるに違いない。

 

 

「ほら…見てみて」

 

 

 ことりちゃんが示す方向を見ると

 

 

 

 1人でダンスの練習に取り組む穂乃果がいた。

 慣れない動きで何度も失敗したのだろう、制服に所々草や土が付いている。

 そのひたむきな姿勢に、心が動かなかったといえば嘘になる。

 

 

「ねぇ海未ちゃん、優真くん……私、やってみようかな」

「ことり……」

「ことりちゃん……」

 

 満面の笑みを浮かべることりちゃん。

 

 

「うわっととと!」

 

 ダンスをしていた穂乃果が尻餅をついた。

 

「いったーい……やっぱり難しいな……でも、頑張らないと」

 

 

 

 

 そんな穂乃果に差し出される、手。

 

 

 穂乃果が顔を見上げると、そこには海未がいた。

 

 

「1人でやっても意味はありませんよ。

────やるなら3人でやらないと」

 

 

「海未ちゃん……!海未ちゃーーーーん!!」

 

 

 海未に抱きつく穂乃果。それを見て微笑むことりちゃん。

 

 

 

 俺は────俺は…………俺は。

 

 

 

「……一つ聞いてもいいか?」

 

「優真先輩…?」

 

 

 俺は穂乃果に問いかけた。

 

 

 

 

「どうして……そこまでスクールアイドルを…?」

 

 

 

「そんなの、決まってるじゃないですか。

 

 

やりたいからです!

 

 

学校のためっていうのももちろんですけど、アイドル、やってみたいんです!自分にできる、精一杯をやってみたいんです!」

 

 

 

 

 この言葉に、俺は頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

 ────あぁ、そうか。

 

 

 それでいいんじゃないか。

 

 

 俺は東條や絢瀬、みんなと出会えたこの学校を────凛と花陽が通うこの学校を守りたい。

 

 

 この思いに御託も建前も必要ない。

 

 

 “やりたいから、やる”。

 

 

 それが答えだ。

 

 

 理事長が言ってた事はそういう事だ。

 

 

 俺たちが持っていたのは、“義務”。

 

 

 学校を守れるのは生徒会だけだと、俺たちがやらなければならないという、自分自身の意思とは程遠い、義務。

 

 

 だから理事長は俺たちを認めてくれなかったんだ。

 

 でも、今わかった。

 

 

 ─────大切なのは、“意思”。

 

 理事長は、“学校のために学校生活を犠牲にするようなことをすべきではない”と言った。

 それは俺たちに、“意思”が伴ってなかったからだ。

 でも、“廃校阻止のための活動をするな”とは言っていなかった。

 

 

 つまり理事長が俺たちを許可しなかったのは、

 学校のために生徒会で活動する事が、俺たちの本心じゃなかったから。

 俺たちが“義務”感で活動しようとしたから。

 

 

 だったら───────俺は。

 

 

 “やりたいこと”を、“やりたいように”やる!

 

 

「──────穂乃果」

「ん?どうしました?」

 

 

 

 

「俺に、お前たちの手伝いをさせてくれないか。

 

────俺もお前たちと一緒に、学校を守りたい」

 

 

 

「…!」

 

 俺は穂乃果に手を差し出す。

 

「─────はい!もちろんです!」

 

 穂乃果は確かに、力強く俺の手を握り返した。

 

 

 ……東條は最初からわかっていたんだな。確かにあの場で説明されていても、納得いかなかったと思う。

 これは絢瀬が自分で気付くべきことなんだ。

 

 もう迷わない。

 

 俺は──俺たちは、俺たちのやり方で学校を守る!

 

 誰のためでもなく、自分の“意思”で、自分自身のために!

 

 

「よろしく頼む────頑張ろう、穂乃果!」

 

 

 

「うん!

 

 

 

─────私、やる!やるったらやる!!」

 

 

 

 

 この日、俺と彼女たちの“夢”が始まった。

 




優真が理事長の言葉の意味に気付きましたね。
理事長が絵里たちに許可を出さなかった理由はアニメも見る人によって様々な解釈があると思いますが、私はこのように解釈しましたです。
さぁ、後は絵里がいつ気づくか、ですね。
今回もありがとうございました!
感想評価アドバイス等おまちしております!

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