「あ、友くん来てたんだ!」
海子がメイド喫茶から逃走してから数分後――さらに強まった周囲の妬みの視線に耐えながら、一人で彼女のおまじないが掛かったホットケーキを黙々と食べ進めていると、教室全体に大きな明るい声が響き渡る。その声に手を止めて顔を上げると、一人のメイドが綺麗な赤茶色の髪を靡かせながら、小走りでこちらに向かってくる。
「あれ? 陽菜居たのか。教室に居ないから、てっきり休憩してるのかと思った」
「ちょっと向こうの教室で休んでただけだよ。友くんは休憩なの?」
その問い掛けに俺はコクリと頷く。陽菜は空いている俺の正面の席に腰を下ろし、両手で頬杖を突きながらこちらの顔を見つめる。
「そういえばさ、さっき海子ちゃんがスッゴい勢いで向こうの教室に来たんだけど……何かあったの? 何だか話しかけづらい感じだったけど……」
「あー……まあ、色々とな」
「ふーん……でも、海子ちゃんどことなく嬉しそうな感じだったし、きっといい事があったんだよね!」
いい事……なのだろうか? まあ、海子が嬉しそうなら……それでいいか。
「あ、それから優香ちゃんの事聞いたよ! 友くん大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
思い出したようにそう口にすると、陽菜は身を乗り出し、俺の顔を覗き込みながらペタペタと体を触り始める。
「べ、別に何とも無いよ……だからベタベタ触んなよ!」
「……うん、怪我は無いみたいだね。よかった!」
俺の頭のてっぺんから脇腹辺りまで手で触ると、怪我が無かった事に陽菜は嬉しそうに笑う。
「全く……何とも無いって言ってるだろ? わざわざ確認しなくていいって」
「そうはいかないよ! 私は友くんの事何でも知ってるんだから! 昔だって、怪我したの隠して平気だって言ってたりしたからね、友くんは。だから自分で確認しないと安心出来ないの!」
「そんな事あったっけ……?」
「あったよ! 友くんは私に心配掛けない為に言ってたんだろうけど、そうやって言われる方が心配するんだよ?」
「うっ……わ、悪かったよ……というか、今回は嘘じゃないんだからいいだろ」
「うん。本当、友くんに何も無くてよかったよ」
と、陽菜は小さくホッとしたように呟く。
そういえば……昔からこいつは心配性というか、俺の事よく気に掛けてくれてたな。そういうところ、変わってないんだな。
小学生の頃と変わらない、陽菜の優しい心遣いに少し嬉しく思っていると、不意に多くの殺気を感じ取る。その殺気に身の危険を感じ、若干身を縮こませながら、辺りを見回す。
「何だよあいつ……メイドとイチャイチャしやがって……」
「あいつさっきポニーテールの子になんかサービスされてた奴だろ? なんであいつだけ特別扱いされてんだよ……」
「巨乳の女子にボディタッチされるとは……許せんですなぁ……」
「あれ、A組の世名だろ? どこでも女の子とイチャイチャしやがって……ぶっ飛ばすぞマジ」
といった呟きが多々、耳に流れ込んでくる。そこから感じられる憎悪と妬みに気が滅入り、頭を抱える。
流石メイド喫茶……女性に飢えた嫉妬の化身共が沢山集まっていらっしゃる……俺だって頼んでサービスしてもらってる訳じゃ無いから。つーかこれはサービスでも無いから。
とりあえず、このままの状況が続けば周りの男達が大暴走を起こしそうだ。いち早く陽菜との会話を切り上げなければと、俺はこの状況を終わらせる方法を考える。
「……なあ、俺なんかの相手してないで、仕事に戻った方がいいんじゃないか? 客も居る事だしさ」
「あ、そうだね! 海子ちゃんも優香ちゃんも居ないから、私が頑張らないと!」
勢いよく椅子から立ち上がり、自分の頬をペチペチと数回叩き、グッと拳を握る。
「よーし! 休憩した分、また頑張るぞー!」
「すみませーん! 注文お願いしまーす!」
「あ、はーい! じゃあ友くん、また後で!」
こちらに小さく手を振って、陽菜は手を挙げる客の席まで走る。
とりあえずこれで周囲の男達からの殺気が強まる事は無いだろうと、安心しながらホットケーキを食べる。
「お待たせしましたー! ご注文は何ですか?」
「えっと……チョコバナナクレープを一つ」
「チョコバナナクレープっと……かしこまりました! 少々お待ち下さいね!」
注文をした客に満面の笑みを見せると、陽菜は調理場であるB組の教室へと向かった。
陽菜の奴……案外ちゃんと仕事出来てんだな。あいつの事だからミスしたりして、ろくに仕事出来てないと思ってたけど……そんな事無いみたいだ。
まあ、あいつとはかれこれ五年近く離れてたから、成長してるのも当然か。元々人付き合いがいいし、こういう接客業は向いてるのかもしれないな。
そんな事を考えていると、陽菜が注文の品を持って、メイド喫茶へと戻ってくる。
「お待たせしましたー! チョコバナナクレープです!」
「えっ……僕、頼んでませんよ?」
「あれ? ……あ、隣の席だった!」
……やっぱり、成長してないのかな?
「全く……ちゃんとやれよ」
「ハッハッハ、僕はああいうところも彼女の魅力だと思うけどねぇ」
「そうですか? ……え?」
俺の独り言に返事が返ってきた事にワンテンポ遅れてから驚き、慌てて声の聞こえた背後へ首を回す。そこにはいつの間にか俺の真後ろに立ち、顎をさすりながら教室を見渡す青年が立っていた。
「雹真さん……!? どうしてここに……!?」
「久しぶりだね友希君。それにしても……まさかメイド喫茶という聖域がこの学園に存在しているとは……いやー、来てよかったなぁ!」
雹真さんは俺の疑問に答える素振りを見せず、腰に手を当てて高らかに笑う。それに周りの客は変人を見るような目で彼を見つめる。
いつもと違いアロハシャツでは無く、地味めな黒のジャンパーだから変人度は少ないが、怪しい人物であるのは間違えな無い。
このままでは俺もこの変人の知り合いだと思われそうだ。いや実際そうなのだが。とりあえずこの高笑いを止めなければ。
「あ、あの……周りの客に迷惑ですから、静かに……」
「ん? ああ、失礼した。一度来てみたかった憧れの場所に来たのでついテンションが上がってしまった。すまないね、相席してもいいかな?」
「ど、どうぞ……」
「感謝する」
雹真さんは俺の正面の席に座り、被っていた黒のキャップを脱ぎ、テーブルの上のメニューを手に取る。
「改めて……雹真さん、どうしてここに?」
「可愛い妹の最後の文化祭なんだ。兄として来るのは当然だろう? と言っても、雪美のクラスは劇らしくて、次の開始時刻までまだ時間があったから、ここらを見回っていたのさ。そうしたら、この聖域を見つけた訳だ」
「そ、そうですか……仕事は大丈夫なんですか?」
「安心したまえ、今日は休みだ。ああ君、注文頼めるかな?」
雹真さんはチョイチョイと手招きをしながら、一番近くに居たメイドさんに声を掛ける。するとそのメイドは「は、はい!」と若干声を強ばらせながらこちらへ駆け寄る。
緊急してるみたいだな……雹真さん、普通にイケメンだから仕方無いっちゃ仕方無いか。……中身が女の子大好きナンパ野郎と知ったらどうなるか分からんが。
「えっと……イチゴクレープに、コーラを一つ」
「かか、かしこまりました! すぐにお持ち致しますご主人様!」
と、まるで初恋の相手に声を掛けられた恋する乙女のように顔を赤くしながら、メイドは調理場へ向かった。
イケメンのパワーって凄いな……あの子だけじゃ無く、周りにも惚れ惚れしたみたいにこっち見てる人がチラホラと居るし。
「だ、誰かしらあのカッコいい人」
「外国人? スッゴいタイプかも……」
「……というか、なんであのイケメンと世名は仲良さそうなのよ」
「裕吾君や翼君とも仲良いしね……なんで世名君の周りにはイケメンが多いのよ」
「美女だけじゃ無くイケメンとまで仲が良いなんて……生意気ね」
そして、何だか周りの女子の視線まで痛くなってきた。男子に妬まれるなら分かるが、とうとう女子にまで妬まれるようになったか……別に俺悪くないでしょ!
俺の新たな苦痛が生まれた事などつゆ知らず、雹真さんはお気楽に笑いながら背もたれに寄り掛かる。
「ご主人様か……いやー、普段はお坊ちゃまとか言われる事が多いから、新鮮だ。何だか父に対して下克上した気分だ」
「は、はぁ……」
「そういえば、雪美に聞いたぞ。この後ミスコンをするらしいじゃないか。しかも君とのデートを賭けた勝負らしいな?」
「そ、そういう事になってますね……」
「大変だね。雪美はかなり気合いを入れていると聞いているよ。きっと他の子達もそうなんだろうね。友希君には少し申し訳無いが、僕は思う存分楽しませてもらうよ」
雹真さんが再び盛大に高笑いを響かせると、先ほどのメイドが注文の品を片手に戻ってくる。
「お、お待たせしました! こちらコーラと、イチゴクレープになります!」
「ああ、ありがとうね」
「い、いえいえ! ご、ごゆっくりどうぞ!」
雹真さんの爽やかイケメンスマイルにやられたのか、彼女は顔を真っ赤に染め上げて俺達の前から逃げるように立ち去る。
「さてと、頂こうとするか。ところで、友希君はこの後どうするのかな?」
「俺ですか? 一応、知り合いの出店を見て回ろうかと……」
「そうかいそうかい……」
雹真さんはモグモグとクレープを口にしながら、何かを考え込むように目を閉じる。
「ふーむ……友希君、よかったら僕もついて行って構わないかい?」
「えっ!? な、なんでですか!?」
「いや、君と共に行動していると美女に会える気がしてね。言い方は少し悪いけど、君を利用して新たな出会いを求めようと思ってね」
「出会いって……いいんですか、そんな事ここでしてて」
「それは?」
「だって……冬花さんもこの文化祭に来てますよ?」
その言葉に、雹真さんはピクリと眉を動かす。
前回雹真さんがナンパしているところを冬花さんが目撃した時、彼女は尋常じゃ無いほど怒りオーラを出していた。この文化祭で出会いを求めているのを見られたら、同じ事が再現されるだろう。
雹真さんもそれを理解しているのだろう。額に汗が滲んでいる。しかし、雹真さんはニヤリと口元をつり上げる。
「大丈夫だ、問題無い。この広い学園でそう簡単に出会す事も無いだろう。それにその危険性も考え、今回は地味な格好にしたしな。これで周囲の人に紛れ込む事が出来る」
「でも、確実では無いでしょう。流石に懲りたらどうです?」
「フッ、友希君……ナンパ師はね、懲りたら負けなのさ」
「何ですかそれ……なら大人しく負けたらいいじゃないですか。痛い目見ても知りませんよ?」
「もう何十回と見てきたんだ……覚悟の上さ」
なんてくだらない覚悟だ……もう何を言っても無駄だな。
彼のナンパを止める事は早急に諦め、俺はホットケーキをパクリと一口食べる。
「分かりました、いいですよついて来て」
「ありがとうね。しかし、雪美達に先駆けて友希君とデートしてしまったら、彼女達に責められそうだな」
「デートって……止めて下さいよ」
「冗談だよ。僕は根っからのフェミニストだから安心したまえ。そっちの趣味は毛頭無いよ」
あったら困る……この人、相変わらずの自由人というか、なんというか
冗談混じりの会話を雹真さんと交えていると、仕事が落ち着いたのか、陽菜がこちらへ寄ってくる。
「やあやあ、久しぶりだね。相変わらずお元気そうだね」
「はい! えっと……雹真さんも久しぶりです!」
「覚えてくれてて何よりだ。それにしても、なかなかに似合っているんじゃないか? 我が家のメイドとして雇いたいぐらいだよ」
「エヘヘ……ありがとうございます! 何だか雹真さんに言われると自信が付きます!」
まあ、本物のメイド見てる人だからな。お世辞の部分もあるだろうが、光栄な言葉ではあるよな。
「いやー、友希君が羨ましいね。こんな可愛らしい子が幼なじみとはね。僕もこれぐらい素直で可愛らしい子に好かれてみたいものだ」
「雹真さんモテモテそうだけど、そういう子は居ないんですか?」
「モテモテなんかじゃないさ。大抵一度デートしたら離れて行っちゃうんだよ」
「そうなんですか? 何だか意外です」
「僕もそう思うんだよね……デート自体は好印象なんだけど、翌日になると連絡すら取れなくなってね……」
「不思議ですね……誰かが裏で暗躍してたりして! 雹真さんの恋路を邪魔しようと!」
「ハッハッハッ! それは流石に無いんじゃないかな」
と、陽菜の考えを雹真さんは笑い飛ばす。が、俺はその言葉がなんとなく引っ掛かり、ある人物の顔が頭に浮かぶ。
……まさかな――これは流石に無いだろうと、俺はその考えを早急に捨て去った。
「と、少し長く話し過ぎたかね。すまないね、仕事の邪魔をして」
「あ、いいんです! お客さんも減って、余裕がありますから」
陽菜の言う通り、客はみんな注文した料理を食べてるし、やる事は無さそうだ。現にほとんどのメイド達は暇そうにそこら辺に突っ立って、目をキラキラさせて雹真さんを見つめている。
「みたいだね……なら、誰かにサービスでも頼んでみようかな」
「サービス?」
「メイド喫茶の醍醐味と言ったらそれだろう。お客様とのゲームや、特殊なキャラ付けをした接客とかね」
「はー、そういうのあるんですねー。ウチはそういうの考えてませんでした。トランプぐらい用意すればよかったかな?」
「フフッ、サービスといっても簡単に出来る事はいくらでもあるさ。例えばそうだな……」
雹真さんは顎に手を当て、怪しげな笑みを浮かべながら辺りのメイド達をキョロキョロと見回す。
「簡単な事ならば……料理をあーんして食べさせてあげる――なんてものでもいいんじゃないかな?」
「食べさせて?」
「ああ、それだけでもお客様は喜ぶものさ。出来れば僕もしてほしいところだけど……ね」
雹真さんがそう呟いた、次の瞬間――
「はいはい! ならば私がやりますご主人様!」
「いいえ、私がやります!」
「私にあーんさせて下さいませー!」
そんな叫びを上げながら、店内のメイドの半分ぐらいの人数が雹真さんの元へ押し寄せる。俺はそれに巻き込まれるのを避ける為、慌ててテーブルの上のホットケーキを持ってその場を離れる。
イケメンパワーマジスゲェ……というか、ここの女子どんだけ男に飢えてんの……非リアの巣窟かここは。
「うわぁ……なんだか凄いね……」
「ああ……」
俺と陽菜は雹真さんが多くのメイドに群がられるという、奇妙な状況を呆然と傍らから見つめる。そして、それを同じく見ていた周囲の客が「俺にもサービスしてほしいんですけど!」という声を上げ始める。
なんか大変な事になってきたな……このままじゃ酷く混乱するぞ。
「はいはい! みんな落ち着いて!」
「気持ちは分からなくも無いけど、お客様に迷惑掛けちゃ駄目だよー?」
「お客様も! 当店はそのようなサービスはしておりませーん!」
すると、これ以上騒ぎを大きくする訳にはいかないと判断したのか、滝沢と川嶋を中心にした、正常な女子グループが雹真さんに群がる女子達を落ち着かせる。次第に女子達は収まり、雹真さんの元を離れる。
な、なんとか収まったか……全く、凄い有様だったな。
騒ぎが収まった事にホッとしながら、席に戻る。
「雹真さん……何してるんですか」
「いやー、冗談のつもりだったんだけどね。でも、僕は男として当然の欲を口にしただけだよ」
素直に言うな……でも、さっきの天城をナンパしようとした奴と違って、何だか憎めないよな……これが真のイケメンってやつか。
「とりあえず、そういった発言は気を付けて下さいよ」
「肝に銘じておくよ。僕も学生の身分である者をナンパするなんて事はしないよ。向こうからなら別だが」
「だから……」
「冗談だ冗談。友希君は心配性なんだね」
あなたが起こすトラブルに巻き込まれたく無いだけですよ……やっぱり一緒に行動するのは止めようかな?
「それにしても、雹真さん凄いですねー! みんなメロメロでしたよ!」
「大した事は無いさ。君を含め、何人かはどうもしてなかったしね」
「私は……友くんが好きだから、雹真さんにメロメロになったりしませんよ!」
「ぶっ……!?」
「ハッハッハッ! それはそうだね。幸せ者だね、友希君」
「ニヤニヤしないで下さいよ……陽菜も、そういう事さらっと言うな!」
「えー、なんで? だって友くん好きだもん!」
駄目だこいつ……ああ、また周りの視線が痛い。
「青春だねぇ……どうだい友希君、彼女にサービスでも頼んだらどうだい?」
「あんた何言って……!」
「あ、それいいかも! 私があーんして食べさせてあげるよ友くん……じゃなくて、ご主人様!」
「お前も簡単に乗るな! ここはそういうサービスしてないんだろ!」
「あ、そっか……じゃあ、個人的に! はい、友くんあーん……」
「いいって!」
「もー、照れなくていいじゃん!」
「そういう問題じゃなくてだな……」
さっきから周りの視線と憎悪が凄いんだよ! そんな事したら周りの男共が俺を抹殺対象と認識しそうなんだよ!
が、俺の心の叫びも虚しく、陽菜はニコニコと笑顔を浮かべ、「あーん!」と天真爛漫な声を出しながら、一口サイズのホットケーキを刺したフォークを俺の口元に運ぶ。
「友希君、時に女の子の好意を真正面から受け入れるのが、男というものだよ」
「元はあんたが……」
「友くん……私から食べさせてもらうの、嫌?」
「そうじゃなく……ああ、分かったよ!」
覚悟を決め、俺は陽菜が差し出すホットケーキにパクリと食らい付く。
「……美味しい?」
「…………うん」
「……エヘヘ、よかった!」
陽菜が無邪気な笑顔を浮かべ、嬉しそうにそう口にした次の瞬間――
「何イチャイチャしてんだよテメェ!」
「見せしめか!? わざわざこんなところに来なきゃ女性と接する機会が無い非リアに対する見せしめか!?」
「どこの誰か知らないが一発殴らせろ人類の敵!」
「お客様! 当店でのカップルのイチャイチャ行為は禁止されてるので早急に出て行って下さい!」
「つーか前々から言いたかったけど、なんか見てて体痒いのよ! やるなら堂々としなさいよヘタレ!」
予想通り――いや、予想以上に俺への暴言が男性客、従業員の女生徒から機関銃の弾丸の如く襲い掛かった。
やっぱりこうなったか……これ以上ここに居たら、とんでも無い騒ぎになりそうだな。仕方無い……ここは逃げる!
「雹真さん、行きましょう!」
「え、僕まだクレープ食べてるんだけど……」
「騒ぎを聞き付けて冬花さん来るかもしれませんよ!」
「よし行こう。全力逃走だ」
ポケットに突っ込んでいた財布から千円札を一枚出し、テーブルの上にそれを置き、雹真さんと共に出口へ向かい走る。
「あ! 友くんお釣りー!」
「いらん! ごちそうさまでした!」
「あ、逃げたぞ!」
「金髪のお兄さーん! せめて電話番号教えて下さーい!」
「すまないね! 緊急なのでまた別の機会に!」
俺に制裁を加えようとする者、そして雹真さんとお近付きになろうとする者から遠ざかる為、廊下に出てすぐさま人混みに紛れ、その場から逃走する。
「友くーん! また後でねー! 私ミスコン頑張るからねー!」
何故今言ったのか――陽菜の決意表明に返事をする暇も無く、俺と雹真さんはメイド喫茶から逃げ去った。
舞台はまたまたメイド喫茶。真のイケメン雹真さんのせいで散々な目にあった友希君。
メイド喫茶から逃走した彼らの運命は如何に? 次回に続く。